空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード10(脚本)

空白のひとコマ

遠藤彰一

今すぐ読む

空白のひとコマ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

  午前3時58分──

〇漫画家の仕事部屋
小田正人「・・・何すか。2人して。納得いかないっす」
石黒理「私は君の気持ち、よくわかるよ」
小田正人「え?」
石黒理「いや、もちろん、受賞は長谷川さんの実力によるものだよ」
石黒理「それ以上でもそれ以下でもない」
小田正人「・・・・・・」
石黒理「でも君の作品だってすっごく面白かった。 私が審査員だったら一票入れてるよ」
小田正人「ほんとですか?」
石黒理「ああ、そうとも」
石黒理「そもそも、長谷川さんのコメディタッチの作品と君のバトルものとでは比較のしようもない」
小田正人「ですよね!」
石黒理「ああ、佳作と受賞作は紙一重だよ。 君にもデビューする資格はある」
小田正人「石黒さん! 俺、石黒さんのこと誤解してました」
石黒理「誤解?」
小田正人「はい。 石黒さん、いつも先生のこと詰めまくってたじゃないですか」
小田正人「『つまらない』とか、『才能ない』とか」
石黒理「あ、ああ。 あれは叱咤激励(しったげきれい)だよ」
小田正人「でも、ネームの段階では何も言わないのに、仕上げになった途端に意見が180度変わったりするから」
小田正人「編集部の方針だって」
石黒理「それは仕方がないよ。 私なんてただのサラリーマンだからね」
小田正人「でも、ちゃんと俺の作品読んでくれてたんすね」
石黒理「もちろんだよ」
小田正人「俺、面白いって言ってもらえたの、実は初めてで」
石黒理「そうなの?」
小田正人「はい。最初はコピーだったんです」
石黒理「というと?」
小田正人「俺の家は本当に貧乏で。 当然、漫画なんか買ってもらえなくて」
小田正人「だから、友達に借りた漫画を自分でノートに書き写して何度も読んでたんです」
石黒理「それで、コピーか」
小田正人「俺、小学生の頃から絵だけは得意で。 そのうち、クラス中のみんなも俺が書いた漫画を読んでくれるようになって」
石黒理「すごいじゃないか」
小田正人「で、調子に乗ってオリジナルを書き始めたんです」
小田正人「その途端に、みんなつまらないって読んでくれなくなっちゃんたんすよ」
石黒理「小学生の頃の話だろ? そんなことでくよくよする必要ないじゃないか」
小田正人「いえ。その後もずっとです」
小田正人「みんな、正人(まさと)の漫画は、画は上手いけど話しがつまんないって」
小田正人「俺、自分でも分かってるんです」
石黒理「小田君・・・」
小田正人「自分に無いものを持っている人って輝いて見えるんです」
小田正人「それで、清香さんにもあんなこと言っちゃって」
小田正人「ダサいっすよね」
石黒理「・・・・・・」
小田正人「でも。 だから、さっき石黒さんに面白かったって言われてめちゃくちゃ嬉しくって」
  あふれ出る涙を手で拭(ぬぐ)う小田。

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード11

成分キーワード

ページTOPへ