氷漬けの呪い 解決編(脚本)
〇黒背景
──いわく、魂とは生きる意志であると
──生きる意志亡き者に、魂はない
ならば、生きる意味も、死ぬわけも知らずに死んだ者の魂は、どこに行くのだろう・・・
彼女は・・・眠る。ただ静かに・・・地獄の炎を抱きながら
──それは・・・断罪だと言うのだろうか?
〇洋館の一室
フレア「──コウタロウ!?無事なの?」
コウタロウ「ああ、まだ頭がズキンズキンってするけどな」
ロイ「よかった。・・・一時はどうなることかと」
アルト「あ!コウタロウさん!!よかった!思ったより元気そうっすね」
ハルト「・・・けっ。手加減しすぎたか」
フレア「アンタ!謝りなさいよ!!」
ハルト「・・・知らねぇよ」
フレア「な、待ちなさいよ!!」
ロイ「もう放っておこう。やつとは宝石を渡したら無関係だ」
コウタロウ「・・・?そういえば、マインさんは?」
アルト「きっとまだ寝ているんすよ。ね、ロイさん」
ロイ「──ああ、マイン、昨日は少し寝相も悪かったみたいだしね。鍵も閉めずに寝ていたようだから布団をかけ直してやったんだよ」
アルト「っといけない! 起こしてくるっす!!」
────
アルト「きゃああぁぁーーーーーー!!!」
コウタロウ「アルトちゃん!?」
ロイ「行きましょう!!」
〇要塞の廊下
アルト「・・・そ、そんな・・・」
ハルト「・・・・・・」
ハルト「何が起きているんだ・・・」
ロイ「何があったんだ!──っ!!」
アルト「マインさん・・・」
コウタロウ「マイン・・・さん・・・?」
〇黒背景
────
死んでいた・・・まるで眠るように・・・
〇豪華なベッドルーム
アルト「な・・・なんでマインさんが・・・」
ハルト「・・・・・・」
ロイ「ど・・・どうして・・・」
フレア「嘘よ・・・なんでマインが・・・!!どうしてよぉ・・・!!」
コウタロウ「──ともかく警察を呼ぼう。ロイさんお願いできますか?」
ロイ「は、はい!」
コウタロウ「アルトちゃん。何があったか詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
アルト「わかんないです・・・わかんないですよ・・・」
コウタロウ(──今は無理か・・・無理もない。お父さんの事件を経験しているとはいえ、まだ12歳の少女だもんな)
コウタロウ「ではハルトさん。何があったか教えていただけますか?」
ハルト「俺にも状況がわかんねーんだよ。そこのガキがこの部屋の扉をワーワー叫んで叩いてるからよ」
ハルト「うるさくてかなわねーから俺も起こそうとしたんだが返事がなくて・・・鍵もかかってたし、仕方ねーから扉をぶち破ったのよ」
ハルト「そしたらなんか焦げ臭い匂いがして、その正体に気づいて嫌な予感がしてよ。とりあえず換気をしたんだ」
コウタロウ「換気?」
ハルト「ああ。俺は基本一人で旅してるからよ。それなりに知識があるんだわ。ほら、そこにあんだろ。妙な缶が」
コウタロウ(あれは・・・コーヒーの缶か?フタは空いているようだが・・・)
ハルト「その中に燃えた木炭が入ってる。それを密閉された空間で燃やすとどうなるか──」
コウタロウ「──死因は一酸化炭素中毒か・・・」
ハルト「ああ──そいつは自殺だったんじゃねーか?」
フレア「アンタ!マインのこと何も知らないくせに!あの子は自殺なんかしないわよ!!」
ハルト「ああっ!俺は見たままを言ってるだけだ」
コウタロウ「待ってください。ハルトさんの推理は真っ当ではあります」
コウタロウ「しかし──昨日彼女は僕を看病しながらある話をすると約束した。その直後自殺するとは考えにくい」
ハルト「・・・まぁ、そういうんならそうかも知れねーがな」
コウタロウ(──ハルトさんの証言によればこの部屋は密室だった)
コウタロウ(窓も閉め切ってある・・・窓から侵入した形跡はない)
コウタロウ(考えられる方法は・・・何らかの方法で密室を作ったか、外から木炭を燃やした──だとしたら缶の中に証拠が──)
コウタロウ「──!!」
コウタロウ「──これは・・・どういうことだ・・・」
〇洋館の一室
ピーター「えー。みなさん捜査にご協力いただきありがとうございました」
ピーター「その結果──第一容疑者が浮かび上がりました」
ロイ「え!!だ、誰なんです!!」
フレア「教えてください!!誰が・・・誰がマインを殺したのか」
コウタロウ「・・・・・・」
ピーター「──マインさんを殺害したと思われる容疑者は・・・」
ピーター「フレアさん。あなたですよ」
フレア「────え? わ、私・・・な、なんで!!」
ピーター「現在を検証した結果、一つの魔法痕が見つかりました。木炭を外から燃やしたと考えられる痕跡。──あなたが使った魔法でしたよ」
フレア「そ、そんな・・・わ、私じゃない!!」
ハルト「ハッ──恐ろしい女だぜ!!可愛い顔してえげつねぇことしやがる」
フレア「ち、違うわ!!これは何かの間違いよ」
ロイ「でも──信じたくてもこれじゃあ・・・」
ピーター「彼女を自殺に見せかけて殺した。──そうじゃないんですか!!」
フレア「ち・・・違います!!私じゃない」
ロイ「まさか──姉さんのことか・・・それで何か争ったとか?」
フレア「ろ、ロイまで何を言って・・・」
ロイ「ここにくる道中、ゴブリンに襲われたろ?そのせいで姉さんのことを思い出してそれで・・・」
フレア「違う──なんで誰も信じてくれないの──私じゃない!!」
コウタロウ「ピーター警部。確かに現時点で彼女を疑うのは仕方ありません」
コウタロウ「ですが、現在は状況証拠のみ・・・少し僕に時間をくれませんか?」
ピーター「──いいだろう。我々も引き続き調査をしよう」
コウタロウ(・・・そう。真犯人はおそらくあの人だ・・・しかし・・・なぜ──)
コウタロウ(なんにしても、今は証拠がない──)
コウタロウ「・・・ロイさん。気になったんですが、姉さんとは?」
ロイ「──そうですね。実際見てもらった方が早いでしょう」
〇森の中の小屋
アルト「──なんか、これまた随分ボロい家っすね」
ロイ「これでも、僕と姉さんが暮らしてた家なんだ──今は姉さん一人だけど」
〇怪しげな山小屋
カルラ「・・・・・・」
ロイ「──姉さん、今日はお客さんを連れてきたよ」
カルラ「・・・・・・」
ロイ「──この人たちは大丈夫。それに姉さんには近づけさせないよ」
カルラ「・・・・・・」
アルト「あ、あの──怪しい者じゃないっすよ?」
カルラ「──!!」
ロイ「──あ、姉さん!」
コウタロウ「・・・部屋の隅で震えだしたぞ・・・」
ロイ「──見ての通りです。姉さんは・・・僕とフレアさん以外は目を合わせることもできない」
ロイ「──それに・・・人と会話することも、この家を出ることもできない」
コウタロウ「どうしてこんなことに・・・?」
ロイ「──ここでは姉さんに聞こえてしまう。一旦外に出ましょう」
カルラ「────」
アルト「──私を見てる?」
カルラ「────」
ロイ「もしかしたら、アルトちゃんが昔のフレアに似てるから──」
アルト「──私、お姉さんと話してみます」
ロイ「──姉さん、いい?」
カルラ「────!」
ロイ「姉さん──わかった。じゃあ、アルトちゃん、お願いできる?あ、姉さんの名前はカルラだよ」
アルト「わかったっす!!」
ロイ「──あ、そうだ。ここの水はたまに汚染水が出るから飲めないよ。すまないけど、しばらく我慢できるかな?」
アルト「大丈夫っす!! 喉乾いてないし、ちょっと話すだけですから」
〇森の中の小屋
コウタロウ「──ゴブリンの襲撃事件」
ロイ「──ああ。あの時のことは忘れもしない」
ロイ「幼かった僕たちは、別の部屋の隅で怯えながら、蹂躙される両親の声を聞くことしかできなかった」
ロイ「しかし──ゴブリンたちは、僕たちのいた子供部屋の扉を叩き破ろうとした」
ロイ「だから姉さんは、俺をベットの下に押し込んで、ゴブリンと戦う決意をしたんだけど──」
ロイ「そこで・・・姉さんは──」
コウタロウ「──察しは付きました。言いたくなければ言わなくていいですよ」
ロイ「──姉さんが痛ぶられ傷つく声を、ベットの下でずっと震えて聞いていた」
ロイ「──それしか──僕にはできなかったんだ」
コウタロウ(──なるほど・・・さっきゴブリンに襲われたとき、ロイさんが動けなくなったのはこれが原因だったのか)
コウタロウ「しかしわかりません。それがどうしてマインさんやフレアと繋がるんですか?」
ロイ「────その襲撃事件は、あの二人が原因なんです」
コウタロウ「──あの二人が?」
ロイ「昔から好奇心旺盛だった二人は、ダンジョンや森によくいってました」
ロイ「──そのとき、運悪くゴブリンの群れと遭遇し、襲われそうになったんです」
ロイ「──村に逃げようとした二人はその途中で冒険者に助けられた。しかし取り逃がしがいたんです」
コウタロウ「──その取り逃がしが、ロイさんたちの家族を?」
ロイ「僕の両親はただの木こりでした。ゴブリンには太刀打ちできず、殺されてしまって・・・」
ロイ「──衛兵が来る頃には、僕たちは絶望しきっていました。特に──姉さんは心も体もボロボロになっていた」
ロイ「──姉さんが今なんとか生きているのも、村の人の支援があってなんとかできてるんです。それまでは──何度も──自殺を──」
コウタロウ「・・・事情はわかりました。それでフレアがマインさんを殺そうとした動機とは?」
ロイ「マインもフレアも、当時の事は覚えていて、責任を感じていました。──ですが、一度二人が言い争ったことがあるらしく・・・」
コウタロウ「言い争った?」
ロイ「ええ。どうも、姉さんを今後どうするのかという話になってもめたとか」
ロイ「解決したという話になっていたそうですが、そのわだかまりが残ってたんじゃないですかね?」
コウタロウ「──最後にこれだけ聞かせてください」
ロイ「なんですか?」
コウタロウ「──あなたは二人のことをどう思ってたんですか?」
ロイ「────────」
ロイ「──子供のやったことです。二人も被害者のようなものですしなんとも思っていません」
コウタロウ「わかりました。──辛い話なのに、教えていただき、ありがとうございます」
〇豪華なベッドルーム
コウタロウ(犯人の目星はついた・・・密室トリックもわかった・・・)
コウタロウ(問題は・・・決定的な証拠だよなぁ)
ピーター「──苦戦しているようだな。コウタロウ」
コウタロウ「ピーター警部・・・。はい、実は・・・」
ピーター「もし、フレアくんが犯人でないなら、密室トリックが隠されているはず。・・・だが、それが見つからないと言ったところか?」
コウタロウ「いえ、密室トリックは解けました」
ピーター「な、なに!本当かね」
コウタロウ「──まず、鍵を開ける方向から・・・廊下に出ますんで、ピーター警部。内側から鍵をかけてください」
俺が部屋から出ると、言われた通りピーター警部は鍵をかけた。
そして・・・鍵はいとも簡単にあいた
ピーター「!!──ど、どうやったんだ?」
コウタロウ「これですよ」
ピーター「トランプのカード・・・そんなもので」
コウタロウ「もちろん普通トランプだけでは鍵は開かない、だから、鍵に細工をしているんです」
俺は、扉を開けた状態で鍵を閉めて見せる
ピーター「──!!鍵のデッドボルトが斜めに削られている」
デッドボルトとは、鍵を閉めた際に扉が開かないように機能するための部分のこと。その部分を斜めに削っておく
そうすると、硬いカードのようなものを扉に差し込んで下にスライドすれば鍵が開くって寸法だ。
そうなんだが・・・・・・
ピーター「──しかし、これではここにいた全員が犯行が可能ということになるのではないかね?」
コウタロウ「・・・その通りです」
コウタロウ「密室は破った。あとは犯人を確定づける証拠なんですが・・・」
ピーター「・・・全く、不思議な奴だな君は」
コウタロウ「──そうでしょうか?」
ピーター「・・・ああ。この世界には君のような人間はいない。一昔前は事件の捜査といえば衛兵だったからな」
ピーター「だが、軍の腐敗により、衛兵の信用は地に落ちた。そこで市民警察という組織ができたのが2年前。国家勢力となったのがつい一年前」
ピーター「しかし、それとも違う第三者が事件を嗅ぐなど我々には珍しいことだ」
ピーター「・・・改めて聞くが、警察を目指す気にはならないのかね?」
コウタロウ「──いいえ。俺はまだ、探偵としてまだできていないことがあります」
ピーター「──金にならんとわかっていてもか?」
コウタロウ「──金より大事なものがあるんですよ・・・」
ピーター「──何があったかは知らんが、”目先の利益に飛びつかない”ことは、必ずしも美徳ではないぞ」
コウタロウ「────そうか!!」
ピーター「・・・どうした?」
コウタロウ「・・・俺は、まだこの事件を”何も知っちゃいなかった”」
コウタロウ「・・・この事件を、第三者によって知った気になっていただけだった!」
ピーター「──どういうことだ!」
コウタロウ「──だとすると遺体は!」
ピーター「──お、おい! 何をしてるのかね! いくら死体とはいえ女の子の服を!!」
コウタロウ「黙ってて!」
コウタロウ「・・・やっぱりそうだ!!」
ピーター「・・・一体どうしたんだね?」
コウタロウ「なら・・・あるはずだ!!あれが・・・!!」
コウタロウ「・・・あった」
コウタロウ「──ピーター警部!これを至急鑑識に調べさせてください!!」
ピーター「──わ、わかったが、どう見たってこれはただの空のコップだぞ!?」
コウタロウ「はやくっ!! もう一人の犠牲者がでてしまう!」
ピーター「──!! わ、わかった!!」
コウタロウ「──あとは、あの人がどこにいるかだ・・・このままじゃ・・・」
〇森の中の小屋
〇怪しげな山小屋
カルラ「────」
アルト「ふぅ・・・いっぱい話して疲れちゃったね」
フレア「・・・ああ、アルトちゃん。こんなところにいたんだ」
アルト「・・・あ!フレアさん!」
フレア「カルラも、ごめんね。ずっと一人にさせてて・・・」
アルト「・・・あれ? フレアさん。カルラさんのこと知ってたんですか?」
フレア「・・・うん。昔ちょっとね」
フレア「カルラ。薬まだ飲んでないでしょ?」
カルラ「────!?」
フレア「やっぱり・・・お水用意するからちょっとまってて」
アルト「あ、私も手伝います!」
フレア「ありがとう。でもこの村の水ってたまに汚染水が混じるの」
フレア「だから、一度自分で飲んで、変な味しないか確かめてからね。少量なら無害だから」
アルト「そうなんですね。わかりました」
フレア「──よし、じゃあ・・・」
「飲んじゃダメだ!!」
フレア「・・・え?」
コウタロウ「はぁ・・・はぁ・・・よかった──間に合った」
フレア「──コウタロウ? なぜこんなところに・・・」
アルト「飲んじゃダメって・・・どういうことっすか?」
コウタロウ「──その水には、毒が入ってる。致死量のな」
フレア「何ですって!?」
コウタロウ「──そうだろう? マインさんを殺した真犯人・・・」
コウタロウ「ロイ! アンタがこの事件の犯人だ!!」
ロイ「──は、はぁ? ぼ、僕が?」
ロイ「──いきなり失礼だな。僕は今君が慌てて家に入ってくるのを見て、君の後に入ってきたんだが・・・ここで何があったんだい?」
コウタロウ「迂闊だったよ。俺も気づくのが遅かった」
コウタロウ「土魔法が持つ、もう一つの特性に──」
ロイ「──はぁ? 何を言ってるんだい?」
コウタロウ「──錬成だ」
フレア「錬成・・・? た、確かに土魔法の属性効果は錬金術のそれとよく似てる。だから鉱石にも詳しくなるけど・・・」
コウタロウ「そう──それが答えだった」
ロイ「言ってる意味がわからないなぁ」
コウタロウ「・・・鉱石の中には、強い毒性を持つものもある!」
ロイ「────」
フレア「ちょ、ちょっと待って。一体何の話をしているの?」
ピーター「ちょっと失礼しますよ」
コウタロウ「解析、終わりましたか?」
ピーター「──あなたの言う通り、あの水の中にはカルカンサイトが検出されました」
コウタロウ「・・・カルカンサイト・・・宝石のような青く美しい見た目の鉱石で、その特徴は、岩塩のような水溶性」
コウタロウ「・・・そして、強い毒性を持っているんだ」
フレア「ちょっと待って・・・まさか、マインは──」
コウタロウ「・・・ああ。一酸化炭素中毒じゃない。毒殺だ」
フレア「そんな・・・」
ピーター「・・・なるほど。魔法で錬成したとしても、飲み干すから痕跡は残らないわけか」
コウタロウ「もしくは事前に採取したか。どっちにしても魔法痕は残らないですね」
ロイ「ま、待ってよ。彼女は一酸化炭素中毒だったはずだよ?」
コウタロウ「・・・この時代では証明されてないけど、一酸化炭素中毒には特有の死斑(しはん)が出るんだ」
コウタロウ(死斑とは、人間の死体に起こる死後変化。皮膚の表面に現れる痣状の変化だ)
コウタロウ(通常、死後の遺体は仰向けに寝ている状態の場合、死体の背中が紫赤色になる)
コウタロウ(しかし、一酸化炭素中毒の場合、血中内のヘモグロビンと一酸化炭素が結合し、鮮やかな紅色になる)
コウタロウ(これで一酸化炭素中毒は死因ではないことが証明される・・・しかし・・・)
ピーター「コウタロウ・・・悪いがこの世界では──」
コウタロウ「──わかってます」
コウタロウ(──そう。この世界ではまだ死斑についての研究が足りない・・・つまり、証拠にはならない)
ロイ「──まぁ、カルカンサイトがコップから検出されたとしても、彼女はどうしてベットの上で眠るように死んだのかな?」
ロイ「カルカンサイトは確かに劇物だ。それも、池に落とせば池の生態系を壊してしまうような猛毒さ」
ロイ「だけどさ。そんな毒を口にしたなら、多少苦しんだり、もがいたりするんじゃないかな?」
アルト「──で、でも、一酸化炭素中毒でも同じようになるんじゃないっすか?」
ロイ「いいや。一酸化炭素中毒は無味無臭でね。寝ている間に吸い込んでしまったら眠ったまま死んでしまうんだ」
アルト「──じゃ、じゃあやっぱり・・・」
コウタロウ「いや、彼女は間違いなく毒殺さ」
ロイ「それをどうやって証明するんだい?」
コウタロウ「これだ!」
ロイ「──それがなにか?」
ピーター「──鑑定の結果、マインさんの睡眠薬とわかりました。それも強力な」
コウタロウ「──そう。この睡眠薬は、飲んだ瞬間に効力を発揮し、すぐに眠ってしまうんだ」
コウタロウ「たとえ──それが劇物である毒が混入された水だとしてもね!!」
ロイ「──くっ!!」
コウタロウ「それに・・・あなたの言ったこともおかしくはない。コップはベットの下に落ちていたしね」
コウタロウ「──眠る瞬間までは苦しんだんだろう」
コウタロウ「その証拠に、彼女の爪には毛布のちぎれた糸が絡まっていた」
コウタロウ「──つまり、彼女は毒で殺されたのさ!!」
コウタロウ「そして犯人は、彼女が死んだのを確認すると、トリックで鍵を開ける」
ピーター「鍵を開けるトリックはわしも確認した。鍵を斜めに削り、外側から鍵を開けるしかけが作られていた」
コウタロウ「そう、そのトリックで鍵を開け、マインさんの寝室に入ったあなたは、布団を敷き直した。・・・が、思わぬ誤算が生まれたんだ」
コウタロウ「アルトちゃんが、その現場に入ってきてしまったんだ!!」
アルト「──えぇ!! じゃあ、あの時すでにマインさんは・・・」
コウタロウ「ああ、亡くなっていたんだ──」
ロイ「──ふふ」
アルト「──ロイさん?」
ロイ「──今言ったトリック。やろうと思えば誰でもできるよな?」
コウタロウ「────」
アルト「・・・で、でもカルカンサイトって、鉱石なんすよね? 普通の人は毒なんて知らないんじゃ・・・」
ロイ「どうかなぁ。調べればすぐわかるし──あ、あなたが犯人で僕に罪をなすりつけてるのかも」
コウタロウ「──それはないよ」
ロイ「何を根拠に──っ!!」
コウタロウ「──お前ももうわかってるんだろ? お前が隠し持っている、決定的な証拠を!」
ロイ「なっ──っ!!」
コウタロウ「そう──マインさんの部屋の鍵さ!!」
アルト「──へ? マ、マインさんの部屋の鍵? で、でもそれはおかしいっす!昨日の夜、鍵をかけずに、離れて・・・」
コウタロウ「考えてみな。その後誰が鍵を閉めたのか」
アルト「あぁ!!」
コウタロウ「お前はすぐにでもカルカンサイトの入ったコップを回収したかったはずだ。──しかし、そこにアルトちゃんが来てしまった」
コウタロウ「──お前は恐れたんだ。ふたたび現場に戻り、改めてコップを探すのはリスクが高すぎる」
コウタロウ「もし、アルトちゃんと同じように人が来たら・・・」
コウタロウ「そこでアンタはコップの回収を諦め、一酸化炭素中毒に見せかけるために木炭の入ったコーヒーの缶を用意した」
ピーター「──なるほどな。そうやって自殺を装ったってわけか」
ロイ「で、でもさ!実際にはそれで疑われたのはフレアだろ!?」
コウタロウ「そう。オマエの言う通りさ。オマエは、自殺を装ったわけじゃない!フレアを陥れたんだ!!」
ロイ「──っ!」
コウタロウ「木炭は、昨日宝石の採掘をした時に手に入れたんだろ?」
フレア「あ、休憩のときに起こした焚き火!」
コウタロウ「そうさ。あの焚き火の中に木炭を潜ませておいたんだ。そして、焚き火を消す際にこっそり回収したんだ」
ロイ「でたらめだ!!」
コウタロウ「デタラメじゃない!──その証拠は、アンタが今持っているはずだ!!」
ロイ「ぐっ!?」
コウタロウ「そう・・・アンタは持っているはずだ。マインさんの部屋の鍵を!!」
ピーター「──そうか。彼からしてみれば、まだ決定的な証拠であるコップを回収していない」
ピーター「隙を見て回収するつもりだったのか・・・」
ロイ「ぐっ・・・かぁ・・・っ!!」
コウタロウ「アンタが鉱石を採掘するプロなら、こっちは証拠を見つけるプロなんでね──」
コウタロウ「この分野では負けるわけにはいかないのさ!!」
・・・・・・
ロイ「うおおおおおおお!!」
フレア「──ひっ」
ロイ「・・・邪魔すんなよ」
コウタロウ「──やっぱり目的は復讐かっ!!」
ロイ「そうさ!姉さんをコイツらは見捨てた!姉さんを傷つけて、こんな姿にさせたのはコイツらだ!!」
フレア「・・・・・・」
アルト「──違いますよ。ロイさん」
ロイ「──え?」
アルト「あなたは、大きな勘違いをしています」
ロイ「何を──っ!!」
ロイ「ね、姉さん!?」
カルラ「──な──さい」
ロイ「姉さん!?」
アルト「・・・カルラさんは、少しずつ言葉を取り戻していたんです」
アルト「あなたの殺した、マインさんのおかげで!!」
ロイ「な・・・何を・・・言ってるんだ」
アルト「なんとか筆談で会話ができると知った私は、カルラさんから全てを聞きました──」
アルト「あの日の出来事を──」
〇黒背景
マイン「ねぇねぇ、本当に行くの?」
フレア「大丈夫だって。私もいるんだから!!」
フレア「──ね!カルラ!!」
カルラ「──う、うん! 私、がんばる!!」
・・・・・・・・・・・・
カルラ「きゃああああぁぁぁ!!」
マイン「ゴブリン!? 数が多い!!」
フレア「カルラ!!先に逃げて!!」
カルラ「──で、でも!?」
マイン「冒険者志望じゃないあなたじゃ無理よ!! ──持って行くんでしょ?ロイの誕生日プレゼント」
フレア「私達は隙をついて逃げるから、早く!!」
〇怪しげな山小屋
アルト「──カルラさんは、その時逃げたことをずっと後悔していました」
アルト「その直後に起きたゴブリン襲撃事件は──きっと逃げた自分への天罰なんだって思うほどに──」
ロイ「そんな──そんなバカな──」
アルト「マインさんは──そんなカルラさんを見捨てては置けず、カルラさんの家の近くに住み、十分な資金を得て冒険者を辞めた」
アルト「ずっと心を閉ざしたままの──カルラさんを見て──ひっく・・・ずっと、看病を・・・」
フレア「・・・そうよ。マインはずっとカルラを見ていた。──だけど、心の傷は思ったより深かった」
フレア「そこで偶然私は宝石が大量に取れる洞窟のことを知ったの。──皮肉にも、私たちがゴブリンに襲われたあの洞窟の奥だったけどね」
フレア「──だから、その宝石を現金化したら、マインの取り分は、全てカルラへの治療費に充てるつもりだったの。実は私の分もね」
ロイ「──なぜ・・・なぜ教えてくれなかったんだ──」
フレア「言えると思う!?だって──だって私達だってカルラをこんなに傷つけたと思ってたんだから!!」
フレア「私達が──取り逃がしさえしなければ──カルラはこんなに傷付かなかったのに──私が弱いせいで──」
ロイ「そんな──そんなっ!!じゃあ・・・じゃあ俺は・・・なぜ・・・なぜ・・・ああああぁぁぁ!!」
カルラ「──う──の」
カルラ「──ちが──うの──わ──わたしが──よわ──い──から──」
カルラ「──だ──だから──みんな──。──ずっと──にげ──て──ばっかり──だったから──」
カルラ「──ごめ──んなさい──ごめんなさい────わた──し──ごめん──なさい」
〇森の中の小屋
・・・・・・いつのまにか雨が降っていた
・・・・・・悲しいすれ違いが呼び寄せた。鬱陶しいほど、悲痛な雨が──
〇洞窟の深部
???「──おらよ!!」
ハルト「──はっ!!」
ハルト「──テメェら、相変わらずウゼェな」
ハルト「──だが、悪いな。今日は少し狩って終わりじゃねぇんだわ」
ハルト「──テメェら皆殺しにしなきゃ、おさまんねぇんだよ──!!」
ゴブリン「ぎはっ!?」
ハルト「──あとは・・・そこのガキどもか?」
ハルト「わりぃな。生まれたばっかで慈悲もねぇと思うだろうけどよ──」
ハルト「文句は──あいつをヤッた親父たちに言いなぁ!!!!」
ハルト「へっ──この程度じゃ──殺したりねぇな」
・・・なぁ? 孝太郎先生?
〇おしゃれな居間
アルト「コータローさん!!」
アルト「寝てる場合じゃないっすよ!! コータローさん!!」
コウタロウ「ぶげらっ!?」
コウタロウ「──アルトちゃん。容赦なくない?」
アルト「起きないのが悪いんすよ。それより見てください!カルラさんからお手紙が来たんですよ!!」
コウタロウ「えっ!! 本当!?」
〇レンガ造りの家
カルラ「────♪」
フレア「カルラ!? あんまり無理しちゃダメだよ!!」
カルラ「──だい──じょぶ──♪」
フレア(──声が戻るのはまだ先だけど。カルラには一つ目標ができた)
フレア(ロイが牢から出てきて・・・この家で三人で暮らすまでに、リハビリを頑張るんだって)
フレア(──マインの家は、私が買い取った。マインの意思を継ぐために──しかし、それは罰ではない)
フレア「──きっとそれは──友情なんだ」
フレア「──あの時と変わらず──」
〇おしゃれな居間
アルト「リハビリ順調そうっすね!」
コウタロウ「ああ、本当によかった」
コウタロウ(──ロイは、自分が許せないと思っているだろうけど)
コウタロウ(きっと、ロイも含めて三人・・・いや、四人で笑い合える日が来るだろう)
アルト「あれ?もう一枚あるっす」
コウタロウ「・・・フレアからだ──なになに?」
ハルトはあなたを知っている・・・気をつけて
コウタロウ「なっ──」
・・・・・・あなたのいた世界・・・あなたの罪も──
・・・あの男の殺意は・・・異常よ