冬の日のお出かけ

陽菜

慎也編(脚本)

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陽菜

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〇渋谷駅前
  次の日、私は慎也と出かけた。
祈花 慎也「本当に久しぶりだな、涼恵」
森岡 涼恵「そうだな」
森岡 涼恵「・・・まぁ、私が忙しいからだけど」
祈花 慎也「仕事ぐらい代わるぞ?」
森岡 涼恵「基本、私がやらないといけないから仕方ないよ」
森岡 涼恵「ありがとう」
祈花 慎也「それならいいが・・・」
祈花 慎也「ま、今日ぐらいは仕事のこと、忘れようぜ」
  そう言うと、慎也は私の手を握った。
森岡 涼恵「え・・・?」
祈花 慎也「どうした?」
森岡 涼恵「い、いや、何でもない・・・」
  突然手を握られて驚いただけだ。
  こいつに他意なんてない・・・ハズだ。
祈花 慎也「ほら、行こうぜ」
祈花 慎也「最近、いいカフェを見つけたんだ」
  慎也に手を握られたまま、私はそのカフェに向かった。

〇レトロ喫茶
森岡 涼恵「おー・・・いい雰囲気だな・・・」
祈花 慎也「そうだろ?」
  店員さんに席を案内され、そこに座る。
祈花 慎也「何頼む?」
森岡 涼恵「うーん・・・コーヒーかな・・・」
祈花 慎也「分かった」
  慎也がコーヒーと紅茶、ケーキを二つ頼む。
森岡 涼恵「勉強、分からないところとかないか?」
祈花 慎也「今のところ大丈夫だ」
祈花 慎也「心配してくれてありがとな」
森岡 涼恵「気にしなくていいよ」
森岡 涼恵「自分で言うのもなんだけど、怜さんの次に頭いいって自負してるから」
祈花 慎也「実際、涼恵は頭いいだろ」
  そんな話をしていると、頼んだものが来た。
森岡 涼恵「そういやお前、甘いの好きじゃなかったよな?」
祈花 慎也「うん?こういうのは女の子の好きなものを頼むもんだろ?」
森岡 涼恵「お、女の子って・・・」
祈花 慎也「おかしなこと言ったか?」
森岡 涼恵「い、いや、おかしくはないが・・・」
  私は性格と口調のせいで、あまり女に見えない自覚はある。
  だから女の子、と言われて少し恥ずかしいような、うれしいような感覚になった。
祈花 慎也「だったらいいじゃんか、食おうぜ」
森岡 涼恵「そうだな」
  食べようとフォークを持つと、店内が騒がしくなった。
祈花 慎也「なんだ?」
森岡 涼恵「あ、あそこ!」
  騒ぎのもとを見ると、不良が店員に因縁をつけているところだった。
不良「おい、今睨んだだろ!?」
カフェの店員「い、いえ、睨んでいません・・・」
不良「嘘つくな!」
  店員さんは困っているが、周囲の人は助けようとしない。
  当然だ、巻き込まれたくないのだから。
森岡 涼恵「あの、彼女困ってますよ」
  でも、どうしても見過ごせなかった私は店員さんを庇うように立った。
不良「あぁ?んだよてめぇ」
森岡 涼恵「私が何者かとかどうでもいいでしょう」
森岡 涼恵「これ以上騒ぐのなら警察を呼びますよ」
  不良を睨みながら、店員さんに無言で下がるよう告げる。
不良「こんのアマ・・・!」
森岡 涼恵「きゃっ・・・!」
  同時に殴られそうになり、避けたと同時に躓いてしまった。
  それをチャンスとばかりに不良が私にまたがってくる。
森岡 涼恵(殴られる・・・!)
  来るであろう痛みに覚悟すると、突然炎が飛んできた。
不良「うおっ・・・!」
  不良が逃げるように立ち上がったと同時に庇うように立つ影が出てきた。
祈花 慎也「涼恵に手を出すな」
  そう、慎也だ。
  さっきの炎の犯人も彼である。
  慎也と佑夜さんは妖狐の血を引いていて、狐火を使うことが出来るのだ。
  普段は使うことがないのだが・・・。
不良「なんだ、てめぇ」
祈花 慎也「こっちのセリフだ」
祈花 慎也「死にたくなければ、とっとと失せろ」
  慎也のあまりの怒気に耐えられなくなったのか、不良は逃げるように去っていった。
祈花 慎也「あの小心者が・・・あの程度の脅しで怖気づぐぐらいなら最初からやるなっての」
森岡 涼恵「いや、あれ見た後じゃ当たり前だって・・・」
祈花 慎也「涼恵が殴られそうになったんだぞ」
祈花 慎也「キレるのは当然だろ」
  私を立たせながら、慎也は怒りを含んだ声で告げる。
  私はもともと特別な力を持つ巫女の家系で、祈花家はその巫女を守る守護者の家系だ。
  そのためか、慎也と佑夜さんは私に対してかなり過保護なのだ。
祈花 慎也「怪我はないか?」
森岡 涼恵「うん、本当に転んだだけだよ」
  その時、さっきの店員さんがやってきた。
カフェの店員「あ、あの、先ほどはありがとうございました」
祈花 慎也「礼はこいつに言ってくれ」
祈花 慎也「こいつが真っ先に動かなかったら助けられなかったからな」
森岡 涼恵「いや、慎也が助けてくれなかったら危なかっただろ・・・」
カフェの店員「あの、これどうぞ」
祈花 慎也「これは?」
カフェの店員「先ほど助けてくれたお礼です」
森岡 涼恵「いいのか?」
カフェの店員「はい、本当にささやかなものですが・・・」
祈花 慎也「じゃあ、ありがたくもらっておくよ」
  まさかのトラブルがあったが、この後はゆっくり出来た。

〇渋谷駅前
  あの後、電気屋や本屋に行っているとすっかり夜になってしまっていた。
祈花 慎也「もうこんな時間か・・・」
森岡 涼恵「ごめんね、いろいろつき合わせちゃって」
祈花 慎也「別に構わないって」
  二人で散歩するように歩いていたが、そろそろ帰らないといけない時間だ。
森岡 涼恵「・・・帰ろうか」
森岡 涼恵「兄さん達も心配するし」
祈花 慎也「待ってくれ」
  駅に向かって歩こうとする私の腕を、慎也は掴んだ。
森岡 涼恵「どうした?慎也」
祈花 慎也「その・・・」
  自分で引き留めたくせにもじもじしている慎也に首を傾げていると、彼は意を決したように私の目を見た。
祈花 慎也「ボク、涼恵のことが好きなんだ」
祈花 慎也「つきあってほしい」
森岡 涼恵「・・・ほぇ?」
  突然の告白に、私の頭はショートしてしまった。
  しかし、理解すると顔が熱くなった。
祈花 慎也「涼恵がさっきの奴に殴られそうになった時、頭が真っ白になったんだ」
祈花 慎也「あんなことにならないように、涼恵の一番傍で守りたいんだよ」
  その言葉の答えなんて、私はすでに決まっていた。
森岡 涼恵「・・・はい、お願いします」
祈花 慎也「・・・・・・・・・・・・」
祈花 慎也「ありがとう、涼恵」
祈花 慎也「ボクを受け入れてくれて」
  抱きしめられたそのぬくもりに、私は身をゆだねた。

次のエピソード:愛斗編

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