精霊の湖

桜木ゆず

第2話 愛しき世界で(脚本)

精霊の湖

桜木ゆず

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〇森の中
ホープ「騎士だ!どうしよう! このままじゃ捕まっちゃう・・・」
ホープ「おじい!どうしたらいい?! 私、怖いよ」
おじい「・・・」
ホープ「おじいってば!」
おじい「・・・」
おじい「ホープ。良く聞け、わしに考えがある」
ホープ「考え?どんな?」
おじい「いいか、お前はわしから離れて、 隠れているんだ」
ホープ「私だけ隠れて、逃げろって言うの!? そんなの絶対許さないっ!」
おじい「いいや、違う、そうじゃない。 ちゃんとわしにも考えがある」
おじい「だが、お前がいたら 上手くいかないかもしれないんだ。 だから離れていてくれないか?」
ホープ「考え? 一体どんな?」
おじい「説明している時間はない。 わしを信じて、離れていてくれ」
ホープ「・・・」
ホープ「わ、分かった・・・」
おじい「ただし、上手くいかなかった時は・・・ どうすればいいか分かるな?」
ホープ「わ、わからないよ・・・」
おじい「──分かるな?」
ホープ「・・・」
おじい「・・・もう行きなさい! 早く!」
ホープ「う、うん・・・」
  私が走って、木の影に隠れると、
  ちょうど追っ手の騎士がやって来た。
「見つけたぞ!」
騎士「よくも逃げたな! 逃げた奴隷がどうなるのか、 分かっているだろうな?」
おじい「・・・」
騎士「まぁ、大人しく投降するのなら、 命だけは助けてやろう」
おじい「・・・」
騎士「おい奴隷、行くぞ」
おじい「・・・」
騎士「おいっ!聞こえてんのかっ!?」
おじい「トリテグカサル!」
騎士「グワっ!」
  おじいが意味の分からない言葉を叫ぶと同時に、
  手から炎の渦が放たれた。
  それは若い騎士の顔面に命中し、
  騎士は吹き飛んだ。

〇森の中
騎士「な、なんだ!?」
おじい「はぁはぁ・・・っ!」
ホープ「す、すごい!魔法の力?」
ホープ「まさか魔法を使えたなんて!」
ホープ「これなら騎士を倒せるかもしれない!」
騎士「き、貴様っ!」
  騎士は剣を抜き、おじいに向けた
おじい「テサバグトス!」
騎士「ぐ、ぐわ!」
  今度は風の斬撃が手から放たれる。
  だが、先程の魔法より威力は下がっていた。
  騎士はよろめいただけで、
  直ぐに体勢を立て直した。
おじい「くそっ、もう魔力が・・・」
騎士「貴様っ!魔法使いか! こうなったら、殺してやるっ!」
  騎士は剣を振り上げた!
ホープ「やめて!」
  気が付くと私は走り出していた
騎士「なっ?!」
  騎士は私に驚き、
  振り下ろした剣が止まった
ホープ「おじいっ!」
おじい「なぜ来たんだ! 隠れていろと言ったろ・・・」
騎士「まだいたのか! ふん、二人ともここで、殺してやるよ!!」
  足が震えて、歯はガチガチ鳴り、
  指先は痙攣していた。
  寒さのせいなのか、恐怖からなのか、
  もう分からなかった。
騎士「老人と子どもだからといって、 加減はしない!死ねぇっ!」
ホープ「きゃあ!」
おじい「危ないっ!ホープっ!」
  おじいは私を突き飛ばした。
  私は柔らかい雪の上に尻餅を付いた。
  グサっ・・・!
  鋭い剣が肉を刺し、
  鮮血が真っ白な雪の上を染めた

〇森の中
ホープ「おじいっ!いやっ!」
おじい「うっ・・・」
騎士「ふん、逃げるからこうなるんだ」
騎士「お前もこうなりたくなかったら、 大人しく来い」
ホープ「おじいっ!しっかりして!」
  おじいの体を抱き起こすが、
  腹から赤黒い血が止めどなく流れ、
  押さえても押さえても止まらない
おじい「逃げ・・・ろ」
ホープ「いや!死なないで!」
騎士「早く来いっ!」
ホープ「あなたを許さないっ!」
ホープ「はぁっ!」
  騎士を目掛け、ありったけの力を込め、
  思いっきり拳を振り上げた
  ゴッ!
  しかし騎士はいとも容易く私の拳を避け、
  私はあっけなく返り討ちに合う。
  鉄でできた小手で頬を思いっきり殴られ、
  鈍い衝撃が頬には走り、
  気が付くと、私は雪の上に転がっていた。
ホープ「・・・っ!」
ホープ「私が、私達が・・・ 一体何をしたっていうの・・・?」
騎士「奴隷はこうなる運命なんだ 来いっ!」
ホープ「痛いっ!離してっ!」
  騎士は私の腕を掴んで捻りあげる。
ホープ「いたっ!」
騎士「ふん、逆らうからこうなったんだ! 力もないくせに!」
  掴まれた私の手にはべったりと、
  おじいの血がついていた。
  あぁ、なんて無力なのだろう?
  自分の無力さを呪った。弱さを呪った。
  そして目の端から一滴の涙がこぼれ落ちる。
ホープ(嫌だ!こんなに頑張ったのに・・・! ここで死ぬの?・・・死ぬ? あぁ、もうそれでもいいのかもしれない)
  こんな理不尽な世界も、私も終わればいい。
  そうすれば私は、
  こんなに辛い思いをしなくてもいいんだから・・・。
ホープ「離せぇぇぇっ!」
ホープ「えっ?」
騎士「ぐわっ!」

〇森の中
ホープ「えっ?今のって魔法・・・?」
ホープ「私にも魔法が使えたなんて・・・」
ホープ「き、騎士は・・・」
騎士「・・・」
  騎士は大きな木の根っこに横たわっていた
  そして──
ホープ「し・・・」
ホープ「しんでる・・・」
ホープ「わ、わたしがやったの・・・?」
  顔が冷たくなって、口は渇き、胃はムカムカして気持ちが悪い。
ホープ「そ、そんな・・・」
  とんでもない罪をおかしてしまった。
ホープ「わ、わたしが殺したんだ」
  人の命を奪うは罪
  怒りや憎しみはどこかに消え、
  ただあるのは、
  後悔と罪悪感と恐怖だけ
おじい「ホープ・・・ 来てくれ・・・」
ホープ「おじいっ!」
  両手で血が吹き出す脇腹を強く押さえる。
  でも止まらない。
  どうにかしないと・・・。
ホープ「待ってて。いま助けを呼んでくるから!」
おじい「いや・・・いいんだ・・・ ここにいてくれ」
ホープ「でもっ!」
おじい「そばに・・・いて欲しいんだ・・・ それに・・・ どこに助けがあるっていうんだ?」
ホープ「やだよ!おじいこそ、 ずっとわたしのそばにいてよ!」
おじい「なぁ・・・、ホープ・・・ わしはお前を・・・ 本当の孫のように・・・」
ホープ「うん、知ってるよ、分かってるよ・・・ わたしもそうだもん」
おじい「ふふっ」
  小さく私を呼ぶと、
  おじいは右手で私の頭を2回優しく撫でた。
  そのままおじいは胸の上に、
  私の頭を抱き寄せた。
  私はおじいの胸に静かに顔をうずめる。
  彼の胸は温かくて、とても安心できる。
おじい「お前と・・・ 一緒にいれて・・・幸せだった」
ホープ「わたしも・・・ 大好きだよ」
おじい「ホープ・・・」
おじい「幸せに・・・なりなさい」
おじい「生きて幸せに・・・なりなさい・・・」
  そう言い終わると、
  おじいは静かに息を吐いた。
  そして私の頭を、優しく優しく撫でる。
  そしてその手に力が無くなった
ホープ「・・・・・・っ! やだよ・・・」
ホープ「やだっ!しなないでっ! 私を置いていかないでっ!」
ホープ「1人にしないでっっ!待ってよっ!」
ホープ「側に・・・いて・・・」

〇森の中
  どれだけの時間が過ぎたのだろうか
  もう時間の感覚もなくって、
  心の感覚もなくなっていた
  吹雪はいつの間にか止み、
  優しい雪に変わっていた
  心には埋まることの無い、
  大きな穴がポッカリと空いていた
  このままずっとここに居ようか?
  あぁ、そうすれば、
  私もおじいのように・・・
  でももう疲れた。
  何もかもどうでもいい
  動く力もなく、
  ぐったりと私はおじいの側で仰向けになる。
  吐く息は白く、体はすごく冷えている。
  ・・・あぁ、なんだかすごく眠くなってきた・・・
  もう眠ってしまおう・・・
  ガサッ
ホープ「ん?なんだろう・・・?」
ホープ「追手の騎士・・・かな?」
ホープ「でももう、 どうでもいい・・・」
  ガサッガサッ!
ホープ「なんだろう・・・」
紫色の瞳のオオカミ「・・・」
ホープ「オオカミだ・・・ もしかして、わたしを食べる気?」
  でも不思議と恐怖は感じなかった。
  その狼の眼差しは、
  優しく温かなような気がしたから
  オオカミは私の側まで近づいて来た。
  そして・・・
紫色の瞳のオオカミ「ペロッ」
ホープ「わっ」
  オオカミは私の頬を舐めた。
  食べる前に獲物を綺麗にする習性でも
  あるのだろうか?
  そして私の側にピタッと伏せる。
ホープ「・・・」
ホープ「暖かい・・・」
ホープ「私、疲れちゃった。 もう休んでも、いいよね?」
紫色の瞳のオオカミ「・・・」
ホープ「私、ここで死ぬのかな・・・ 仲間のみんな、ごめんなさい・・・」
ホープ「・・・」
ホープ「おじいが命がけで・・・ せっかくもらった命なのに・・・」
ホープ「あぁ、どうして? どうして私にはこんな道しか・・・」
  私はゆっくりと目を閉じた。
  そしてそのまま闇の中に落ちていった・・・・・・

次のエピソード:第3話 つかぬ間の休息

コメント

  • 一話で魔法の匂いを全く感じさせず二話目で急にでてくる展開、熱かったです。おじいはやはり助かりませんでしたか。果たして兵士を倒した魔法はなぜ発生したのか。続きも楽しみです。

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