ハイツ・オハナへようこそ

マヤマ山本

『免れる』と『許される』について(脚本)

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マヤマ山本

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〇二階建てアパート
  ここは、ハイツ・オハナ
  駅等へのアクセスも良く、部屋の広さの割に家賃もリーズナブルな優良物件だ
  ただし、1つルールがある
  ある者にとっては優しく、そして──

〇ダイニング(食事なし)
  入居1ヶ月のこの男にとっては煩わしいルールが──
火野 尊「はぁ・・・」
  火野 尊
  201号室
「尊〜、ご飯だぞ〜」
火野 尊「はい、今行きま〜す」

〇アパートのダイニング
火野 尊「(もぐもぐ)」
水瀬 若菜「もう、全然髪決まらない~」
地引 文「大丈夫よ、若菜ちゃんかわいいから」
風間 悠貴「リョーちゃん、醤油取って」
地引 良平「おう、ほらよ」
風間 早苗「堅一君、そんなにゆっくりしてて平気?」
水瀬 堅一「自分、今日休みなんスよ」
火野 尊「・・・・・・」
  『住人は皆家族』
  それがここ、ハイツ・オハナのルールだ
  『ハイツ・オハナへようこそ』

〇オフィスビル
  『免れる』と『許される』について

〇小さい会議室
火野 尊「はぁ・・・」
火野 尊「会議」
火野 尊「会議」
火野 尊「また会議・・・」

〇オフィスのフロア
火野 尊「どんだけ会議すんだよ・・・」
星子 郁「前いた所は、そうでもなかったんですか?」
火野 尊「そうですね」
火野 尊「アッチが少ないのか、コッチが多いのか・・・」
火野 尊「まぁ『郷に入りては郷に従え』ですよ」
星子 郁「溜まってますね~」
星子 郁「発散がてら、今晩飲みにでも行きません?」
火野 尊「あ~・・・また今度で」
星子 郁「そうですか・・・」

〇二階建てアパート
火野 尊「あぁ、今日も疲れた・・・」
  ハナ
  皆の飼い犬
火野 尊「ハナさん、ただいま」
ハナ「グルルル・・・」
火野 尊「何でこんなに嫌われてんのかな・・・?」

〇ダイニング(食事なし)
火野 尊「ただいま・・・」
地引 良平「おうタケちゃん、お帰り」
  地引 良平
  102号室
水瀬 堅一「先輩、お先に始めさせてもらってま~す」
  水瀬 堅一
  202号室
火野 尊「人ん家で勝手に酒盛りするの、止めて下さいよ」
地引 良平「そんな事言うなよ」
地引 良平「俺ん家でやったって、タケちゃん来てくれねぇだろ?」
水瀬 堅一「そうっスよ」
水瀬 堅一「で、先輩何飲みます?」
地引 良平「スーツじゃ堅っ苦しいし、さっさと着替えなよ」
火野 尊「はぁ・・・」
水瀬 若菜「火野さん、お帰り・・・」
火野 尊「ちょっ、若菜さん!? あ、いや・・・」
  水瀬 若菜
  202号室
水瀬 若菜「あ、やっぱりお兄ちゃんもリョーちゃんもココに居た」
水瀬 若菜「今から家族会議だから、全員集合だってさ」
水瀬 堅一「え~、今から~?」
地引 良平「まったく、早苗ちゃんの心配性も困ったもんだな」
火野 尊「ねぇ、若菜さんさ・・・」
水瀬 若菜「何?」
火野 尊「こういう状況の時って、『キャー』とか無いんですか?」
水瀬 若菜「無いっしょ、家族なんだし」
水瀬 若菜「とにかく、なるはやでよろしく~」
火野 尊「・・・・・・」
火野 尊「また会議か」

〇アパートのダイニング
地引 良平「だから、大袈裟なんだって」
風間 早苗「大袈裟じゃありませんよ」
  風間 早苗
  101号室(大家)
風間 早苗「アクセルとブレーキ踏み間違えるなんて、一歩間違えたら大事故ですよ?」
水瀬 若菜「むしろ、今回無傷なのが奇跡っしょ」
風間 早苗「これを機に、免許の返納を・・・」
地引 良平「嫌だ」
水瀬 若菜「もう・・・」
水瀬 若菜「フーちゃんからも何か言ってやってよ」
  地引 文
  102号室
地引 文「リョーちゃんのしたいようにさせてあげてくれないかね?」
地引 良平「さすがフーちゃん、わかってるね」
風間 悠貴「俺もそう思う」
  風間 悠貴
  101号室
風間 悠貴「リョーちゃん、いつでも車出してくれるし」
水瀬 堅一「そうそう」
水瀬 堅一「俺が忙しい時に、若菜の送り迎えもしてもらえるし」
水瀬 若菜「じゃあ、私が乗ってる時にリョーちゃんがアクセルとブレーキ踏み間違えたらどうすんの?」
水瀬 堅一「絶対だめ!」
水瀬 堅一「リョーちゃん、今すぐ免許返納しよう!」
地引 良平「おいおい堅ちゃん、そんな現金な」
風間 早苗「ちょっと、一回整理しましょう」
風間 早苗「リョーちゃんの免許返納に賛成の人」
「はい」
風間 早苗「反対の人」
「はい」
風間 悠貴「三対三、って事は・・・」
「じーっ」
「じーっ」
火野 尊「・・・え、私?」
水瀬 若菜「そりゃあ、あと一人なんだから」
地引 良平「もちろん、俺の味方してくれるよな?」
水瀬 堅一「いやいや、返納するべきっスよね?」
火野 尊「そうですね・・・」
火野 尊「・・・・・・」
火野 尊「この間もあったじゃないですか」
火野 尊「『高齢者の運転する車が、小学生の列に突っ込んだ』という事故」
地引 良平「あぁ、許せねぇよな」
地引 良平「けど、俺は絶対にそんな事しないぞ?」
火野 尊「じゃあ、こんな話もよく聞きません?」
火野 尊「世間を震撼させた大事件の犯人が、『学生時代は真面目で大人しい生徒だったんですけどね』なんて言われてる事」
風間 早苗「あぁ、よく聞きますね」
火野 尊「ちなみに私自身も、学生時代は真面目で大人しい生徒だったんですよ」
風間 悠貴「尊は、昔から尊なんだな」
火野 尊「だから、そういう事件のニュースを見ると他人事とは思えない・・・」
火野 尊「いや、思わないようにしてるんです」
火野 尊「自分への戒め、みたいなもので」
地引 良平「・・・・・・」
火野 尊「『人の振り見て我が振り直せ』って言うじゃないですか」
火野 尊「それが出来る人は、自分の判断に任せていいと思うんです」
地引 文「じゃあ、出来ない人は?」
火野 尊「きっと『許せない』ような事件・事故を免れられない」
火野 尊「だからこそ、周りの人間がブレーキを踏まないといけない」
火野 尊「私は、そう思います」
風間 早苗「なら、四対三ね」
水瀬 若菜「リョーちゃん、免許返納しよ」
地引 良平「無責任な事言うなよ」
地引 良平「俺が免許返納したら、誰がフーちゃんの送り迎えするんだ?」
火野 尊「その時は、俺が車出しますよ」
「えっ!?」
風間 早苗「火野さん・・・」
地引 文「よろしいんですか?」
火野 尊「だって、家族なんでしょ?」
風間 悠貴「お~、尊かっこいい~」
水瀬 若菜「お兄ちゃんも、これくらいの事言えればいいのに」
水瀬 堅一「うるせぇな」
火野 尊「その代わり」
火野 尊「いつ何時運転することになるかわからないので、お酒には付き合えなくなります」
火野 尊「ご了承ください」
風間 早苗「リョーちゃん、どうしますか?」
地引 良平「・・・・・・」
地引 良平「タケちゃん、よろしく頼むよ」
火野 尊「了解です」

〇オフィスビル
「いや~」

〇オフィスのフロア
火野 尊「我ながら、良いアイデアだったな」
星子 郁「あれれ? 何か良い事ありました?」
火野 尊「大した事じゃないですよ」
火野 尊「しつこいお酒の誘いを免れる口実が出来て、一安心している所です」
星子 郁「えっ!?」
星子 郁「何か・・・すみませんでした」
火野 尊「?」
火野 尊「あ、いや、星子さんの事じゃなくてですね・・・」
星子 郁「なら、またお誘いしてもいいんですか?」
火野 尊「えっと・・・まぁ、はい」
星子 郁「良かった~」

〇二階建てアパート

〇ダイニング(食事なし)
火野 尊「ただいま・・・」
地引 良平「おうタケちゃん、お帰り」
水瀬 堅一「先輩、お先に始めさせてもらってま~す」
火野 尊「・・・私、言いましたよね?」
火野 尊「もうお酒にはお付き合いできない、って」
水瀬 堅一「大丈夫っスよ」
水瀬 堅一「先輩のために、ちゃんソフトドリンクも用意しましたから」
地引 良平「スーツじゃ堅っ苦しいし、さっさと着替えなよ」
火野 尊(そんな〜・・・)
火野 尊(もう、許してくれ~!)

コメント

  • プライバシーや個人情報に敏感な世の中で、こういうハイツの在り方は良し悪しは別として新鮮です。老若男女+ペットが混在しているということは、このハイツが現代社会の縮図みたいなものですね。日々発生する問題を誰がどんなふうに解決するのか楽しみ。ハナの視点から住人を語る回もやってほしいです。

  • 住人は家族、なんだかあったかいルールですね。
    しかし、色々と面倒も多そうで笑
    コロナが流行ってから飲み会が減ったのは私は凄く嬉しくて、その点に限りは感謝しかありません笑

  • 社会風刺とともに、自分もハイツの一員になって、免許返納について考えているような錯覚になる作品でした。
    『ハイツ』って響きが良いですね。

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