世界の終わり家族

武智城太郎

世界が終わっても家族は泰平(脚本)

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武智城太郎

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〇渋谷のスクランブル交差点

〇電器街

〇大きい交差点

〇黒
  現在から数年後──
  事故で流出したウイルス兵器によって
  
  人類は一夜にして滅び──
  世界は終わった。

〇綺麗な一戸建て
  泰平家──

〇シックなリビング
「お母さん、クッキー食べていい?」
聡子「もうすぐ、お昼だから我慢しなさい」

〇大劇場の舞台
オニオンブルース豊島「卒業といえば、寂しいこともあります。友達との別れとか」
オニオンブルース松林「ああ、きみが出荷されたときの話ね」
オニオンブルース豊島「だれが養豚場出身やねん!」

〇シックなリビング
「ワッハッハ!!」
「アッハッハ!!」
拓見「やっぱりオニオンブルースはコントより漫才だな」
聡子「みんな、もうお昼よ」
「パクパク・・おいしい!!」
「ねーねー! ゴハンの後はトランプしよう!」
「神経衰弱! 罰ゲームありで!」
和美「ちょっと待って!!」
和美「みんな、お気楽すぎじゃない?」
和美「何か、できる事があると思うんだけど・・・」
拓見「何かって何を?」
拓見「できる事はもう、一年前に父さんがやったろ」
「車で、日本中を見て回ったんだよね」
才人「生きてる人間は一人もいなかったな。どこも死体ばかり」
「じゃあ、もう他の人は探さないの?」
拓見「闇雲に探したって出会える確率は低いだろ」
拓見「それより、ここは首都東京だからな」
拓見「もし生存者が他にいて、生き残りを探すなら、目指すは東京だろう」
才人「だから都内の立ち寄りそうな場所に、泰平家の住所を記した看板を設置したんだ」
才人「あとは気長に、お客さんの訪問を待つだけって寸法だ」
「なるほど~」
健蔵「泰平家の人間は特別頑健にできておるから、医者にかかる必要もないし」
才人「和美も、病気なんかしたことないだろ」
和美「まあ・・」
才人「泰平家の血筋だけが、殺人ウイルスに耐性があったのも、そのせいだろう」
拓見「そういうことだ」
拓見「いらない心配するより、和美もこのポストアポカリプスを満喫しないと損だぞ」

〇レンタルショップ
拓見「さあて、今日は何を借りるかな♪」

〇レンタルショップの店内
拓見「みんなはお笑い好きだけど、僕はシネマフリークだからな」
和美「バラエティのDVDはここにはないの?」
拓見「あれは、僕の知り合いのお笑いマニアの家から持って来たんだ」
拓見「他にも、アニメ・ドキュメント・テレビドラマのそれぞれのマニアの家を知ってるから、娯楽ソフトには事欠かないだろ」
和美「これ、映画館に観に行きたかったやつだ」
和美「パニックが始まって、それどころじゃなくなったけど・・・」
拓見「だったら今借りばいいだろ」
和美「あらすじは・・・」
和美「”高校生になった美咲は、恋、友情、そしてちょっぴりの大人体験を通して成長し──”」
和美「今これを、どんな気持ちで観たらいいんだろ?」
和美「あたしも高校行きたかったな」
和美「受験勉強しなくてすんだのは良かったけど」
拓見「この二本はまだ観てなかったな」
拓見「だけどB級ものばかりでも飽きるな。アメリカの暗部を描いた社会派映画もいくつか・・・」
和美(アメリカなんてまっさきに滅びたのに。そんなの今さら観て意味あるのかな?)
拓見「都心の店を巡れば、ソフト化された映画はほぼすべて手に入る」
拓見「最高のホームシアターも揃えてあるし」
拓見「ソフトが現存する映画はすべて制覇しよう。これは一生かかるぞ」
拓見「大変な目標だ。我ながら、夢がデカすぎる」

〇川のある裏庭
才人「点検を始めるか」
才人「太陽光パネルも石油発電機も問題なし」
才人「貯水タンクも順調だ」
才人「お、和美。洗濯か?」
和美「うん。天気がいいから」
才人「どうだ? 何か生活で不便はないか?」
和美「ううん。以前より充実してるくらい」
才人「庭にスペースが空いてるから、以前から欲しかったレンガ製のバーベキューコンロを作ろうと思うんだが」
和美「い、いいと思うよ。贅沢だね」
才人「今はなんでもタダだし、作業の時間もいくらでもあるから最高だな!」

〇一軒家の庭
  隣家の敷地では──
聡子「よしよし、卵を産んでるわね」
  ブゥーッ! ブゥーッ!
聡子「ミニブタたちの飼育も思ったより楽だし。みんな美味しそうねえ」
和美「あたしたちの食料の心配はまったくないんですか?」
聡子「そうね。冷凍庫に保存してある冷凍食品も、まだ当分日持ちするし」
聡子「缶詰なら何十年も腐らないうえに、量は無尽蔵」
聡子「それに、野菜の栽培も順調だしね」
聡子「そのうちビニールハウスを作って、メロンやイチゴも栽培するつもりよ」
和美「はあ・・すごいね」
和美「ところで叔母さん、そのコスプレは・・・」
聡子「学生時代にコミケで着たやつよ。この格好で気軽に出歩けるからいいわよねえ」
双子姉妹「おかーさーん!!」
「ただいまー!」
聡子「お使いご苦労さん」
聡子「頼んだもの、ちゃんと揃えられた?」
「うん! 乾電池でしょ、歯磨き粉、洗剤・・・」
さち「あと、お母さんが前から欲しがってた」
のぞみ「インド風の金の象も見つけたよ」
聡子「ほんとだ! こういうのを部屋に飾りたかったのよね」
和美「こんなの、どこのお店にあったの?」
さち「ううん。お店じゃなくて、普通の家に入り込んで見つけたんだよ」
「あたしたち、宝探しが超得意なの」
健蔵「おーい、みんな」
和美「お祖父ちゃん、お帰り」
健蔵「なかなか大漁じゃったぞ。ほら」
聡子「まあ、大きな鯉!!」
健蔵「あとはこれも」
聡子「まあ! 雁と狸ね!」
健蔵「どっちも一発で仕留めてやったわい。 ホッホッホ!」

〇綺麗な一戸建て

〇女性の部屋
和美「ふう・・・」
和美「鯉のあらいと雁の丸焼きとタヌキ汁、おいしかったな」
和美「・・・家族はみんな、生き生きしてる」
和美「あたし以外、ポジティブだし有能すぎるよ。知ってたけど」
和美「頼もしいけど、ずっとこのまま家族だけで暮らすの?」
和美「同世代の友達が欲しいな。それに彼氏も・・・」

〇地球
和美「もしかしたら、本当に地球上にはあたしたち家族しか残ってないのかも・・・」

〇女性の部屋
和美「ううん、絶対そんなことない!!」
和美「まずはラジオをチェック」
和美「誰かが放送を・・・ダメか」
和美「次は、お父さんに教えてもらったアマチュア無線で・・・」
和美「ハローCQ こちらはAC129 東京都です。お聞きの方いらっしゃいましたら──」
和美「ダメか~」

〇住宅街の道
和美「こんな見回りなんかしても、意味ないと思うけど・・・」

〇街中の道路
和美「だ~れもいない。あたり前だけど」
和美「いるのは、野良犬か野良猫だけ」
和美「この辺りにも、あちこち白骨死体が・・・」
和美「あの頃は怖かったなー」
和美「みんなパニックになって、人がどんどん死んでいって・・・」
和美「はあ・・・」
???「助けて!!」
和美「・・・」
和美「え!?」

〇古本屋
和美「たしか、この辺りから・・・」
和美「あれ・・・?」
和美「幻聴!? そんな・・・」
和美「おーーいっ!!」
???「助けてーっ!!」
???「ここだよー!!」
和美「あそこだ!! この古本屋さんの中から!!」
和美「ダメだ。鍵が掛かってる・・・」
???「助けてーっ!!」
和美「まだ、小さい子の声だ。 ここから出られないんだ!」
和美「すぐに助けに戻るから、待ってて!!」

〇住宅街の道

〇車内
才人「確かなのか?」
和美「うん。男の子か女の子かわからないけど、小学生の子くらいの声だった」
「わーい、いっしょに遊べるね!!」
才人「なんだってそんな子が、古本屋の中に閉じ込められてるんだ?」
才人「いっしょに誰かいなかったのか?」
和美「わかんない、訊くの忘れたから。 とにかく急いで」

〇古本屋
和美「あの子、大丈夫かな・・・」
聡子「その子、好きな食べ物は何かしら?」
拓見「和美の願望が生んだ幻聴じゃないのか~?」
和美「そんなことないって!」
和美(幻聴なら、カッコイイ男の子の声が聞こえるはずよ)
和美「おーい!! 助けに来たよ!!」
???「ここだよ! 助けて!」
和美「ほら!!」
拓見「マジか・・・」

〇車内
才人「よし、店頭の本棚を動かしてくれ」
拓見「よいしょ、よいしょ💦 けっこう重いな」
才人「よし、準備はいいぞ」
和美「中にいる子! 危ないから下がってて!!」
才人「行くぞ!!」

〇アイボリー
和美「これで中に入れる!! 急ぎましょう!!」

〇本屋
和美「どこ!? だいじょうぶ!?」
拓見「誰もいないぞ?」
和美「絶対いるから探して!!」
「おーーい!! 出てこーい!!」
聡子「見当たらないわねえ」
和美「そんなはずは・・・」
???「助けて!!」
和美「いた!!」
健蔵「ふむ、この子か・・・」
拓見「こんなこったろうと思ったよ」
和美「え!?」
インコ「助けて! ここだよ!」
和美「インコ・・・」
和美「そんな・・・」
インコ「生きてる人はいないか!? 生きてる人はいないか!?」
拓見「ん? おい」
和美「なに?」
インコ「われわれは生き残りのグループだ」
インコ「もし生きてる人がいれば、○×△★まで来てくれ」
和美「どこ!? どこって言ったの!?」
拓見「わからん。肝心な部分が聞き取れなかった」
和美「ああ・・・!!」

〇古本屋
和美「ああ・・飛んで行っちゃった・・・」
和美「あのインコが、必ずしも他に生き残りがいる証拠にはならないけど・・・」
和美「でも、一縷の希望が・・・」

〇広い河川敷
タイ吉「ヒイッ!! ヤバいよ!! ヤバいよ!!」

〇シックなリビング
「ワッハッハ!!」
「アッハッハ!!」
和美(もう! 前となにも変わってないじゃない!!)
和美(たしかに、何もできる事はないけど)
和美(でも、これでいのかなあ・・・)

〇黒
  第一話 終

コメント

  • いくら衣食住が事足りても、他者や社会が存在しているという概念の有無が個人のアイデンティティを支えているから、遅かれ早かれ家庭という小さな王国は崩壊してしまうだろうな、と思っていたらインコが!一筋の光明が見えてよかったです。

  • 大変なことが起こっているのにポジティブな人たちが集まった家族なので、こちらも悲観的にならずに読み進められました。助けを呼んでるのがインコだった時はオチかと思いましたが、今後の伏線になっていそうで逆におどろきました。今後の展開に期待しています。

  • 世界に誰もいなくなったら何でも自由に出来るし
    人間関係が無くなるからストレスも無くなるし
    良いこともたくさんありそうだけど、お店の店員さんやお医者さん、美容師さん、居なくなったら困る人がたくさんいるんだなあと思いました(^^)

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