絆を感じるもの

どんぐり

自閉症の僕(脚本)

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〇シックなリビング
  皆さん、こんにちは。僕は久保敏夫です。実は僕は自閉症なんです。
久保ハナ「敏夫君、おはよう」
久保敏夫「おはよう、ハナちゃん」
  この人は、僕の妻のハナちゃん。子供のころからの幼馴染でいつも僕を支えてくれてます。
久保敦「敏夫、作業所から帰ったら執筆だろう?」
久保彩子「自閉症のあんたは文章を書くのには負けてなかったね」
久保敏夫「余計なこと言わないで」
  僕は自閉症ゆえ、いろいろとこだわりが強いのです。
久保敏夫(これ、コクが違う!)
久保彩子「びっくりした?」
久保敏夫「うん!これコクが違うよ! 前のと比べるとね!」
久保ハナ「本当に昔からこだわりが強かったよね」
久保敦「お前の親だからよくわかってたよ」
久保ハナ「赤ちゃんの頃から一緒で、隣の家だったしね」
久保敏夫「そこまで言わなくてもいいでしょう?」

〇住宅街
久保ハナ「気を付けてね。私も少ししたら出かけるし」
久保敏夫「うん!行ってきます!」
  ハナちゃんは普通の会社員です。僕の作業所での工賃では足りなかったりするので、ハナちゃんも一緒に働いてます。
久保ハナ(敏夫君のためにも今日も頑張らなきゃ!)

〇川に架かる橋
久保敏夫(うわ、辛い!)
久保敏夫(いろんな音が入るから困るよ!)
  僕は移動中様々な音がいろんな方向から入るから苦しんでいるのです。
久保敏夫(どうなるかと思ったよ)
久保敏夫(どうか、無事に作業所に行けますように・・・!!)

〇駅前ロータリー(駅名無し)
久保敏夫「何とか駅に着いた。電車に乗らないと」
  時間は一応わかっております。

〇駅のホーム
  いろんな音が入るのが自閉症の特性なので、いろいろと困ってしまうんです。
久保敏夫(音漏れ、激しいなぁ・・・)
  間もなく、1番線に電車が参ります
  やがて、電車が入ってきました。

〇走る列車
久保敏夫(何とか順調だ)
  どうにか無事に駅に着きました。

〇駅前広場
久保敏夫「急がないと!」
  移動中は特に問題はないのです。

〇職人の作業場
  ここが僕の作業所です。駅から近くのところにあります。
久保敏夫「おはようございます!」
作業所のスタッフ「おはようございます!」
作業所の利用者「ねぇねぇ今日は何やるの?教えてちょうだい!」
久保敏夫「黙っててくれるかな?」
作業所のスタッフ「そこは僕の役目でしょう。静かに」
  いろいろな音が入るから苦労してるんです。

〇部屋の扉
久保敏夫「この部屋なら安心して作業できるな」
  僕の作業部屋は個室になってます。いろいろな雑音に悩まされてますからね。
  もちろんスタッフも見回りに来ます。
作業所のスタッフ「休憩にしましょう。タブレット、持ってきました」
久保敏夫「ありがとうございます」
  適宜休憩を入れることでリズムが狂わないようにしてくれるスタッフには感謝してます。
作業所のスタッフ「時間ですよ」
久保敏夫「はい」
  もちろん時間は守ってます。普段僕専用のタブレットはロッカーに入れたり足元に置いてます。
久保敏夫「手持ちのものが無くなりました」
作業所のスタッフ「判りました。それでは次は宅配荷物の作業に参りましょう」
久保敏夫「判りました。賞味期限の確認もちゃんと行いますね」
久保敏夫「〇月〇日とありますがその日は〇〇の日なんですよ」
作業所のスタッフ「へぇ、すごいですね」
  日付に関して僕は結構饒舌になるんですよ。
  自閉症の特性ですから。

〇漫画家の仕事部屋(物無し)
  お昼の時間になりました。
久保敏夫「ハナちゃんの弁当、おいしいや」
作業所の利用者「お前の奥さんの弁当? なかなかの出来栄えじゃないか」
作業所の利用者「もうわしは行くよ」
作業所の利用者「お疲れさまでした!」
久保敏夫(人工透析も大変なんだなぁ・・・)
作業所の利用者「最初お前はあの爺さん見て早く出るのは不思議だって言ってたしなぁ」
久保敏夫「そりゃ最初はびっくりするよ」
作業所の利用者「それで変だと思って余計なこと言って怒らせたんだよなぁ」
久保敏夫「ま、今では十分理解してるよ」
作業所の利用者「僕はグループホームだから結構時間に厳しいんだ。だから、久保君の家がうらやましいよ」
作業所のスタッフ「久保さんは奥さんや両親と一緒に暮らしてますね」
久保敏夫「そうですね」
利用者「私は実家から通ってて、主人もいますし家のことは大丈夫です。 いつも両親が見てるからですよ」

〇部屋の扉
  午後の作業がスタート。
作業所のスタッフ「久保さん、切りのいい時点で別の作業に移りましょう」
久保敏夫「わかりました」
  やがて作業の方も一区切りがつきました。
作業所のスタッフ「じゃあ次はオイルランプづくりをしましょう」

〇職人の作業場
作業所のスタッフ「はい、今日もお疲れさまでした」
久保敏夫「ありがとうございます!お先に失礼します!」
  僕はいつものように家に向かうのです。

〇住宅街
久保敏夫「なんとか家につきそうだ」
久保ハナ「敏夫君!私も今帰ってきたのよ!」
久保敏夫「ハナちゃん!」
  ちょうどこの時間になると、ハナちゃんと一緒に帰ることもあるんですよ。
久保ハナ「今日はどうだった?」
久保敏夫「いつものように個室作業だったよ」

〇シックなリビング
  その夜。
久保敏夫「はい、連絡帳」
久保彩子「「今日もおおむねまじめだった」って書いてあるわね」
久保敦「トラブルなく勤めてくれることが何よりもうれしいことさ」
久保ハナ「もし困ったら私がサポートするからね」
  その後、いつものように夕食がスタート。
久保彩子「ハナさん、もし子供が生まれることがあったらその時は私たちに任せてほしいわ」
久保敦「こっちで面倒見るよ」
久保ハナ「そういってくれると嬉しいですわ」
久保敦「敏夫はいつもハナに面倒を見てもらってたしなぁ」
久保敏夫「支援センターや研究所の人も気にかけてたしね」
  ちなみに僕は発達障害の研究の材料としてよく研究に呼ばれることもあるんですよ。
  脳波測定とかをしてますよ。

〇本棚のある部屋
  ここが僕の部屋兼作業場。
  元々発想力にたけていたので結構作品作りは得意なのです。
久保敏夫「それじゃ、執筆に励むか」
  執筆に関しては特に問題はありません。
久保敏夫「はい、久保でございますが」

〇豪華なリビングダイニング
編集者「もしもし、久保君?執筆は順調なの?」
  この人は担当編集者の和久井智子さん。僕が作家デビューしてからいつもお世話になってます。

〇本棚のある部屋
久保敏夫「何とか進んでますよ。完成次第、仮の原稿をそちらに送りますので、推敲した方がいい場所を教えてください」

〇豪華なリビングダイニング
編集者「そうね。改善すべき点も確認しておいた方がベストね」
  編集者は飴と鞭を巧みに使い分けます。

〇本棚のある部屋
久保敏夫「わかりました!」
  僕は作家として食べていくためにも頑張っているのです。

〇シックなリビング
久保敦「おーい、お前。連絡があったぞ」
久保敏夫「誰から?」
久保敦「障碍者支援センターからの手紙だよ」
  手紙にはこう記されてたんです。
久保敏夫「「その後、お変わりありませんか?今度モニタリングがあります。日程調整をしますので希望日を書いてください」、か」
久保彩子「モニタリングも重要でしょ?ちゃんと日程も決めないとね」
久保敏夫「そうするね」
  僕は急いで連絡しました。連絡先も知ってるので、すぐにメールで送り返しました。
久保敦「じゃ、すぐにお風呂入ってきなさい」
久保敏夫「わかった!」
久保ハナ「一緒に入らない?」
久保敏夫「この年になって一緒なんて恥ずかしいよ・・・」
久保敦「おや、一緒に入るのが好きだったのは誰だったけ?」
久保彩子「小6までやってたもんねぇ」

〇清潔な浴室
  入浴後。
久保敏夫「ハナちゃんが先にお風呂入って正解だった気がするよ」
久保ハナ「どうして?」
久保敏夫「先に僕が入ったら大変だからさ」
久保ハナ「なんで?」
久保敏夫「僕がいろいろと風呂の中でしゃべったりするからさ」
久保ハナ「そりゃ隣の家だったからよく聞いてたわよ。兄もうるさいって言ってたし」
久保敏夫「そりゃ父さんや母さんにも怒られるのは事実さ」
  気づいてないようだけど、思わずしゃべったりしてしまう。それが自閉症なのですから。
久保ハナ「でもそんな敏夫君大好きよ。高校卒業後に結婚するって約束したの覚えてる?」
久保敏夫「もちろんさ!」

〇体育館の裏
  高校時代のこと。
久保敏夫「あのさ、前に僕が自作の小説で入選したって言ったよね?」
久保ハナ「すごいじゃないの」
久保敏夫「これをきっかけに僕は作家としての道を歩むことにした」
久保ハナ「私は高卒後は就職する予定よ」
久保敏夫「だからここで今言うよ。 高校を卒業したら僕のお嫁さんになってほしいんだよ」
久保敏夫「たとえどんなことがあっても僕はずっと一緒にいたい。何があっても守りたいのさ」
久保ハナ「敏夫君・・・ もちろんよ!!!!」
久保敏夫(素敵な日になった!)

〇清潔な浴室
久保ハナ「あの日のことは今でも覚えてるわよ」
久保敏夫「自閉症でも、作家として活躍できるのも悪くないしね」
久保ハナ「私がバックアップしてるしね。私がいなきゃ敏夫君はダメだって思ってるんでしょ?」
久保敏夫「それもそうだね」

〇シックなリビング
  入浴後。
久保敦「おや、もう寝るのかい?」
久保彩子「明日も早いんだしそろそろ寝なさい」
「おやすみなさい」

〇部屋の前
久保ハナ「じゃあ私はもう寝るから。無理しないでね」
久保敏夫「わかった。おやすみなさい、花ちゃん」
  夫婦別々の部屋で寝るのですがもし何かあった場合はすぐに隣にいる妻の部屋にかけていきます。

〇本棚のある部屋
久保敏夫「よし、概ね書き上げたぞ。 あとはこのデータを編集者に送ってっと」
  送信しました
久保敏夫「よし、これで完了。寝るとするか!」
  自閉症の僕は今日もこうして生活しています。
  自閉症だって立派な個性なのですから。

コメント

  • ひとくちに自閉症と言っても、得意不得意の分野や症状の強弱に個人差があるんでしょうね。敏夫さんは特に音に敏感で、文字や文章にこだわりや才能を発揮するタイプなのかな。タイトルに「絆」とあるとおり、サポートしてくれるご両親やハナさんという素晴らしいパートナー、作業所の方々など、人との出会いにも恵まれた人生だと思います。

  • 僕も病院で自閉症の診断を受けた事があります。
    味覚や嗅覚が敏感だったり、会話や状況の説明が苦手だったり……。
    だからこそ、この作品に登場した奥さんの様な寄り添ってくれるパートナー、理解者が増えて欲しいものですね。

  • とてもわかりやすく読みやすい作品でした。
    私の職場にも自閉症の方はいらっしゃいますが、とても良い方ばかりです。
    自分自身はそうではないので、完璧に理解するのは難しいかもしれませんが、向き合って生きるのは強いことだと思います。

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