いびつ

木村壱

読切(脚本)

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〇山中の坂道
健太「だから!俺は喋ってただけじゃねぇかよ!」
美穂「それでもヘラヘラしてたじゃない!」
勇気「2人とも落ち着いて」
健太「落ち着け?落ち着けるかよ。クラスの女子と喋ってるだけで、浮気だなんて、おかしいだろ」
勇気「ま、まぁ、そうだけど」
美穂「おかしくないもん!大体健太はさ、女子に話しかけられたからってニヤつきすぎなんだよ!」
健太「ニヤついたことなんかねぇよ!そもそもこんなクソ田舎だぞ、そんなの気にしてたら誰とも喋れなくなるだろ!」
美穂「あるよ、鼻の下伸ばしてさ。 そういうのが嫌だって、いつも言ってるじゃん。私の気持ち、なんで考えてくれないの?」
  (健太と美穂ちゃんの痴話喧嘩はほぼ毎日行われている。でもそんなこと僕にとってはどうでもいい。だって──)
美穂「ねぇ!勇気はどう思ってるの?」
  美穂ちゃんがぐんと体を近づける。
健太「おい、やめろよ」
  健太は美穂ちゃんの体を小突いた。
美穂「── あ」
  その拍子に美穂ちゃんは勢いよく斜面を転がり落ちていく。
健太「美穂!」
  健太が駆け出した。
  が、間に合わず、美穂ちゃんは大きな岩に頭を打ちつけた。
健太「美穂!」
勇気「美穂ちゃん!」
  駆け寄ると美穂ちゃんの目は虚で、どこを見ているかも定かではなかった。
  落ち葉が赤く湿っている。
  脈は——
勇気「だめだ・・・しん・・・でる・・・」
健太「嘘だろ・・・?ど、どうしよう、警察に・・・」
勇気「だめだよ」
健太「なんで?だって・・・」
勇気「ここに居られなくなるよ」
健太「・・・は?」
勇気「僕らだけじゃなくて、家族も」
健太「だけど・・・」
勇気「・・・隠そう」
健太「え?」
勇気「隠そう、ここならバレっこないよ」
健太「でも・・・」
勇気「じゃ、どうする?どうしたって僕らは白い目で見られるんだよ。僕ら2人が殺したって言われるんだよ」
健太「・・・・・・」
勇気「家に帰って、スコップ持ってきてくれる?」
健太「お前は?」
勇気「軽く落ち葉で隠してから行く」
健太「わかった」

〇山中の坂道
健太「ごめん、勇気・・・俺のせいで」
勇気「・・・いいんだ」
  冷たくなった美穂ちゃんの横に2人で深い穴を掘った。
「せーのっ」
  すっぽりと穴に収まった美穂ちゃんに僕たちは手を合わせてから、土を被せた。
勇気「美穂ちゃんの行方を僕らは知らない、わからない いいね?」
健太「・・・無理が」
勇気「突き通すしかないよ 無理なら捕まるんだから」
健太「・・・」
勇気「ねぇ」
健太「ん・・・」
勇気「高校出たら一緒に村から出ようよ」
健太「・・・」
勇気「どうせここに居ても、なんにもないよ。山の向こうを知らずに歳をとって、お陀仏だなんて嫌だよ」
健太「・・・」
勇気「もう全部忘れちゃおうよ。なくなったものは戻ってこないんだから。いつまですがってたら、健太だって死んだも同然だよ」
  木々がうねる音だけが辺りを包んでいる。

〇おしゃれなリビングダイニング
勇気「どうしたの、浮かない顔して」
健太「今日で、あの日から、10年・・・」
勇気「その話はしない。そう決めたでしょ?」
健太「・・・うん」
勇気「じゃ、いってらっしゃい」
健太「ああ、いってくる」
勇気「(ふぅ、家事する前にちょっと休むか)」
  ソファにどかっと座り、テレビをつける。
  『粟坂村で白骨化した遺体が見つかりました。警察は死体遺棄事件として捜査をしています』
勇気「(そっか、もう10年か・・・はやいな。そりゃ僕らも歳とるよね)」
勇気「(生きてたら今頃2人は結婚して、子供もできてたのかな。きっと健太の子だから、かっこいいんだろうな)」
勇気「はぁ」
勇気「(ごめんね、美穂ちゃん)」
勇気「(あの日首を締めちゃって)」
  美穂ちゃんはあの時微かに息があった。
  すぐに人を呼べば助かった。
  でも僕は呼ばずに、代わりに首を思いきり絞めた。
  僕がとどめをさしたんだ。
  健太は押しただけ。
勇気「でも美穂ちゃん、本っ当ありがとね。美穂ちゃんの分まで、健太と幸せになるからね」

コメント

  • 健太くんはふたりからモテモテだったんですね。それにしても、10年経っても真実を知らずに、自分が殺してしまったと罪悪感を抱えてる健太くん、可哀想だなぁ。嫉妬って怖いですね。

  • これでもかというほどの人間のエゴ全開、良心ゼロ!最後の策略だったとわかり、気持ちいいほど憎らしい男ですね。ドラマとかで誤って殺して埋めたとか見た事あるけど、こういう展開は初めてだったので、結果引き付けられました。

  • 彼女の分まで幸せになってはいけない、人だと思います。身勝手すぎです、、、ストーリーの展開はスムーズで楽しく拝見させて頂きました。

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