ピンホールカメラ

サトJun(サトウ純子)

父、会社辞めたってよ(脚本)

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〇ダイニング(食事なし)
穴光尚輝「また、ダメだったか・・・」
穴光尚輝「エントリーした大企業は全てダメだった」
穴光尚輝「就職エージェントに紹介されたところはベンチャー企業の営業ばかり」
穴光尚輝「エリート両親の背中を見て育った僕は、常にエリートでいなければならない」
  そう思って生きてきたのに──

〇ダイニング
  いきなりだった
穴光敬悟「皆んな、聞いてくれ!」
穴光敬悟「父さん、会社を早期退職してきた」
「早期退職ぅぅぅっ!?」
穴光尚輝「今まで仕事一筋で生きてきた人なのに!?」
穴光敬悟「そう。今までがむしゃらに働いてきた」
穴光敬悟「家族を犠牲にし、自分も犠牲にし。 お国の為に全てを仕事に費やしてきた」
穴光敬悟「でも、これからは・・・」
ケイ(穴光敬悟)「バンドマンとして生きて行く事にしたから、 そこんとこヨロシクぅ!」
穴光尚輝「ば、バンドマン!? リズム音痴なのに!?」
穴光聡美「・・・なるほど」
穴光聡美「私は今まで、良い妻であり、良い母である為に、仕事と家事と子育てに全てを捧げてきた」
穴光聡美「国家公務員である夫を、でしゃばらずに陰ながら支える地味な大和撫子でいなければならない、とも」
穴光聡美「でも、あなたが会社を辞めたのなら・・・」
穴光尚輝「か、母さん!?」
サッチー(穴光聡美)「私は今日からボーカルや!」
穴光尚輝「か、母さん!? 音痴なのに!?」
「ということだから」
穴光尚輝「「ということだから」って・・・」
ケイ(穴光敬悟)「来週、東京でアマチュアバンドの大会があるから」
サッチー(穴光聡美)「バンドメンバー募る為に行ってくる!」
  そう言って
  二人で東京に行ったきり
  帰ってこない

〇ダイニング(食事なし)
  ──アレの影響に違いない。
穴光尚輝「もしもし! あ、じいちゃん?」

〇綺麗な港町
穴光喜絡「敬悟とさっちゃんが仕事辞めたんだって?」
穴光喜絡「うわはははっ! いやぁ、愉快、愉快!」
穴光尚輝「・・・ちょっと、じいちゃん! 笑い事じゃないよー!」
穴光喜絡「・・・アレのせいじゃな」
穴光喜絡「でも、あやつ。 アレ試した時は、なーんも変わらんかったから、影響なかったと思っていたんじゃが・・・」
穴光喜絡「今更?」
穴光尚輝「こっちが聞きたいよー!」
穴光喜絡「ぷはぁーっ!」
穴光喜絡「ま、いっか!」
穴光喜絡「わしも好き勝手やっとるからな!」
穴光尚輝「じいちゃんは投資や不動産で稼いでいるから、いいんだよ」
穴光喜絡「・・・」
穴光喜絡「実はな。 わしはこっちで映画撮ってるんじゃよ」
穴光尚輝「え、映画ぁっ!?」
穴光喜絡「だから・・・」
穴光喜絡「自転車操業状態だわー」
穴光尚輝「それ! 笑い事じゃないから!」
穴光尚輝「じいちゃん! 飲んでばかりいないで、なんとかしないと!」
穴光喜絡「・・・」
穴光喜絡「お前も試してみたらいい」
  あの、ピンホールカメラを──

〇平屋の一戸建て
  祖父母が住んでいた平屋建てにある、ボロな平トタン板の雨戸。
  そこのサビ穴から入り込んでくる光のタイミングによって部屋の中に逆さの映像を映し出す時がある。
  穴光家の人間は
  それを『ピンホールカメラ』と呼んでいる。
  穴光家の血を引く人間は、その画像に向かって逆立ちすると、少しの時間だけ今と逆さまの人生を体験できるのだ。

〇ダイニング(食事なし)
穴光尚輝「一体どうなっているんだぁぁぁーっ!」
  ナオキィ!オレのバンド、バズってるぜ!
  http://i・・・
穴光尚輝「なんだよ、いきなり・・・」

〇ライブハウスのステージ
ケイ(穴光敬悟)「今日も盛り上がっていこうぜぇーっ!」
サッチー(穴光聡美)「おめぇーら!準備はいいかー!」
サッチー(穴光聡美)「行くぜぇぇぇーっ!」
「ワン!ツー!ワン、ツー、スリー、フォー!」
サッチー(穴光聡美)「税金!税金!税金納めろ♪」
ケイ(穴光敬悟)「選挙!選挙!選挙に行けよ♬」
サッチー(穴光聡美)「確定申告!早めに取り組め♪」
ケイ(穴光敬悟)「詐欺はダメ!着服もダメ♪」
「不満があるなら堂々と言えーっ♬」
ケイ(穴光敬悟)「おめぇーら! 陰口叩いたら、オレの警察官僚の友達がでてくるかんなー!」
サッチー(穴光聡美)「セコイことしたら、知り合いのマルサにチクるからなーっ!」
「センキュー!!」
  このバンド、ちょーウケる
  言ってること硬いんだけど
  わかりやすいよねー
  この間はインボイスの説明
  歌ってくれてたわ
  動画収益での申告の仕方も
  わかりやすかったー
  詐欺やフィッシングの手口とか
  めちゃくちゃ勉強になったわ
  歌ってるって言うより
  叫んでいるかんじだけど
  そこがまたいい!

〇ダイニング(食事なし)
穴光尚輝「・・・」
穴光尚輝「・・・」
  逆さまの人生
  僕のは、どんなモノになるんだろう・・・
ケイ(穴光敬悟)「ただいまー!」
サッチー(穴光聡美)「ナオキィ、しっかりご飯食べてた?」
穴光尚輝「父さん!母さん!」
ケイ(穴光敬悟)「お?朝からスーツなんて着て、どうした?」
穴光尚輝「就活だよ。 いつでも対応できるようにスーツでいるんだ」
サッチー(穴光聡美)「どこでもいいジャン。 稼げれば」
ケイ(穴光敬悟)「とりあえず 生活できるように働けばいいのサ」
穴光尚輝「父さんや母さんは悠々とエリート人生まっしぐらだったから、僕の苦労なんてわからないんだよ!」
「・・・」
ケイ(穴光敬悟)「ナオキィ。 オレは悠々とやってきたワケじゃないゼ」
穴光尚輝「・・・わかってる。言い過ぎた。 単なる八つ当たりだ」
ケイ(穴光敬悟)「・・・」
ケイ(穴光敬悟)「オレは、18歳の時、アレを初めて見たんだ。国立大学に進学を決めた時だった」
ケイ(穴光敬悟)「合格した事で、燃え尽きたんだよナァ。 なーんもヤル気が起きねーってな」
ケイ(穴光敬悟)「オレが見た、逆さまの人生は・・・」
ケイ(穴光敬悟)「俺に、エリートの道を突き進む気力をくれた」
ケイ(穴光敬悟)「そして、それを捨てる覚悟もな」
穴光尚輝「・・・言っている意味がわからないよ」
ケイ(穴光敬悟)「・・・」
ケイ(穴光敬悟)「オマエも試してくればいいのさ! アレを」
ケイ(穴光敬悟)「それで、どうするのかを決めるのは オマエ自身だ」
穴光喜絡「ただいまー!」
穴光尚輝「じ、じいちゃん!」
ケイ(穴光敬悟)「・・・酒臭っ!」
穴光喜絡「おー! みんな揃ってるのぉー」
穴光尚輝「どうしたの?急に」
穴光喜絡「いやぁ、こっちに残してきた不動産、ちょっと売りに来た」
穴光喜絡「新しい映画撮りたくなってな!」
穴光喜絡「・・・で」
穴光喜絡「一発当てて、知名度上げて・・・」
穴光喜絡「大統領選に立候補するがな」
穴光喜絡「で、金髪のネーチャン、周りに侍らせたるわい!」
ケイ(穴光敬悟)「オヤジィ。相変わらずだなぁ!」
サッチー(穴光聡美)「ジーさん。 お金に困っても出してあげないからねー」
穴光喜絡「わかっとるわい!」
穴光尚輝「・・・」
穴光尚輝「とりあえず、僕は 今は・・・」
  アレを試すのはヤメておこう
穴光尚輝「・・・さ、就活頑張ろっ!」

コメント

  • オリジナリティ溢れる意欲作ですね。
    覗いた逆さまの人生は見えるだけで、なれるかどうかは自分次第ということかしら?
    主人公がどんな人生を選ぶのか気になります。

  • どんどんと見入ってしまいました。ピンホールカメラの謎と影響、そして自由闊達な濃ゆい家族、とにかく楽しいです!
    そして、両親のバンドの歌詞ってwww

  • ロックは小手先のテクニックでは無く、魂の叫びですね!仕事の不満が溜まりまくってる今なら僕もロックスターになれるかも…?

    主人公がピンホール逆立ちを普通にやらないとは…まったく読めないオチでした🤣

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