空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード15(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

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  午前4時35分──

〇漫画家の仕事部屋
石黒理「私に・・・どうしろと言うんだよ」
石黒理「私は言われた通りにやっただけなのに!」
小田正人「石黒さん?」
石黒理「先生が、自分で私に指示したんだ!」
宮本義和「先生が?」
  宮本の問いに対して石黒はポケットから何かを取り出し、握りつぶすと床に投げつける。
石黒理「先生の望みはそこに書いてある通りだ」
  小田がもみくちゃになった紙を拾い、おそるそる広げる──
小田正人「これ!」
宮本義和「遺書?」
  『石黒さん。漫画家のまま死ぬ我儘をお許しください』
  『どうか、泰代(やすよ)の息子であるあなたの手でこの物語を終わらせてください』
「・・・・・・」
小田正人「泰代(やすよ)って?」
長谷川清香「・・・先生の別れた奥さんです」
小田正人「石黒さんが、先生の奥さんの息子?」
石黒理「ああそうだよ。 私の義理の母は、先生の元奥さんだ」
宮本義和「これって・・・」
石黒理「なんだ。だからどうだって言うんだ。 自殺に関係あるのか?」
「・・・・・・」
小田正人「先生は、石黒さんが奥さんの息子だって知ってたんですか?」
長谷川清香「少なくとも、私がお付き合いしてた頃は一言も聞いてないです」
宮本義和「石黒さんが先生に伝えたんですか?」
石黒理「・・・私からは話してはいない」
小田正人「じゃあ、先生は奥さんを訪ねた時に初めて知った?」
石黒理「だったらなんだよ」
小田正人「なんでこのこと、先生に伝えなかったんですか?」
石黒理「私は母に言わない方がいいと言われたからその通りやっただけだ」
宮本義和「言わない方がいい?」
石黒理「先生はプライドが高いから。 知ったら私の仕事は受けないだろうって」
長谷川清香「・・・先生」
石黒理「漫画家なんてみんな勝手なんだ。 最後まで描かないで投げ出しやがって」
宮本義和「・・・先生」
石黒理「人気が落ちたのは誰のせいだ。 担当のせいじゃない」
石黒理「それなのに編集長も営業も私のせいにして」
小田正人「・・・先生」
石黒理「何がこれ以上泰代の世話になれないだ」
石黒理「これまでさんざん自由にやってたくせに。 ふざけるな!」
「・・・・・・」
石黒理「おいおいおい。なんて目で私を見るんだ」
  石黒はふらふらと立ち上がる。
石黒理「なあ、わかってくれるよな?  私は何も悪くないよな?」
「・・・・・・」
石黒理「先生が死んだのは私の所為ではないよな?  なあ、そうだと言ってくれ!」
「・・・・・・」
石黒理「・・・もう・・・いい」
石黒理「ならば証明しようじゃないか。 私は自分の出世なんてどうでもいいんだ」
「・・・・・・」
石黒理「その遺書に書いてあるじゃないか」
石黒理「私は先生が望んだからコマを埋めようとしただけだ」
「・・・・・・」
石黒理「もう、終わりにしよう」
長谷川清香「でも、それじゃ最後のヒトコマが」
石黒理「何のために?」
小田正人「・・・それは、先生のために」
石黒理「違うだろ!」
「・・・・・・」
石黒理「君らがヒトコマを埋めるのは自分のためだろ!」
「・・・・・・」
  石黒が小田から遺書を奪う。
石黒理「悪いが、私は降りさせてもらうよ」
  石黒はそう言って帰り支度を始める。
小田正人「ちょ、ちょっと。石黒さん?」
石黒理「約束は守るよ。 5時になったらバイク便が原稿を取りに来る」
石黒理「もしも、仕上がっていたのなら渡してくれ」
小田正人「石黒さん!」
石黒理「救急車は、一番最後の人が呼んでやってくれ」
  バタンッ
小田正人「なんだよ。急に」
長谷川清香「宮本さん。ライター貸してください」
宮本義和「ライター?」
  宮本のポケットの中に手を突っ込み、ライターを探す清香。
宮本義和「え、なに、どうしたの!?」
  清香はポケットからライターを取り出す。
小田正人「ちょ、ちょっと清香さん。 何やってるんですか」
  小田は慌てて清香を取り押さえる。
長谷川清香「私は先生の遺作を駄作にしたくありません」

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