トレース インテルフィケレ

涼ねずみ

エピソード1(脚本)

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涼ねずみ

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〇野球のグラウンド
  あの日は確か、蝉の鳴き声が煩くて、けど確かにそう言ったのを自分は心と体で認識した。「アイシテル」を‥
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「まどかッ!まどか!!」
  今にもその鼓動を止めてしまいそうな体から、最後の言葉を紡ごうとする円。
  その円を強く抱きしめる結弦
環 円(たまき まどか)「ごめんね‥ちゃんと助けて貰うって約束したのに‥ 約束破っちゃうね。ごめん‥」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「もういい!しゃべるな!大丈夫、絶対助けるから。約束したろ?俺なら円を救えるって」
  結弦が支える円の体が、光に包まれて光の粒となって昇華していく。確かにあった手の温もりも、感触も、全て無へと帰っていく。
環 円(たまき まどか)「あなたの隣にいれて良かった‥あなたと思い出を作れて良かった‥最後だと思うから聞いて‥」
  円は残る力を振り絞り、結弦の頬に手をやる。そして、優しい笑顔を浮かべる。
環 円(たまき まどか)「結弦‥ありがとう‥アイシテ‥」
  最後の言葉を放つ前に、円は光の粒となって消えていった。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「うああああ!!!」
  泣き叫ぶ結弦は、彼女のいた虚空を抱いて涙を流し悲嘆に暮れた。

〇古びた神社
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「あらかた片付いたな」
  時魔法による、重力加速移動術による風の如き速さで敵を薙ぎ倒した結弦。
  円を失ってから半年、失った円を取り戻す鍵がアンゲールスが握っていると知った結弦は、アンゲールスのアジト等を捜索していた。
巫時雄(かんなぎ ときお)「結弦‥目的を見失うなよ。環円はアンゲールスの持つ力で取り戻せるやもしれぬ。だが、奴らの力は破滅をもたらす‥」
  先行していた結弦に追い付いた時雄は、その体躯に見合わぬ力と体捌きで、結弦が取りこぼした敵を屠っていた。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「あなた達クストスの目的はアンゲールスの壊滅かもしれない。しかし彼らの研究内容は一考の余地がある」
巫時雄(かんなぎ ときお)「輪廻の鍵か?あれは人が作るには代償が大き過ぎる。呪いを受けるぞ」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「フッ‥呪いか‥呪いならもう受けている。呪いがこれ以上増えようと構わないさ」
巫時雄(かんなぎ ときお)「なら、これを受け取れ」
  時雄は懐から取り出した緋色の魔法石を埋め込んだロケットを結弦に投げる。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「これは?」
巫時雄(かんなぎ ときお)「我が家に伝わる使役魔を呼び出す憑代だ。 魔力を込めて召喚すれば、主人に相応しい使役魔が顕現する」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「ほう?これが当主だけが持つことを許される秘宝か‥試す価値はありそうだ」
  結弦は受け取ったロケットを握りしめ、魔力を込めていく。
  緋色の光が放射状に広がり、神社の境内に一つの星が舞い降りてきたような輝きを放つ。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「至れ!!この世を統べる者よ!我が召喚に応じよ!サモン!!」
  右手を天に突き上げた結弦のその拳に、光が集約し、一気に発散される。
  周囲を威圧するような波動を放ったその光の中心に、人の形をした存在が現れた。
真弓(マユミ)「あら?確かに寝床に入ったはずなのに‥ここは?」
  先程まで放っていたこの世を超越する存在としての威圧感を削げ落とした姿はあまりにも普通の少女すぎた。
巫時雄(かんなぎ ときお)「おや?使役魔が人間とは‥上位の精霊か?はたまた神獣の類、もしくは異時間存在か?」
真弓(マユミ)「なんだかこの世界は質量密度に制限があるみたい。私の本来の姿ではこの世に顕現するには魔力が足りないようね」
巫時雄(かんなぎ ときお)「ほう?あれほどの魔力を喰らって足りないと?それは余程の位の方と見受けた。お名前をご教示頂いても?」
真弓(マユミ)「いいわよ、私は麒麟。神獣として知られているわ。太平の世に現れると言われた、まあ簡単に言うと神よ」
真弓(マユミ)「まあ神だとなんだから、この子の記憶を参考に名前を付けるとすると‥ユミ‥真弓がいいかしら?真弓と呼んでちょうだい」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「か、神?神の姿が少女とは‥威厳に欠けるな‥」
  苦笑混じりにため息をつく結弦に、眉を寄せた真弓は少女ぜんとした仕草で怒りを表す。
真弓(マユミ)「あら、神聖不可侵、いつも神に捧げる供物は初潮前の女と決まっていてよ?その体を再現したのだけど‥ならこれはどう?」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「お、男になった‥」
マユミ(男性バージョン)「当たり前だ。この程度の変化は簡単だ。 威厳と清廉さを兼ね備えた姿はここらへんだと思ってね」
巫時雄(かんなぎ ときお)「マユミ殿、おしゃべりはその辺にして、我が家、巫家の使役魔としてお力貸して頂けるのですかな?」
マユミ(男性バージョン)「んーん。まあ貸してやらんでもないが‥一つ条件がある」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「条件?」
マユミ(男性バージョン)「ああ、条件。条件は仁義を尽くし、太平の世を実現すること。もしそれを破れば、お主だけでなく、その親族諸共呪いを受ける」
マユミ(男性バージョン)「その約束を守れるなら、力を貸そう」
巫時雄(かんなぎ ときお)「なかなか、厳しいですねマユミ殿は‥」
マユミ(男性バージョン)「この程度は我が力を貸すには当たり前の条件だ。それを成せぬなら、その命を持って償いをすることになる」
  その言葉に結弦はほんの少し、唇を綻ばせた。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「ああ、その条件、良いだろう。我!巫結弦! 汝の望み、叶えてやろう!」
マユミ(男性バージョン)「ほう?その目、その覚悟があるようだ。では楽しみにしているぞ」
マユミ(男性バージョン)「契約は成された、我は汝の召喚に応じよう。 我は常にお前を見ているぞ‥」
  そう言うと、マユミは白い煙に包まれて、最初の少女の体に戻っていた。
  ふらりと、体を前後させた後、前のめりに倒れるマユミを結弦は抱き止める。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「消えずに少女のままか‥」
巫時雄(かんなぎ ときお)「その子は神の仮の姿。我が家で保護し、アンゲールスとの戦いに備えよ。という事でしょうな」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「しかし、神の世話なんてした事ないぞ?」
巫時雄(かんなぎ ときお)「大丈夫ですよ。一人の人間に向き合うのと同じです。環円と同じようにね」
  時雄の言葉に、怪訝な表情を浮かべた結弦は深いため息とともに、彼女の体を抱き上げてお姫様抱っこをしては、境内を離れる。
真弓(マユミ)「し、しるこ‥食べたい‥」
  眠った姿は白百合のように可憐で美しい。しかしその寝言は少女のそれ、そのままだった。

〇屋敷の門
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「こ、こら!勝手に家の外に出るなと言っているだろ!」
真弓(マユミ)「いいじゃない!私は渋谷に行くのー!」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「ば、バカ!お前は普通じゃないんだ。空飛んだら承知しないからな!」
真弓(マユミ)「あら?空を飛ぶなんて普通でしょ?何より歩くなんて庶民がすることでしょう」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「んな訳あるか!庶民も貴族も、足使って歩くんだよ!(まあ庶民の方が歩くことは多いけど‥)」
真弓(マユミ)「ほらほら!悔しかったら捕まえてご覧なさい!」
  楽しそうに笑う彼女は地球の重力を一切無視して飛び回る。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「クッ‥こうなれば奥の手か」
  結弦は首から下げていた緋色のロケットを握り、魔力を込める。
真弓(マユミ)「あ、あれ?」
  先程まで華麗に飛び回っていた体が鉛を乗せられたように、地面へと吸い寄せられていき、着地する。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「魔力供給の魔法式を止めた。じきに動けなくなるぞ」
真弓(マユミ)「こ、こらー!女の子にこんなことして、いいのかぁぁ」
  魔力を失い、先程までの元気をなくした真弓は膝をついて結弦をギロリと睨む。
  その視線が痛いが、敢えて無視して真弓に近づくと、縄で腕を縛り上げ、その体を引き摺るように、門扉から家の敷地に入る。
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「早百合さーん!いますぐヘルプです!」
  玄関奥に、続く廊下に大声で話しかけると、奥からスタスタとお手伝いさんの花輪早百合が出てくる。
花輪早百合(はなわ さゆり)「これはこれは。結弦様、真弓様のご準備整っておりますよ」
巫結弦(かんなぎ ゆずる)「ありがとう早百合さん。ほら!お前は今日は聖ロカ学園に入学前の挨拶に行くんだよ!」
真弓(マユミ)「嫌!いーやーーー!!」
  駄々をこねる真弓に頭を抱えた結弦は深いため息をつく。
  明日は真弓の転入の日だ。本来なら小学生であろう彼女は学校に通うのはこの国のルールなのだ。
  神であろう彼女が今更学校に通うなんて、おかしな話だが、彼女は普段は人間のそれとなんら変わらない。
  そんな彼女が学校に通わない方が不自然だろう。と、クストスの幹部と巫家の間で話合われた結果だ。
花輪早百合(はなわ さゆり)「真弓様、帰ったらしるこを作って差し上げます。ですからどうか‥」
真弓(マユミ)「し、しるこ!!い、行く!!私は学校めっちゃ行きたい!!」
  ふう、単純なやつで、とかくバカで良かった。と思わずにはいられない。
  これから始まるのは彼女を取り戻す物語、そして、彼女と紡ぐ物語。
  彼の選んだ選択が、未来を得られんことを‥

コメント

  • アンゲールスとの戦いに備えて物々しい雰囲気だったところに、神の化身の真弓ちゃんの寝言「しるこ食べたい」に、思わずホッとしました。結弦も言うに事欠いて「バカでよかった」とは・・。タイトルのラテン語トレース・インテルフェケレは、三竦みのことなんですね。結弦の最強の魔法を早く見てみたいです。

  • 物語世界の設定が深い感じなため、お話にも奥行きがありますね。これから様々な展開がありそうなエンドですので、続きも読んでみたくなります。

  • おしるこに釣られる真弓ちゃんが可愛い…。
    という感想はさておき、中々難しいお話ですね…。
    代償も大きいようですが、それほど大事な人だったということですね。

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