二階堂ちづるの場合①(脚本)
〇教室
二階堂ちづるはクラスに一人はいる
目立たない女生徒だった
三つ編みのおさげに度の強い眼鏡
線の細い体つきに乱れなく着こなした制服
休み時間は外界を遮断するようにイヤホンをつけて
スマホで読書に没頭する
クラスメイトの評価は「いてもいなくても同じ」
せいぜい、気を使って「読書の邪魔をしないであげる」
ぐらいのものだった
ちづるの世界はクラスでの立ち位置とは裏腹に
内面世界に無限の広がりをもっていた
〇図書館
図書委員のちづるは放課後になると
図書室に篭り、だれにも邪魔されずに本を読むのが日課になっていた
今、ちづるが読んでいるのは
アラブの大富豪とOLの恋愛もの
本の虫のちづるは歴史、ノンフィクション、ミステリなどの
ジャンルの上位作品を読み漁っては
飽きが来ると次のジャンルに移行する
という乱読をしていた
いまは、世のOLが嗜好する恋愛もののジャンルを読み漁っているというわけだ
このアラブの大富豪とOLの恋愛もの
何がちづるの琴線に触れるのか
むさぼるように読みふけっている
図書室は12月だというのに暖房は効いていない
それなのに、ちづるの頬は上気し
体は熱を帯びている
瞳はうるみ、のどには若干の渇きを覚える
そんなちづるを現実世界に引き戻したのは図書室の利用時間の終了を知らせるブザーだった
ちづるは手早く戸締りを済ませると帰路についた
〇女性の部屋
帰り道も続きを読みたい欲求にかられたが一人きりで読みたかったので我慢した
帰宅すると母親に「夕飯は友達とすませてきた」と嘘をつき
早めの就寝の準備を済ませると二階の自室にこもった
ちづるは寝間着姿で机に陣取ると早速続きを読み始めた
仕事に疲れたOLが空いた時間に読む作品なので
ちづるが一冊を読み進める速度は速い
アラブの大富豪とOLの禁断の愛を
ちづるの脳内が素早く処理し消化していく
夜中の一時を回るころにはちづるは
アラブの大富豪とOLが涙の別れをする
ラストシーンまで一気に全巻読破してしまった
ちづるの肌は程よく汗ばんでいる
ちづるはため息をつくと机のライトを消し
読後の満足感と程よい疲れを抱いたままベッドに入った