Imperial Dawn

石坂 莱季

Ep.9『Separation』(脚本)

Imperial Dawn

石坂 莱季

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〇黒
  ★1
  SHADE専用輸送機リディア機内
  PM 15:46

〇宇宙船の部屋
  俺たちは、突如連絡の取れなくなった少佐とラクア達の安否を確認する為に、
  アシュレイ郊外に新設された新基地へ向かうべく動き出していた。

〇タワーマンション
  消えた委員会の面々と、改竄された予算記録。

〇高層ビルの出入口
  軍務総省内部監査室のベルトリッチ。

〇大きい研究施設
  七貴人の一人E.I.A長官のユアン・バスクード。

〇ボロい倉庫の中
  そして、監視者と呼ばれる仮面の男。

〇黒
  鉤爪の刺青(クロウ)による三ヶ月前の廃プラント事件と、先日の委員会庁舎での事件。
  全ては国外から帝国に対して行われていたテロだと思われていた。
  しかし、ユアンやベルトリッチの様な存在が明るみに出てきた事で、
  帝国内部で何かが起ころうとしていると言う予感を俺達は肌で感じることとなったのだ。
  こうなって来ると俺たちの様な一小隊では判断が難しい。
  俺達の銃口は、内ではなく常に外側に向けられているのだから。

〇宇宙船の部屋
  SHADE専用輸送機リディア。
  文字通り、俺たちのために母体である軍務総省がSHADE専用に作り出した輸送機だ。
  俺たちのニーズをヒヤリングして、カリンが設計。
  空軍の技術開発チームがそれを形にしたらしい。
  カリン一人でも動かせる、自動操縦機能とナノマシンアシスト機能搭載のステルス機。
  各隊員の装備品はもちろん、機内でブリーフィングを行う為の部屋やシャワー室なんかも完備されている。
  まさに俺達専用の天空要塞だ。
  俺たちは、操縦席後部のオペレーションルームで機体の揺れに身をまかせ、各々装備を整えながら静かに現地への到着を待っていた。
バロン・サイレス「・・・ダメですね。やはり、何度通信を試みても繋がりません。一種の通信防壁の様なものが展開されている様です」
  バロンの説明を聞きつつ横を見ると、いつもは隊長としてデスクワークに勤しんでいるレオンが、
  珍しく戦闘服を着ているのが目に付く。
  軍務総省のイメージカラーである黒い戦闘服だ。
  zodiacも同じく黒い戦闘服なのだが、俺達の着ているものは全員が統一されている訳ではなく、
  隊員事にデザインや機能が違う。
  少数で方々の実力者を集めた精鋭の部隊であるからこそ、戦闘服もそれに合わせて個々の個性を生かせる様なものになっているのだ。
  同行するバロンとカリンは、戦闘がメインではない為普段と同じ服装だが、彼らにも専用の戦闘服が与えられているらしい。
カリン・フェルト「・・・バロン。皆。ちょっといい?」
  様々な可能性を考慮し、色々な通信手段を試みているバロンとそれ以外の全員に向けて声が掛けられ、俺は俯かせていた顔を上げた。
  先ほどから黙ってリディアを制御していたカリンが操縦席から顔を覗かせる。
  自動操縦モードに切り替えたらしい。
  発着陸さえちゃんと面倒を見てやれば、リディアは自動制御できる。
  呼びかけに反応して注目したみんなに対し、カリンは思案げにゆっくり口を開いた。
カリン・フェルト「実は、この電波状況心当たりがあるんだよ」
レオン・ジーク「・・・心当たり?」
  俺たちの座っている備え付けのベンチの、空いていた部分に腰を掛けたカリンを見ながら、レオンが復唱する。
  記憶をたどっても、やはりレオンが戦闘服を着てる姿は初めて見るかもしれない。
  意外にシンプルな作りになっており、装備品は腰回りだけの様だ。
  そんな俺のどうでもいい考えを無視するかのように、カリンが俯き加減で口を開いた。
カリン・フェルト「・・・E.I.Aと聞いて思い出したんだよ。あたしがSHADEに来る前。まだ空軍の技術チームにいた時に、」
カリン・フェルト「あたしがいた部署とは違うところで、とある兵器が開発されていたんだ。それも、例のE.I.Aからの依頼でね」
  カリンの言葉に、俺たち全員が固唾を飲んだ。
  沈黙を破り、一人だけ冷静そうなレオンがカリンに質問を投げかける。
レオン・ジーク「兵器だと?」
  カリンは頷くと立ち上がり、俺たちの周りをゆっくり歩きながら話を続けた。
カリン・フェルト「電子妨害兵器だよ。特殊な電磁波を放つ金属片をステルスドローンによって敵地にばら撒き、」
カリン・フェルト「撒かれた地域一帯に電子防壁を作り出す兵器さ」

〇数字
カリン・フェルト「全てのネットワークや通信システム、ナノマシンリンクでさえ無効化して、」
カリン・フェルト「場合によっては電子機器を過負荷によって物理的に破壊することもできる。当時担当ではなかったし、」
カリン・フェルト「完成する前にあたしはSHADEに移動になったから理論上の話しか知らないんだけどね」

〇宇宙船の部屋
  カリンの説明に、レオンとバロンが顔を見合わせた。
  成る程。
  ドローンを使用することによって敵地に潜入するリスクを抑えつつ、電子防壁の中、敵を混乱させる兵器なのか。
  通信手段を奪うことによって連携を取らせず、スタンドアローンの状態になった敵を一網打尽にする事も可能だろう。

〇大きい研究施設
  しかも、それを開発依頼していたのがE.I.Aだったとは。
  ますますE.I.Aに対する疑惑は深まるばかりだ。

〇宇宙船の部屋
レオン・ジーク「その兵器が現在少佐達がいる新基地に向けて使用されていると?」
  レオンの質問に、カリンは、多分ね。と呟いた。
ロック・セブンス「それって、俺たちも危ないんじゃないか?防壁が展開されてるエリアに入ったら、俺たちまでスタンドアローンになるだろ」
  俺たちは現場の状況を把握していない。
  その状態で飛び込むのは危険ではないのか?
  二次災害に成りかねない。
カリン・フェルト「そこで、SHADEの天才メカニック、カリンちゃんの出番ってわけよ」
  俺の不安そうな顔を見ながら、カリンは余裕に笑って見せた。
  彼女は隅の方に置いてあったハードケースを手に取ると、みんなが集まっているちょうど真ん中の部分にそれを置き、開いた。
  皆が一斉にケースの中を覗き込む。
  そこには、手の平サイズの小さな端末が複数収められていた。
  カリンがそのうちの一つを手に取る。
カリン・フェルト「・・・ウイルス兵器が、ワクチンとセットじゃないと買い手が付かないのと一緒さ」
カリン・フェルト「味方まで通信妨害を食らってたら元も子もないだろ?そこでコレ」
カリン・フェルト「元々はナノマシン技術が確立する前に空軍が、過酷な電波状況にも耐えられる大容量の通信方式を確立するために」
カリン・フェルト「開発していたんだけど、今回はこいつが役に立つだろう」
カリン・フェルト「いくらナノマシンに圏外の概念がないと言っても、強力なノイズのせいで体内無線ですらままならない」
カリン・フェルト「空軍の元同僚に言ってかっぱらってきてもらった」
  かっぱらってきてもらったって、それは・・・カリンが天才とか以前の問題では・・・?
  そんな事を考える俺を尻目に、試運転と行きますか。と、カリンは得意げに端末側面のスイッチを押してそれを起動させた。
  デジタル表示で、standbyの文字が表示される。
  ナノマシンに依存しない、独自の大容量通信方式をもつ端末か。
  確かに準備はいいな。
カリン・フェルト「人数分あるから全部持っていってくれ」
カリン・フェルト「代用品だけどコイツを介してなら理論的には例の兵器に対抗して通常通信ぐらいは出来るはずさ」
カリン・フェルト「そうは言っても、ナノマシンによる感覚の制御や感情制御、ナノマシンリンクなんかは電磁波の影響をもろに受ける」
カリン・フェルト「心身のケアも怠るんじゃないよ」
  カリンはそう言いながら手にしていた端末を俺に手渡し、じゃあ、がんばれよ。と言い残して再び操縦席へ戻っていった。
  俺たちは顔を見合わせ頷き合うと、カリンから支給された端末をそれぞれ腰のベルトに装備する。
レオン・ジーク「・・・そろそろだな。アリス、何か見えるか?」
  機内後方にある窓の近くで外の景色をボーッと眺めていたアリスが、レオンに突然声を掛けられ、ビクリと体を震わせる。
アリス・ルクミン「は、はい」
  彼女は腰のポーチにある双眼鏡を取り出すと、窓の外にレンズを向けて覗き込んだ。
  そしてすぐに、アワアワしだし俺たちを振り返る。
アリス・ルクミン「!?新基地が凄い量の兵士に包囲されています!」
ロック・セブンス「貸してくれ」
  俺は立ち上がってアリスの元に歩み寄ると、彼女の手から双眼鏡を借り、同じように窓の外の状況を確認した。
アリス・ルクミン「・・・ラクアさん、大丈夫かなぁー?」
  アリスがシュンとした様子でそう言っているのを聞きながら、俺は双眼鏡の倍率を上げた。

〇基地の広場
  アリスが言った通り、遠くの荒野に佇む新基地を取り囲むように、謎の武装勢力が蠢いている。
  双眼鏡で見える範囲の敵は皆ラフな装備を纏っていた。
  まさか、敵は傭兵やら民兵なのか?
  俺は、彼らが新基地に向かってくる道順を双眼鏡で辿る。
  一般にも出回っているような四駆車に乗り、荒野の道無き道を新基地へと向かって進軍しているようだ。

〇綺麗な港町
  その後方には、港町アシュレイ。
  彼らは明らかにアシュレイから進軍してきている様だ。
ロック・セブンス「アシュレイから進軍した傭兵の様な奴らが新基地を攻撃してる様だ。本隊が居るとしたらアシュレイ市内か。どうするレオン?」

〇宇宙船の部屋
レオン・ジーク「・・・」
  俺の呼び掛けに、レオンは顎に手を当て思案する。
レオン・ジーク「・・・よし。防壁内へ突入する前に、軍務総省へ応援を要請しておこう。私たちは二手に分かれる」
レオン・ジーク「新基地に、積んである武器弾薬、そして私とアリスを降し、ロックはこのままリディアに乗って単身アシュレイへ潜入しろ」
レオン・ジーク「まずは状況を把握する事が先決だ。バロンとカリンは上空からロックを支援。応援が来るまではくれぐれも無理をするな」
  レオンの指令に俺たちは全員で声を揃えて、了解。と返事をした。

〇基地の広場
  徐々に近づいてくる新基地。
  それにつれ、体内のナノマシンから何か得体の知れないノイズのようなものが発せられていることに気づく。
  胸がざわざわするような感覚。
  全身の皮膚がピリピリしてくる。
  ナノマシンの異常は俺たちの感覚器にも影響を及ぼすようだ。

〇宇宙船の部屋
バロン・サイレス「どうやらもうすぐ防壁のエリアに入るようですね。僕達を繋ぐナノマシンリンクが切れかかり、オフラインになりそうだ」
バロン・サイレス「カリンさんの端末によって無線連絡だけは取れるでしょうが、」
バロン・サイレス「ナノマシンが機能しない為色々な感覚が鈍ってしまうので皆さん気を付けて」
バロン・サイレス「この電波妨害が特殊な金属片を散布する事で行われているのなら、リディアはそのエリアより高度を上げれば問題ないはずです」
  バロンの呼びかけに、俺は頷く。

〇数字
  ナノマシンリンクによって俺たちはいつでも繋がっていた。
  作戦行動においては、各隊員がどのような状況に置かれているのかを肌で感じることができていたが、
  防壁の中に居るといつも俺たちをサポートしているナノマシンがうまく作動しなくなってしまう。

〇宇宙船の部屋
レオン・ジーク「ここからは、我々個人個人の判断力と生身のチームワークが試される。各員気を引き締めろ」
  レオンが皆の顔を見回しながらそう言った。

〇空
  やがて、輸送機は新基地の上空へたどり着く。

〇屋上のヘリポート
  その屋上を目掛けてゆっくりと降下する。
  やがてリディアの存在を空に確認した敵の兵士達は、一斉に輸送機目掛けて射撃を始めた。
  しかし、彼らの持っている銃器では特殊装甲に覆われたリディアには傷一つ付けることはできないだろう。
  カリンは、降下する際にレオン達が狙い撃ちされない様、なるべく屋上の中央辺りに向かって輸送機の高度を下げて行った。
  例の兵器の電子妨害を受けてリディア内部にけたたましいアラート音が響き渡る
カリン・フェルト「早く降りて!電磁波で機体がイカれそうだよ!」
  コクピットからカリンが叫ぶ。
  基地屋上には、ヘリの残骸と思しき物が燃えていた。
  一体、此処で何があったのか。
  屋上の床面スレスレの位置まで高度が下がると、リディア後部のハッチが開かれた。
  カリンの操作により、カタパルトに固定されていた武器装備の詰まったコンテナが屋上へと射出される。
  それを確認し、レオンはホルスターからハンドガンを抜くとともに立ち上がった。
レオン・ジーク「ロック。市内の方は任せる。いくぞアリス」
  レオンに促され、スナイパーライフルを背中に背負ったアリスも、拳銃を抜いて彼の背中に続く。
アリス・ルクミン「ロック。頑張ってね」
  アリスは得意げにウィンクしながら俺にそう言い残すと、リディアのハッチから現地へと降り立って行った。
  着地に失敗し、ふぎゃぁ!と言いながら屋上の床に突っ伏すのを見て少し不安になったが、
  やがて二人が近くのコンテナに身を隠しながら屋上の様子を伺っている姿を確認すると、

〇宇宙船の部屋
  カリンはリディアの後部ハッチを閉じ、再び機体の高度を上げた。
  危ない危ない。と言いながら、電磁波で機体に異常が出ていないかをカリンが操縦席で確認している。
カリン・フェルト「よし。アシュレイに向かうよ。街の上空を飛ぶと目立つ。少し手前で下ろすけど我慢して」
  操縦席から後ろを振り向き、カリンが俺にそう告げる。
  俺は頷いて立ち上がると、武器のコンテナとともに積んであった自分のバイクに歩み寄った。
ロック・セブンス「海の見える街まで荒野のドライブを楽しませてもらうよ」
  俺は少しだけ微笑みながらバイクに跨ると、ハンドルを指でそっと撫でた。

〇綺麗な港町
バロン・サイレス「・・・アシュレイは坂道の多い港町です。所狭しと建物が密集していて、あれ程の大群が集まれる様な場所は一か所しかありません」

〇噴水広場
バロン・サイレス「市街中央のメシエ通りを真っ直ぐ海の方へ走った先にある、聖堂広場です」

〇宇宙船の部屋
ロック・セブンス「街中には民間人がいる。流石に奴らも襲っては来ないか?」
  俺の疑問に答えるべく、バロンが腕につけたタッチパネル型の端末で再び状況を確認する。
バロン・サイレス「・・・そうでも無いみたいです。現在アシュレイ全域に、帝国国防委員会より非常事態宣言が発令されています」
バロン・サイレス「民間人には外出禁止令が出ており、街中はどこも傭兵部隊で溢れています」

〇タワーマンション
  委員会?
  確か、委員会は今それどころでは無いのではなかったか?
  アルタイル委員長を始めとした委員会幹部の総辞職と使途不明金問題。
  それによって特別調査団が発足するにまで至っていたはず。
  いや、これも全てE.I.A長官であるユアン・バスクードの計画の一部だとすれば、簡単に説明がついてしまう。

〇荒廃した市街地
  四年前シスタニア共和国を攻め落とし、全世界へ宣戦を布告した俺たちクローレンツ大帝国。

〇兵器の倉庫
  そしてそれを迎え撃つべく発足された西のクロヴィエラ・ヴィクトリエ連合軍。
  世界は東西に二分され、まもなく世界大戦の時代がやって来る。

〇地球
  絶対的な軍事力を誇る俺たち帝国は、恐らく近い将来、世界を武力によって統一する事になるだろう。
  サキュラス皇帝の言うように、それが『人類最後の聖戦』となるのだ。
  そうして平和になった世界で実権を握るため、ユアンは今数々の『種』を巻いている。

〇黒
  全てはレオンの憶測でしか無いのかもしれない。
  しかし、それが正しいのではないかということを俺たちは皆肌で感じていた。
  これは俺たちと、外からやってきたテロリストの戦いでは無い。
  帝国の二大機関、軍務総省とE.I.Aの戦争なのだ。

〇宇宙船の部屋
  俺はバイクのハンドルを強く握りしめた。
ロック・セブンス「・・・俺はな、国や権力の道具になるために兵士になったんじゃない」
  様々な感情が錯綜し、自然とそんな言葉が口をついて出た。

〇黒
  死刑囚アドルフ・ストラドス
  フロレイシア
  ユアン・バスクード
  ルカ少佐
  仮面の男
  そして・・・

〇宇宙船の部屋
  様々な人物の顔が俺の脳内を通り過ぎていく。
  突然の俺の言葉に、バロンとカリンがそっと視線をこちらに向けた。
ロック・セブンス「上層部同士の覇権争いだと?そんなもん糞食らえだ。俺たちにはなんの関係もない」
  兵士としては間違っているのかも知れない。
  兵士が任務を疑ってはいけないのかもしれない。
  だが、俺は俺の口から漏れ出る言葉を抑えられなかった。

〇荒地
  輸送機がゆっくり降下ポイントへ向けて高度を下げ始める。
  アシュレイに近づくにつれ、防壁からは抜けたようだ。

〇宇宙船の部屋
  ナノマシンキーの認証を行い、俺はバイクのエンジンを点火した。
  スロットルを捻る。
  まるで今の俺の感情を代弁するかの様な鋭いエンジン音が、荒野の乾いた空気の中に溶けていく。
ロック・セブンス「だけどな。その関係ない奴らが、俺の仲間を傷つけたり、苦しめたりするってんなら、俺は許さねぇ」
ロック・セブンス「少なくとも、今俺が戦う理由はそれだ。気に入らない奴は皆ぶっ飛ばす」

〇荒地
  リディアの後部ハッチが再び開く。
レオン・ジーク「・・・行ってこい。ロック」
  カリンから支給された無線に、レオンからの通信が割り込む。
  やはりこれを使えば新基地に散布された防壁の中からでも通信だけは出来るようだ。
レオン・ジーク「・・・こうなったら私はもう何も言わん。しかし無理はするな」
レオン・ジーク「生きてさえいれば、後のことの責任は全て私が取ってやる」
  隊長であるレオンの頼もしい言葉が俺の背中を押す。
バロン・サイレス「必ず帰ってきてください!エリーナさんが基地で待ってますから」
カリン・フェルト「安全第一だよ!」
  重ねて背後からかけられるバロンとカリンの激励に、怒りに燃えていた俺の心が少しだけ穏やかになった。
ロック・セブンス「ああ、そうだな。行ってくる!」
  俺は握ったスロットルを捻り、今度はギアを入れてバイクを発進させた。

〇荒野
  後部ハッチから飛び出し、岩場の多い荒野に着地する。
  渇いた風が身体中を嬲る。
  しかし心地いい。
  俺が発進したのを見計らい、リディアは再び高度を上げて上空へ飛び去っていく。
カリン・フェルト「あたし達は上空で、状況を確認しながら待機する!何度も言うけど無茶するなよ!」
  無線でカリンの力強い言葉が響く。
  俺はバイクをフルスロットルで走らせながら、上空へ上がっていくリディアに向けて親指を立てて見せた。
  早速、バイクに取り付けられたナビにバロンからメシエ通りへの最短ルートが送られてくる。
  通りに出れば、後は直線。
  俺は仲間達の熱い言葉を胸に抱き、たった一人での進軍を開始した。

〇黒
  いや違う。
  一人だけど、独りじゃない。

〇黒
  ★2
  アシュレイ郊外新基地
  PM 16:23

〇屋上のヘリポート
  アシュレイ郊外新基地へ降り立ったレオンとアリスは、早速ラクアやルカ等と合流し、
  軍の増援が駆けつけるまでの間、基地屋上にて傭兵部隊との激しい戦闘を余儀なくされていた。
  しかし、リディアから投下した多数の支援物資により再武装した彼等は、下方から上がってくる一団に対し、攻勢を得ていた。

〇黒
  ★2-1レオンとラクア

〇屋上のヘリポート
  あの鳥人間の爆撃を屋上で受けてから、数十分が経った。
  俺たちは、駆けつけたレオン、アリスと合流し、
  現在軍務総省の要請によってzodiacの本隊が新基地へ侵入した敵を駆逐するべく進軍を開始していると言う話を聞いた。

〇国際会議場
  レオンとアリスが、降下した屋上から三階会議室までの安全を確保してくれたので、
  俺達は立てこもっていた会議室から階段を使って屋上へ移動し、リディアから配給された武器装備で再武装。
  増援が来るのを待っている。

〇屋上のヘリポート
  敵をこの基地に放置してリディアで逃げることも可能だろうが、そうもいかないだろう。
  奴らがこの新基地を武装拠点にしても困るからな。
レオン・ジーク「委員会庁舎に現れたのと同じ鳥人間に、アンチマテリアルライフルを軽々扱う怪力女だと?」
  コンテナから顔と銃口を覗かせ、下方から屋上へ上がってくる敵を、
  ハンドガンで撃ち倒しながらレオンが俺に怪訝な表情を浮かべる。
  俺はリディアから落とされた武器ボックスの中に入っていたソウドオフショットガンを、レオンとは逆の側面から構えていた。
  こちらに走り抜けてこようとする傭兵に、躊躇うことなく散弾を浴びせる。
  ショットガンは結構好きだ。
  普段狙撃兵として遠距離からの射撃を得意とする俺からすると、近距離や中短距離からの射撃の方が当てるのに苦労する。
  散弾なら、俺のヘナチョコ近距離射撃技術を補って余りある成果を与えてくれるのだ。

〇空港の屋上
ラクア・トライハーン「あぁ。女の方は、この屋上から傭兵どもをライフルの化物でぶっ殺してた。それに、鳥人間の事をH.Cと呼んでいたな」

〇屋上のヘリポート
ラクア・トライハーン「どうなっちまってんだ一体。アシュレイでは現在ビックリ人間コンテストでも開かれてんのか?」
  俺の言葉に、レオンがコンテナに身を隠したまま首を傾げる。
レオン・ジーク「H.CにS.W・・・。もしかすると、例の鳥人間も監視者と呼ばれる連中の一員なのか?」
  監視者?
  ああ、確かにあの女がそう呼んでいたな。
  どうやらレオンにはその名前に思い当たるところがあるらしい。
レオン・ジーク「・・・こっちも色々あってな。今、エリーナを第三基地に残してある。昏睡状態だ」
レオン・ジーク「その為、こちらの問題に気づくのが遅れてしまった。すまない」
  レオンの言葉に俺は驚愕した。
  あの殺しても死ななそうなエリーナが、昏睡状態だと?
ラクア・トライハーン「なっ?!一体何があったってんだ」
  体を物陰に引っ込めて、俺はレオンに詰め寄った。
  動揺する俺に、レオンは迫りくる敵を射撃で冷静に薙ぎ払いながらも、事の顛末を聞かせてくれた。

〇高層ビルの出入口
  E.I.Aに抱きこまれた可能性の高い軍務総省内部監査室。
  それはつまり、軍務総省の取締機関がE.I.Aに握られているということになる。
  そして彼らの権限によって強制的に連行され、薬物兵器を投与されたエリーナ。
  エリーナを助けに行ったロックの前に立ちはだかった、監視者、仮面の男S.W。
  俺たちのまだ見えていない部分で、二つの強大な勢力が牽制しあっていると言うレオンの現実味を帯びた憶測。
  その対立構造を、テロリストを使って裏で操っているのが、帝国最高権力機関、七貴人の一人、
  E.I.A長官のユアン・バスクードということになるのか?
  確かに、そう考えれば全ての説明がつくだろう。
  全ては軍務総省の権威を失墜させ、この国で最大の権力を握る為。

〇黒
  もはやこれは、反帝国の武装集団との戦いというだけの話じゃ済まされない。
  ユアン・バスクードによる帝国内部からのクーデターなのかもしれない

〇屋上のヘリポート
レオン・ジーク「現在、ロックがカリンとバロンの支援を受けながら単身でアシュレイへ進軍している」
レオン・ジーク「此処にいる傭兵達が皆、アシュレイから流れてきているからだ」
  予想された事ではあったが、今俺たちを責めて来ている傭兵共はやはりアシュレイを根城とする賞金稼ぎの集団だったのか。
  となれば、こいつらを指揮して居る何者かがユアンと繋がっている可能性は非常に高い。
ラクア・トライハーン「・・・だけどよ、あのガキンチョ一人で大丈夫なのか?エリーナが居ないと無茶を止めるやつがいないだろ?」
  俺の心配に、レオンは微笑んで見せた。
レオン・ジーク「あいつは今キレてる。どちらにしろ手がつけられん」
  おいおい。
  俺は呆れて肩を竦めた。
  しかし、同時に笑みも溢れる。
  出会った頃から思ってたが、あいつはマジでおもしれぇ奴だ。

〇黒
  そう思いながら俺の頭の中では、ロックと、かつての戦友レン・マッケンジーの姿が重ね合わせられていた。
ラクア・トライハーン「死ぬなよ。クソガキ」

〇黒
  ★2-2ルノアとフリードリヒ

〇屋上のヘリポート
  前方のコンテナに隠れながら、屋上へ上がってくる敵を次々に撃ち倒すレオンとラクアの様子を後ろから見守りながら、
  俺とルノア隊長もアサルトライフルの速射性を生かし、敵がこちらに進めない様、牽制射を続けていた。
フリードリヒ・スタンフォード「一時はどうなる事かと思いましたが、ルカ少佐の読み通りSHADEは駆けつけてくれましたね」
フリードリヒ・スタンフォード「武器も弾薬も、これだけあれば応援が駆けつけるまで持ちそうだ」
  隣で物陰に身を隠しながら、空の弾倉を交換する隊長に俺は明るく話しかけた。
ルノア・ジュリアード「・・・今忙しい」
  しかし、いつもの調子で返されてしまう。
  痺れるねぇ。
  さっきからずっと一緒に敵からの攻撃を凌いでいるが、隊長はルカ少佐のように表情一つ変えない。
  この人は、どんなに過酷な状況に追い詰められたとしてもこの調子だろう。
フリードリヒ・スタンフォード「なぁ。隊長。これが終わったら1杯どうだ?たまには息抜きしようぜ」
  先程、忙しい。と言われたばかりだったが、俺は構わず話しかけた。
  いつもはそこで睨まれて即会話終了だったが、多少余裕が出来た今ならいいだろう。
ルノア・ジュリアード「・・・」
ルノア・ジュリアード「・・・お酒、飲めないから」
  こちらに目もくれず、我等が隊長様がそんな事を言うもんだから俺は驚いた。
  そうか、飲めなかったのか。
  俺は大声で笑った。
  すかさず、うるさい。という単語が飛んでくる。
フリードリヒ・スタンフォード「別にジュースだってなんだっていいじゃねーか。あんたは普段文句もグチも言わず、与えられた任務を全うしてるんだ」
フリードリヒ・スタンフォード「そんな姿を、俺達部下はちゃんと見てるんだぜ。たまには奢らせてくれよ」
ルノア・ジュリアード「・・・」
  彼女は何も答え無いまま、一瞬だけ俺に視線を向けた。
  ふとその横顔を見て、俺は前回の委員会での事件のことを思い出す。

〇諜報機関
  国外査察に出ていた筈のルカ少佐が突然庁舎に設けられた作戦本部へ来て言った。
  『これから死刑囚の執行を行う。』と。
  いきなりの事に俺たちは驚いたが、ルノアはただ、『わかりました。』と言ったのだ。

〇屋上のヘリポート
フリードリヒ・スタンフォード「あの死刑囚の執行。本当はやりたくなかったんだろ?」
  隊長に、俺は少しだけ真剣な顔で問いかけた。
  ルノアが再び俺に視線を向ける。
ルノア・ジュリアード「・・・」
  今度は一瞬ではなかった。
  彼女は静かに目を伏せると、口の端を緩めた。
ルノア・ジュリアード「・・・任務だから」
  一言だけそう言い、でも。と繋ぐ。
  その続きを俺は黙って聞いていた。
ルノア・ジュリアード「ありがとう」
  初めてだった。
  彼女からその言葉を聞いたのは。
  普段から無口で無愛想な女だったが、誰よりも率先してどんな任務にも文句ひとつ言わずに当たる彼女に、
  俺たちzodiacの隊員達は黙ってついて行く。
  確かに、SHADEの様に仲良く和気藹々と各々の個性を活かして仕事をするのも悪くはない。
  でも、皆が彼女の様な隊長に従い任務をこなす事で、俺たちの強い統率力が生まれているのも事実なのだ。
フリードリヒ・スタンフォード「ま、その前にここを切り抜けないとな!SHADEの隊長、副隊長に負けないようにがんばろうぜ」
  前方に向けて牽制射を続ける隊長の横顔に投げかけ、俺はそう意気込むのだった。

〇黒
  ★2-3ルカとアリス

〇屋上のヘリポート
  屋上へ通じる扉はラクアさん達が守ってくれている。
  私も、新基地へ侵入する敵の傭兵さん達を減らす為に、屋上からの狙撃を試みていました。
  私は確かにラクアさんみたいには出来ないけど、一度狙った獲物は外さないんだから!

〇荒野
  レティクルの中心に収まった傭兵さん。
  私は躊躇わずに引き金を引く。
  しかし、傭兵さんが突然石につまづいて転んでしまったせいで、私の撃った弾は荒野の何処かへ消えてしまいました。

〇屋上のヘリポート
アリス・ルクミン「・・・はっ!まずい!」
  マズルフラッシュか、スコープの反射光か。
  私が狙っていた傭兵さんの付近に展開していた別の傭兵さんが私に気づいた様です。
  スコープの中でこちらを指差しています。
  位置がバレた?!
「馬鹿者。伏せろ」
  突然頭を手で押さえつけられ、私は屋上の床に蹲る様に屈む。
  それから間を空けず、私の顔のあったすぐ近くの塀に下方から弾丸が撃ち込まれました。
アリス・ルクミン「ひゃぁ!ごめんなさいっ!」
  伏せているだけなのに、まるで土下座して謝っているかのような格好になってしまいました・・・。
  私を助けてくれたのはルカ少佐。
  少佐は私の双眼鏡を使って、観測士の役割をしてくれていました。
ルカ・ブランク「・・・貴様、視野が狭すぎるぞ。敵はスコープに写っている以外にもいる」
ルカ・ブランク「自分の使っている武器の有効射程もしっかり体に染み込ませろ。北風が少し強い。Leftクリック2、UPクリック1で補正」
  怒られてしまいました。
  私は少佐に言われた通り、スコープの再調整を行います。
アリス・ルクミン「ご、ごめんなさい」
  平謝りする私を、少佐は呆れたような顔で見つめてきました。
  うう・・・、お腹が痛くなってきた・・・。
ルカ・ブランク「・・・お前は何のためにラクアの下にいるんだ」
  場所を変えるぞ。という少佐に促され、私達は体制を低くしたまま違う場所から再度狙撃をするべく移動します。
ルカ・ブランク「いいか。目だけで捉えようとするな。全身で獲物を感じるんだ」
ルカ・ブランク「スコープの中だけが世界では無い。耳で聴き、体で感じろ。現場をよく見ろ」
  私は少佐のアドバイスに頷くと、体制を低くし、再びスコープを覗き込みます。

〇荒野
  後方に指示を飛ばす人。
  恐る恐る前に進む人。
  隠れながらこちらの様子を伺っている人。
ルカ・ブランク「ただ相手を黙らせるだけではダメだ。こちらが引き金を引く度に自分や仲間が撃たれるリスクが高まると思え」
ルカ・ブランク「そこに向かって引き金を引く事で自分に、隊に、どんなリスクが降りかかるかを考えるのだ」
ルカ・ブランク「スナイパーなら、戦場をコントロールしろ。敵を撹乱し誘導する。それこそがお前の務めだ」

〇屋上のヘリポート
  少佐の言葉を背中で聞きながら、私は静かにその時を待ちます。
  ダメ。言ってることはなんとなくわかるけど、具体的にどうすればいいかわからないよー。
  そんな私の様子を見て、少佐が小さくため息をこぼす。

〇荒野
ルカ・ブランク「・・・一時の方向、敵戦列の最後尾の方を見ろ。離れた岩場に三人の兵士が隠れている」
ルカ・ブランク「隠れていると言うことは、こちらの姿が見えていないと言うこと。出るタイミングを伺っているんだ」
ルカ・ブランク「一人を殺れば、残りの二人は慌てて状況を把握しようとする。その隙に二人を殺る」
ルカ・ブランク「他のチームとは離れた場所にいるから、奴らが倒れたとしても気づかれにくい。言っている意味がわかるか?」
  ←進行方向
ルカ・ブランク「前にいる敵を撃てば後ろにいる敵は気付きやすい」
ルカ・ブランク「しかし、後方に離れた敵を撃っても、前に向かって進軍している兵士からは気づかれにくいと言う事だ」

〇屋上のヘリポート
  なるほど。
  
  リスクを考えると言う意味が少し分かった気がします。
  いや、座学とかでは耳タコになるぐらい聞いてるはずなんだけど・・・。
  やはり実戦の雰囲気が緊張とパニックをもたらすのでょうか?
アリス・ルクミン「了解」
  私は吸い込んだ息を吐き出し、ゆっくりと止めた。

〇黒
  私だって、みんなの役に立ちたい。
  同期のロックだって頑張ってるんだから。

〇黒
  ★3
  アシュレイ市内
  PM 16:34

〇ヨーロッパの街並み
  俺はアシュレイの市街地に向けてバイクを走らせていた。
  バロンの言葉通り街に民間人の姿は無い。
  そのかわり、ラフな装備に身を包んだ傭兵やらPMCの連中が街角の所々に立っている。

〇入り組んだ路地裏
  俺は彼等にわからないよう、建物と建物の狭い隙間にバイクを滑り込ませてエンジンを切った。
  この中でいつもの戦闘服だと流石に目立つ。
  俺はそのまま路地裏に沿って、あたりを偵察するべく歩き始めた。
  海からの風が建物の間を駆け抜けており、心地がいい。
  しばらく散策していると、角を曲がった先の方で男達の話し声が聞こえてきた。
  傭兵の連中か?
  建物の角に身を潜めながら、俺は聞き耳を立てた。
???「・・・なぁ。やっぱり、おかしく無いか?」
???「おかしいって何が?」
???「街の封鎖もそうだし、あの郊外の新基地をテロリストが占拠したって話も。この状況おかしいだろ?」
???「確かに、戦っているのは俺たちみたいな傭兵やPMCの連中だけで、肝心な帝国軍が全然居ないってのは変な話だよな」
???「それなんだよ。新基地での戦いが激化して、民間人にも危害が及ぶ可能性があるってのが封鎖の理由らしいが、」
???「それっきりで政府からはなんの音沙汰もない。軍の人間もいない」
???「でも、作戦に参加した傭兵には大金の報酬が国から支払われてる。なら、別にいいじゃねーか」
???「きっと軍は世界大戦で頭がいっぱいになってて、こっちまで手が回らないんだよ」
???「まぁ、なんもなけりゃいいんだけどなぁ・・・」
  なる程。
  そう言う話になってるのか。

〇基地の広場
  新基地にいる少佐やラクア達がテロリストだと言うデマを流し、金を支払って傭兵達に攻撃させた。

〇噴水広場
  この街の聖堂広場にそれを仕組んでる誰かがいる。
  俺は考えを巡らせつつ、あのユアンの顔を思い浮かべた。
  テロリスト、そして傭兵やPMC。
  あらゆる手段を使って奴は自分の覇道を邪魔する全ての人間を潰そうとしているのか?
  敵である軍務総省の飛び道具である俺たちもろとも。

〇入り組んだ路地裏
  いや、今考えても仕方がない。
  先程話していたと思われる傭兵の一人がこちらに近づいてくる。
  俺は路地裏に置かれている大きなダストボックスの脇に身を隠しながら、じっと息を潜めた。
  傭兵が角を曲がり、傍に隠れている俺に気づかずそのまま進もうとした瞬間。
  俺はその傭兵を背後から襲い、一瞬で気道を塞いで気絶させた。
  先輩の得意技だ。
ロック・セブンス「・・・悪いな」
  銃撃戦になればなりふり構っては居られないが、殺さなくて済むなら無理に命を奪う必要もないだろう。
  彼等はあくまでも帝国民なのだ。
  俺は気絶した兵士を暗がりまで引きずっていくと、身ぐるみを剥ぎ、それに着替えた。
  パーカーにスキニー。
  その上に自分がいつも着けているハーネスをして、装備する。
ロック・セブンス「・・・ちょっとデカいな」
  文句を言いつつ、傭兵とはいえ民間人から服を奪うなんてやばいな。と思い自重気味に笑う。
  だが、これでどっからどう見てもただの傭兵だろう。
ロック・セブンス「・・・借りてくぜ」
  俺はパンツ一丁で気絶している男をダストボックスの中に押し込めると、バイクを止めている場所まで戻った。
  バイクまで戻ると、再びエンジンに火を灯し発進させる。

〇ヨーロッパの街並み
  メシエ通り。
  そこに出れば後はまっすぐだとバロンが言っていた。
  対向車とすれ違う。
  もちろん、ただの車ではない。
  傭兵が乗る、この荒野にあまりにも似つかわしい四駆車だ。
  荷台には機銃が備え付けられている。
  異常な街の雰囲気を肌で感じながら、俺は信号でバイクを止めた。
  あまり派手な事は避けよう。
  メシエ通りとぶつかる交差点。
  この交差点を左に曲がり進んでいけば、聖堂広場が見えてくるはずだ。
  交差点の角や建物の屋上にも、傭兵達がスタンバイしている。
  
  まさに厳戒態勢という奴だ。

〇噴水広場
  こいつらは、聖堂広場にいる何者かを何者ともわからずに守っているのだろうか?

〇ヨーロッパの街並み
  信号が青になると同時に、ギアを入れ再び俺はバイクを走らせる。

〇中世の街並み
ロック・セブンス「こちらロック。今メシエ通りに入った。聖堂広場までもう少しだ」
  俺は上空でこちらを見ているバロン達に向かって、体内通信で呼びかけた。
バロン・サイレス「バロンです。順調ですね。状況はどうですか?」
  ハッカーであるバロンの問いかけに、目線だけで周りの状況を確認する。
ロック・セブンス「傭兵の服を掻っ払ったからな。今のところ怪しまれてる様子はない」
ロック・セブンス「だが街は相変わらず厳戒態勢だ。新基地をテロリストが占拠した事になってて、」
ロック・セブンス「傭兵達は自分たちが政府からの依頼を受けてそいつらと戦っていると思い込んでいる」
  俺の言葉に無線の奥でバロンが大きなため息をついた。
バロン・サイレス「・・・はぁ。ラクアさん達からすれば完成検査中に突然仕掛けてきたのは彼等の方だったんですけどね」
バロン・サイレス「まだ、彼等と今回の事象についてちゃんと擦り合わせが出来ていないので、」
バロン・サイレス「ロック君はこのまま行けるところまで行って情報を集めておいてください」
バロン・サイレス「時期に軍からの応援が新基地とアシュレイに到着するはずです。それまでは無理をなさらずに」
ロック・セブンス「あぁ。こっちは敵の本陣に一人だからな」
  自分でそう言って、先輩の顔を思い出す。
  そうだ。
  
  無理はできない。
  また先輩と顔を合わせるまでは。
  俺は、引き続きよろしく頼む。と言って無線を切ると、そのままメシエ通りを直進した。
  普段は様々な人が往来して賑わっている通りなのだろう。
  色々な屋台や出店が軒を連ねているが、今は全てカバーのようなもので覆われてしまっている。
  アシュレイで一番大きな通りだと言うだけあり、代わりにどこよりも傭兵やPMCの連中で溢れていた。
  しばらく直線道路を走っていると、数百メートル先に人だかりが出来ているのを発見し、俺はバイクの速度を少しだけ落とした。
  あそこが例の聖堂広場か?とも思ったが、近づくにつれそうでは無いことがわかった。
  俺はすぐ様バロンに無線を飛ばす。
ロック・セブンス「バロンまずい。検問だ」
  俺の呼びかけに、バロンがすぐ様無線を繋いでくる。
バロン・サイレス「検問?そんな情報は無かったのですが。そこを通るのは避けた方がよさそうですね・・・」
  そうは言っても、この道は一本道だ。
  変なところで曲がったり、引き返そうものなら確実に怪しまれる。
ロック・セブンス「・・・いや、もう無理そうだ」
  体内通信ではなく、自然と言葉が口をついて溢れる。
  検問所にいる兵士と目が合ってしまったのだ。
  ここで引き返して、いきなり撃たれるなんて事は無いだろうが、追いかけっこになるのは間違い無いだろう。
バロン・サイレス「そうですか・・・。確認してみたところ、その検問は現在傭兵以外通れない様になっているようです」
バロン・サイレス「例え軍務総省の兵士と言っても入れてくれないでしょう。でも何とかしますよ。検問ということは恐らくIDチェックが有るはずです」
バロン・サイレス「ロック君のナノマシンにそれらしい情報を送っておきますので、それを利用して切り抜けてください」
バロン・サイレス「何度も言いますが、多勢に無勢です。無理はしないように」
  バロンの言葉と共に無線が切れる。
  それと同時に、俺のナノマシンにバロンから情報が送られてきた。
  直接脳のストレージ内でファイルを解凍すると、どこかの傭兵の所属や照会番号などのデータらしかった。
  なるほど。
  
  こいつに成り済ましてうまく切り抜けろって事だな。
  そんなことを考えていると、やがて俺は検問に差し掛かり、バイクを止めた。
  見張りをしていた傭兵が俺に歩み寄ってくる。
  焦るな。
  俺はそう自分に言い聞かせながら、バイクに跨ったまま静かにその傭兵を待った。
傭兵「ここから先の聖堂広場には帝国国防委員会の対テロ作戦本部が設置されている。見たところお前も傭兵のようだが?」
  こんな傭兵だらけの対テロ作戦本部があるかっての。
ロック・セブンス「・・・あぁ。今このアシュレイが熱いっていうんでわざわざアルトリアから来たんだよ。稼ぎどきだと思ってな」
ロック・セブンス「ちょいとここを仕切ってる奴に挨拶でもと思ってよ」
  これはまぁ、ある意味嘘では無い。
  俺たちSHADEの根城である第三軍事基地は帝都アルトリアにある。
傭兵「わざわざ帝都から?ご苦労だったな。済まないが、IDカードを見せてくれるか?委員会から言われているんだ」
  そう来たか・・・。
  
  予想はしていたが一番まずいパターンだ。
  この国では、賞金稼ぎや傭兵、PMCとして働くには専用の資格が必要になる。
  言うまでもなく俺は軍務総省所属部隊の隊員なので、そんなものは持っていない。
  身バレを防ぐために、そもそも身分証明書など俺たちには無いのだ。
ロック・セブンス「・・・あぁ」
  内心は焦っていたが、俺は何の問題もないようにそれだけ答えると、装備品のポーチの中を探るフリをした。
  クソ。どうする?
ロック・セブンス「・・・ん?あれ?おかしいな。IDが見当たらない」
傭兵「おいおい。名前と、所属、照会番号は?」
  なんとかなるか?
  俺はバロンから送られてきた、情報を視界に表示させてそのまま読み上げた。
  無論向こうさんにはわからないようにだ。
ロック・セブンス「・・・カイル・ローレン。アルトリアクラン所属。照会番号は、2270153だ」
  あたかも自分の登録情報かのようにスラスラ伝えると、傭兵は傍の端末で俺の言った情報を照会し始めた。
傭兵「ん?」
  画面に表示された情報を見て、男が訝しげな表情でこちらをチラチラ見てくる。
ロック・セブンス「・・・どうした?」
  俺が心配になって尋ねると、ちょっと待て。と男に手で制された。
  こちらを見ながらヘッドセットのマイクに小声で何かを話しかけている。
  まずい。
  焦っていると、横に設置された簡易の監視所のような場所から更に二人の傭兵が現れ、こちらに歩み寄ってきた。
  手にはライフルが握られている。
  まるで俺を牽制するかのように、二人の傭兵は俺の背後に立った。
  これはもう逃げられないぞ。
傭兵「・・・お前、本当に傭兵か?」
  無線でやりとりをしていた傭兵が、そう言いながら俺にゆっくり銃を向けた。
  背後に立つ二人もそれに倣い、俺に銃を向ける。
  クソ。何故バレた?!バロンのやつ、珍しくポカやりやがったな?
  こんなところで・・・。
  俺はゆっくりと腿のホルスターに収まる拳銃に手を添えた。
  しかし次の瞬間、目の前の男が突如銃を下ろし、こちらに背を向けた。
  緊急無線が入ったようだ。
  背後に立つ二人は未だに俺に銃を向けているようだったが、サイドミラーで確認すると、二人とも顔を合わせて怪訝な顔をしている。
傭兵「はい。・・・はい。え?・・・わ、わかりました」
  無線の主と、低姿勢でやり取りをする傭兵。
  彼は無線を切りこちらを振り向くと、俺を忌々しそうに睨みつけた。
傭兵「・・・行っていい」
  意味がわからない。
ロック・セブンス「どういうことだ?」
傭兵「さぁな。お前の正体が誰なのかは知らんが、政府のお偉いさんは何を考えてるかわからん。この先の大聖堂に居るはずだ」
  男はそう言うと、監視所内にいる傭兵の一人に目で合図を送った。
  ゲートがゆっくりと開いていく。
ロック・セブンス「そうかい。ごくろーさん」
  俺は気のない労いを傭兵達に言い残し、バイクのエンジンを掛けてゲートの先へ進んだ。
  解せない。
ロック・セブンス「バロン。こりゃどう言うことだ?」
  体内無線を再び開いてバロンに問いかける。
バロン・サイレス「・・・わかりません。IDは間違いなく実在する傭兵のものだった・・・。もしかすると、僕らのナノマシン情報が漏れていた?」
バロン・サイレス「傭兵のIDと固有のナノマシン情報にズレがあるから・・・いや・・・そんな事・・・」
  一体何だってんだ?
  バロンは一人自問自答を続けている。
  そんな彼との無線を切りつつ、俺は訳のわからない焦りのような気持ちを胸に抱いていた。
  まあ、それは何も知らずに警備をさせられているさっきの傭兵達も同じ気持ちだろう。
  検問所の先にはそこかしこにテントが張られており、傭兵やPMCの連中が所狭しとひしめいていた。
  鋭い視線が色々な方向から俺に向けられる。
  クソ。ギラギラしてやがるな。

〇噴水広場
  周りの視線を気にしつつも少し走ると、中央に噴水のある広場にぶつかった。
  ここが例の聖堂広場らしい。
  普段は市民の憩いの場になっているのだろう。
  しかし、今は至るところに資材コンテナやテント、機銃などが並んでおり、その風情はない。
  傭兵達のベースキャンプ。
  
  と言った感じである。
  俺は噴水に沿ってバイクを走らせると、一番奥にある立派な造りの建物の近くでバイクを停めた。
  建物の側面に寄せてバイクを駐車し、傭兵達の鋭い視線を掻い潜りながら大聖堂の入り口前まで歩み寄る。
  扉の前に立つ傭兵が俺をつま先から頭の天辺までをジトっと見回す。
傭兵「・・・中でお待ちだ。入れ」
  ぶっきらぼうな口調で男は大聖堂の扉を開ける。
  誰が。という部分は会ってからのお楽しみってわけか。
  俺は無言でその扉を潜る。

〇大聖堂
  大聖堂の中は巨大な吹き抜けになっていた。
  前方には美しい装飾で彩られた祭壇と、色とりどりのステンドグラスが散りばめられた巨大な窓。
  横に規則的に並ぶ柱には、火のついた燭台が掛けられ、厳かな雰囲気が漂っている。
  外の物々しい雰囲気とは違う、静かな時間が流れていた。
  俺は中央の通路をゆっくり歩いた。
  足音が高い天井に反響するように響く。
  祭壇と向かい合わせになるように置かれた多くの長椅子。
  規則的に並べられた一番前の列に、その人物は座っていた。
  その目の前には簡易的な机があり、上にはモニターが置かれ、検問所の様子が鮮明に映し出されている。
  成程・・・な。
  検問所での謎が解ける。
  この人物が自ら、検問所の様子を確認し、傭兵に指示を出していた訳だ。
  ましてやそれが『俺たちをよく知る人物』であれば、どんなに変装したところでバレるだろう。
  それ以外、この聖堂に人はいない。
  俺は、こちらに背を向けて座るその人物にゆっくり歩み寄る。
  ある程度の距離に近づくと、俺にはその人物が誰なのか分かった。
ロック・セブンス「・・・この状況は、全てあんたの仕業なのか」
  俺の問いかけに、男は首を少しだけ横に捻った。
  後ろにいる俺の存在を確認するかのように。
???「まさか、お前が来るとはな。ロック・セブンス」
  低く嗄れた声。
ロック・セブンス「俺じゃ役不足だったか?」
  俺は肩を竦めて見せた。
???「いや?・・・検問所の様子はこちらでモニターしていた。傭兵以外通すなと言ってあったが、」
???「お前が嘘の照会番号を使ってやって来たのがわかったから通すように言ってやった。歓迎するよ」
  やはりな。
  近くに寄ると、モニターには検問所の様子だけでなく、照会番号に付属の証明写真が写されるシステムになっているようだった。
  最初からバレバレだったようだ。
  しかし、わかっていてここまで俺を通した理由は依然としてわからない。
ロック・セブンス「・・・そうかい」
  こうしてこの人と個人的に接するのは久しぶりだったが、庁舎での事件の時よりは元気そうだ。
???「まあいい。座りたまえ」
  男にそう言われ、俺は通路を挟んで反対の長椅子に腰掛けた。
  二人、正面の祭壇を眺めるような形になる。
  しばらくの沈黙。
  
  俺はそれを破るかのようにゆっくり口を開いた。
ロック・セブンス「・・・色々話を聞かせてもらうぜ。アルタイル元国防委員長さんよ」

〇黒
  To be continued...

次のエピソード:Ep.10『Fragment Truth』

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