コーヒーをどうぞ

ゆきんこ

#ラテアートの景色(脚本)

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〇明るいリビング
鈴音(スズ)「ん〜イイ香り♡ 私にもちょうだい」
和音(カズ)「オマエもコーヒー好きだったっけ?」
鈴音(スズ)「まあね」
和音(カズ)「ブレンドしてみたんだけど、イマイチだぞ」
和音(カズ)「ARMSカフェの味を再現したいんだけど、難しいな」
鈴音(スズ)「あー。 モモがバイトしている所ね」
和音(カズ)「モモ?」
鈴音(スズ)「高校の親友」
和音(カズ)「へー。 親友出来たんだ」
和音(カズ)「ヤベッ!もう時間だ!! 朝練あるから先に行くわ」
鈴音(スズ)「言えなかったな・・・」
ママ「おはよう。 あら、カズは?」
鈴音(スズ)「もう学校行ったよ」
ママ「双子なんだから、一緒の高校に進学してくれたらスズのこと、安心だったのに」
ママ「なんだか最近会話も少ないし、 反抗期かしらねえ」
鈴音(スズ)「ママったら、いつも兄貴に頼って・・・」
ママ「そうは言っても、私はスズの事が心配なのよ」
鈴音(スズ)「丁度いいわ。 ママに話があるの」

〇黒
  オレの双子の妹スズは障害者だ。

〇教室
クラスメイト「ねえねえ、スズちゃん〜♪ 右手見せてよ」
鈴音(スズ)「イヤ!」
クラスメイト「夏でも長袖着て隠しているけどさあ」
クラスメイト「右手が変なの、知ってるぞ!」
鈴音(スズ)「変じゃない!」
鈴音(スズ)「『しょーにまひ』って病気で、肘から下が短いだけだもん!」
クラスメイト「変じゃないなら見せてみろよ」
鈴音(スズ)「いーやーだ!!」
クラスメイト「わっ! カズに頭突きされた!!」
和音(カズ)「スズを泣かすヤツはそこに並べ! 端から端までぶっ飛ばすぞ!!」

〇明るいリビング
ママ「ウウ・・・」
ママ「生ポリオワクチンの経口摂取で逆に障害者になるって分かってたら、絶対受けさせなかった・・・」
ママ「カズは平気なのに、何でスズだけこんな目に合わなきゃならないの!?」

〇部屋の扉
和音(カズ)「何でスズだけ・・・ 何でオレだけ・・・母ちゃんゴメンなさい」
和音(カズ)「オレがスズを守るから、許してくれ」

〇明るいリビング
鈴音(スズ)「ふんふーん♪」
鈴音(スズ)「でーきた♪」
和音(カズ)「なにそれ。 猫の肉球?」
鈴音(スズ)「勝手に見るな!」
和音(カズ)「居間で描いてリゃ、見たくなくても見えるっつーの」
鈴音(スズ)「兄貴ムカつく!」
和音(カズ)「生意気!」
ママ「ちょっとカズ、相談があるんだけど聞いてくれる?」
和音(カズ)「・・・もしかしてスズのこと?」
ママ「そう。 実はね・・・」
和音(カズ)「スズがバイト!? しかもカフェって・・・そりゃ無理だろ」
ママ「私もそう言ったのよ」
ママ「友だちの紹介なんだって」
ママ「オーナーも障害者だと分かって雇ってくれるんだと言うんだけど」
ママ「ただでさえあの子は力無いのに、カフェって立ち仕事に力仕事でしょ?」
ママ「しかも障害のことを知らない人たちの視線に、あの子耐えられるのかしら・・・」
和音(カズ)「まあ・・・初日に泣いて帰ってくるかもね」
ママ「カズからも諦めるように説得してくれない?」
和音(カズ)「分かったよ」

〇黒
  物心ついてからずっと、オレはスズを守るために必死だった
  でも
  どこに行ってもスズと居ると、好奇の目に晒される。
  双子だけでも珍しがられるのに、
  『障害者の兄』ってラベルがついてくる
  母ちゃんも何かと言うとスズの心配ばかりして
  オレは、いつもいつもいつもいつも
  『スズの兄貴』のままだった。
  そんなラベルを外したくて、成長したオレはわざとスズとは別の高校を受験した。
和音(カズ)(スズが何考えているのかなんて解らないし、どうでもいい)
和音(カズ)(ただ、『双子で障害者の兄』としての義務を果たすためだけに、説得するだけだ)

〇ファンシーな部屋
和音(カズ)「──とりあえず、オマエのワガママで母ちゃんに苦労かけんなよ」
鈴音(スズ)「──あのさ」
鈴音(スズ)「今まで私の人生、兄貴や母ちゃんに頼りっぱなしだったよね」
鈴音(スズ)「でも私も一生、この家でぬくぬくと生きていけるワケじゃない」
鈴音(スズ)「だから自立の一歩として、どこまで自分が社会で通用するのか試したいんだ」
和音(カズ)「ハア? 右手をまともに使えないオマエに、何が出来るんだよ」
和音(カズ)「どうせ泣いて帰ってきて迷惑かけるくらいなら、最初から辞めておけって言ってるんだよ!」
和音(カズ)「大体あのカフェ、同中やオレの高校のヤツらも使うし、バレたら何言われるか・・・」
鈴音(スズ)「・・・」
和音(カズ)「ゴメン、言い過ぎた」
鈴音(スズ)「母ちゃんも兄貴も、間違っていない」
鈴音(スズ)「でも、今回だけはお願いします!」

〇綺麗な一戸建て

〇明るいリビング
和音(カズ)「ふああ、眠い」
和音(カズ)「最近、あんまり寝た気がしないな」
和音(カズ)「え?」
鈴音(スズ)「キリマンジャロブレンドのコーヒー。 お目覚にどうぞ」
和音(カズ)「オッ! 酸味がパンチあるけど、苦味なくてスッキリするな」
和音(カズ)「しかも、後から歯磨き粉みたいな爽快感が・・・何だコレ!?」
鈴音(スズ)「ミントのフレーバーコーヒーだよ。 歯磨き粉って・・・本当に語彙力無いよね!」
和音(カズ)「意外にウマいし、目が醒めたぜ!」
鈴音(スズ)「意外にって! 次は金取るからね」
鈴音(スズ)「今日から出勤なんだ」
和音(カズ)「お、おう。 ほどぼどにな」
鈴音(スズ)「ムカつく。 行ってくるね!」

〇店の入口

〇カフェのレジ
桃(モモ)「店内でお召し上がりですか?」
和音(カズ)「あのッ 高橋って居ますか?」
和音(カズ)「実は兄なんですけど」
桃(モモ)「アッ! スズのお兄ちゃん!?」
桃(モモ)「初めまして。 スズの親友やってます、花野桃で〜す」
和音(カズ)「あー! 君がモモ!!」
和音(カズ)「いつも妹がお世話になっています」
桃(モモ)「スズは厨房なのでフロアには居ないんです」
桃(モモ)「今呼んできますね♪」
和音(カズ)「それよりアイツ、お店にご迷惑かけていませんか?」
和音(カズ)「障害があるから今までバイトなんかさせてなかったし、母子家庭で甘やかしてきたから社交性とか無いし」
和音(カズ)「無理あるなら連れて帰りますので、遠慮なく言って下さい」
桃(モモ)「あ・・・」
桃(モモ)「それなら私、お兄ちゃんに見せたいモノがあります!」
桃(モモ)「スズには内緒にしてくださいね!」

〇広い厨房
桃「スズ、オーダー! サクララテアート付きカフェラテ・ワン!!」
鈴音(スズ)「喜んで!」
鈴音(スズ)「ヨシ!」
鈴音(スズ)「オーナー、チェックお願いします!」
オーナー「おっ、猫の肉球描いたの?」
鈴音(スズ)「桜の花弁です!」
鈴音(スズ)「前に兄貴にも馬鹿にされたんですけど、本当にそう見えますか?」
オーナー「ウソウソ!冗談だよ!!」
鈴音(スズ)「良かった!」
オーナー「特にこの、桜の塩漬けとフレーバーを使ったアレンジとラテアートの組み合わは私もとても気に入ったよ!」
オーナー「何処かで習ったのかい?」
鈴音(スズ)「独学です。 最初は兄貴のコーヒー好きに影響されたんですけど」
鈴音(スズ)「こういう趣味が仕事にできないかなあって調べていたら、ネットでバリスタの世界があるって知って・・・」
鈴音(スズ)「でも障害者だからご迷惑をかけないか不安だったんです」
オーナー「技術的にはこれからの部分も多いけど、私は君の『個性』が気に入って採用したんだよ」
オーナー「面接の時も言ったけど、自信を持って長く働いてね!」
オーナー「厨房だけじゃなく、慣れてきたらオーダー取りもお願いしたいし、期待してるよ!」

〇水玉2
鈴音(スズ)「ありがとうございます! 頑張ります!!」

〇カフェのレジ
桃(モモ)「盗み聞きしちゃいましたけど・・・ 安心できましたか?」
和音(カズ)「アイツ、あんな笑顔ができたんですね」
桃(モモ)「今、スズが淹れたコーヒーです」
桃(モモ)「色んな形のラテアートに挑戦していたけど」
桃(モモ)「桜のラテアートには大切な思い出があるとかで、とくにこだわって練習していましたよ」
桃(モモ)「良かったら、店内で飲んで帰って下さいね」

〇シックなカフェ
和音(カズ)「あの肉球みたいなイラスト、ラテアートのデザイン画だったのか」
和音(カズ)「桜・・・」

〇桜並木
鈴音(スズ)「キレイ! 桜が雪みたいに降ってくるね」
和音(カズ)「死んだ父ちゃんが好きだった場所なんだ!」
和音(カズ)「小学生が寝たフリして、夜桜見に来たなんて言ったら母ちゃんに怒られるから」
和音(カズ)「絶〜対、内緒な!」
鈴音(スズ)「ありがとう兄貴」
鈴音(スズ)「元気づけるために連れて来てくれたんでしょ?」
鈴音(スズ)「この桜、一生忘れないし、 私、強くなるね!」
和音(カズ)「バカだな! いきなり強くなれないし、今日のことなんか寝て起きたら忘れるよ!」
鈴音(スズ)「忘れないもん!」

〇シックなカフェ
和音(カズ)(スズは約束通り、強くなった)
和音(カズ)(それに気づかないでスズを傷つけていたのは、オレや母ちゃんだった)

〇シックなカフェ
鈴音(スズ)「いらっしゃいま・・・」
鈴音(スズ)「ウソ!?」
鈴音(スズ)「ちょ、ちょ、 聞いてないよ!」
鈴音(スズ)「恥ずかしいなあ。 今日からフロアデビューなのに!」
和音(カズ)「だから来たんだよ!」
ママ「あら素敵! 桜のコーヒーなのね」
鈴音(スズ)「私のオリジナルレシピだよ!」
ママ「美味しい。 このコーヒー、本当に桜の匂いまでするのね」
ママ「何だか懐かしい気分」
ママ「パパが亡くなってから何年も行っていないけど、近所に夜桜が素敵な公園があるのよ」
ママ「春になったら、3人で行きましょうよ」
「ブッ」
「アハハハッ」
ママ「何よ、2人で目配せしちゃって! 感じ悪いわね」
ママ「──でも、カズに誘われて来て良かった。スズが働くなんて、不安で反対していたけど」
ママ「スズが淹れたコーヒーをカズと飲めるなんて、最高!」
ママ「2人とももう立派な大人ね」
鈴音(スズ)「そうだよ」
鈴音(スズ)「もうスズは大丈夫。 ママも兄貴も、安心してね!」
  オレはこのコーヒーに浮かんた桜を一生忘れないだろう。

〇シックなカフェ
  それはオレたちが今まで見たことがない最高の景色だったから!

〇桜並木

コメント

  • 心温まるとても素敵なお話でした。
    泣きました( i ꒳ i )

  • 誰が悪いわけでもないのに、家族がギスギスしていたのが、スズのおかげで皆が前向きになれてよかったです!
    スズはまだまだ大変だと思いますが、頑張ってほしいですね😊

  • カフェの雇用理由に感動しました。
    障害はあくまで障害、乗り越えるために本人も自分も努力する…。現実社会全体もそのような風潮で満たされることを祈るばかりです。

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