助っ人は超高校級サウスポー(脚本)
〇学校の部室
桜華北高校 生徒会室
伊集院タイガ「あいつか、転校してきたっていう投手は」
生徒会長 伊集院タイガは
3階生徒会室からグラウンドを見下ろした
グラウンドでは野球部が練習している
マウンドには
2mはあろうかという長身で
遠目からでもわかる鍛え上げられた肉体の男が
今にも投球に移ろうとしている
綺羅星ミカ 2年生
県内有数の名門校星雲東高校を
卓越したプレーで1年にして
春のセンバツ出場に導いた立役者だ
田中キミヤス「しかし、妙な時期にうちみたいな弱小校に転校してきたもんですね」
会計の田中キミヤスは疑問を投げかける
龍造寺アヤメ「何か、学校にいられなくなるようなトラブルを起こしたらしいわ」
副会長の龍造寺アヤメがそれに答えた
田中キミヤス「超高校級投手が入部したとなればわが校もひょっとして甲子園出場・・・」
伊集院タイガ「馬鹿を言うな 規格外のピッチャーが一人加入したところで」
伊集院タイガ「わが校の弱小野球部が甲子園に出場できるほど 高校野球は簡単なものではないよ」
ばすん!
剛腕から放たれたボールがミットに吸い込まれると
フェンスの外から黄色い声援が上がった
龍造寺アヤメ「生徒たちはそうは思っていないみたいだけど」
アヤメはタイガの胸元に寄り添うように窓外を眺めている
田中キミヤス「部員たちの士気も相当高まっているようですよ」
部員たちが声を振り絞っている
伊集院タイガ「まあいい、超高校級ルーキー様の活躍を せいぜい拝ませてもらおうじゃないか」
〇野球場の観客席
地区大会一回戦
竹松県営競技場
2校の選手たちが整列している
観客席は地区大会の一回戦とは思えないほど盛況だ
龍造寺アヤメ「すごい人だかりだこと」
アヤメは白い日傘をさして涼しげな表情をしている
田中キミヤス「さすが綺羅星、県外からマスコミやスカウトが視察にきているみたいですね」
伊集院タイガ「ふん、過去の実績からすれば当然だろう」
タイガは扇子で仰ぎながら答えた
プレイボール!
主審が試合開始を告げると
選手たちはグラウンドに散らばっていった
〇レトロ喫茶
タイガとアヤメは試合が終わり現地解散になると
二人の行きつけの店「喫茶クラムボン」へ向かった
伊集院タイガ「マスター、コーヒー」
龍造寺アヤメ「私はチーズケーキいただこうかしら」
ふたりはマスターにそう告げると
店の一番奥の席に陣取った
龍造寺アヤメ「綺羅星ミカ 12奪三振 1本塁打、1打点」
龍造寺アヤメ「2-0でわたくしたちの勝ち 幸先の良いスタートではなくて?」
伊集院タイガ「ふっ、弱小野球部にしてはよくやったとほめてやりたいところだが 綺羅星はこの結果を良くは思っていまい」
龍造寺アヤメ「あら、どうして?」
伊集院タイガ「今にわかるさ」
タイガは不敵に笑った
〇学校の部室
龍造寺アヤメ「2回戦を勝ち上がっただけだと言うのに ずいぶんな盛り上がり様ね」
桜華北高校グラウンドには
選手たちを元気づけようと人だかりができていた
田中キミヤス「前大会ベスト4の巖琉山高校を3-1の圧勝で下していますからね」
田中キミヤス「それに、綺羅星のスーパープレイの数々を見れば期待もひとしおでしょう」
グラウンドでは野球部の掛け声と声援とが
入り混じっている
伊集院タイガ「ははははは」
龍造寺アヤメ「何がおかしいの?」
伊集院タイガ「3-1、笑わずにいられるか? あの綺羅星が2被安打、一失点の醜態をさらしたのだよ マスコミやスカウトの前でな」
田中キミヤス「でも、県内ベスト4ですよ それなりの打者はそろっているでしょう?」
伊集院タイガ「くくくくく」
伊集院タイガ「綺羅星はこの大会、一度も全力投球をしていないのだよ」
龍造寺アヤメ「どういうこと?」
田中キミヤス「そうか、綺羅星の球をさばけるほどの捕手はうちの弱小野球部には・・・」
伊集院タイガ「そうだ、綺羅星は変化球主体の投球を強いられている」
伊集院タイガ「一回戦はミットど真ん中のストレートと 変化球でごまかせたみたいだが」
伊集院タイガ「さすがに巖琉山高校野球部、戦い慣れしている 決め球のストレートを狙い撃ちして先制しおったわ」
伊集院タイガ「スーパープレイといえば聞こえがいいが 無理を強いられているということよ」
田中キミヤス「じゃあ次の試合・・・」
龍造寺アヤメ「・・・」
伊集院タイガ「ああ、桜華北校野球部は負けるよ」