秘密売りの少女

鷹藤りょう

読切(脚本)

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〇入り組んだ路地裏
近藤正人「ハァ今月やばいなぁ・・・」
近藤正人(新卒の給料なんてスズメの涙みたいなもんだ)
近藤正人(良い小遣い稼ぎないかなぁ)
近藤正人「ハァ・・・、ってあれ?」
  『秘密屋──秘密買います! 秘密売ります!』
近藤正人「なんだあの看板・・・」
近藤正人「こんな路地裏にお店なんてちょっと不気味だけど、気になるな・・・」
近藤正人「折角だし入ってみるか」

〇屋敷の書斎
謎の少女「いらっしゃいませ」
近藤正人「ど、どうも・・・」
近藤正人(まだ10代の少女に見えるが・・・。まさか店主?)
近藤正人(そんなわけないか。両親の手伝いか何かってところだろ)
近藤正人(まぁ何でもいいや。とりあえず・・・)
近藤正人「秘密を買うって書いてあったけど、何の秘密を買ってくれるんだ?」
謎の少女「何でも、でございます」
近藤正人「何でも?」
謎の少女「えぇ。例えば貴方様の嫌いな食べ物。好きな食べ物でも結構でございます」
近藤正人(そんなもんでも秘密って言うのか)
近藤正人「ふぅん。何円で?」
謎の少女「好物に関する秘密なら一つ一万円です」
近藤正人「え、ほんとに言ってる!?」
謎の少女「本当でございます」
近藤正人(たかだか好物を教えるだけで一万なんてラッキーすぎる!)
近藤正人(見るからに怪しいお店だけど・・・えぇい! 背に腹は変えられない!)
近藤正人「その秘密売った!」

〇黒
近藤正人(それから俺は金欠の時には、秘密屋に通い詰めて秘密を売った)
近藤正人(趣味や人間関係を少し教えるだけで、万札が貰えるんだ。いい小遣い稼ぎだった)

〇入り組んだ路地裏
  五年後──
近藤正人「あのクソ上司! 俺の企画を悉く邪魔しやがって!」
近藤正人(このままだと俺はいつまで経っても出世できない。あのクソ上司のお気に入りに追い抜かされてしまう・・・)
近藤正人(なにか上司の弱みでも握られれば・・・)
近藤正人「あれ、そういえばここは・・・」

〇屋敷の書斎
謎の少女「あら。お久しぶりです、近藤様」
近藤正人「あぁ。久しぶりだな」
近藤正人(昔は小遣い稼ぎでよく使ってたけど、仕事で忙しくてご無沙汰だったな)
近藤正人(それにしても、あれから五年も経つのにこの女の子、全然老けてない)
近藤正人(不気味だな・・・)
近藤正人「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
謎の少女「なんでしょうか」
近藤正人「ここって秘密を売るだけじゃなくて、買うこともできるんだろう?」
謎の少女「えぇ」
近藤正人「実は俺、TP印刷に勤めてるんだけど、上司に目の上のたんこぶがいるんだ」
近藤正人「佐藤、ってやつなんだけど、なんか弱みになりそうな秘密とかない?」
謎の少女「探してみましょう」
  ペラペラペラ
謎の少女「はい。ございます。これをばらされたら一発クビ。豚箱行きの致命的な秘密が」
近藤正人(やった! ついてる!)
近藤正人「売ってくれ! 何円払えばいい?」
謎の少女「一億円です」
近藤正人「い、」
近藤正人「一億円!?」
近藤正人「そんな払えるわけないだろ!」
近藤正人「ぼったくりじゃないか」
謎の少女「ウフフ。秘密は時に命より重いものです。人生がかかってくる秘密とあらば、高額なのは当然のことです」
近藤正人(確かに彼女の言うことには一理ある)
近藤正人(かと言って一億円なんて払えるわけもないし・・・)
近藤正人(仕方ない。諦めるか・・・)
近藤正人(いやでも、あのクソ上司になんとか一泡吹かせてやりたい)
謎の少女「お金が用意できないなら貴方様の秘密と引き換えでもいいです」
近藤正人「秘密か・・・。わかった」
近藤正人(前みたいに俺の好物とか言えばいいんだろ。問題ない)
近藤正人(好物とか趣味はもう教えちゃったし、あと残ってる秘密と言えば・・・・・・)
近藤正人「えっと今度は俺の学歴とか部活とかそういうものを言えばいいか?」
謎の少女「足りませんね」
謎の少女「一万二万程度の端金ならそれでいいですが、貴方が欲しているのはそんなチャチな秘密と引き換えになるものではありません」
謎の少女「目には目を、歯には歯を。人を破滅させる秘密には同等の秘密を」
近藤正人(とすると、アレしか・・・・・・いや、でもこれがバレたら俺は終わりだ・・・・・・! 言えるわけない!)
近藤正人(・・・でも、こんな辺鄙な店で秘密を漏らしたとして誰が気付くだろうか)
近藤正人(どうせ皆気付きやしないだろう。・・・それなら、)
近藤正人「・・・実は入社して三年目に、会社のお金を盗んだことがある。三百万。まだ誰にもバレてない」
謎の少女「あら素敵な秘密ですわね。詳細を教えてくださいまし。買い取りましょう」

〇黒
近藤正人(そして、俺は自分の秘密と引き換えに上司の秘密を手に入れた)
近藤正人(上司は少女の話通り会社をクビに。俺はまんまと上司が座っていた椅子を手に入れ、出世街道まっしぐら、だ)

〇入り組んだ路地裏
近藤正人(あれから、あの店はいつの間にか無くなっていた)
近藤正人(きっと俺にはもう必要がないということなのだろう)
近藤正人(そうだ。もう秘密に頼る生活はやめにしよう)
近藤正人(これからは俺は誰にも恥じることのない真っ当な人生を送るんだ)

〇屋敷の書斎
  ──十年後、都内某所にて。
客「出世レースに邪魔な同僚がいる。どうにかして蹴り落としたいんだけど、何かいい秘密はないか」
謎の少女「件のターゲットはTP印刷の・・・、あら」
謎の少女「ウフフフフ。それならとっておきがあります」
謎の少女「そのお方の横領事件、聞きたくないですか?」
客「なに!? 詳しく教えてくれ!」
謎の少女「えぇえぇ確たる証拠と共に教えて差し上げましょう」
謎の少女「・・・お代は貴方の致命的な秘密となりますがね」

コメント

  • 致命的な秘密…って買えば自分もその代償を払って、また他の人がその秘密を買って…怖ろしい連鎖ですね。
    現代の情報化社会でもありそうなことで、なんとなくゾクッとしました。

  • 人の秘密は知りたい。でも、自分の秘密はバラしたくない。墓場まで持っていく。よく聞く言葉ですね。その秘密を売買するお店があれば行きたい。

  • 「世にも奇妙な物語」的な設定から心をツカまれました。この不思議な世界観とストーリー展開に、思わず複数回読み返してしまいました。

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