異世界に探偵はいるか

アタホタヌキ

氷漬けの呪い 事件編(脚本)

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〇黒背景
  ──いわく、美しさとは飾りでしかない。
  女性であれば誰しも美しさを求めるものであるが、結局のところただの見た目。飾りだ。
  どんなに綺麗に着飾っても、中身がなければ綺麗な額縁に彩られた子供のお絵描きと同じ。
  生きてこそ──その意味を見出すのだ。

〇黒背景
  その日の朝のことだ
フレア「暇なら手伝ってよ!コウタロウ!」
  ・・・と、安易についてきた俺を呪いたい。

〇洞窟の深部
フレア「はわぁ・・・綺麗・・・」
アルト「ホントっす・・・こんなに宝石がいっぱいなんて・・・」
ロイ「こんなところにエメラルドが!本来ここはエメラルドが取れない環境のはずですし・・・これは新たに研究せねば!!」
アルト「フレアさん。フレアさん。この赤いのはなんですか?」
フレア「はわわぁーー!純度の高いエレメント鉱石!火属性だし!!」
アルト「これがエレメント鉱石・・・勉強になります!火ですからフレアさんにあげます!!」
フレア「い、いいの!?」
アルト「私は闇適正ですから。フレアさんが持ってた方がいいんですよね?」
フレア「きゃっほーーい!ありがとうアルトちゃん!!」
ロイ「よかったですね。フレアさん」
  楽しそうなお三方の後ろで、俺は荷車を引いていた。まさに馬車馬状態だ
コウタロウ「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
フレア「早くこっちきてよ。コウタロウ!まだまだ運んでもらう宝石が山ほどあるんだから♪」
コウタロウ「うげっ!」
フレア「なによ!こんな綺麗な宝石を見て「うげっ!」って・・・」
アルト「そうですよ!!コウタロウさん。こんなに綺麗な宝石がいっぱいなんですから」
  じょ、冗談じゃない・・・今でこそ荷車を引くのに精一杯というのに、これ以上増えたらびくともしなくなるぞ!!
  きっかけはフレアとサンダルフォンのパーティが見つけた洞窟で大量の宝石が見つかったことだ
  二人はその美しさに興奮し、取りきれないほどの宝石を持ち帰ろうとしたが・・・
サンダルフォン「ヘヴァ!!」
  ・・・欲を出しすぎてサンダルフォンはギックリ腰になった
  その場は宝石を一度手放し、フレアが肩を貸して洞窟を抜け。そしてぎっくり腰サンダルフォンは入院
  冒険者がぎっくり腰とはどうなんだとも思ったが、最近サンダルフォンは冒険もしておらず、トレーニングも怠け気味だったらしい
  それが祟ってギックリ腰。当然フレアのお説教を受けながら入院したらしい
  しかし、フレアとしては運良く見つけた大量の宝石を手放したくない
  そこで、宝石鑑定と土魔法が得意なロイ、そして荷物持ちの俺が山分けという条件で簡易パーティを組んだわけだ
  幸い、この洞窟に生息するモンスターは弱いため数人のパーティでも難なく攻略できそうだ
  ・・・問題はこの荷車の重さだ。どんだけ積めば気が済むんだ。
フレア「はい!これ追加ね!!」
コウタロウ「えぐぁ!?」
コウタロウ(ちょっと待て!!緩やかな坂道で荷物の追加は・・・)
アルト「コウタロウさん!これもお願いっす!!」
フレア「こっちもたーくさんあるわよ!!それ!!」
コウタロウ「へぶがっ!?」
コウタロウ(こ・・・これは・・・もう・・・)
  俺が根を上げて、重量のまま引きづられそうになったその時──
ロイ「よっ・・・と!危なかったですね」
コウタロウ「ロイさん・・・」
ロイ「このくらい大したことないですよ」
  うおっ・・・片手で荷車を引いたぞ・・・なんて力なんだ
フレア「アンタね・・・力がないにも程があるわよ」
コウタロウ「──なぁ、ちょっと休憩しないか?」
フレア「何言ってるのよ。ついさっき休憩したばかりじゃない。焚き火まで起こしてあげたんだから」
コウタロウ「じ、じゃあ、フレアはこの荷物引けるのか?」
フレア「・・・そこまで言うなら引いてやるわよ、」
フレア「はい。もう手を離していいわよ。ロイ」
  ロイが手を離すと、荷車はフレアの力でゴロゴロ音を立てて動いた
フレア「ふふん!!アンタは鍛え方が足りないのよ」
コウタロウ(────いじけそう)
ロイ「まぁまぁ。どのみちこれ以上は荷車が持たないですし、僕が代わりに持ちますからあなたはできる範囲で力を貸してください」
コウタロウ「──はい。ありがとうございます」
フレア「──はぁ。情けないなぁ。アイシスを殴った時はかっこいいと思ったのに」
コウタロウ(馬鹿力冒険者にはどうやったって負けるよ・・・。──そう思っておこう)
ロイ「・・・!!みんな、静かに」
  その剣幕に息を呑むと、静寂の中に微かな・・・しかし荒い呼吸が聞こえる。
ゴブリン「ギヒッ!ギヒヒっ!!」
フレア「やだ!ゴブリンの群れ!?」
アルト「大変っす!!数が多すぎるっす!!」
  まずい・・・こっちは戦闘員が二人。フレアとロイさんだけ。アルトちゃんはまだ魔法が使えないし、俺は戦闘では役に立たない
ロイ「う・・・あぁ・・・!!」
フレア「ロイッ!?しっかりして!!」
ロイ「うわあああああぁぁぁ!!」
フレア「ロイ!!」
  今すぐにでも逃げ出しそうなロイさん。その瞬間ゴブリンの群れが無防備な二人に襲いかかる。
アルト「い・・・いやぁ!!」
コウタロウ「アルトちゃん!!」
  ゴブリンは、人間の欲望が呪いに変わった成れの果て。そのため知能が低く貪欲。
  このままでは本気でまずい!俺もなんとかしなきゃ!
コウタロウ「ロイさん!!二人を助けましょう!!」
コウタロウ「・・・ロイさん!?」
  ロイさんは、なぜか肩を震わせて一歩も動けないでいた。
アルト「いやぁーーーー!!」
コウタロウ「く、くそっ!!借りますよ!!」
  俺はロイさんの持っている長剣を抜き出し、ゴブリンに切りかかった
コウタロウ「あっあれ?」
  ゴブリンの頭に命中したはずなのに、弾き返されてしまった。・・・なんつー石頭だよ!!
フレア「ば、ばかっ!首狙いなさいよ!!──きゃぁ!!」
コウタロウ「フレアっ!!」
フレア「ちょ・・・離しなさいよ・・・っ!!──やだぁ!!」
  ・・・俺は自分の無力さを呪った。
コウタロウ「・・・何が探偵だ」
  結局は・・・推理力なんて、圧倒的な暴力の前では無力なんだ
ゴブリン「ギヒヤァ!!!!」
  さっき剣を頭で弾いたゴブリンが、俺の頭をかち割ろうとしたその時──
???「ヒャッハーーーー!!」
ゴブリンの頭「──グヒッ!」
ゴブリンの上半身「──ガヒャ!!」
ゴブリンの死骸たち「──ギャァ!!──グブゥ!!──アギィ!!」
  その旋風は、荒々しく、しかし確実にゴブリンの群れを殺戮していく
  単純だが、確実にゴブリンを惨殺する刃風は、血の雨と共に止んだ──
ハルト「──ハッ!! ハンターが”二人”とはいえ、こんな雑魚モンスターにすら太刀打ち出来ねぇとはなぁ」
フレア「あ・・・あなたは?」
ハルト「俺はハルトっつーんだ。ま、よろしく頼むわ」
ハルト「それよりさ・・・俺を誘惑してんのかぁ?ムネ丸出しでよぉ・・・」
フレア「!?──」
フレア「・・・デリカシーないの? アンタ!!」
ハルト「はぁ?まずはありがとうございます・・・だろ?」
フレア「っ!!・・・あ、ありがとうございます」
アルト「うぇ・・・ひぐっ・・・あ・・・ありがとうございますぅ!!」
ハルト「ハッ!!あんまりトロトロしてるんで蹴散らしたまでよ。当然報酬はいただくけどなぁ」
フレア「!?な、何よ報酬って・・・」
ハルト「そこの宝石全部でいいぜ。それでチャラだ」
フレア「な、なんですって!?」
ハルト「俺は別にお前らが小鬼に身包み剥がされてから助けてもよかったんだぜ!?・・・そっちの方がいいもん見れたかもしれねーしよ!!」
フレア「あ、アンタねぇ!!」
ハルト「嫌ならテメェらぶちのめしても奪うだけだ──ッ!?」
ハルト「・・・なんだよ、しょんべん小僧・・・やんのか」
ロイ「助けてくれたことには感謝します。しかしここの宝石で数千ゴールドはくだらないでしょう。全部は法外すぎます」
ハルト「──調子乗ってんじゃねぇぞガキがっ!!」
コウタロウ「脅したって無駄だ。この話は録音してる」
ハルト「はっ?何を──」
コウタロウ「本当さ。俺は異世界転生者だからな」
  ──正直賭けだった。
  スマホを見せたところで、この男が知っているという確証はない
  だが”冒険者と言うならおそらく異世界転生者を見たことがある”という薄い可能性に賭けた。
ハルト「・・・そいつをどうするつもりだ」
コウタロウ「──当然ギルドに報告します。データを消したいなら、宝石の半分で我慢してください」
  ギルドを介さない冒険者への金銭の受け渡しは犯罪だ。請求はもちろん、受け渡すのもNG。
  そのため、本来、この宝石受け渡しは違法だ。コイツだけでなく、こっちも犯罪になる。
  ──だからこの交渉は、こっちが同等の罪を被るから黙っておくという契約。
  ──だが、コイツが暴力で奪いにきた場合・・・俺の負けだ
ハルト「ちっ・・・しゃーねーな。それで手を打とう」
コウタロウ「・・・ありがとう」
ハルト「いけすかねー野郎だ。ったく──」
ロイ「僕からも礼を言います」
ハルト「いらねーよ。俺は目の前に儲け話があったから拾った。それだけのことだ!!」
ロイ「なんだと──!!コウタロウさん・・・」
コウタロウ「──今は控えてくれ。頼む」
ロイ「・・・・・・わかりました」
ハルト「で!?ここで山分けすんのか?」
ロイ「そういうわけにはいきませんよ。ゴブリンが襲ってきたなら、おそらくまだ別の群れがいるはず」
ハルト「──だろうな。テメェら小鬼の罠すら気づいてなかったしな」
コウタロウ「──やっぱり、あれは罠だったのか」
ロイ「どう言うことですか?」
コウタロウ「ゴブリンがこの空間に入ってきたのは、あの方向でしたよね?」
ロイ「ええ・・・確か・・・あ、あれ?」
ロイ「──ない。ゴブリンがきた道がない!!」
  そう。一見すると何もない
ハルト「よく見ろマヌケ」
アルト「──あっ!ちっちゃい穴がある!!」
ハルト「そうだ。近づいたらそういう穴がいくつも見つかる。ゴブリンが宝石に目が眩んだ間抜けを捕まえるためにそういう罠を張ってるんだ」
フレア「──そんな。じゃあこの前私がきた時は──」
ハルト「さぁ?アンタに魅力がなかったからじゃねぇの?」
フレア「は、はぁ!?」
コウタロウ「だったら今回襲われない。襲わなかった理由は、サンダルフォンのギックリ腰で早々に退散したからだよ」
フレア「あ、ああ・・・そう・・・な、なんかギックリ腰に助けられたと思うと複雑だけど──」
ハルト「それより、どうするんだ!!こうしてるうちにまた小鬼が来るぞ」
フレア「この洞窟をまっすぐ抜けた先に、私の友達が住んでる家があるわ。私達はそこで分配しようとしてたの」

〇お化け屋敷
アルト「な、なんか不気味な家っすね」
フレア「──それは言わないであげて。家主も一応気にしてるから」
「あーー!!フレア!!ーーおひさーー!!」
フレア「マイン!!」
マイン「いやぁ、宝石いっぱい取れた!!取れたよね!!少しくれるって約束信じていいの!?いいよね!!」
フレア「はいはい。今回は大儲けよ!!・・・ちょっとトラブルもあったけど・・・」
マイン「トラブル?──ってあなたその服どうしたの!?ところどころ破れてるじゃない!!」
フレア「そ・・・それは・・・」
マイン「よく見たらその子も・・・怪我してるじゃない!!」
アルト「それは・・・えっと・・・ひっく・・・うえぇーーん!!」
フレア「うぅ・・・」
マイン「・・・あなたたち・・・フレアとその子に何をしたの!!」
ハルト「あぁ!?別になにもしてねぇよ!!」
ハルト「ってーな!!何しやがる!!」
コウタロウ「ちょ、ちょっと!! 誤解ですよ!! ちゃんと説明しますから!!」
マイン「誤解!?ゴブリンに襲われたんじゃないの!?」
コウタロウ「えっ──そ、そうですけど・・・!!」
マイン「なんで襲われる前に助けなかったの!!もしかしたら、死ぬより酷い目にあったかもしれないのよ!!」
コウタロウ「そ・・・それは・・・」
ハルト「俺にキレるのはお門違いだ。俺はコイツらを助けた側だからな!!」
マイン「同じことよ!私は──!!」
ロイ「まった!!詳しく説明しよう。とりあえず家に入れてくれないか?」
マイン「──それもそうね。二人もお風呂に入ってくるといいわ」
アルト「はい・・・ひっく」
フレア「ありがとう。マイン」

〇洋館の一室
マイン「──そう。大体の事情はわかったわ」
コウタロウ「すみませんでした──僕が役立たずなばかりに」
ロイ「僕も──”また”何もできなかった」
マイン「──仕方ない部分もあるわ。転生者の・・・コウタロウさん?そもそも、あなたは冒険者じゃないし──」
マイン「ロイが動けなくなった理由も”わかってる”し・・・ゴブリンの住処って気づかなかったのも仕方ない」
ハルト「──で、俺を殴った謝罪は?」
マイン「・・・必要ないんじゃない?」
ハルト「──あぁ!?」
マイン「あなた・・・”二人が襲われるのを待ってから”助けたでしょ?」
ハルト「テメェぶっ飛ばされたいのか!?」
マイン「私にはわかる──欲深い男。確実な利益だけ狙うゲスの考え。さっきから話しててずっとあなたからそう言う感じがするもの」
ハルト「このアマっ!!」
コウタロウ「待ってください!・・・その件に関しては俺も感じてました」
ハルト「テメッ!!何を根拠に!!」
コウタロウ「あなたは、こう言った!!」
  ──ハッ!!ハンターが”二人”とはいえ、こんな雑魚モンスターにすら太刀打ち出来ねぇとはなぁ
コウタロウ「ギリギリのタイミングで助けに入ったなら、アルトちゃんはともかく、僕が冒険者ではないことをなぜ知っていたのですか!?」
ハルト「それはっ!! ──くっ・・・」
コウタロウ「つまりあなたは最初から俺たちの目的が宝石であることを知っていた!あとをつけて、宝石を奪う算段で!」
ハルト「るっせぇ!!」

〇豪華なベッドルーム
  ────
コウタロウ(う・・・うーん・・・まだ頭が痛い)
マイン「──っ!!目が・・・覚めましたか?」
コウタロウ「まぁ、なんとかね」
マイン「──すみませんでした・・・。あなたは・・・私を助けてくれたんですよね?」
コウタロウ「・・・・・・」
コウタロウ「あの男に、正しさを追求しても、返ってくるのは暴力だ。ああいう人間を、俺はよく知ってる」
マイン「──知ってる?」
コウタロウ「──俺は、探偵をする前は、容疑者の罪を追求する仕事・・・検事だった」
マイン「ケンジ・・・?」
コウタロウ「あ、えっと、警察は分かりますよね。彼らが容疑者を捕まえたあと、その罪を再確認し、裁判で量刑を追求する仕事ですよ」
コウタロウ「──だから、容疑者を何人も見てきた・・・その中には本当は優しい人も・・・反吐が出るゲスもいた」
マイン「──コウタロウさん・・・」
コウタロウ「でも・・・僕は信じてるんです」
マイン「──信じてる?」
コウタロウ「生まれながらのゲスはいない。環境や教育──経験が悪を生む」
コウタロウ「だから──あの男も信じることができるんです」
  それが・・・あの世界での唯一の後悔だから・・・
マイン「・・・不思議な人ね」
コウタロウ「知ってましたか?──探偵ってバカなくらいがちょうどいいんですよ」
マイン「あはは!! 本当に面白い人!!」
マイン「──あなたには、教えてもいいかもしれないわね」
コウタロウ「え? な、何をですか?」

〇黒背景
マイン「・・・私の・・・罪を・・・」
  ────
  しかし──その罪を聞くことはおろか・・・彼女の声すら、聞くことは──もうなかった。
  ──彼女は眠った・・・まるで凍りついたような・・・変わり果てた姿で

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