うつし世はゆめ

深山瀬怜

1-9「至高の血」(脚本)

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〇駅前広場
  第9話「至高の血」
  朦朧とする意識の中で、紅羽は吸血鬼と蛍の戦いを見ていた。
  あれほど強かった吸血鬼を、蛍は終始圧倒していた。
百瀬蛍「これでトドメよ!」
吸血鬼「う、うわぁぁああ・・・!」
  吸血鬼は灰となって消えた。
  人間と違い、純粋な吸血鬼は死ぬと灰になるのだ。
百瀬蛍「百瀬です。ええ、終わりました」
百瀬蛍「民間人の負傷者がいるので、その治療にあたります」
  蛍はサーペンティンの本部に連絡をし、それが終わってから、倒れている紅羽に近付いた。
百瀬蛍「やっぱり弱いわね、あなた」
市来紅羽「今それ言う・・・?」
百瀬蛍「あれに勝てないのはわかってたでしょう」
百瀬蛍「逃げればよかったのに」
百瀬蛍「おかげで余計な仕事が増えた」
市来紅羽「そんなこと言うなら治さなくていいもん!」
市来紅羽「治癒魔法なら私も使えるし!」
百瀬蛍「今のあなたに使える魔法なんてたかが知れているわ」
百瀬蛍「強くなる方法、知ってるんでしょ?」
市来紅羽「・・・やっぱり民警のくせに、人間の血を吸ってるの?」
百瀬蛍「いいえ、あんな不味いものはもういらない」
百瀬蛍「・・・そうね、あなたも一度味わってみればそんなことは言えなくなる」
市来紅羽「な、何を・・・」
  蛍は自分の指先に傷をつけ、滲んだわずかな血を紅羽の口の中に入れた。
市来紅羽「・・・っ、何これ」
  たった一滴の血なのに、それだけで傷が回復していくのがわかる
  しかしそれすらどうでもいいと思えるほどだった。
市来紅羽「美味しい・・・」
  血が美味しいと思ったのは、生まれて初めてだった
百瀬蛍「これは少し他のものも混ざっているけれど、本物はもっと極上」
百瀬蛍「そして天使様は、私に強い力をくれる」
市来紅羽「天使様・・・?」
  最も美味なる血の味は、想像していたものよりも強烈だった。
市来紅羽「どうして・・・」
百瀬蛍「・・・あの方はあなたに興味があるみたいだから」
百瀬蛍「もし必要になったら、いつでもうちに来るといいわ。それじゃあね」
市来紅羽「っ・・・いやもうちょっと治療して欲しかったけど・・・」
  自分でやるしかないのか、と溜息を吐くと、どこからか騒がしい声が聞こえてきた。
市来榛斗「紅羽!」
市来紅羽「榛兄・・・マジで遅いんだけど・・・」
  文句を言いながらも、榛斗の登場に安心した紅羽は、そのままゆっくりと目を閉じた。

〇おしゃれなリビングダイニング
  異変は、吸血鬼事件から数日後に現れた。
市来榛斗「紅羽の様子は?」
市来碧都「今は落ち着いて眠ってるよ」
市来碧都「それにしても、何でこんなことに・・・紅羽に聞いても何も教えてくれないし」
  紅羽は一切の食事を受け付けなくなっていた。
  そもそも人間の食事は、吸血鬼にとっては嗜好品以上の意味はない。
  血だけが吸血鬼の命を支えている。
  しかしその生命線とも言える人工血液パックを受け付けなくなってしまったのだ。
市来榛斗「元々、不味いとは言ってたけど・・・」
市来榛斗「このままだと数日後には完全に動けなくなる」
市来碧都「俺の血でも試してみたけどダメだったな」
市来榛斗「・・・やっぱり、サーペンティンのあの子が何か知ってるのかもしれないな」
  榛斗が駆けつけたときには、もう後ろ姿しか見えなかった。
  様子がおかしくなったのがその後からだと考えると、何か知っている可能性は高い。
市来榛斗「身元ははっきりしているわけだから、堂々と乗り込んで話を聞くことはできるだろうし」
市来碧都「そうだね」
市来榛斗「碧都は紅羽を見ておいてくれ。俺一人で行く」
市来碧都「大丈夫?」
市来榛斗「向こうもいきなり取って食いやしないよ」
市来榛斗「それよりも紅羽の方が・・・」
市来碧都「うん、わかった」
市来碧都「それにしても、人工血液パック・・・試しに舐めてみたけど本当に美味しくないね」
市来碧都「変に血に近い味にするんじゃなくて、いっそリンゴ味とかにした方がみんな幸せになるんじゃないかな・・・」
市来榛斗「・・・確かに、完全に人工物なんだから、わざわざ血の味を再現する必要はないか」
市来榛斗「吸血鬼の自然状態からはどんどん離れていく気もするけど・・・」
市来榛斗「それもちょっと提案してみよう」
市来碧都「え、提案できる立場だったの?」
市来榛斗「・・・俺が昼間働いてる会社でも、人工血液パック作ってるんだよな、実は」
市来榛斗「紅羽にバレたらめちゃくちゃ文句言いそうだから黙ってたけど・・・」
市来碧都「あはは、それは確かに文句言いそう」
市来碧都「じゃあ文句言えるくらいに元気になってもらわないとね」
市来榛斗「そうだな」

〇可愛い部屋
市来紅羽「はぁ・・・」
  蛍に飲まされたたった一滴の血の味が忘れられなかった。
  それは、人工的に作られた、ただ腹を満たすためのものはもとより、
  それよりはましな味がするはずの人間の血すら受け付けなくなるほどのものだった。
市来紅羽「血が・・・欲しい」
  心臓が強く脈打つ。人間と生きることに適応した吸血鬼には滅多に現れないと言われる吸血衝動。
  空腹よりも、そちらの方がつらかった。
  「必要になったら、いつでもうちに来るといい」と蛍は言っていた。
  けれど、行ったら戻れなくなるだろうという予感があった。
市来紅羽「(天使様って言ってたよね・・・)」
市来紅羽「(本当に天使から血をもらってるなら・・・強いのも納得できる)」
  強くなりたいんじゃないのか?
市来紅羽「え・・・?」
  どこからか聞こえる声に、紅羽は辺りを見回した。けれど姿も気配も捉えられない。
市来紅羽「誰・・・?」
  強くなって、悪魔を倒したいんだろう?
市来紅羽「それは・・・そうだけど」
  それなら答えは決まっているはずだ
市来紅羽「でも・・・戻れないかもしれない」
  人間と馴れ合う生活で、忘れてしまったのか?
  悪魔は君の、大切な仲間を殺した
  君は彼らの仇を討ちたいと思っていたはずだ
市来紅羽「その気持ちは今でも変わらない。でも・・・」
市来紅羽「・・・今の生活も、失いたくない」
  ──それは残念だ
市来紅羽「っ、ああ・・・!」
  視界が白く染まる。
  耐え難いほどの吸血衝動に、紅羽は声を上げた。
市来碧都「紅羽!」
市来碧都「おい、しっかりしろ! 紅羽!」
市来紅羽「碧兄、ごめんなさい・・・」
  衝動に突き動かされるまま、紅羽は碧都の首筋に牙を立てた。

次のエピソード:1-10「自然」

コメント

  • たっ大変なことになってしまった😇
    うーん、なんかもう味とか超えて色々とありそうなくらい怖いですね、天使の血…一度知ってしまったらもう戻れない…
    そしてこれがあるから蛍ちゃんは激強いのか…
    お兄ちゃんが何とか上手く交渉なり何なり立ち回ってくれることを願う…
    それにしても人工血液パックの会社にも関わってたのね←
    それは確かに文句言われそう←

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