とある世界の物語

ビスマス工房

Story#0002:三昧とは、何か(脚本)

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〇綺麗な一戸建て
  今日からエイドとしての初仕事。エージェント楓は、エマ曰く美人教師らしい。
  事務所で待っていると、彼女は現れた。
楪司「初めまして。私は"コードネーム楓"。本名は楪司と申します」
  今日の依頼任務は、妖精と絆を結び行方不明になった子どもの捜索らしい。
エマ・レイ「エージェントとエイドの関係は、先生と生徒でもあるし、上司と部下でもあるんですよ」
アキラ・ロビンソン「師匠と弟子、みたいな感じ?僕の担当のエージェントは柳先生だけど、いろんな事を教わってるよ」
楪司「はい。そしてエージェントは監察役でもあるんですよ」
  暫く車で住宅街を走り、依頼人・呉里さんの家に着いた。
シルエット1「こんにちは、楓先生」
楪司「空ちゃんのお部屋は何処ですか?」
シルエット1「はい、こちらです」
  僕らは、呉里さんの案内で消えた娘・空ちゃんの部屋に入った。
アキラ・ロビンソン「妖精は何処にいるんですか?」
楪司「静かに。騒ぐと出てきませんよ」
  楓先生はそう言って、チョコチップクッキーを机の上に置いた。
  暫く静かに見ていると、それは現れた。

〇豪華なリビングダイニング
妖精「こんにちは。調停官さん」
  本の影から現れたのは、小さな妖精だった。
楪司「こんにちは、妖精さん。呉里空さんを知っていますか?」
妖精「うん、知ってるよ」
楪司「何処に行ったかご存じですか?」
妖精「お伽の国。絵本の中に、入っていっちゃった」
エマ・レイ「三昧でしょうか」
アキラ・ロビンソン「多分ね」
  三昧とは、過度の瞑想中毒によって引き起こされる精神疾患である。
  例えば、ある一つの世界に引き込まれたとすると、そこから抜け出せない状態のことだ。
アキラ・ロビンソン「空ちゃんを助けられる?」
エマ・レイ「窓がいると思います。何の本に入っていったんですか?」
妖精「これだよ」
  そう言って、妖精が持ってきたのは、動物が沢山描かれた本だった。
楪司「準備が出来ました」

〇大教室
  国際学院の学習法は特殊で、先生が教える教科と、学年の違う生徒たちが集まりチームを作り、自分たちでテーマを選ぶ教科がある。
  その日、巨人の化石について話し合っていた時、ルイーズが慌てた様子で入ってきた。
ルイーズ・マーロン「大変。皆、大変!」
エマ・レイ「どうしたの?」
ルイーズ・マーロン「私のルームメイトのミランダがね、目を覚まさないの!」
  ルイーズは火星から来た留学生で、ミランダという女の子と同居していた。
フレデリック・バーネット「え、ミランダが?」
アキラ・ロビンソン「知ってるの?フレッド」
フレデリック・バーネット「ああ。俺と同じエリクシアだよ。俺の共有者はプレアデスのブロンドだけど、ミランダのはシリウスのカツィナなんだ」
  エリクシアとは、夢を現実にするために高位存在と契約を交わした人間の事だ。
ルイーズ・マーロン「今、ミランダの共有者が来てるの。案内してもらいましょう」
リイナ・エレノア「初めまして。シリウスαのリイナ・エレノアです」
  異星人と会うのは初めてだったが、太陽系人とそんなに変わらないんだということを知った。
リイナ・エレノア「ミランダの固有夢ですが、内側から鍵がかかっているらしく、扉が開かないんです」
  何とか出来ないだろうか。ポケットを探ると、取り上げられたはずの鍵が入っていた。

〇病室
  ミランダが眠る病室は、しんと静まり返っていた。
ミランダ・カーティス「お兄さま」
  鍵を首筋の錠前に差し込んで回すと、その寝顔はいくらか安らかになった。
ルイーズ・マーロン「これで、悪い夢は見ない」
  眠りにつく前の事を少し聞かせてもらった。ミランダは頭の良い兄に歪んだ愛を注がれ、憎しみと諦めに挟まれて生きてきたらしい。
リイナ・エレノア「目が覚めたら、お祝いしましょう」
  今日はそう言って、皆と別れた。

〇病室
  憂鬱な時がやって来た。
ミランダ・カーティス「お帰りなさい、お兄さま」
?「ただいま、ミランダ」
?「今日も可愛いね」
  そう言って、兄は私をベッドに押し倒した。
  なんでもそつなくこなす天才肌の兄は、私を女として見ているらしい。
  やめて、という気も起きない。慣れてしまったのだ。
  身を任せていると、天井から声がした。
「聞こえてる?」
  聞こえる。そう答えた時、兄が部屋にいないことに気付く。
「扉、開けるね」
  がちゃり、と音がして、辺りが真っ白な光に包まれた。
  ああ、もう良いのだ。安堵と共に、目を閉じた。

〇綺麗な図書館
  キャサリン・オークランドは魔法使いと魔法について調べていた。
  あの新入生は、何かを隠していると、妖精は言った。
キャサリン・オークランド「大昔の人間は皆、魔法が使えたのね」
  どうして使えなくなったのだろう。自分のような異能力者と、何が違うのだろう。
バリオン「そろそろ帰るぞ」
リリィ「早く帰って寝ないと」
  エルフたちに言われて、もう二時間もアカシックレコードにアクセスしていたことに気付く。
  本を書棚に戻して、アカシックレコードから出た。じっくり本を読んでいると、時を忘れるものだ。
キャサリン・オークランド「・・・・・・あら」
  玄関口に一人の霊翼人の女性が立っているのを見て、キャサリンは声をあげた。
ミューティス「お探し物ですか?」
キャサリン・オークランド「ええ。でも帰るところよ」
  そう言うと、彼女は一冊の光る本を差し出した。
ミューティス「感想、聞かせてくださいね」
  そう言って、彼女は姿を消した。手元には、彼女から受け取った一冊の本があった。
キャサリン・オークランド「早く帰らなきゃ」

〇カラフルな宇宙空間
  懐に入れていた、あの転入生の鍵が消えた。恐らく持ち主の元に戻ったのだろう。
ノアール「祝福のギフト、か」
  エージェント柊、ノアール・オブシディアンはそう呟いて宇宙を見上げた。
  祝福を受けた日は良く覚えている。ギフトを天からもらった日も。
  恐らくあの転入生も、自分と同じ、マスターなのだ。
  その記憶は無いようだが、想起することは彼にとって大いなる[削除済]になるだろう。

〇魔法陣2
  妖精は両手を絵本にかざす。パラパラと風にページがめくられていき、ある見開きで止まった。
妖精「出てらっしゃい!」
  妖精が絵本を叩くと、一人の女の子が絵本から出てきた。
シルエット2「あれ、美明、おはよう」
  気の抜けたその言葉に、空気が緩む。
シルエット1「おはようじゃないでしょ!」
  呉里さんが空ちゃんを抱き締める。
アキラ・ロビンソン「・・・・・・あれ」
  皆が笑顔になる中で、アキラは一人考えていた。
アキラ・ロビンソン「もしかして、ミランダも?」
  答えるものはいなかった。

〇カラフルな宇宙空間
アキラ・ロビンソン「柊先生!柊先生!」
  七色の遊色効果を示す宇宙空間に、声が木霊する。
ノアール「喧しい。何の用だ」
アキラ・ロビンソン「鍵の使い方、教えてください」
ノアール「構わんが、何故だ」
  昨日の夜の事を話した。するとノアール──柊先生は顔をしかめた。
ノアール「本当に、使い方を知りたいのか」
アキラ・ロビンソン「はい」
  相手の青い瞳をじっと見据えると、顔をしかめたまま相手は答えた。
ノアール「ベールマリーの鍵屋に行け」

〇病室
シアン「はあ・・・・・・」
  今日も闘技実験で良い成績を残せた。
シアン「嫌な"慣れ"だ」
  毎日、ルームメイトの命を奪う毎に、自分の中の何かが麻痺していく。
シアン「くそっ」
  舌打ちをすると、窓ガラスがぴしり、と音を立てた。
「ねえ、君」
シアン「・・・・・・っ!」
  振り向き様に空気を切り裂く。そこには誰もいなかった。
「危ないなあ、僕は不死身じゃないんだよ」
  声のする方を見ると、自分と同い年くらいの少年が立っていた。
シアン「お前は、誰だ?」
ダルーカ「僕はダルーカ。君を助けに来たんだ」

次のエピソード:Story#0003:ベールマリーの鍵屋にて

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