空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード11(脚本)

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遠藤彰一

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  午前4時3分──

〇漫画家の仕事部屋
長谷川清香「勝手に描かないでください」
小田正人「もう表情は決まったじゃないですか。 誰が描いたって同じでしょ」
長谷川清香「先生は奥さんのこと、後悔していました。 だから、最終回で山木にそんな表情はさせません」
小田正人「戻ってくるなり何ですか急に。 恋人面しちゃって」
長谷川清香「だって恋人だったんですもん。 文句ありますか?」
小田正人「なっ・・・、開き直っちゃって。 でもそれとこれとは話が──」
宮本義和「小田君。話をちゃんと聞いて」
小田正人「だって俺の名前だってクレジットに乗るんです。 こればっかりは譲れないっすよ」
長谷川清香「だから話し合う必要があるんじゃないですか」
小田正人「それはそうですけど」
長谷川清香「じゃあ、納得行くまで議論しましょう」
小田正人「まあいいですけど」
石黒理「おいおいおい。間に合うのかい?」
長谷川清香「大丈夫です」
小田正人「言っておきますけど、清香さんが先生の恋人だから有利とかじゃないですからね」
小田正人「そもそも、『報い人』は先生の自伝みたいなものなんですよね」
小田正人「だったら当時の気持ちを反映させないと意味がないんじゃないですか?」
長谷川清香「先生は、山木には自分と同じ人生を送って欲しくないんです!」
小田正人「たとえそうだとしても、今の先生の気持ちはこのシーンには関係ないですよ」
小田正人「やっぱりここでは仕事を取るんです」
長谷川清香「でも、この作品で先生が伝えたかったことをちゃんと伝えるべきです!」
長谷川清香「作品は今回で最終回なんですから」
宮本義和「2人とも冷静に。石黒さん。 『報い人』って打ち切りですよね?」
石黒理「そうだよ」
宮本義和「今意見が割れてるのって、山木が仕事を取るか奥さんを取るか、でしょ?」
「はい」
宮本義和「この作品は先生の自伝だから、当然先生の伝えたいことを伝えるべきだ」
長谷川清香「その通りです。 先生は仕事を取って後悔してたんです」
長谷川清香「だから、山木は奥さんを取ります」
宮本義和「でも自伝は中途半端な所で打ち切りになってしまった」
小田正人「そうです、だからこのシーンには当時の先生の気持ちが入ります」
小田正人「山木は仕事を取ります」
宮本義和「作品のテーマを優先するか、シーンを優先させるか」
小田正人「石黒さん、『報い人』ってなんで打ち切りになったんですか?」
石黒理「それは編集部の方針としか言えないなあ」
宮本義和「編集部にも打ち切りにするかしないかの判断材料はあるんですよね?」
石黒理「それはやはり、読者からの支持を得られるかどうかだろうね」
長谷川清香「つまり、人気ってことですか?」
石黒理「そうだね」
石黒理「まあ、ここだけの話、編集部ではストーリーに魅力がないと言う意見が多かったかな」
長谷川清香「・・・・・・」
小田正人「・・・まあ、確かに。 特に後半は微妙でしたよね」
長谷川清香「私は面白いと思います」
小田正人「それは恋人として?」
長谷川清香「違います」
小田正人「いやあ、漫画としては終盤は駄作ですよ。 完全に読者を置いてけぼりにしてますもん」
宮本義和「・・・小田君にそれを言う資格はある?」
小田正人「は?」
宮本義和「じゃあ、君が面白い漫画を描けるの?」
小田正人「そりゃあ、描けますよ」
宮本義和「じゃあ、なんで描かないの?」
小田正人「描いてますよ。宮本さんと違って」
宮本義和「あのさ、さっきから僕のこと馬鹿にしてるけど、君だってまだデビューできてないじゃないか」

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