佑夜編(脚本)
〇渋谷駅前
次の日の早朝、佑夜さんと一緒に出掛ける。
祈花 佑夜「涼恵さん、寒くない?」
森岡 涼恵「大丈夫ですよ」
森岡 涼恵「佑夜さんこそ寒くないですか?」
祈花 佑夜「ボクも大丈夫だよ、ありがとう」
白い息を吐きながら、二人でブラブラと歩く。
祈花 佑夜「どこに行きたいとかある?」
森岡 涼恵「うーん・・・」
森岡 涼恵「特に何も考えていなかったですね・・・」
祈花 佑夜「じゃあ、水族館行く?」
祈花 佑夜「電車乗らないといけないけど・・・」
森岡 涼恵「あ、いいですね」
森岡 涼恵「水族館はあまり行かないので」
祈花 佑夜「じゃあ、行こうか」
行き場所も決まり、一緒に駅まで歩きだした。
〇水中トンネル
森岡 涼恵「わぁ・・・!」
祈花 佑夜「あ、あっちでウミガメが泳いでるよ」
水族館に来るのが久しぶりだからか、柄にもなくテンションが上がってしまう。
森岡 涼恵「あ、あそこにクラゲがいますね!」
祈花 佑夜「ちょっと、危ないよ・・・!」
森岡 涼恵「きゃっ・・・!」
はしゃぎすぎてこけそうになった私を、佑夜さんは後ろから抱えてくれた。
祈花 佑夜「大丈夫?」
森岡 涼恵「は、はい、すみません」
祈花 佑夜「はしゃぐのはいいけど、気を付けてね」
森岡 涼恵「は、はい」
恥ずかしくてもじもじしていると、佑夜さんが手を差し出してきた。
祈花 佑夜「手、繋ごう?」
祈花 佑夜「そしたら転ばなくてすむよ」
森岡 涼恵「は、はい・・・」
その手を取ると、彼は嬉しそうに笑った。
祈花 佑夜「・・・そういえば、恋人になってからあまりデートとかしたことなかったね」
森岡 涼恵「で・・・っ!?」
森岡 涼恵「た、確かにそうですけど・・・」
祈花 佑夜「覚えてる?初めて会った時のこと・・・」
森岡 涼恵「忘れるわけないじゃないですか、あんな状況・・・」
私達の出会いは、命を懸けた舞台だった。
その時は、記也とも「親友」と周囲に話していたし、兄さんや亜花梨ちゃんとも生き別れ状態だった。
・・・今でも、鮮明に思い出せる。
祈花 佑夜「あの時は、生きた心地がしなかったよ」
森岡 涼恵「そうですね・・・」
まぁ、いろいろあって何とか全員生きて脱出することが出来た。
祈花 佑夜「・・・本当に、君がいなかったらどうなっていたか分からなかったよ」
森岡 涼恵「いえ、私は何も・・・」
祈花 佑夜「君の力がなかったら、皆生きて脱出なんてできなかった」
祈花 佑夜「・・・君の守護者なのに情けないよ」
森岡 涼恵「あの状況じゃ仕方ありませんって」
・・・その時、私はかなりの重傷を負ってしまった。
彼はいまだに、そのことを気にしているのだ。
森岡 涼恵「だったら、これからいろんなところに連れて行ってください」
森岡 涼恵「私、仕事以外ではあまり遠出しないからどんな場所があるか見てみたいんです」
祈花 佑夜「涼恵さん・・・」
祈花 佑夜「うん、いいよ」
その約束に、佑夜さんは救われたような表情を浮かべていた。
〇公園のベンチ
水族館をあとにした私達は近くの公園に向かった。
祈花 佑夜「どうぞ、涼恵さん」
森岡 涼恵「ありがとうございます」
コーヒー缶を受け取り、ベンチに座る。
祈花 佑夜「今日は楽しかった?」
森岡 涼恵「はい!」
森岡 涼恵「連れて行ってくれてありがとうございます」
祈花 佑夜「それならよかったよ」
安心した表情を浮かべたかと思うと、彼は突然私の手を握った。
森岡 涼恵「ど、どうしました?」
祈花 佑夜「・・・今度は、絶対守るからさ」
祈花 佑夜「これからも、そばにいて」
森岡 涼恵「・・・もちろんです」
一瞬だけ、私によく似た男の子の姿が見えた気がした。
祈花 佑夜「・・・帰ろうか」
森岡 涼恵「はい」
この優しい雰囲気を名残惜しく思いながら、私達は家に帰った。