石垣さんちの本棚

糸本もとい

新しい家族とそれぞれの本棚(脚本)

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〇おしゃれなリビングダイニング
石垣 樹「再婚!?」
石垣 笑美「声でかいよ。お兄ちゃん」
石垣 樹「いや、声もでかくなるだろ」
石垣 笑美「お父さんだって14年も独りだったんだから」
石垣 笑美「再婚したって不思議じゃないでしょ」
石垣 樹「いや、それにしたって・・・」
樋口 清音「再婚相手が若すぎますか?」
石垣 樹「あー、いや、まあ・・・」
石垣 秀隆「すぐに理解してくれとは言わんよ」
石垣 樹「事情を聞かせてくれる?」
石垣 秀隆「ああ、もちろんだ。どこから話そうか・・・」
石垣 秀隆「清音さんと出会ったのはネトゲだ」
石垣 樹「ネトゲ!?」
石垣 秀隆「まあ、驚くのもわかるが」
石垣 秀隆「ネトゲ、MMORPGの世界ってのは、その人の本性が出る」
石垣 秀隆「そこで俺は清音さんと意気投合した」
石垣 秀隆「ネトゲの中で、一緒に行動することが増え」
石垣 秀隆「共にギルドを立ち上げたりしているうちに」
石垣 秀隆「リアルでの連絡も取り合うようになった」
石垣 秀隆「そして、東日本大震災が起こった」
石垣 秀隆「あの大震災で、清音さんは・・・」
樋口 清音「わたしは、家族を失いました」
樋口 清音「大学を卒業した直後でした。石巻の家族を津波で失い」
樋口 清音「就職先の内定も取り消され、途方に暮れていたとき」
樋口 清音「秀隆さんが会いに来てくれたんです」
石垣 秀隆「俺は放っておけなかった。その時、初めてリアルで直接会った」
樋口 清音「秀隆さんは、わたしがいた仙台まで来てくれました」
樋口 清音「嬉しかった・・・そして、言ってくれたんです」
樋口 清音「あなたは独りにはさせない。俺にできることは何でもするって」
石垣 樹「・・・」
樋口 清音「そして、提案してくれたんです。旭川に来るのはどうかって」
樋口 清音「あなたの家族を奪った海から遠くて静かな旭川で少し休んでから」
樋口 清音「今後のことを、ゆっくり一緒に考えませんかって」
樋口 清音「わたしは秀隆さんの言葉に甘えることにしました」
石垣 笑美「へえ。お父さんもカッコいいとこあるんだね」
石垣 秀隆「ちょっと恥ずかしいな」
樋口 清音「とってもカッコよかったんです」
樋口 清音「わたしが秀隆さんを慕うようになるまで時間は掛りませんでした」
樋口 清音「最初に想いを伝えたときには断られたんですけど・・・」
石垣 笑美「清音さんからだったんですか!?」
樋口 清音「はい。わたしから。最初は、親子ほど年の差があるからって」
樋口 清音「断られちゃいましたが、わたしはアタックし続けました」
石垣 笑美「なんだ。なら問題ないよ。わたしはてっきり」
石垣 笑美「お父さんが若くて綺麗な清音さんに惚れちゃったんだとばっかり」
樋口 清音「逆なんです」
石垣 笑美「なら、問題なしです」
石垣 笑美「こんなおじさんで良ければ、よろしくお願いします」
樋口 清音「はい! ありがとうございます」
石垣 樹「なんか話がまとまってるけど・・・」
石垣 樹「おじいさんとおばあさんは、それでいいの?」
石垣 淳子「そりゃあ最初は驚いたけどね」
石垣 邦雄「二人が好き合ってんだ。難癖つけんのは野暮ってもんだべさ」
石垣 樹「知ってたんだ。そっか・・・」
石垣 樹「りょーかい。分かったよ」
石垣 秀隆「いいのか?」
石垣 樹「うん。事情は分かったし」
石垣 秀隆「そうか」
樋口 清音「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
石垣 樹「こちらこそ」
石垣 秀隆「そうと決れば、善は急げだ。明日はちょうど土曜日だし天気もいいみたいだ」
石垣 樹「明日?」
石垣 秀隆「清音さんには明日、うちに引っ越してもらう」
石垣 樹「え!?」
樋口 清音「急ですよね・・・」
石垣 樹「いや、ちょっと驚いただけで、反対って訳じゃないんですが」
石垣 秀隆「よし、決まりだな」
石垣 秀隆「今はマンスリーで借りてる家具付きのアパートなんで」
石垣 秀隆「運ぶ荷物は少ないそうだ。業者に頼むほどじゃない」
石垣 秀隆「って訳だから、明日は引っ越しを手伝ってくれ」
石垣 樹「りょーかい。分かったよ」
樋口 清音「すみません。なんだか不意打ちみたいで・・・」
石垣 樹「いえ、もう腹はくくったんで、大丈夫です」
樋口 清音「ありがとうございます」

〇アパートのダイニング
石垣 樹「荷物はこれだけですか?」
樋口 清音「はい。それで全部です」
石垣 樹「これなら俺たちだけで充分ですね」
石垣 秀隆「だろ? よっしゃ、さっさと運んじまおう」
石垣 樹「りょーかい」
樋口 清音「男手があるって頼もしいですね」

〇本棚のある部屋
石垣 樹「ふう、これで全部ですね」
樋口 清音「はい。ありがとうございました」
石垣 秀隆「俺の寝室だった部屋で申し訳ないが、ひとまずここを使ってください」
樋口 清音「ありがとうございます」
石垣 秀隆「本棚の本は今から書斎に移すので」
石垣 樹「りょーかい。手伝うよ」
樋口 清音「急がなくてもいいですよ?」
石垣 秀隆「こーいうことは、一気にやっちゃうに限る。な? 樹」
石垣 樹「うん。一気にやっちゃおう」

〇書斎
樋口 清音「立派な書斎ですね」
石垣 秀隆「実家暮らしで本が好きなんで、いつの間にか増えちゃっただけですよ」
石垣 樹「とりあえず、床に置いてくよ」
石垣 秀隆「ああ、頼む」
樋口 清音「谷崎、三島、太宰、乱歩、澁澤・・・全集が揃ってますね」
石垣 秀隆「全集なんかは、父親から譲り受けた感じです」
石垣 秀隆「清音さんは休んでてください」
樋口 清音「え? わたしも手伝います」
石垣 秀隆「こーいうときは男手に頼ってください」
樋口 清音「はい・・・」
石垣 笑美「もう済んだの? 引っ越し」
石垣 秀隆「ああ、荷物は運び終わったよ」
石垣 笑美「じゃあ、家の中でも案内しよっか」
石垣 秀隆「そりゃいい。清音さん、笑美と一緒に家の中を見てきてください」
石垣 笑美「行きましょ。清音さん」
樋口 清音「あ、はい」

〇おしゃれなキッチン

〇白いバスルーム

〇本棚のある部屋
石垣 笑美「ここが、わたしの部屋です」
樋口 清音「わあ、大きい本棚がぎっしり」
石垣 笑美「読書が趣味なのは親譲りかも、です」
樋口 清音「ちょっと見てもいいですか?」
石垣 笑美「どうぞ」
樋口 清音「筒井康隆、星新一、紅玉いづき、三崎亜記、乙一、打海文三・・・」
樋口 清音「幅広いですね。わたしが好きな作家の本もいっぱい」
石垣 笑美「え、そうなんですか?」
樋口 清音「はい。伊藤計劃とか円城塔とか藤井太洋とか・・・」
石垣 笑美「へえ、SFが好きなんですね」
樋口 清音「村上春樹とか宮部みゆき、伊坂幸太郎なんかも好きです」
石垣 笑美「作りそこねた落とし穴は、いかがですか?」
樋口 清音「ノルウェイの森ですね。わたしも旭川と聞いたとき浮かびました」
石垣 笑美「あの表現は、ぴったりだと思います」
樋口 清音「わたしにとっては、とても暮らしやすい街です」
樋口 清音「秀隆さんがいてくれる街ですから・・・」
石垣 笑美「ごちそうさまです」
樋口 清音「あ・・・なんか、すみません」
石垣 笑美「謝ることないですよ。わたしは再婚に大賛成ですから」
樋口 清音「ありがとうございます」
石垣 笑美「さて、次は、お兄ちゃんの部屋かな」
樋口 清音「え? いいんですか? 男子高校生の部屋に勝手に入っては・・・」
石垣 笑美「大丈夫ですよ。普段から、わたしは自由に入ってるんで」
樋口 清音「そうなんですか?」
石垣 笑美「自由に漫画を借りる許可はもらってるんです」
樋口 清音「仲がいいんですね」
石垣 笑美「うーん。そうかもしれませんね」
石垣 笑美「お兄ちゃんは、わたしには甘いんです」

〇本棚のある部屋
石垣 樹「ふう」
石垣 樹「はーい」
石垣 笑美「もう引っ越しの手伝い終わったの?」
石垣 樹「ああ、一通りはね」
石垣 笑美「ちょうど良かった。清音さんを案内してるから」
石垣 笑美「清音さーん」
樋口 清音「おじゃまします・・・あ、同じ造りなんですね」
石垣 樹「どうぞどうぞ」
樋口 清音「わあ! 漫画がいっぱい」
石垣 笑美「お兄ちゃんは漫画家になりたいんですよ」
樋口 清音「え、そうなんですか?」
石垣 樹「はい。進路も大学じゃなくて専門学校に決めてます」
樋口 清音「大変な進路を選んだんですね」
石垣 樹「そうですね。でも、どうしても挑戦したくて」
樋口 清音「わたしになにができるか分かりませんが、応援します」
石垣 樹「ありがとうございます」
石垣 笑美「清音さんは漫画も読みます?」
樋口 清音「はい。いくえみ綾とか末次由紀とかオノ・ナツメとか」
石垣 樹「その先生方の単行本なら揃ってますよ」
樋口 清音「すごくジャンルが広いんですね。勉強のためですか?」
石垣 樹「それもあります。でも、単純に好きなんです」
樋口 清音「好きなものを突き詰める覚悟を決めてるんですね」
石垣 樹「はい。とことんやる覚悟は決めてます」

〇おしゃれなリビングダイニング
石垣 秀隆「ふう」
石垣 淳子「はいよ」
石垣 秀隆「ありがと」
石垣 淳子「引っ越しは済んだのかい?」
石垣 秀隆「ああ、大方ね」
石垣 邦雄「よかったな。樹と笑美も賛成してくれて」
石垣 秀隆「ああ。本当に、よかった」
石垣 淳子「籍はいつ入れるんだい? 早い方がいいんでない?」
石垣 秀隆「そうだな、明日にでも」
石垣 淳子「明日は雨だって予報だよ?」
石垣 邦雄「今から行ってくればいいべさ。婚姻届はもう出来上がってるんだべ?」
石垣 秀隆「今から?」
石垣 淳子「そうしな。行っといで」
石垣 秀隆「清音さんに聞いてみんことには決められんべさ」
石垣 淳子「じゃあ聞けばいいべさ」
石垣 笑美「案内終わったよー」
石垣 淳子「ちょうどいいとこに来たね」
石垣 淳子「清音さん。天気もいいし、今から婚姻届出しに行ったらいいんでない?」
樋口 清音「え!?」
石垣 淳子「こういうのは早い方がいいべさ」
樋口 清音「そうですね。そうしましょうか」
石垣 笑美「わたしも付いてく」
石垣 淳子「いいね。みんな一緒に行って、そのままお祝いしちゃうかい?」
石垣 笑美「さんせーい」
石垣 秀隆「分かった。ちょっと待っててくれ」
石垣 笑美「なんだろ?」
樋口 清音「なんだろね?」
石垣 秀隆「清音さん。これを」
石垣 秀隆「渡すタイミングが分からなくて今になっちゃいました」
石垣 秀隆「受け取ってください」
樋口 清音「ありがとうございます」
「おめでとうございます!」
「おめでとう!」
樋口 清音「ありがとう、ございます」
樋口 清音「わたし、独りじゃないんですね」
石垣 秀隆「はい。きょうから家族です」

〇本棚のある部屋
樋口 清音(父さん、母さん、兄さん・・・わたしに新しい家族ができたよ)
樋口 清音(みんな本が好きでね)
樋口 清音(本がいっぱいある家なんだ)
樋口 清音(もう独りじゃないから、安心してね)

コメント

  • 心にじわじわと温かみが伝わってくるような物語ですね。
    本棚のラインナップが素敵ですね!世代やジャンルが伝わってきて、嗜好や性格もわかるようです。
    作家名や舞台、学校名などでリアルなものを出されているので、とても親近感を感じますね。リアリティと創作の美しさの共存という感じに惹かれます!

  • 本への愛が伝わってきますね。でっかい書斎のある家、憧れますね(^^

  • さすが糸本さん、読書量がハンパない…!
    そして糸本さんらしいヒューマンジャンル…。
    それぞれの本棚にまつわるストーリーが始まると思うと、ワクワクしますね。

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