Story#0003:ベールマリーの鍵屋にて(脚本)
〇ヨーロッパの街並み
僕が地球で暮らし始めて、今年で十年になるだろうか。
ベールマリー「おはようさん!」
メアリー「おはようございます」
ウィリアム「おはよう」
故郷から逃げ出して十年。この親切な人間たちに出会って、ずっとここで暮らしている。
ベールマリー「ごはんにしよか!」
目の前に置かれた食事は、完全な肉食である僕の種族に配慮した食事内容になっている。
ベールマリー「今日は、扶桑のエヌ市からお客さんが来るんよ」
僕が蜥蜴族であることを、二人は受け入れてくれている。
メアリー「どんな人でしょうか。楽しみですね!」
そう、まるで家族のように。
〇カラフルな宇宙空間
白銀の騎士「はあ、はあ、はあ」
魔物たちの亡骸は、灰と化して風に散る。
サーシャ「フレデリック。お怪我はありませんか?」
白銀の騎士「平気だ」
胸に埋め込まれた契約の結晶が、鼓動と共に拍動する。
白銀の騎士「主よ。秘密の主よ」
人の心を蝕む魔物は、消え去るべきなのだ。
白銀の騎士「その神威を以て我に神装、纏わせよ!」
〇病室
結局、ミランダが目覚めることはなかった。
エマ・レイ「このまま、でしょうか」
ルイーズ・マーロン「今、アキラくんが鍵の使い方を調べてる。"ずっと"このままじゃない」
エマ・レイ「ごめんなさい」
アキラは鍵の正しい使い方を知るため、一人ロンドンへ向かっていた。
果たして、ロンドンで鍵の正しい使い方を知ることは出来るのだろうか。
二人とも黙り込んでしまった。その時、意外な人物が現れた。
リイナ・エレノア「あの、お二人とも」
ルイーズ・マーロン「どうしたの?忘れ物?」
エマ・レイ「・・・・・・」
リイナ・エレノア「実は私、ミランダさんから頼まれまして、この身体を守ることになりました」
〇ヨーロッパの街並み
店の前に立ち、その看板を見る。
アキラ・ロビンソン「ここが、ベールマリーの鍵屋か」
死神ディランの声が静かに響く。
シーナ・ディラン「アキラ。本当に入るのかな?」
アキラ・ロビンソン「当たり前でしょ!人の人生がかかってるんだ」
そう言うと、彼女は少し悲しげな表情を浮かべた。
シーナ・ディラン「それなんだがな、アキラ。彼女はもう、目を覚ますことを望んではおらんよ」
シーナ・ディラン「あれはもう、心が死にかけているようなのだ」
アキラ・ロビンソン「え、じゃあ、どうすれば」
シーナ・ディラン「酷な事を言うがな。あの娘の共有者エレノアが、代わりに身体を守るといっておる。その許可を、あの娘は出した」
アキラ・ロビンソン「だから、何も言わずに見てろって?」
シーナ・ディラン「私から言えるのはここまでだ」
その時、店の扉が開き、一人の男の人が出て来た。
ウィリアム「こんにちは。お客さんかな?」
〇魔法陣2
アキラ・ロビンソン「初めまして、ベールマリーさん」
挨拶をして、首飾りにした鍵を見せる。すると、店主は少し驚きを見せた。
ベールマリー「あんた、この世界の者とちゃうね」
アキラ・ロビンソン「はい。僕はこの世界の者ではありません」
僕は、色々なことを正直に話した。話し終わった時、店主は少し困った顔をした。
ベールマリー「ミランダって子に鍵掛けちゃったん?」
アキラ・ロビンソン「はい」
頷くと、店主はあーあ、というように首を横に振った。
アキラ・ロビンソン「何かまずいことでも?」
ベールマリー「違うんよ。使い方はそうなんやけど、効果の事を考えんと」
アキラ・ロビンソン「どういう事ですか?」
ベールマリー「あんたのその鍵は、確かにうちの銘や。でもな、あんたがその鍵と交わした契約が違うんよ。その鍵は、開くためのもんやねん」
アキラ・ロビンソン「え」
ベールマリー「あんた、元いた世界の事、どれくらい覚えとる?」
元の世界のことは全然覚えていないし、思い出すことも出来ない。それを伝えると、店主は呆れた顔をした。
アキラ・ロビンソン「それに、僕にとっては思い出せない以前の事より、今の世界の方が大事です」
ベールマリー「でも、その鍵を使うなら、前のこと思い出さんと。 過去を知り、未来を知れば、正しい現在が、見えてくるんよ」
ベールマリー「うちで作ってる鍵は、ただの鍵やない。持ち主を選んで、心を閉ざすべき者と、開くべき者を峻別するもんなんよ」
ベールマリー「正しい使い方を知ろうとせんで"使う"なら、返してもらうで」
〇カラフルな宇宙空間
アキラ・ロビンソン「もしもし、柊先生?」
ノアール「何だ」
昼間の、鍵屋でのことを話すと、柊先生──ノアールさんは冷たい声で言う。
ノアール「鍵屋に返すか、正しい使い方を思い出せ、と言われただろう? お前はどちらの道も選ぶことが出来るが、裏を返せばどちらか一方だ」
ノアール「出来る限りの協力はするが、どちらが良い?」
詰問されるのは慣れていない。だが、ここで消極的な返事をしたくはなかった。
アキラ・ロビンソン「過去のこと、知りたいです。どうして、この世界に来たのかも。正しい使い方を、教えてください」
そう言って頭を下げる。
ノアール「良いだろう。顔を上げろ」
ノアール「過去を思い出す手伝いはしよう」
〇豪華なリビングダイニング
過去を思い出す手助けはしようと言われたが、何をどうするつもりなのだろう。柊先生の言っていることは良く分からない。
シーナ・ディラン「そこまで気にすることはないぞ。どんな錠前もその鍵でなら開けられる」
シーナさんはそう言ってくれたが、どうしても気になる。
シーナ・ディラン「と言うより、あまり気にすると良くないぞ。仕事に支障をきたすのでな」
エマ・レイ「おはようございます」
三田ことね「今日は、楪司先生が来る日ですよ。朝御飯を食べたら、お仕度を」
今日の依頼はなんだろう。鍵の件は頭の片隅に置いておいて、仕事に没頭する事にした。
〇岩山
楪司「今日の依頼任務は、鳥人族への忠告です」
聞けば、近隣の村で家畜──羊、ロバなどが襲われる被害があったらしい。
アキラ・ロビンソン「鳥人族って、ハーピーとセイレーンとカリョウビンガの三種族がいるんですよね」
楪司「はい。今回面談するのはハーピーです」
エマ・レイ「ハーピーは肉食で、大きな獲物も襲うことがあるんですよ」
話しながら、ハーピーたちの集落に着いた。
アキラ・ロビンソン「どうやってハーピーたちと話すんですか?」
楪司「この笛を使って呼び出します」
楓先生が取り出したのは、奇妙な形の岩笛だった。その旋律は谷底を満たし、山々に木霊する。
ムルムル「楓か。久し振りじゃな」
楪司「私はこれから、ムルムル族長と話をします。付いてきますか?」
〇カラフルな宇宙空間
その日の夜、幻夢境にて、授業を受ける。柊先生はこの難しい件の担当になってくれた。
アキラ・ロビンソン「過去の特定って、何をするんですか?」
過去を知り、未来を知れば、正しい現在が見えてくる、と言う考え方が、この世界にはあるようだ。
ノアール「先ずは自分の今の姿を知ることからだ。 お前は明るく振る舞ってはいるが、人に対して突っ込みを入れる癖があるな」
バレていた。
ノアール「お前のやり方を否定はせん。口に出すのも出さないのも、お前が物事を多角的に見れることから来ているからだ。それは才能でもある」
もしかしたら、シーナさんのことも関係あるのだろうかと思い、質問する。
アキラ・ロビンソン「死神が憑いているのは、死にかけてる訳じゃないって、柳先生に聞きました」
ノアール「ああ。死神が生きている人に憑くのは稀だが法則は発見されている」
それは、死後のまだ生きたいと言う魂の叫びを、死神が"聞き取った"ことを示しているという。
ノアール「そうして死神にすくいとられた魂は、総じて異世界に旅することになるらしい」
アキラ・ロビンソン「じゃあ、僕も?」
ノアール「そうだ。そして何故生きたいと願うか、それも算出することが出来る」
それは、何よりも大切にする想いと関係しているらしい。
何よりも大切にする想い。
ノアール「お前の場合、それは人の人生の軌跡そのものだろう」
アキラ・ロビンソン「そう、ですか」
過去の"自分"は相当な"秘密"を持っていたようだ。
今の自分がもて余すほどに。
〇ホテルの部屋
ふと目が覚めると、外はまだ夜で、二度寝をするということは、よくあることだ。
アキラ・ロビンソン「あれ、まだ夜だ」
隣のベッドには、エマが丸くなって眠っている。
マリオン・リュスト「お目覚めですか?」
霊翼人の見知らぬ青年がエマの枕元に佇んでいた。
アキラ・ロビンソン「誰?」
身体的には両性のようだったが、何故か"男の人だ"と直感した。
マリオン・リュスト「マリオン・リュストと申します」
アキラ・ロビンソン「僕はアキラ・ロビンソン・レイ。貴方はエマの何なの?」
そう聞くと、その人は凄艶な微笑を見せた。
マリオン・リュスト「私はエマ・パトリック・レイの守護を勤めさせていただいております。 ご挨拶しに参りました。 ・・・・・・おや」
その人はこちらへ顔を近付けてきた。
マリオン・リュスト「貴方は祝福を受けていますね」