Story#0005:青く光る灰(脚本)
〇大教室
アルフェン卿「Entity#3630"蜘蛛の道化師"による、闇堕ち事案が相次いでいます。 気を付けましょう」
幻夢境には、多くの知的生命体がいる。中には危険な存在もいるので、夢とはいえある程度の護身術が必要である。
アキラ・ロビンソン「アルフェン学長って何者なの?人間じゃないみたいだけど」
エマ・レイ「ハトホル族の識学者さんですよ。道行の主というアセンデッドマスターなんです」
アキラ・ロビンソン「アセンデッドマスター?」
エマ・レイ「確か、バーネットさんの方が詳しいですよ。秘密の主というアセンデッドマスターと契約を交わして、戦士になった人ですから」
フレデリック・バーネット「何なに?俺の話?」
アキラ・ロビンソン「アセンデッドマスターって何かな~って」
フレデリック・バーネット「何だ、"主"のことか」
・・・・・・主?
「ご主人様」とかって呼んでるんだろうか。
〇カラフルな宇宙空間
フレデリック・バーネット「アセンデッドマスターは、皆役割があって、何かの物事、概念の主なんだ」
フレデリック・バーネット「例えば、アルフェン卿は道行の主、」
フレデリック・バーネット「俺と契約を結んだサーシャは秘密の主、」
フレデリック・バーネット「ルイーズを守護してるシータは変容の主、」
フレデリック・バーネット「とにかく、皆何かの主なんだ」
アキラ・ロビンソン「どういうこと?」
フレデリック・バーネット「神様って事だよ」
キリスト教の"主なる神"だろうか。そう聞くと、フレッドはうーん、と唸った。
フレデリック・バーネット「うん。"主なる神"は一人じゃないってことだ」
すごい話を聞いた。
〇魔法陣2
フレデリック・バーネット「そもそも書いてあるしな、「我々に似せて、人を作ろう」って」
話し込んだのは初めてだが、陽気で楽しい奴だ。その時、フレッドの表情が変わる。
フレデリック・バーネット「ごめん、俺行くわ」
アキラ・ロビンソン「何で?」
フレデリック・バーネット「"怪物"が出たんだよ。倒しに行かなきゃ」
フレッドの体が青く光る。
フレデリック・バーネット「我が主よ、インカル・サーシャよ」
フレデリック・バーネット「汝の神威を以て我に神装、纏わせよ!」
一瞬にしてその姿は白銀の騎士に変わる。
彼はどこかへ行ってしまった。
アキラ・ロビンソン「・・・・・・"エリクシア"?」
話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだった。
エマ・レイ「帰りましょう」
〇西洋風の駅前広場
駅前広場に雨が降る。青白く光る死の灰が、雨水に混じって堕ちてくる。
ミランダ・カーティス「誰か、魔物を退治してるのかしら」
肉体無きスピリットを殺害すると、その体は青白い灰に変わるのだと、昔誰かに聞いた。
ミランダ・カーティス「はあ・・・・・・」
靴を無くした右足が冷たいと悲鳴を上げる。雨がやむまで外には出られない。
ミランダ・カーティス「ルイーズ、心配してるかな」
独り言は空気にとけてなくなった。
〇黒背景
ノアール「・・・・・・」
ノアールは、静かにある情景を眺めていた。
白銀の騎士「はあ、はあ、はあ」
ダルーカ「疲れてきただろう?少し休まない?」
白銀の騎士「黙れ、魔物め」
ダルーカ「失礼だね。僕は魔物寄りだけど魔物じゃない」
蜘蛛の道化師はからかうように嗤う。どうやら怪物と戦っていた白銀の騎士を、からかいに来たらしい。
ダルーカ「君に良い話があるよ。魔物たちが憎いかい?」
白銀の騎士「何を」
白銀の騎士「・・・・・・!」
白銀の騎士の脳裏にある光景が浮かぶ。魔物の襲撃によって滅びた世界の光景。
白銀の騎士「今、何をした!?」
ダルーカ「僕は何もしてない。君の記憶だよ」
白銀の騎士は、剣を手に、蜘蛛の道化師へと向かっていった。
ダルーカ「あはは。良い反応だね」
剣はすんでのところで糸に防がれた。
ダルーカ「今の君と話しても仕方がない。また来るよ」
ノアール「大凶だな」
ノアールは静かに目を閉じた。
〇豪華なリビングダイニング
三田ことね「お二人とも。お勉強は進んでいますか?」
”学校の時間”は夕方4時から夜8時までの4時間。眠りから覚め、夕食を食べながら今日あった様々な事を家族と共有する。
エマ・レイ(あの人、なんて名前だっけ。思い出さなきゃいけない気がする)
エマ・レイは幼い頃の空想上の友達について考えを巡らせていた。
アキラ・ロビンソン(今日も何か怖いなあ、マレウスさん)
アキラは向かいに座る老人を見ていた。
ルイス・レイ「ごちそうさま」
黙々と食べていたルイスは、一足先に食べ終わり、食器を流しに乱暴に入れた後、自室に入っていった。
平和な一日が、今日も終わる。誰もが、そう思っていた時だった。
「こんばんは」
エマ・レイ「あ、誰か来た」
玄関のチャイムの音に、エマは立ち上がり、モニターに映る来訪者を見た。
ナタリア・ラピス「こんばんは」
見知った顔に安堵し、エマは玄関を開けようとした。その時、リビングでニュースを見ていたマレウスさんが立ち上がる。
マレウス・レイ「エマ。退きなさい」
彼女の後ろには、二人の黒ずくめが立っていた。
ナタリア・ラピス「マレウス・アルベルト・レイ、エマ・パトリック・レイと話をさせてください」
マレウスさんは、暫くの間彼らと話をしていたが、諦めたのか、彼らは帰っていった。
彼らが帰っていった後、マレウスさんはアキラに近付いた。
マレウス・レイ「アキラくん。話がある」
〇ホテルの部屋
エマの祖父であるマレウスさんは、かつて魔法の研究をしていた識学者であり、いくつもの功績を残した偉大な人物である。
アキラ・ロビンソン(緊張するなあ、この状況)
暫く当たり障りのない話をした後、マレウスさんは言った。
マレウス・レイ「こちらの世界にも、後ろ暗い連中はいる。 さっき訪ねてきた黒服たちは、エマを連れに来たハイルローゼ教会の神官たちだ」
ハイルローゼ教会とは何かと訊ねると、マレウスさんは静かに、眉根を寄せた。
マレウス・レイ「アセンデッドマスターと、彼らの与える加護と祝福を信仰の対象とする古い宗教団体だ」
曰く、異能力を有する子供を探し、飼い慣らしている組織らしい。
マレウス・レイ「エマは、お前も知る通り、強い魔力の持ち主だ。教会はあの子を利用して、勢力を強めるつもりでいる」
マレウス・レイ「もし、また”彼ら”が来たら、彼らからエマを守ってやってほしい」
大変な役目になるだろう。ベッドに腰掛けた老人の目を見据えて答えた。
アキラ・ロビンソン「約束は出来ません。でも、」
〇綺麗な図書館
夜、僕たちは香月先輩に呼び出され、アカシックレコード図書館に来ていた。
香月忍「アキラ・ロビンソン、ミランダを目覚めさせる方法は分かったか?」
アキラ・ロビンソン「まだ分かりません、すみません」
その場が沈黙で満たされた時、エレナが口を開いた。
リイナ・エレノア「ごめんなさい、ミランダが悪夢を見ないように、鍵を閉めてほしいと頼んだのは私です」
香月忍「何故、そんなことをした」
香月先輩の質問と静かに見据える瞳に、エレナは泣きながら答えた。
リイナ・エレノア「だって、ミランダはいつも良くない夢にうなされてたから。 夢の中で、あのひどいお兄さんにずっと──」
香月忍「分かった。それ以上は言うな」
フレデリック・バーネット「振り出しかよ、皆」
フレッドがそう言った時、ルイーズはおずおずと手を上げた。
ルイーズ・マーロン「関係あるかどうか分からないんですが、眠りにつく前の日の夜に、ミランダがいきなり目を覚まして、こう言ったんです」
香月忍「何と?」
冷徹なまでに冷静な香月先輩に、ルイーズは言う。
ルイーズ・マーロン「”青く光る灰を浴びた”と」
〇黒背景
夢には個人の見る固有夢と、集団で見る共有夢がある。フレデリックはその狭間を、ふらふらと漂っていた。
ダルーカ「今日は魔物狩りをしないのかい。あのプレアデス・ブロンドも居ないようだけど」
フレデリック・バーネット「・・・・・・黙れ」
フレデリックはミランダの事を考えていた。肉体を持たないスピリットは、死亡時に”青く光る灰”に変化する。
フレデリック・バーネット(まさか、俺のせいか?”青く光る灰”を浴びると、一時的に三昧の状態になるって大人たちが言ってたな・・・・・・)
深刻な顔で悩んでいたフレデリックに、蜘蛛の道化師は語りかける。
ダルーカ「ひとりぼっちだね、君。何でもそつなくこなせるいつもの君とは別人だ」
フレデリック・バーネット「黙れ!」
右手に得物が実体化し、フレデリックはそれを握りしめ蜘蛛の道化師に斬りかかる。
ダルーカ「ははっ!」
握りしめた鉄パイプはすんでのところで糸に防がれた。
ダルーカ「君さあ、熱くなれるものとか何も無いだろ。無害かもしれないスピリット達に当たり散らしてさあ」
フレデリック・バーネット「黙れ、黙れ、黙れ」
蜘蛛の道化師の指先が、フレデリックの額に触れた。
ダルーカ「楽しもうよ、一緒に」
〇街の全景
インディゴ「帰りましょう、マーロン長官」
火星中央統治庁のビルから、色鮮やかな夜景を見ていたら、護衛官のインディゴが話し掛けてきた。
無口な運転手の運転するホヴァーヴィークルで自宅への道を走る。
人類がその文明範囲を宇宙にまで拡大させて三百年。冷戦状態の火星-地球間の仲を取り持つ調停官らの働きをずっと見てきた。
彼らは地球側の存在ではあるが、ここ火星においての働きは評価したいと思ってきた。
もうじき火星-地球間トップ会談がある。地球に暮らす妻と二人の娘のためにも、円満に解決したい。
今は冷戦状態の両惑星の間に、光があるように願ってやまない。