空白のひとコマ

遠藤彰一

エピソード8(脚本)

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遠藤彰一

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  午前3時44分──

〇漫画家の仕事部屋
長谷川清香「・・・先生は結婚してたんです!」
「!」
石黒理「・・・・・・」
小田正人「どういうことですか?」
長谷川清香「言葉の通りです。 先生は過去に結婚をしていて、離婚しています」
長谷川清香「お子さんも流産で亡くなしています。 山木は、先生自身なんです」
小田正人「なんでそんなことを清香さんが?」
長谷川清香「先生に聞いたんです」
小田正人「あの無口な先生に? そんなプライベートなことを?」
長谷川清香「そうです」
宮本義和「石黒さん、本当ですか? 聞いたことないです、先生が結婚していたなんて」
宮本義和「先生とは付き合い長いですけど」
石黒理「あ、ああ・・・。間違いないよ」
宮本義和「なんでそんな大事なこと黙ってたんですか」
石黒理「いや、先生から口止めされていたからね」
宮本義和「いつですか?」
石黒理「山木真治と一緒。 デビュー前から結婚していたんだよ。 新人賞の締め切り前に奥さんが病気になってね」
小田正人「それって、『報い人』のまんまじゃないですか」
石黒理「そう。 高熱でうなされる奥さんの横で執筆作業にあたっていたみたいだよ」
小田正人「それで、お子さんはどうなったんですか?」
宮本義和「奥さんは出て行ったんですか?」
石黒理「だから、山木真治と一緒」
「・・・・・・」
石黒理「で、どうなの? 先生と山木が同一人物だと表情は決まるの?」
小田正人「だったら、奥さんが出てった時の先生の気持ちを考えれば」
石黒理「どうだい? 悲しいの? 仕事に打ち込むの? 悔しいの?」
小田正人「今の話の流れだと、悲しくはない、か」
宮本義和「・・・仕事を取るな」
石黒理「では、長谷川さんの案で決定だね」
長谷川清香「待ってください」
「?」
小田正人「なんで? 清香さんが言ったんじゃないすか。 山木は奥さんよりも仕事を取るって」
長谷川清香「そうですけど。なんか、違う気がしてきました」
小田正人「違わないっすよ。 現に、先生は奥さんよりも自分の夢を取ったんです」
長谷川清香「当時の先生なら、そうしたかもしれません。 でも、今の先生なら、そうするでしょうか」
小田正人「仕事を取るんじゃないすか? そうやって、40近くになってようやく漫画家として食っていけるようになった」
小田正人「遅咲きですけど、立派なもんですよ」
宮本義和「・・・・・・」
長谷川清香「・・・先生、後悔してました」
小田正人「後悔?」
長谷川清香「奥さんのことも。そして、お子さんのことも」
小田正人「あの先生が?」
長谷川清香「お子さんを産めない身体にしてしまったのは自分の所為(せい)だって。 自分が奥さんの幸せを奪ってしまったって」

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