第七話「最後のギャンブル」(脚本)
〇地下室
薄暗い地下で、手足を拘束された
草ケ部が目を覚ます。
草ケ部雄大「ここは・・・?」
加賀見勝「闇カジノの地下ですよ」
声のほうに目を凝らす草ケ部。
手足を拘束されて片目を半分潰された
加賀見がいる。
草ケ部雄大「加賀見・・・! その怪我──」
加賀見勝「あいつら・・・僕を裏切りやがった!」
草ケ部雄大「裏切った・・・? どういうことだ?」
加賀見勝「僕はたった一つの目的を果たすため、 数か月前に闇カジノに近づいたんです」
加賀見勝「それからずっと、あいつらの 手足になって働いたのに・・・!」
草ケ部雄大「前にも言ってたよな? お前の、その目的ってやつはなんなんだ?」
加賀見勝「僕の欲しいものは正規のルートじゃ、 いつまで経っても手に入らないんですよ」
草ケ部雄大「だからお前の欲しいものはなんなんだよ!」
加賀見勝「あんたの心臓だよ・・・!」
草ケ部雄大「!!!」
加賀見勝「神谷はどこで突き止めたのかわからないが 僕の息子とあんたの心臓が適合することを 教えてくれた」
草ケ部雄大「まさか・・・ お前は騙されてるんじゃないのか?」
加賀見勝「カルテも見せてもらいましたよ。 驚きました」
加賀見勝「何年も何年もドナー待ちして、 一向に手に入らなかった心臓を、 同僚が持っていたなんてね・・・!」
加賀見勝「しかもその同僚は・・・ 院内で僕が最も嫌いな医師だった」
加賀見勝「医師の風上にも置けない、エリート意識に 凝り固まった、腐った人間だった」
草ケ部雄大「貴様・・・!」
加賀見勝「僕は思いましたよ。あんたの心臓は あんたのためにあるもんじゃない」
加賀見勝「何の罪もないのに、何年も寝たきりで 苦しみ、生を掴もうとする息子のために あるんだってね・・・!」
草ケ部雄大「黙れ! 俺の心臓をお前のような 落ちこぼれの息子にやるものか!」
加賀見勝「神谷は言ったんだ。どうせ草ケ部を 殺すなら、その手を汚せるだけ汚させて、 金を搾り取ってからにしようと」
加賀見勝「僕は賛成した。 あんたが悪に手を染めてクズになれば なるほど、僕の中からは罪悪感が消えた」
草ケ部雄大「いい加減にしろ・・・! 人をなんだと思ってやがる!」
〇地下室
地下室の照明がパッと明るくなる。
周囲がガラス張りになっており、
無数のギャラリーが二人のことを見て、
ニヤニヤと笑っている。
草ケ部雄大「な、なんだ!? これは!?」
神谷がアタッシュケースを持って現れる。
神谷琢磨 「いいですね。ザ・人間という感じです。 お二人とも」
神谷琢磨 「草ケ部先生、こちら約束の報酬、 一億円になります」
草ケ部雄大「神谷ぁ・・・!」
神谷琢磨 「さあ本日ご来場のお客様! BETをお願いします! 最後の真剣勝負!」
神谷琢磨 「この勝負に勝って生き残るのは どちらでしょう!?」
加賀見勝「真剣・・・勝負・・・?」
神谷琢磨 「余命僅かな息子を守るため、 悪に手を染め続けた気弱な加賀見医師か?」
神谷琢磨 「それとも金のために闇手術や依頼殺人 までこなすギャンブルジャンキー 草ケ部医師か!」
草ケ部雄大「くそがっ!!! はめやがったな」
神谷琢磨 「最後の真剣勝負はいたって簡単。 今から私が投げるコインを 裏か表か当ててください」
神谷琢磨 「草ケ部さん。 あなたの掛け金はそこにある一億だ」
草ケ部雄大「なんだと・・・!?」
神谷琢磨 「もしあなたが勝てば、 倍の金額をお渡しします」
神谷琢磨 「つまり、そのお金を私たちに返しても あなたの手元に一億が残る」
草ケ部雄大「そんな勝負受けられるか!」
神谷琢磨 「それなら・・・このまま死んでもらう ことになりますが、よろしいですか?」
草ケ部雄大「!!」
神谷琢磨 「加賀見さん。 あなたが勝ったときは約束通り、 草ケ部さんの心臓を持って行ってください」
神谷琢磨 「もちろん、足のつかないように、 後処理はきちんとやります」
草ケ部雄大「・・・・・・!」
加賀見勝「僕が負けたときはどうするんだ?」
神谷琢磨 「あなたの心臓をもらいます。 草ケ部先生と同じように」
加賀見勝「お前たちは僕を裏切った・・・ 信用できるわけないだろう?」
神谷琢磨 「何を言ってるんですか? 約束はこれから果たすんですよ」
神谷琢磨 「勝ってください、加賀見先生。 勝って、息子さんの命を助けましょう。ね」
加賀見勝「・・・・・・」
草ケ部雄大「バ、バカか・・・! こんな奴が お前の約束を守るはずがないだろう! 二人とも殺されるのがオチだ!」
神谷琢磨 「あはは。そんな興ざめなことしたら、今日 お集まりのVIPに怒られちゃいますよ。 我々は真剣勝負が見たいんです」
加賀見勝「コインが・・・ 裏か表、当てるだけでいいんだな?」
草ケ部雄大「! おい! 加賀見!」
神谷琢磨 「ええ。その通りです」
加賀見勝「なら・・・表。表だ!」
草ケ部雄大「バカ! やめろ! こんな奴の話に乗るんじゃない!」
加賀見勝「草ケ部先生! さっさと死んでくださいよぉ!」
加賀見勝「あんた生きてちゃいけない人でしょ!? 散々悪いことしてきたでしょ?」
草ケ部雄大「いい加減にしろ・・・! このクズ野郎が! なんでお前みたいな奴のために、 エリートの俺が死ななきゃならない!」
神谷琢磨 「あはは! いいですよ、とてもいい。 そうやって罵り合って頂くと、 お客様も一層盛り上がります!」
神谷琢磨 「さあ、草ケ部先生。勝負を受けますか?」
草ケ部雄大(ちくしょう・・・! こんな理不尽な 勝負を受けないといけないのか! なぜ俺はこんなことに──)
神谷琢磨 「もちろん、受けて頂かない場合は、その 時点であなたの負けということになります」
草ケ部雄大(確率は2分の1・・・ ここで勝てば、俺は自由だ)
草ケ部雄大(いや・・・それだけじゃない。 一億も付いてくる)
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