第一話:君が行ってしまった日(脚本)
〇シンプルな一人暮らしの部屋
拓海「ただいま・・・・・・」
大学近くにあるアパートの一部屋
一人暮らしができる家具が一式揃った
静かで寂しい部屋
俺はこんな部屋に住む大学三年生『望合拓海』
アルバイトで疲れ帰宅した俺はベッドへ飛び込む
拓海「飯は──食べなくていいか」
拓海「食欲ないし・・・・・・」
俺はポケットに入れたスマホを取り出し、ケータイを起動させる
いつもだったらSNSを開くところだが
今日はなんとなく写真保存アプリを開いた
すると過去の写真を振り返るという機能で3年前の写真が表示された
そこに写っていたのは彼女の写真だった
拓海「・・・・・・」
ベッドから降り、冷蔵庫から缶ビールとバッグに入れてあったタバコを片手にベランダへ出た
〇団地のベランダ
口にタバコを咥え百均で買ったライターで火をつける
肺いっぱいに煙を入れ、口から吐き出し
灰皿に灰を落としビールを一口飲んだ
拓海「・・・・・・まっず」
そう言いながらもまたビールを一口飲み、タバコを吸う
拓海「あの日からもう3年か」
拓海「・・・・・・」
手に持っていた酒を一気に飲み干す
普段こんな時間に酒なんて飲まないけど、今日は酒に呑まれたかった
拓海「何やってんだろうな・・・・・・」
拓海「俺・・・・・・」
〇道玄坂
3年前
拓海「ハァハァハァ・・・・・・」
拓海「なんで何も言わないで行こうとするんだよ」
さっきまで病院にいた俺は花穂を追いかけて空港へ向かっていた
いつも通り花穂の病室へお見舞いへ行き病室へ入ると
彼女がいたはずの部屋は綺麗に片付けられていた
担当の看護師さんに聞くと、彼女は海外で治療をするために今日出発するらしい
その話を聞いた瞬間、病院から飛び出した
最初はタクシーに乗っていたが、雨のせいで空港までの道が渋滞
飛行機が出航するまでに着きそうもなくタクシーから降り走り出した
出発は12時30分
今は11時30分
搭乗の時間を考えるとタイムリミットは約30分
間に合うかわからない・・・・・・でも間に合うことを信じて走り続けた
〇空港の待合室
花穂「書き終わった・・・・・・」
花穂「こんな感じでいいかな?」
花穂「でももう・・・言葉が出てこないや」
花穂(・・・これで良かったんだよね)
花穂(でもやっぱり私は酷い女だよね)
花穂(拓海に別れを告げずに旅立とうとしてるんだから)
花穂「あと少しで出発の時間」
花穂「2年間か・・・・・・」
花穂「私がいなくなっても忘れてほしくないな・・・」
花穂「・・・・・・」
花穂「そろそろ行かないと・・・」
花穂「拓海──ごめんね」
〇空港の待合室
拓海「着いた!」
拓海「今何時だ?」
近くにあった時計を見ると時刻は
11時58分
俺は搭乗口の方へまた走り出した
雨に濡れたせいで服が重い
肺がはち切れそうなぐらい苦しい
でも彼女が行ってしまう前に会うために重い体を動かした
〇空港の待合室
あれから花穂を探し続けた
しかしどの搭乗口にも彼女の姿は見つけられなかった
時刻は
12時40分
拓海「とっくに出発の時間過ぎてんじゃんか」
結局会うことはできなかった
彼女は何も言わずに海外へ旅立ってしまった
『サヨナラ』
そんな一言も言えずに
〇団地のベランダ
タバコが一本吸い終わった
俺は一度部屋に戻り
空になった缶ビールをゴミ箱に捨て冷蔵庫から新しい缶ビールを取り出しベランダへ出る
拓海「ん?」
ケータイが鳴った
拓海「メール?」
拓海「こんな時間に一体誰からだ?」
ケータイのロックを解除しメールの送り主の名前を見た瞬間
一気に酔いが覚めた
送り主の名前は
『波並花穂』
3年間一切連絡が取れなかった彼女からのメールだった
置き去りにされてからの拓海がどんな日々を過ごしていたのか、バイトから帰宅した様子の描写だけで読者に想像させる表現力がすごい。花穂からのメールによって拓海の人生にどんな変化がもたらされるのか、運命の着地点が気になります。
3年間……長いですよね。
それまでの間に知らせが一切無かった理由と、今になって連絡が来た理由が気になってしまう第一話ですね。
3年間連絡がなかったのはなんでだろう…そしてなぜ3年経ってから…?とメールの内容が気になって仕方ないです。
別れもなしでモヤモヤが3年間も…って考えると胸が苦しいです。