精霊の湖

桜木ゆず

第1話 始まりの鐘(脚本)

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〇城の廊下
ホープ「ふぁ~。 おはよう、おじい」
おじい「おはよう。ホープ」
おじい「さあ、みんなも早く起きなさい。 執事長より先に待機しておかなくてはな」
ラガーナ「ああ、すまないな」
ガレ「たく、朝っぱらからうっせえって、 じいさん」
スウナ「うーん、もう少しだけ眠らせてよぉ」
おじい「ほら。鐘の音が終わるぞ。 ホープ、わしの隣においで」
ホープ「ふふっ!うん!」
ホープ(し、執事長が入ってきた。 目を合わせないように・・・)
「・・・・・・」
執事長「奴隷共は全員そろってるな。 ふん、よしよし」
執事長「あ~、今日は1と2番は家畜の世話だ。 3、4、5番は屋敷の掃除だ」
執事長「ふふ、ハハッ! 家畜が家畜の世話をする、 ハッ、笑えるなァ」
  そう、私たちは奴隷なのだ。
  ここはスナトルの屋敷
  奴隷は全部で5人
  人を見下すこの男には、いつも腹が立つ
ホープ(なんて最低な奴! 私たちは人間だ!)
執事長「おい、2番。 お前、今私に何を思った? ええ?言ってみろ?」
ホープ(不味い、怒らせてしまった)
執事長「ふん、その根性叩き直してやるよ。 おい、後ろを向けっ!」
  執事長は腰に提げた鞭を手に持ち、
  私の前にズカズカとやって来た。
執事長「私も忙しいのだ、叩くのは10回にしてやろう。 あぁ、なんて優しいのだろう私は・・・」
ホープ(泣くな 耐えるんだ、耐えるんだ・・・)
  鞭が背中に鋭い痛みを生み出していく
  あぁ、最低の朝だ

〇広い厨房
  カァーン、カァーン・・・
  鐘の音が1日の終わりを告げる。
ホープ「全く、子供相手にあんなにブタなくても良いじゃない!」
ホープ「イタタ・・・、これは2週間、ね」
  痛みが無くなるまでの時間だ。
ホープ「食事をもらって、早く眠ろう。 明日は大事な日なんだから」
ホープ「し、失礼します」
コック「なんだ、奴隷か。 食事はそこに置いてある。 さっさと出ていってくれ」
ホープ(今日も量が、少ないな。 みんなガッカリするだろうなぁ)
コック「なんだ?まだ何か用か?」
ホープ「い、いいえ。失礼します」
ホープ(今日はもう、面倒は起こしたくない。 早く戻ろう・・・)

〇城の廊下
ホープ(うう、背中が痛い。 でもこんな顔で入ったら、 みんなを心配させちゃう)
ホープ「・・・」
ホープ「ふう。よし」
ホープ「みんなー!ご飯もらってきたよ!」

〇城の廊下
おじい「明日は大事な日だ。 みんな、今日は早めに寝よう」
おじい「だが、本当にいいのか? 奴隷が逃げて、もし捕まれば・・・」
ラガーナ「殺される。 良くても腕か足を切り落とされる」
スウナ「だけど、それでも、 私はあなたに着いて行くわ」
ガレ「大丈夫だ。だれも死なねぇ! 神様はきっと、俺たち見ててくれてんだ」
スウナ「もう!声が大きいわよ」
ガレ「あ、悪い悪い」
ホープ「例え、命を落とすことになったとしても、 私は自由のために戦う」
ホープ「大丈夫だよ、おじい。 なんにも心配ないから」
おじい「ありがとう、みんな。 みんなで頑張ろうな・・・」
  そう、私たちはここから逃げようとしている。
  自由になるのだ、絶対に
  そして外の世界で朝日を見よう

〇城の廊下
  カァーンカァーン
  1日を告げる鐘の音が鳴り響く
ホープ(うう・・・ 昨日の鞭で叩かれた傷が痛い・・・)
ホープ(背中が痛くて眠れなかったな でも今日は大事な日だ)
ホープ(不安なことはない方がいい。 顔に出ないようにしなきゃ)
ホープ(おじいはまだ眠ってる。 珍しいな。あまり眠れなかったのかな?)
ホープ(おじいと出会ってもう7年かぁ。 私は今14歳だから、人生の半分はおじいと過ごしてるんだな)
ホープ(私にとって、おじいは本当の家族のような・・・ おじいにとってもそうであったら良いな)
おじい「ん?ああ、もう起きてたのか。 おはよう。ホープ」
ホープ「おはよう。おじい。 さあ、頑張ろう?」

〇洋館の玄関ホール
  いつも通りの1日──
  だが、奴隷たちにはそうではなかった。
  屋敷の人間が深い眠りに落ちた頃、
  奴隷達は動き始める──
おじい「ガレ、鍵は開きそうか?」
ガレ「あぁ、任せろ。大丈夫だ。 鍵は日中に壊しておいたから」
スウナ「音、立てないようにね」
ガレ「あぁ、わかってるっと! 開いたぜ!」
おじい「みんな、そおっと廊下へ出るぞ」
ラガーナ「真っ暗でほとんど何も見えないな」
おじい「ホープ?ついて来ているか?」
ホープ「うん、大丈夫。早く行こう」
  5人の足音が廊下に静かに響く。
  それでも皆、足音に全神経を注いで、
  音を立てないように、
  はやる気持ちを抑えながら、
  慎重に確実に出口へと歩んでいく。
おじい「出口だ! 出口の鍵は?」
スウナ「大丈夫、ここにあるわ。 掃除の時に金庫からくすねておいたから」
ホープ「スウナさん!早く早く!」
スウナ「ちょっと待ってね、 どの鍵かしら・・・」
  ガチャリ
スウナ「開いた!」
  自由の扉が開いた!
  ハヤク!ハヤク!外に・・・
騎士「ん?なんだ?」
ホープ「見回りの騎士だ!」
騎士「えっ? 奴隷?なんでこんな夜中に?」
騎士「っ!てめぇら!まさか!」
ラガーナ「走れっ!逃げろっ!」
  その一言が、固まった皆の足を走らせた

〇雪山
  皆それぞれ、外に出て
  一斉に走り出した。
  外は猛吹雪だったが、
  皆それぞれ決められた方角へと走って行った。
ホープ「おじい!私たちは西の森を抜けたら良いんだよね?」
おじい「はぁはぁっ! ああ、そうだっ!こっちだ!」
  屋敷の方を振り替えると、
  騎士が大声で何かを叫んでいた。
  きっと屋敷の人達を
  起こしているのだ。
  奴隷達を逃がすな、と。
  ガレ、スウナ、ラガーナは、
  私とおじいとは別の方向へと走っていく。
  万が一、見つかった場合は、撹乱するために、別々の方角へと逃げると決めていた。
  若い大人の三人は、散り散りになって走って、
  一方で、少女と老人は二人一緒の方角へと無我夢中で走っていった。
ホープ「私は自由になるんだ! おじいと一緒に!」
おじい「大丈夫だ、ホープ! わしが護ってやるからな」
  私達は無我夢中で深い森へと足を踏み入れた。
  鬱蒼と生い茂る森は、来るものを拒まず、
  暗くて深い森の奥へと、
  来訪者を飲み込んでいった。

〇森の中
ホープ「はぁはぁっ! どこまで行くの?」
ホープ「おじい?」
おじい「ハァハァ」
ホープ(かなり辛そう・・・)
ホープ「お、おじい。 大丈夫だからね。私がついてるから!」
  彼は心配させまいと、何度も頷く。
ホープ(私には手を引くことしかできない)
ホープ(でも、絶対に置いてったりしない!)
ホープ「おじい。早歩きで行こ? 道を間違ったら、大変だよね」
おじい「あぁ、すまないな」
  私は走るのを止めた。
  息を整えると、脳に酸素がしっかりと行き渡るのを感じた
  どこまでこの森は続くのだろう?
  この森を越えると、国境付近になるらしい。
  国境さえ越えてしまえば、
  騎士や貴族も追ってくることはないと、
  らしいが、本当だろうか?
  見つかった場合に備え、
  追っ手を撹乱するために、
  別々の方角へ逃げると決めていた
  果たして皆無事に逃げられているだろうか?
  もしもバラバラに逃げることになったら、
  国境を越えた先にある、
  トムライ村で集合だ。
  期限は朝日が昇るまでにしよう。
  それまでに来なかったら・・・
  待たないし、待つな。
  国境を越えたとはいえ、
  同じところに居ると危険だからな。
  果たして、私たちは朝日が昇るまでにたどり着けるのだろうか?
おじい「なぁ、ホープ。 もし、逃げ切れたら、 わしの故郷で一緒に暮らさないか?」
ホープ「えっ?」
  今はそんな時ではない。
  だが彼の言葉を待つ自分がいた
おじい「私はお前のことを本当の孫のように思っているんだ」
おじい「前にも言ったと思うが、 わしの故郷は、西の地域にある、 ギギラという国なんだ」
おじい「ターシという海の見える町でな。 そこなら、お前も伸び伸びと暮らせると思うんだ」
おじい「どうだろう?考えてみてはくれんか?」
ホープ「いいの?私なんかが行っても?」
おじい「当たり前だ。さっきも言っただろう? 孫だと思っている、と」
ホープ「行きたい! 私ね、おじいと一緒に生きたいの」
おじい「そうか!良かった! ならそうしようか」
  ドドドッ、ドドドッ、・・・
  規則正しい音が、風に乗ってかすかに耳に響く
  これは何度も耳にしたことのある音だ
ホープ「お、おじい!」
おじい「ど、どうしたんだ?」
ホープ「騎士だ!! 馬の蹄の音が聴こえる!」
おじい「な、なんだって?!」
  規則正しく地面を鳴らすその音は、
  まるで死へと誘う死神の歌のようだった・・・

次のエピソード:第2話 愛しき世界で

コメント

  • 外が吹雪。皆の服装が軽装なので遭難必至かと思われました。そもそも彼らはなぜ奴隷になったのかも気になります。逃げれば終わりなのか、何か刻印みたいなものを消さねばならないのか。
    そしておじい。死なないといいなと思います。

  • こんにちは!
    もう見つからないで見つからないでとはらはらしながら読ませていただきました。
    辛い環境の中でも奴隷の希望になるようにホープちゃんを応援したくなりました

  • 物語の世界に一気に引き込まれて読了しました。老人や子供まで奴隷として働かせられているなんて。一話目は辛い内容だけれど、希望のある展開になっていくことを願います。

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