第一話「ギャンブル依存症」(脚本)
〇地下室
薄暗い地下室の中、鎖に繋がれた
草ケ部雄大(くさかべゆうた)が
謎の男と対峙している。
謎の男「最後のギャンブルをしましょう」
謎の男「今から私が投げるコインが 表か裏かを当てるだけ」
謎の男「とてもシンプルです。 もしあなたが勝てば、 あなたは晴れて自由の身です」
草ケ部雄大「ギャンブルから抜け出せず、 気づいたら沼の底にいた」
草ケ部雄大「俺は、囚われたまま 最後の勝負を強いられていた」
謎の男「でも負けたら・・・あなたの心臓を 生きたまま取らせてもらいます」
草ケ部雄大「そして今、俺は自分の命を賭けた ギャンブルに挑もうとしている」
謎の男は頭上高くコインを投げた。
草ケ部雄大「俺はエリートだ。 この勝負、絶対に勝ってやる・・・!」
〇血しぶき
『ドクター・ギャンブル』
〇広い屋上
三か月前
草ケ部雄大「難しい手術になるかと思います・・・ ですが、全力を尽くして 奥様の命を救いたいと思います」
男「先生・・・! ありがとうございます」
草ケ部雄大(バカが。あんたの奥さんの手術は、 研修医でもできるレベルだよ)
男「あ、あの・・・謝礼金のほうはどれくらい ご用意すればいいでしょうか?」
草ケ部雄大「ああ、そんなもの必要ありません」
男「ですが、それでは我々の気が済みません。 是非お礼はさせてください」
草ケ部雄大「・・・まあ、そこまで言うなら・・・ 相場としてはこれくらい頂ければ」
草ケ部は指を二本立てる。
男「わ、わかりました! ありがとうございます!」
〇ナースセンター
草ケ部が入って来ると、女性看護師たちが
色めき、ざわつき始める。
看護師A「草ケ部先生。お疲れ様です。 これ患者さんから差し入れで頂いた お菓子なんですけど、良かったら──」
草ケ部雄大「ああ、ありがとね」
看護師は頬を赤くして立ち去る。
草ケ部は食べる振りをして、
すぐにお菓子をゴミ箱に捨てる。
草ケ部雄大(バカ女。俺は甘いもん苦手なんだ)
そこに教授の高田が来る。
草ケ部雄大「先生。お疲れ様です」
高田「ああ、草ケ部君か。 こないだの手術も見事だったな」
草ケ部雄大「いえ、先生のご指導のおかげです」
高田「はっはっは。相変わらず口が上手いな。 それより、今度またゴルフでもどうだ?」
草ケ部雄大「是非お供させてください」
高田「次は負けんぞ~。覚悟しておけ」
草ケ部雄大(どいつもこいつもバカばかりだ)
〇パチンコ店
草ケ部雄大(くそっ・・・! 全然出ない。この店はどうなってやがる)
加賀見勝「あ、似てるなと思ったら、 やっぱり草ケ部先生でしたか」
草ケ部雄大「・・・どうも」
加賀見勝「いや~、先生が仕事帰りに パチンコやるなんて意外だなぁ」
加賀見勝「かわいい奥さんと娘さんのところに、 すぐに帰っているかと思いました」
草ケ部雄大「我々医師にも息抜きは必要じゃないですか」
草ケ部雄大「加賀見勝(かがみまさる)・・・俺と 同期だが、こいつも空気が読めないバカだ」
草ケ部雄大「不潔な格好も災いして、 院内でも嫌われ者だ」
加賀見勝「ですよね。僕も仕事と息子の看病で何かと 疲れちゃって、たまにはこうしてね。 あはは」
草ケ部雄大「加賀見は独り身で、心臓に疾患を持つ 息子を育てているという」
草ケ部雄大「だが、そんなことに同情するほど、 俺は善人ではない」
草ケ部雄大「俺は帰ります。それじゃあ」
加賀見勝「あ、先生。今度、パチンコなんかより、 いいギャンブル紹介しますよ」
〇高級一戸建て
〇おしゃれなリビングダイニング
草ケ部が夕食を食べていると、
草ケ部英恵(くさかべはなえ)が
向かいに座る。
草ケ部英恵「ずいぶん遅かったけど、 今日も仕事だったの?」
草ケ部雄大「急患が入ったんだよ。悪かったね」
草ケ部英恵「そっか。真美がお父さんと 遊びたがっていたからさ」
草ケ部雄大「妻の英恵は、口を開けば真美が、真美がと 娘の名前を口にする。 俺はそれに心底うんざりしていた」
草ケ部英恵「あのね、真美の入学資金のことなんだけど」
草ケ部雄大「お金のこと?」
草ケ部英恵「うん。もうすぐ入試の結果が出るけど、 合格だったらすぐ振り込まなくちゃ いけなくて」
草ケ部雄大「真美なら絶対に合格するさ。 で、いくらになりそうかな?」
草ケ部英恵「だいたい200万くらい」
草ケ部雄大(くそ・・・そんなにするのか)
草ケ部英恵「用意できる?」
草ケ部雄大「もちろん。任せてくれよ」
〇大きい病院の廊下
草ケ部雄大(200万か・・・最近ギャンブルに 負け続きだから、正直厳しい)
草ケ部雄大(すぐに用意できそうな金も 100万くらいしか──)
男「先生! 探しました」
草ケ部雄大「ああ、どうも」
男「あの、こちら受け取ってください!」
草ケ部雄大「いや、受け取るわけにはいきません」
草ケ部雄大(そうだ・・・! こいつがいたんだ)
男「そう言わずに是非!」
草ケ部は男が差し出したものを確認すると
中には20万円が入っている。
草ケ部雄大(は? 20万・・・?)
男「本当にありがとうございました!」
男は頭を下げて立ち去って行く。
草ケ部雄大(ふざけんな、貧乏人が! 指一本、普通100万だろうが・・・!)
草ケ部は怒って立ち去ろうとすると、
そこに加賀見がやってくる。
加賀見勝「あ、先生。先日はどうも」
草ケ部雄大「・・・失礼します」
加賀見勝「あれ、なんかありました? 怒ってません?」
草ケ部雄大「お前に関係ないだろ」
加賀見勝「せっかく謝礼金を頂いたんですから、 もっとニコニコしているかと」
草ケ部雄大「! バ、バカ言うな!」
加賀見勝「あはは。図星だ。先生わかりやすい」
草ケ部雄大(この野郎・・・殺してやろうか)
加賀見勝「ねえ、先生。こないだ言ってた、 いいギャンブル・・・興味ありませんか?」
草ケ部雄大「興味はない」
加賀見勝「闇カジノなんですよ」
草ケ部雄大「闇カジノ?」
加賀見勝「僕何度か行ってるんで、 安全は保障しますよ」
加賀見勝「実は、最近ディーラーの癖を掴んで 来たんで、今度は大きく勝てそうな 気がするんですよねー」
草ケ部雄大「・・・興味はないと言ったはずだ」
加賀見勝「あれ、一瞬、間がありませんでした?」
草ケ部雄大「うるさい。俺にかまうな」
『真美、合格した!
入学資金の件、
明日中にお願いね!』
草ケ部雄大「・・・・・・!」
加賀見勝「残念ですねぇ。一回の勝負で100万、 200万稼ぐのも夢じゃないのに」
立ち去ろうとする加賀見の手を、
草ケ部が取る。
草ケ部雄大「待て・・・話だけ聞かせてくれ」
〇闇カジノ
雑居ビルの地下ホール。
きらびやかなカジノテーブルが並べられ、
多くの人がギャンブルに熱狂している。
草ケ部雄大「これはすごいな」
加賀見勝「本格的でしょう? 医師や政治家、 タレントなんかも交じってますよ」
白髪の男「やめてくれぇぇぇ!!!」
白髪の男が屈強な男たちに
連行されていく。
草ケ部雄大「あれは──」
加賀見勝「よくある光景です。ま、あんまり 夢中になりすぎないほうがいいですよ。 ここで身を滅ぼす人もたくさんいますから」
草ケ部雄大「・・・俺は様子を見に来ただけだ」
加賀見勝「あはは。それはギャンブルに のめり込む奴が最初に言う台詞ですね」
草ケ部雄大(くそが・・・俺がギャンブルで 身を滅ぼしたりするわけがないだろ)
加賀見勝「さて、楽しみましょうか!」
〇闇カジノ
草ケ部と加賀見がルーレットの前で
夢中になっている。
加賀見勝「よし・・・! また当たった!」
草ケ部雄大(こいつ・・・さっきから結構当てて いるのに、チマチマと賭けやがって)
加賀見勝「草ケ部先生。頑張ってください」
草ケ部雄大「・・・勝負はこれからだ」
草ケ部雄大(こうなったら、こいつのBETに 乗ってやろうか・・・)
草ケ部雄大(だが、それはプライドが許せないしな)
ディーラーがルーレットに玉を投げる。
ディーラー「さあBETをお願いします」
真剣に玉の軌道を見つめる草ケ部。
草ケ部雄大(くそ・・・資金は残り10万。 一発で取り返すには──)
加賀見が小声で囁く。
加賀見勝「先生、チャンスです。 次は恐らく・・・0が来ます」
草ケ部雄大「何を根拠に」
加賀見勝「言ったじゃないですか。何度も通って、 ディーラーの癖を掴んだって」
草ケ部雄大「そんなもの、簡単に信用できるか」
加賀見は自分の持ちコインを手に取ると、
0のところに10万円をBETする。
草ケ部雄大「なっ・・・! ストレートアップ (1点勝負)に10万だと!」
草ケ部雄大「当たったら、36倍・・・360万になる」
加賀見勝「ここが勝負ですよ」
ディーラー「まもなくBETを終了します」
草ケ部雄大(こ、こいつ何考えてるんだ・・・! でも、ここまで不自然なくらいに当てて いるし、俺も負けが込んでいる・・・)
草ケ部雄大(ここで有り金を全てつぎ込んだら 一気に──)
加賀見勝「先生、もう時間ありませんよ」
草ケ部雄大(くそ・・・! こうなったら──)
草ケ部は最後のコインを手に取ると、
【0】に全てBETする。
息を飲んで玉の行く末を見つめる草ケ部。
玉が最後に大きく跳ねて、
【0】にストンと落ちる。
草ケ部雄大「や・・・やった! やったぞ!!!」
歓喜する草ケ部。
思わず加賀見と手を叩いて、
大はしゃぎする。
加賀見勝「さすがは草ケ部先生です」
そう言ってニヤリと笑う加賀見。
草ケ部雄大「この時の俺は知らなかった」
草ケ部雄大「全てが加賀見によって仕組まれた ものであり、この大勝こそが、 俺の破滅の始まりだということを──」
賭け事に狂っていく描写が自然ですごいです!
成功体験が人を狂わせる。資金の限界に目を背け、期待値から外れた行動を取り続けてしまう。今後の転落が楽しみな一話でした。