エマの計画(脚本)
〇研究所の中
某国、某社、某研究所
エマ・E・ユーイング博士のラボ
エマ「あひゃひゃひゃひゃ、こりゃ傑作だ」
ラボにエマの笑い声がこだましている
男「これはいったいどういうことだね?」
ラボのドアが開き、筋肉質でスキンヘッドの男が入ってきた
エマ「あ、所長だめですよはいってきちゃぁ KEEP OUTのテープがはってあったでしょ」
エマは読んでいた漫画から目を離すと男に言った
男「だから、いったいこれはどういうことだと聞いているんだ」
エマ「これは文字通り進入禁止を表す警告です」
男「ではユーイング博士の格好は何なんだね?」
これではらちが明かないと男は質問を変えた
エマ「これですか これはジャパニーズスタイルのエクソシストですよ」
そういうと、エマは白装束の袖をひらひらさせた
男「それで、この惨状は博士の研究とどういった関係があるのかね」
男はラボを見渡した
ラボは一面、警告を表す標識やらお札やらで埋め尽くされている
エマ「これはですね」
エマ「古来より言葉には力が宿っていると信じられてきました」
エマはみみずがのたうち回ったような文字の書かれたお札を男に飛ばした
エマ「呪符は病魔を退け幸運を運びます」
男「まじないでも始めようというのかね」
エマ「いえ、理性ある人間は通行禁止の張り紙を見て 中に入ってきたりしないものですが・・・」
男は自分がドアからはがした
KEEP OUTのテープを見た
エマ「通常、人は「一般常識、法律、ローカルルール」と照らし合わせて 標識や張り紙の警告に従います」
男「交通標識や家電の注意書きのような?」
エマ「そうです」
エマ「また、漫画や小説のように絵や文字の組み合わせに 心を動かされたりします」
エマは手に持っていた漫画をひらひらさせた
男「そうだな、博士は漫画に没頭するあまり 私に声をかけられるまで笑い転げていたな」
エマ「はい、人間は絵や文字といった記号に 自身の体験や未知への興味、恐怖、憧れといった感情を重ね合わせ合わせることで」
エマ「心拍数の上下動、発熱、発汗、落涙といったコンディションの変化を引き起こします」
そういうとエマはPCのモニターを立ち上げた
エマ「わが社が発売しているスマートフォンは インカメラを通じてユーザーの表情を解析し」
エマ「ユーザーの呼吸、心拍数、体温、視線の動き、健康状態、感情等のデータを収集しているのですが」
PCにはユーザーの画像と
各種データのグラフが表示されている
エマ「これらのデータから 読書中のデータだけを抽出し 本の内容とデータをペアにして AIに学習させました」
エマ「その結果、これから読む文章が ユーザーのコンディションにどのような影響を与えるかを 予測することが可能になりました」
男「それがいったい何の役に立つのかね?」
エマ「まだ続きがあります」
エマ「わたしはこのAIを拡張することで 予測から一歩踏み込んで」
エマ「ユーザーのコンディションを思い通りに操るメタデータを 文章に埋め込むことに成功したのです」
男「具体的にはどのように埋め込むのかね?」
エマ「テキストのフォーマットを拡張し 文字の配置をコントロールできるようにしました」
エマ「私はあなたを愛している 私は あな た を 愛して いる」
エマ「みたいな感じですね」
男「それではユーザーが不快に思うのでは?」
エマ「実際には数ピクセルの変化です」
エマ「このテキストはユーザーの視線を加減速させ 読書のテンポをコントロールし」
エマ「それによってコンディションの変動を増減させる役割を果たします」
エマ「このテキストをAIが生成、ユーザーに提示、コンディションを計測、評価、を繰り返すことによって」
エマ「ユーザーのコンディションをコントロールするテキストを 生成できるようになったのです」
男「しかし、そんな微小な配置の変化で 大きな効果が得られるとは思えないが」
エマ「まあそうです、一文に込められる効果はさざ波程度ですが」
エマは親指と人差し指でつまむ仕草をした
エマ「単行本一冊程度の文章に埋め込めば さざ波は重なり合い、大きなうねりとなって ユーザーを刺激します」
エマ「そして、その刺激はユーザーの体調や気分を改善するのです!」
男「ふむ、それでその研究はユーイング博士にどのような効果をもたらしたのかね?」
エマ「はあ、このシステムは象形文字を源流とする 中国、日本といった語圏でしか効果を発揮しませんでした・・・」
男「どうやらそのようだな」
男「男はエマの風貌と荒れ果てた部屋を見て納得すると去って行った」
おお…2人のその後が読みたくなる作品でした。
近未来的な発想で感心しながら読ませて頂きました。
私はAIに全く詳しくありませんが、昨今の活躍は耳にします。
人間の感情、思考を上回る事ができたら、少し怖い部分もあります…。