みずの ようせい アクアさん【かのうせい】(脚本)
〇荒地
だいちの もんしょうを
ポケットに しまって
どれだけ あるいた だろうか。
とおくに キラキラと
かがやく ものが みえて きた。
あれは・・・
おおきな みずうみだ!
この せかいで
みずを みるのは はじめて。
なんだか うれしく なって、
ぼくは おおいそぎで はしった。
〇湖畔
はあ、はあ。
やっぱり みずうみだ。
みずうみの まわりには
すこしだけ しょくぶつも
はえてる みたい。
みず だけじゃ なくて、
しょくぶつを みるのも
はじめて かも しれない。
さかな とか いるかな。
ぼくは みずうみに かけよって
のぞいて みた。
すごく きれいな みずだ。
だけど・・・
いきものが ぜんぜん いない。
ふしぎに おもって いると、
あっ、また・・・
だれかの よぶ こえが きこえる。
・・・えっ。
みずの うえを あるいて こいって?
ぼくは みずうみの うえに
そっと あしを のせて みた。
・・・。すごい。
なぜか しずまない。
すごく おもしろい。
これも、ようせいさんの
まほう なのかなあ。
はしったり ねそべったり
して みながら
みずうみの まんなか まで くると、
みずが ふきあがり、
おんなのこの すがたに なった。
アクア「こんにちは。 わたしは みずの ようせい アクア」
アクア「めがみさま から おはなしは きいて います」
アクア「この せかいは いまでも すこしずつ よごれつづけて います」
アクア「わたしの つかさどる、 この みず たちも もう すぐ・・・」
アクア「さあ さっそく マージャンの ことを おおしえ いたします」
アクア「・・・あれっ・・・。 もしもし、きいて いますか?」
・・・そのとき ぼくは、
ポカーンと・・・
アクアさんの かおに
みとれて いたんだ。
だって・・・
ぼくの すきな、
おなじ クラスの こに
そっくり なんだもん。
アクア「どう なさいましたか? あら おかおが まっか。 おねつなら、わたしが すぐに・・・」
なんでもない、
なんでもないよ。
はじめまして、アクアさん。
さあ ぼくに おしえて。
マージャンの こと。
アクア「なんとも ありませんか。 よかったです。 それでは・・・」
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
アクアさんが おしえて くれたのは、
マージャンの せかいの
へんしんの じゅつ。
「パイこうりつ」って いうんだって。
みずが うつわの かたちに
へんか して したがう ように、
じぶんの ても、
アガりやすく へんか させる
ひつようが あるんだって。
アクア「70この くじの なかに 4この あたりが ある くじと 8この あたりが ある くじ」
アクア「あなたなら どちらを ひきたい ですか?」
アクアさんは、そんな
「かのうせい」の はなしを、
いっしょうけんめい、
ぼくに おしえて くれたんだ。
なるほど・・・
ひいて うれしい パイを
できるだけ・・・
たくさん じゅんび するのが
たいせつ なんだね。
アクア「なんと・・・ もう りかい できたのですか」
アクア「あたまの なかを すこしだけ みせて いただいて よろしい でしょうか?」
アクアさんは ぼくの あたまに
てを かざし、
なにか つぶやいて いる。
しばらく すると、
アクアさんは にっこり ほほえんで
こう いったんだ。
アクア「これは すごい ことです。 みずの じゅつ パイこうりつ・・・」
アクア「かんぜんに りかい して いらっしゃる ことが わかりました」
アクア「それと さきほど・・・」
アクア「おかおが まっか だった わけも・・・」
ええっ。
そんな ことまで
わかっちゃうの!?
ひどいよ アクアさん。
ぼく すごく はずかしい。
アクア「はずかしく なんて ありません。 だれかを すきに なる・・・ とても すてきな こと ですよ」
アクア「ですが・・・その おんなのこ とは あまり はなした ことが ない ようですね」
アクア「なぜですか?」
なぜですか、って・・・
それは・・・
ぼくなんかが はなしかけたら
いやがられる かも しれないし・・・
アクア「それは、その おんなのこが そう いったのですか?」
まさか。そんな ことは ないよ。
だけど・・・。
アクア「・・・ ・・・ ・・・」
アクア「さきほど わたしが おしえた 「パイこうりつ」の じゅつ」
アクア「あなたは かんぜんに りかい できて いました」
アクア「パイこうりつ とは いいかえれば、」
アクア「よい ことが おこる かのうせいを いつも おいかける ことです」
うん。
それは よく わかったよ。
アクア「しかし いまの あなたは、 「じぶんは ダメだ」と すっかり きめつけて いますね」
アクア「その おんなのこが じぶんを すきに なって くれる 「かのうせい」・・・」
アクア「いまの あなたなら かんがえられる・・・ わたしは そう おもいます」
アクア「いかが でしょうか?」
・・・
そう いわれれば・・・
たしかに そうだ。
ぼく いままで
じぶんは ダメだって きめつけて
にげて ばっかり だった きが する。
こんな いい パイ
ひける わけが ない・・・
そんな こと、
パイこうりつの じゅつ では
かんがえない。
いつも かのうせいを かんがえる。
そして わずかでも
かのうせいが あるなら、
その かのうせいを
たいせつに する。
かのうせいを たいせつに・・・
・・・!
あっ・・・ そっか・・・。
いちばん いけないのは・・・
かのうせいを たいせつに せずに、
じぶんを ダメだと
きめつける こと・・・。
そういう こと なのかな。
アクア「そこまで きづいて くださるとは。 やはり あなたは さすがです」
アクア「わたしが おおしえ できる ことは いじょうと なります」
アクア「それでは わたしも アイカと おなじ ように」
アクア「もんしょうに ふうじられる ことと しましょう」
アクア「じぶんを よくする かのうせい。 これを いつも かんがえる こと」
アクア「いつまでも わすれないで・・・」
そう いうと、
アクアさんは みずに なって
あしもとの みずうみに
おちて きえた。
アクアさんが きえた ばしょに
みずの もんしょうが うかんでる。
ぼくは それを
そっと ひろいあげて、
もんしょうに むかって いったんだ。
ありがとう アクアさん。
ぼく また たいせつな ことに
きが ついた みたいだ。
あの こが ぼくを すきに なる
かのうせい なんて、
ほとんど ないと おもうけど・・・
パイこうりつが いつも
かのうせいを しんじる ように、
ぼくも ぼくの かのうせいを
しんじなくちゃ。
いつも ながれる
みずの ように・・・
ぼくも かわって
いかなくちゃ。
そうだよね、アクアさん。
もんしょうから へんじは
やっぱり かえって
こなかったけれど・・・
ぼくは みずの もんしょうを
ポケットに しまって、
ふたたび あるきだした。
めがみさまを たすける ために。
そして。
マージャンの せかいを
たすける ために。