Purgatorium(Ⅴ)(脚本)
〇病院の診察室
毒取「だから何度も言っとるだろう。酔っ払いにつける薬なんてない」
武藤「そうだそうだ」
毒取「根本の原因は酒のせいで気が大きくなって誰彼かまわず喧嘩を売るその性根だ」
マリア「いるいるーそういうお客さん」
毒取「むしろ問題は日々のストレスにあると言っていい」
武藤「え?マジでー?」
毒取「行くべきはここじゃない。カウンセリングの方だ」
マリア「おじさん。ガンバ!」
毒取「・・・」
毒取「ところでお前達は何の用だ?」
「・・・」
〇街中の道路
マリア「そりゃ追い出されるよ」
マリア「二人ともどこも悪くないんだもん」
武藤「どうせ塚越が怖いだけですよ」
マリア「そう?気合いの入ったお医者さんじゃん」
武藤「どうだか」
〇病院の診察室
毒取「ふう・・・」
毒取「誰だやかましい!ブザーを押せ!」
手下「おいヤブコラ!誰に口きいてんだ!」
手下「ここに妙な男と女が来なかったか?」
手下「つかマリアと武藤だ!ここに出入りしてんのは分かってんだ!」
手下「かくまうと三人まとめて沈めるぞ!ああ?」
毒取「・・・」
毒取「ええー?そうなんですかー?全然来てないですよー」
毒取「大体私、あの連中とは知り合いでも何でもないですしー」
毒取「どうぞどうぞ室内の隅から隅まで調べ上げてくださーい」
手下「チッ・・・ヤブがよ」
毒取「はい。本名『藪和夫』です」
毒取「縁起でもない名前なんで、毒取医院の看板掲げてまーす」
毒取「オレ○ジ歯科と同じニュアンスですね」
手下「どうでもいいよ」
手下「いいか、二人を見つけたら」
毒取「ハイッ!塚越先生に即お伝えいたします!」
手下「チッ!」
毒取「・・・」
毒取「・・・怖かった」
〇古いアパート
武藤「まあ、あれです」
武藤「引っ越してきたばかりなんで多分塚越さんにも知られてないと思いますよ」
武藤「むさ苦しいところですが。どうぞ」
マリア(結局こうなっちゃったか)
武藤「はい?」
マリア「なんでもない」
〇和室
マリア「・・・てか、むさ苦しい以前の部屋ね」
マリア「ねえムーちゃん。ズラ、ここ置いていい?」
武藤「はい?」
マリア「ちょ、ちょっと!何脱いでんのよ!」
武藤「あ、すいません。自分だけ体拭いて」
武藤「使って下さい」
武藤「着替え、僕のでいいですかね」
マリア「そ、そういうことじゃなくて」
武藤「?」
マリア「・・・あ」
武藤「何ですか?」
マリア「その痣」
マリア「てか体中痣だらけじゃん。殴られ屋辞めたのに・・・」
マリア「・・・私のせいだね」
武藤「違いますよ。色々ぶつけちゃうのを、気がつかないだけなんです」
武藤「痛み感じないんで、無意識の防御ってのが出来ないみたいなんです」
武藤「あと寝返りなんかも打たなくなるんです。だから体が歪んできちゃって」
武藤「面白いでしょ」
マリア「・・・」
武藤「ああっ!」
武藤「すいません!着替えは風呂場で!」
武藤「い、いや。こっちが隠れてますんで!」
マリア「ごめんね。面倒かけて」
武藤「と、とんでもない」
マリア「ごめん」
武藤「・・・」
武藤「本当・・・ダメだなあ」
武藤「分かんなくなってるんです」
武藤「公園で震えてた猫」
武藤「病院の前で倒れてた酔っ払い」
武藤「こんな汚い体を見せられてるマリアさん」
マリア「・・・何言ってるのよ」
武藤「分からないんです」
武藤「人の痛みも自分の痛みも分からない」
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