Story#0001:新しき門出に幸いあれ(脚本)
〇豪華なリビングダイニング
アキラ・ロビンソン「今日から学校だね!」
今日は入学式。
この世界の学校はWSAという組織が運営する国際学院という学校と、それ以外の普通の学校に分かれる。
エマ・レイ「はい、楽しみですね」
そう言って、エマはサイバーグラスを装着した。
この日の為に、三田女史が買ってくれたものだ。
アキラ・ロビンソン「夢の中に学校があるってどんな感じだろう」
国際学院は、共有夢という特殊な夢の中にあり、サイバーグラスは人間をその夢の中に連れて行ってくれる機械らしい。
エマ・レイ「サイト89にいた時に何回かテストで共有夢の中に行きましたけど、怖くはありませんでしたよ」
アキラ・ロビンソン「僕も。驚いたけど、怖くはなかったな」
サイバーグラスを装着して、すぐに包み込むような眠気が来た。
目の前が白く、七色に色付いていく。
〇カラフルな宇宙空間
アキラ・ロビンソン「うわあ、やっぱり凄いなあ」
エマ・レイ「綺麗ですよね、世界は」
学校からの通達には、先生を見付けて教室に来るまでがテストらしい。
僕たちはそれらしい人物を探した。
ノアール「どうした?」
その人は唐突に現れた。
アキラ・ロビンソン「僕たち、国際学院の先生を探しているんです」
その人は難しい顔をした。その時、エマが口を開いた。
エマ・レイ「多分、この人だよ、先生」
その言葉を聞いて、その人は微笑んだ。
ノアール「正解。合格だ」
周囲の景色がくるりと歪んで、僕たちは講堂らしい場所に入り込んだ。
ノアール「チームを選べ、新入生に転入生」
そう言って、その人は姿を消した。周囲には何百人もの生徒らしき人影があった。
アキラ・ロビンソン「誰もこっちを見ないね」
エマ・レイ「入りたい、入るべきチームなら、向こうから来ます」
その時、一人の男子が話し掛けてきた。
〇大教室
フレデリック・バーネット「よう、お二人さん。俺たちのチームに入らないか?」
彼は、"チーム・ミライ"という学生チームの一人であるらしい。
アキラ・ロビンソン「これが、入るべきチーム?」
小声でエマに聞くと、エマは頷いた。
エマ・レイ「はい、多分」
フレデリック・バーネット「それじゃ、これからよろしくな」
フランクに微笑む彼と、僕達は握手をした。
フレデリック・バーネット「紹介するよ、チーム・ミライだ」
大学部の香月先輩。
「いつも冷静なんだ」と彼は言った。
中等部三年のキャサリン。
「勝ち気でお節介なんだ」と彼は言った。
中等部二年のルイーズ。
「陽気で優しいんだ」と彼は言った。
フレデリック・バーネット「そして俺、フレデリック。 こう見えて繊細なんだ」
フレデリックはそう言って笑った。
・・・・・・笑うところだろうか?
〇魔法陣2
一人の夢はいつも不安だ。固有夢と呼ばれるこの世界では、いつも自分と対峙していなければならない。
優しい守護霊の姿もなく、隣で眠るともだちもいない。
そして、こういう時に限って彼は来る、まるで家族の一員だというような顔で。
ベガ・セレスト「お久しぶりですね。お変わり無いですか?」
目の前に座る"彼"は、感情の読めない微笑を浮かべている。
ベガ・セレスト「現在世でのあなたの好物だとお聞きしましたので、特別にお作りいたしました。 お味はいかがです?」
塩ラーメンの優しい塩気が、口の中に広がるのを感じ、彼に美味しいと伝えると、彼はまた微笑んだ。
ベガ・セレスト「彼の事は、どう思っておられるのです?」
アキラさんの事だろうか。まだ友達として見ていることを伝えると、彼は笑った。
ベガ・セレスト「そうですね。でもこれから沢山、吊り橋効果が起きるでしょう。 ご縁を大切になさってくださいね」
そう言われて、目が覚めた。外はまだ暗く、隣で眠るアキラさんは目覚める気配がない。
エマ・レイ「・・・・・・吊り橋効果?」
これから何が起きるのだろう。やはり不安で仕方がないが、取り敢えず二度寝することにした。
〇ホテルの部屋
ここは何処だろう。夢であることはたしかなようだが、見覚えの無い天井が見える。
アリス・ロリィ「おはよう、真琴君!」
広瀬真琴「おはよう。まだ五時だよ」
僕の口から知らない声が出て、少し驚く。
・・・・・・広瀬真琴?
アリス・ロリィ「顔、洗ってきて。それから朝ごはんの時間まで、お喋りしましょう」
身体が勝手に動き、洗面所へ向かう。鏡の中を見て、僕は目を見開く。
広瀬真琴「洗顔料は、と」
鏡の中には、見知らぬ少女の顔があった。
前髪だけが白い髪、左右で色の違う瞳。そして、先のとがった左耳。
アキラ・ロビンソン「君、誰?」
そう問いかけると、目が覚めた。
〇教室
サイト89での対面授業を思い出していた。
ティール・ブラウン「今日から授業を始めるよ」
そう言って、担当エージェントの柳先生が取り出したのは、小さなガラスの小瓶に入った小さな小さな妖精だった。
妖精「初めまして、異世界人さん!」
画面の向こうで、小瓶に入った妖精は陽気に挨拶をした。
妖精「こっちの世界には、慣れた?」
アキラ・ロビンソン「慣れたというか、いちいち驚かなくなった、かな」
こっちの世界は本当に不思議だ。僕のような異世界人をはじめ、異種族、異星人、異能力者、異端組織、異常技術など、存在を疑う。
ティール・ブラウン「まあ、驚かなくなれば合格だよ」
そんな不可思議な異世界の太陽系を統治するのが、Would Secrity Agency、WSAという組織だという。
ティール・ブラウン「君にエージェントの道を選ばせたのは、エマちゃんの事があるからなんだ」
アキラ・ロビンソン「魔法使い、なんですよね。人類最後の」
ティール・ブラウン「うん。彼女はありとあらゆる存在と心を通わせることが出来る」
ティール・ブラウン「この世界の救世主になる存在なんだ」
今、この世界の人間は、高度に発達した技術を用いて、太陽系全土に都市を築き、散らばっているらしい。
知性ある生命体には進化の過程で、"種族の成人式"とも言われる日が来るという。
意識の覚醒と呼ばれるその現象が起きる日、人類は心をひとつにしていなければならないと、柳先生は言う。
ティール・ブラウン「必要なのは、覚醒した救世主一人、それから同じように覚醒を迎えた144000人の勇者だ」
ティール・ブラウン「勇者たちの祈りで救世主の意乗りを増幅し、太陽系全土に展開する」
ティール・ブラウン「それが太陽系人類の成人式だ」
ティール・ブラウン「君には救世主たるエマちゃんを支え、覚醒の日を見守ってほしい」
何やら壮大な計画があるらしい。
アキラ・ロビンソン「分かりました」
〇豪華なリビングダイニング
アキラ・ロビンソン「今朝、不思議な夢を見たよ。他人の体の中に入った夢だった」
この世界の成人年齢は、向こうと同じ18歳だが、そこに至るまでに13歳から17歳までの"準成年期間"がある。
エマ・レイ「どんな人でしたか?」
要するに13歳から大人として扱われるようで、エージェントの保護観察下、仕事や一人暮らしも認められているという。
アキラ・ロビンソン「広瀬真琴っていう女の人だった」
明日は、エイドとしての初仕事。
エマ・レイ「明日、私の担当の楓先生に聞いてみましょう」
楽しみだけど、不安も募る。
アキラ・ロビンソン「今日、聞きに行かない?学校休みだし」
そんな昼間が、幕を下ろしていった。
エマ・レイ「そうですね」
〇カラフルな宇宙空間
アキラ・ロビンソン「あの、ノアール先生」
ノアール「私の呼名は"柊"だ」
アキラ・ロビンソン「はい。それで一つ、柊先生に聞きたいことがあるんですが」
ノアール「何だ」
僕は、朝の夢の話をした。すると柊先生──ノアールさんは眉根を寄せた。
ノアール「何故お前が、真琴を知っている?」
アキラ・ロビンソン「いえ、直接会ったというか、寝てる間に体に入っちゃったというか」
柊先生は難しい顔のまま、こちらを凝視し、それから口を開く。
ノアール「"鍵"だな。持っているはずだ、見せてみろ」
言われるままにポケットから鍵を取り出し、手渡すと、柊先生は言った。
ノアール「これは預かっておく」
〇豪華なリビングダイニング
エマ・レイ「おはようございます」
アキラ・ロビンソン「うん、おはよう」
三田ことね「お二人とも。朝御飯の前に、マレウスさまにご挨拶してらっしゃい」
マレウスさんはエマのお爺様に当たるらしい。二人で廊下を歩いていくと、エマの弟のルイスとすれ違った。
アキラ・ロビンソン「おはよう、ルイスくん」
ルイス・レイ「ルイス・エドワード・レイ。何回言ったら、覚えるんだ?」
不機嫌そうに立ち去っていく背中を見て、エマはため息をついた。
部屋の扉を開けると、車椅子に座ったマレウスさんがいた。
マレウス・レイ「おはよう、諸君」
気難しく、頑固そうな目が、こちらを見た。
〇カラフルな宇宙空間
ティール・ブラウン「おや先生、お久しぶりですね」
幻夢郷は、夢の世界ではあるが、現実と繋がっている。
李蒼城「本当、久し振りだよな。今まで何処で何してたんだ?」
時折、時空間を超えた出会いがある。
ノアール「二人を呼んだのは、これを見てほしいからだ」
そう言って、恩師は小さな鍵を懐から取り出した。
李蒼城「"ベールマリーの鍵"じゃねえか!何処で手に入れたんだ?」
ティール・ブラウン「アキラくんの、だね。でも、この世界のものじゃないよ」
アキラ・ロビンソン・レイ。異世界人の彼は元いた世界でこの鍵を入手したのだろう。
李蒼城「どうすんだ?これ」
ノアール「私に、考えがある。エマとアキラの二人を、三億四千五百万年前に送り込んでほしい」
〇教室の教壇
あれ以来、変な夢は見なくなった。