空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード14(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

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  午前4時25分──

〇漫画家の仕事部屋
小田正人「先生、なんでこのコマだけ残したんだろう・・・」
石黒理「そんなこと死んだ本人以外にわかるものか。 無駄なことは考えないでさっさと描いてくれよ」
宮本義和「石黒さんが追い詰めたんでしょ」
石黒理「うるさい! 死んだのは君が強請(ゆす)ったせいだ」
長谷川清香「打ち切りになったから自殺したんですよ」
石黒理「君が先生を捨てたからだろ!」
小田正人「自殺までして描くのを拒んだヒトコマ、か」
石黒理「とっとと描いてくれ! もう4時半になるぞ!」
小田正人「まだ時間はあります。 石黒さんも一緒に考えましょう。先生のこと」
石黒理「そんな必要はない! 君は早くそれを描け! そうすれば漫画家になれるんだ」
小田正人「駄目ですよ。 先生がぶち当たった壁は俺の壁でもあります」
石黒理「何を訳の分からないことを・・・」
小田正人「それを乗り越えないと、俺、漫画家になれない気がします」
石黒理「ああ、もういい。私が描く」
  石黒はそう言って小田から原稿を奪い、先生の表情を描こうとする。
石黒理「駄目だ。ペンの使い方が分からない」
小田正人「先生にとっては、奥さんやお子さんを犠牲にしてまで大事なものが漫画だった」
宮本義和「僕の作品を盗作してまでね」
石黒理「石黒君、金が欲しいんだろう? 描いてくれよ」
石黒理「強請りのこと、黙っていて欲しいんだろう?」
宮本義和「そして、自伝とも言える作品でようやく漫画家と胸を張って言えるだけの連載を持てた」
長谷川清香「その原作を書いていたのは私でした」
石黒理「長谷川さん、先生のこと愛してたんだろう? 描いてくれよ」
石黒理「『報い人』を完成させたいんだろう?」
長谷川清香「自伝を描くことで、自分の人生を振り返った」
小田正人「先生は別れた奥さんに会おうとした。 清香さんと別れてまで」
石黒理「なあ小田君、デビューしたいんだろう? 描いてくれよ。間に合わなくなるぞ?」
小田正人「先生は、奥さんに会ったんですか?」
長谷川清香「いいえ。会えませんでした」
宮本義和「どうして?」
長谷川清香「もう、亡くなってたんです。 2年ほど前に病気で」
石黒理「・・・・・・」
小田正人「じゃあ、先生は奥さんの後を追った?」
長谷川清香「それはないと思います。 もう、奥さんに未練はないと言っていたので」
宮本義和「とは言っても、男というものはね」
小田正人「ええ、清香さんはとしてはその言葉を信じたい気持ちはわかりますけど・・・」
長谷川清香「本当です」
長谷川清香「奥さんは別の人と再婚もして幸せだったんじゃないかって、先生もそう言ってました」
石黒理「もういいよ。その話は止めよう」
小田正人「奥さんには子どもはいたのかな」
宮本義和「いや、子供は産めない身体になったって。 そうだよね?」
長谷川清香「はい」
長谷川清香「あ、でも。再婚相手には連れ子がいたって」
小田正人「連れ子!?」
石黒理「あーもう。やめやめ」
長谷川清香「だから、きっと本当に幸せだったんじゃないでしょうか」
石黒理「よせ、もうやめろ!」
小田正人「もう少しで掴めそうなんです」
石黒理「表情は決まったんだ。黙って描けよ!」
小田正人「気持ちの問題ですよ」
石黒理「知るかそんなもの!」
宮本義和「奥さんに会えなかった先生は、清香ちゃんとも別れた」
石黒理「ああ、もう」
小田正人「原作者を失った漫画は人気がなくなって、打ち切りが決まった」
長谷川清香「そして、漫画家を引退するか、アシスタントに戻るかで悩みました」
石黒理「そうだ。それで私はアシを紹介したんだ。 そこまでしてやったんだぞ」
小田正人「先生はなんで、もう一度アシに戻らなかったんだろう」
石黒理「またどうでもいいことを君は」
宮本義和「そうだよ。 それだけのものを背負ってまで選んだ道なのに」
石黒理「だからいいじゃないかそんなことは!」
小田正人「またやり直せば良かったのに。 何度だってやり直せるはずですよ」
石黒理「いったい何を言いたいんだ君は!」
長谷川清香「アシスタントに戻れない理由でもあったんでしょうか?」
石黒理「ない! そんなものは一切ない!」

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