実況の合間に恋愛を

陽菜

湊の過去 その二(脚本)

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〇学校の廊下
  それは、私が小説が出版されたと話題になっていた時のこと。
いじめっ子のリーダー格の女子「あんた、自分の小説が出版されたんだってね?」
立花 湊「え、うん・・・」
  どうでもいいじゃん・・・なんて思っていると彼女は詰め寄ってきた。
いじめっ子のリーダー格の女子「調子に乗るんじゃないわよ」
いじめっ子のリーダー格の女子「そういえば、森岡さんとも仲いいんだってね?」
いじめっ子のリーダー格の女子「どうやって取り入ったの?」
  言われもないことを言われ続け、私が我慢していると・・・。
森岡 涼恵「廊下で何騒いでいるんだ?」
  ・・・森岡さんが来てしまった。
いじめっ子のリーダー格の女子「あ、森岡さん」
いじめっ子のリーダー格の女子「やだなぁ、話していただけだよぉ」
  森岡さんの前で繕う彼女に私は怒りを覚えた。
森岡 涼恵「私には、君が彼女をいじめているように見えたんだけど」
  しかし、森岡さんははっきりそう言った。
いじめっ子のリーダー格の女子「い、いじめなんてそんな・・・」
森岡 涼恵「だとしても、彼女は嫌がっているように見えた」
森岡 涼恵「あなたにとってはいいかもしれないけど、彼女が嫌だと思っているなら」
森岡 涼恵「それは立派な「いじめ」だ」
いじめっ子のリーダー格の女子「な、何よ」
立花 湊「も、森岡さん・・・」
いじめっ子のリーダー格の女子「だって、そいつ調子乗ってるし!」
いじめっ子のリーダー格の女子「自分の小説が出版されたからっていい気になってるのよ!」
森岡 涼恵「それは君の「主観」であって、客観なものではない」
森岡 涼恵「・・・少なくとも私から見たら、調子に乗っているようには見えないね」
  森岡さんが反論すると、彼女はわめき散らした。
いじめっ子のリーダー格の女子「森岡さんも騙されているのね!」
いじめっ子のリーダー格の女子「そいつの作品なんて面白くないわよ!」
森岡 涼恵「・・・・・・・・・・・・」
森岡 涼恵「私はそう思わなかったけどね」
いじめっ子のリーダー格の女子「はぁ?」
森岡 涼恵「彼女の作品には「心」がこもっている」
森岡 涼恵「あなたなんかとは違ってね」
  森岡さんはポケットからスッと何かを取り出す。
森岡 涼恵「ちなみに、今の会話は録音しているから」
森岡 涼恵「いじめの証拠として、先生方に提出させてもらうよ」
  その言葉に、彼女は慌てだした。
いじめっ子のリーダー格の女子「う、嘘でしょ?」
森岡 涼恵「私は嘘をつかないよ」
森岡 涼恵「これでも経営者なんで」
  ほら、行こうと私の手首を掴んで、森岡さんはその場から去った。
森岡 涼恵「こんな人の言葉なんか、無視しちゃえばいいんだよ」
立花 湊「う、うん・・・」
  何が起こったのか分からなかったけど、森岡さんはそのまま中庭まで手を離さなかった。

〇中庭
  中庭では、既に憶知君が待っていた。
森岡 涼恵「悪い、遅くなった」
憶知 記也「大丈夫だぜ、スズ」
憶知 記也「立花さんも大変だな・・・」
立花 湊「あ、いや・・・」
立花 湊「・・・森岡さんの弟、でよかったんだよね?」
憶知 記也「そうだぜ?」
憶知 記也「学校内では「親友」として過ごしているけどな」
森岡 涼恵「気にしないでいい」
森岡 涼恵「お互い、納得の上だ」
立花 湊「そ、そっか・・・」
憶知 記也「ここ、案外穴場だからな」
憶知 記也「立花さんもここ来ていいぜ?」
森岡 涼恵「こら、記也。ナンパはいけません」
憶知 記也「ナンパじゃねぇよ!?」
森岡 涼恵「知ってる」
憶知 記也「すず姉ぇ・・・」
  この二人を見ていると、さっきまで何で悩んでいたんだろうって思えてきてつい笑ってしまった。
憶知 記也「ようやく笑ったな」
立花 湊「えっ?」
森岡 涼恵「立花さんは笑っていた方が可愛いぞ」
憶知 記也「すず姉の方がよっぽど口説いてるじゃねぇか・・・」
森岡 涼恵「口説いてない」
立花 湊「・・・・・・」
立花 湊「ありがと・・・」
  その会話を聞いて二人は、私を気遣ってくれていたのだと気付いた。
  二人は否定していたけれど、その優しさが頼もしかった。

〇アパートのダイニング
立花 湊「ただいまー・・・」
  私が家に帰ってくると、お母さんは誰かと電話しているところだった。
湊の母「だから、これ以上はきついですって・・・」
立花 湊「どうしたの?」
  なんとなく分かってはいるけれど、一応尋ねると予想通りの返答が来た。
湊の母「ゆず君達よ」
湊の母「またお金を貸してほしいって言ってきてて・・・」
立花 湊「やっぱりかー・・・」
  ゆず君は私にとっていとこだ。
  おばさん含め、いつもお金を無心してくる。
  おじさんはいい人だから、巻き込みたくもないし・・・。
立花 湊(私に印税とか動画収入が入ってからひどくなったもんな・・・)
立花 湊「電話貸して、ちゃんと断るから」
  兄の一人は障がい者だし、お母さんだって病弱で、いつどうなるか分からない。
  彼らに割けるお金なんてうちにはないのだ。
  お母さんから電話を受け取り、電話口のゆず君に怒りをぶつける。
立花 湊「ゆず君、何回も言わせないで」
立花 湊「あんたもいい大人なんだから、いつまでも私達に甘えないでよ」
  実際、ゆず君は私より年上だ。
  大学や専門学校に通っているわけでもないため、病気でもない限り働いていて当たり前だ。
  動画投稿者になるとか言っているけれど、収入が安定しないからどちらにしろ最初はほかの仕事をしないといけない。
須藤 ゆず「あぁ!?」
須藤 ゆず「てめぇホンットにケチだな!?」
立花 湊「逆切れするな!」
立花 湊「あんた一体何歳よ!?」
立花 湊「印税も動画収入も、そう簡単じゃないんだって!」
立花 湊「私はたまたまうまくいっただけだって何回言えば分かるの!?」
須藤 ゆず「うっせぇよ!」
須藤 ゆず「てめぇに出来んだから俺にも出来るだろ!」
  このままでは売り言葉に買い言葉にしかならない。
  私はそのまま電話を切る。
立花 湊「お母さん、悪いこと言わないから、兄さんのところ行った方がいいよ」
湊の母「そうねぇ・・・」
湊の母「考えておくわ・・・」
  私達はそのまま、会話もなく夕食の準備を始めた。

〇綺麗な部屋
  お風呂にも入り、撮影を・・・と思ったけど、どうしても気が乗らなかった。
立花 湊(誰かの声が聞きたい・・・)
  スマホを見ると、涼恵さんの名前が目に入った。
  迷惑だと思いながら、私は電話をかける。
森岡 涼恵「・・・もしもし、どうした?」
立花 湊「あ、えと・・・」
  まさか出るとは思っていなかったから、挙動不審になってしまう。
  それが分かったのか、電話越しに「フフッ」と小さく笑った声が聞こえた。
森岡 涼恵「この時間は研究所で仕事しているんだ」
森岡 涼恵「そろそろ家に帰ろうって思っていたところだよ」
立花 湊「あ、なるほど・・・」
  そういえば涼恵さんは所長さんだった・・・と思っていると、「それでどうしたんだ?」と聞いてきた。
森岡 涼恵「何か悩みがあるから電話をかけてきたんだろ?」
  涼恵さんは他人の心情を悟るのが上手だ。
立花 湊「・・・いとこが、連絡してきたの」
立花 湊「いつもお金の無心をしてきて・・・」
立花 湊「お父さんの借金だって返せてないって、分かってるくせに・・・!」
立花 湊「お母さんも兄さんも、いつどうなるか分からないのに・・・っ!」
  だからだろうか。
  私は胸にあったモヤモヤをすべて吐き出していた。
  それを聞き終えた後、「そうだったんだな・・・」と涼恵さんは考え込んだ。
森岡 涼恵「・・・借金を肩代わり、はさすがに出来ないが・・・」
森岡 涼恵「君のお母さんやお兄さんをうちで雇うことは出来るよ」
立花 湊「えっ・・・?」
森岡 涼恵「時間調整はちゃんとするし、送迎も検討する」
森岡 涼恵「迷惑じゃなければ、うちに来てみてほしいと言ってくれ」
森岡 涼恵「・・・そっちの方が湊さんも安心だろ?」
立花 湊「う、うん・・・そうだけど・・・」
  本当にいいのだろうか・・・と悩んでいると、電話越しに微笑んでくれた。
森岡 涼恵「障がい者も何人か雇った方が、研究所としてもよかったりするんだよ」
森岡 涼恵「だからむしろ私にとっても好条件なんだ」
立花 湊「・・・そっか」
立花 湊「だったら、一回言ってみるよ」
森岡 涼恵「そうしてみてくれ」
立花 湊「・・・ありがとう」
  それからしばらく話をして、電話を切った。

〇アパートのダイニング
立花 湊「・・・というわけだから、私の知り合いのところで働いてみない?」
  次の日、お母さんと兄さんに伝えると「なるほどね・・・」と少し考え込んだ。
湊の母「迷惑じゃなければ、一度見学に行ってみようかしら・・・?」
立花 湊「じゃあ、今連絡してみるよ」
  お母さんの都合も聞き、涼恵さんに連絡してみる。
森岡 涼恵「来週の土曜日・・・うん、迎え行ける人がいるよ」
森岡 涼恵「佑夜さんっていう、銀髪の人が十時ぐらいに迎えに行くからそう伝えてて」
森岡 涼恵「それじゃ、待ってるね」
立花 湊「うん、お願いします」
  仲がいいように見えたのだろう、お母さんが不思議そうに視線を向けていた。
湊の母「仲がいいのね・・・」
立花 湊「うん、同じ高校の子だもん」
湊の母「え、本当に!?」
立花 湊「そうだよ」
立花 湊「そうじゃないと勧めないって」
  お母さんは身体が弱いし、同居している兄さんも難聴がある。
  信用しているところじゃないと行かせたくないのは家族として当然だろう。
  涼恵さんからの伝言を伝え、私は夕食を作り始めた。

〇アパートのダイニング
  土曜日、涼恵さんのところから帰ってきた二人は満足そうだった。
湊の母「ありがとう、本当にいい場所だったわ」
立花 湊「よかった」
立花 湊「これでひとまずは安心して一人暮らしを始められるよ」
湊の母「そうね、私達も兄夫婦のところで過ごすことが出来るし」
立花 湊「何かあったら連絡してよ」
立花 湊「金銭面なら支援できると思うからさ」
湊の母「ありがとう、湊」
  これで、一つの不安点が解消された。
  涼恵さんに感謝しないとなぁ、と思いながらこれからの暮らしを考えていた。

次のエピソード:悲しさの影

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