斬首の美女(脚本)
〇入り組んだ路地裏
今宵は満月。
届かぬ悲鳴が闇夜に飲まれた
〇テレビスタジオ
アナウンサー「先日、佐々波町で人の死体らしきものがあると警察に通報がありました」
アナウンサー「遺体は頭を強く打った状態で、警察はこの4ヶ月間に発生した事件との関連を調べています」
〇SNSの画面
「最近の事件ヤバいらしい」
「4ヶ月間で6名の首無し遺体」
「噂だと狼男らしい」
「草」
「凶器の発見もされてないらしい」
「首を切るって凄すぎ」
「佐々波町歩けない。怖すぎ」
「マジレスすると普通の包丁で首を切り落とせるらしい」
「時間がかかるし何度か体重かけるとだろ?」
「犯人発見!」
「侍かよ」
「介錯人」
〇教室
沙織「やっほー。三保おはよう!」
三保「おはよう沙織ちゃん!」
沙織「聞いたよ!三保、高木君と付き合ったって!やるじゃん!」
三保「そんな、茶化さないでよ!」
そう言いながら三保は自分の耳を触る。
沙織「今、そんな耳を気にするの? そんなのとっくに皆受け入れているよ!」
三保「だって! やっぱりちょっと心配で!」
三保「最近はここの佐々波町での殺人で 『狼男』なんて噂もあるから余計に変な目で見られるし」
沙織「そんなの大丈夫だよ!」
沙織「まあ本当に三保のことを悪く言う奴とか、狼男がいたら・・・」
沙織「私が薙刀で払ってやるよ!」
三保「沙織ちゃんかっこいい・・・。 私も習いたい」
沙織「いつでも武道場に来な。 私が教えてあげるよ!」
〇学校の駐輪場
三保「高木君、一緒に帰ろう!」
高木「ちょっと待って。薬だけ飲むよ──」
三保「そっか、チラージン飲まないとね」
高木「いや、気にしなくてもいいよ。 三保だって気にしないでくれる約束だろ?」
三保「うん!」
三保「高木君だって私の耳、気ならない?」
高木「生まれつきだろう? それにそれ以外変わらないなら、」
高木「その──俺と同じだよ」
三保「ありがとう、一緒に帰ろう!」
生徒「ねぇ、三保と高木君って付き合ってるの?」
生徒「どうもそうらしい」
生徒「三保の猫耳生まれつきなんだよね。 何か不思議だよね」
生徒「ていうか最近の事件、この佐々波町で起きてて」
生徒「ああいう変な娘がしたんじゃない?」
生徒「狼男ならぬ、狼女? ありえるー!」
???「ちょっと待ちなよ!」
沙織「まったくあることないこと話してないで」
生徒「沙織!薙刀振り回さないでよ!」
沙織「ごめんね! でも、そんな噂は良くないよ」
生徒「まぁ、沙織がそ~言うなら・・・ねぇ」
生徒「まあまあ、そうね。じゃあね。沙織」
沙織「やれやれ、高木君はイケメンだし」
沙織「こーいう噂は絶えないかー」
〇教室
高木と三保は交際していたが、事件が起きてからというもの噂は途絶えなかった。
ある事無い事、学校を巡っていた。
「おいおい、高木。三保を付き合ってるらしいぜ」
「高木君はあーいう子がタイプなの?」
「萌え萌えキュン的な?」
「いや、狼女だろう?」
高木(なんか、止め処無いな)
高木「とりあえず・・・薬を」
沙織「おーい!高木君!」
強い張手が高木の背中に。
高木「沙織ちゃん!?おとと?薬が」
沙織「どーしたの?そんなしんみりした顔して!?」
高木「いや、何でもないって!」
沙織「三保が悲しむぞ。そんな顔は!」
高木「沙織ちゃんはいつも明るいな」
沙織「そんな事は良いからー、 せっかくなんだから大事にしてやらないと!」
生徒「沙織ー!」
沙織「いけない、友達だ!」
高木「あの娘はやっぱり前向きだよな」
〇学校の駐輪場
数週間後
三保「・・・何?高木君。話って」
高木「三保・・・悪いんだけど・・・」
高木「・・・やっぱり別れてほしい」
三保「え?そんな・・・どうして」
高木「・・・その・・・周りの目がやっぱり耐えられない・・・」
高木「ごめん」
三保「た、高木君?」
三保「・・・そんな・・・」
三保「なによ!あの感じ!」
三保はその場で強く地団駄を踏んだ。
〇教室
沙織「わ、別れたの?高木君と!」
三保「うん」
沙織(うわー、これは相当できあがってるわ)
三保の爪が腕や服をかく音がひたすらに続いていた。
沙織「よし!」
三保「何?沙織ちゃん!」
沙織「とりあえず道場来な? 一緒に型でやろ!」
三保「え?」
沙織「習いたいって言っていたし、身体を動かすとスッキリするよ!ほらほら!」
三保「さ、沙織ちゃん!?」
〇道場
沙織「てやー!」
三保「やー!」
二人は一心不乱に練習をした。
沙織「すぅー、すっきりした!」
三保「やっぱり沙織ちゃんは凄いね。 腕も身体も疲れたよ」
沙織「三保は初めてだけど、随分と力強いし。いい線だよ」
三保「えへへー」
沙織「遅くなったし、一緒に帰ろう!」
三保「うん!」
〇学校の駐輪場
沙織「いやー、暗くなっている」
三保「・・・ねぇ。沙織ちゃん」
沙織「何?」
三保「高木君ってさ、」
三保「沙織ちゃんのことが好きなんだよね」
沙織(あー、そういうこと)
沙織「まぁ、一緒に帰りながら話そう」
三保「へ〜、平気なの」
沙織「平気とは少し違うかな?私は・・・高木君とは付き合う気は無いし」
〇ビルの裏通り
人気の少ない路地へ二人は歩いていく。
沙織「今日は・・・満月ね」
三保「沙織ちゃんはなんで・・・そんな感じなの?」
沙織「ん?そんな感じって?」
三保「明るく振る舞って・・・しかも・・・私と一緒にいて」
沙織「嫌な言い方」
沙織「それに・・・楽しいことがあると笑みがこぼれてちゃうよ」
沙織「さてと・・・高木君を叩いた時に落とした・・・こいつを」
沙織「首を落とすのっては結構大変なのよね」
沙織「それが楽しかったりするんだけど」
〇教室
それから3か月後
生徒「やっぱり、佐々波町やばいよね」
生徒「三保は残念だったし・・・何か同級生がそんな目に遭うなんて」
生徒「ていうか・・・」
「高木君だよね、ヤバいの」
???「こらこら」
沙織「まったく変な噂はしないの」
沙織「高木君だって犯人と決まったわけじゃないし」
沙織「まぁ、三保とも色々あったみたいだけど・・・」
沙織「信じてあげて、戻ってきたら笑顔で迎えてやろうよ!」
タイトルに「美女」がついているけど、ミスリード狙いかな、だってまさかだよね、と思っていたらそのまさかでした。登場人物が少ないのに意外性のある展開で読者を驚かせるとは、作者さんの筆力の高さの賜物ですね。
各キャラクターが感情豊かで魅力的ですね。ビジュアルともフィットしていますし。そんなキャラたちが織り成す物語、ハートフルからの突然の恐怖感にやられました。
いつも笑顔でいる人ほど闇を抱えてそうと自分は思ってしまいがちですが、本当に怖いですね。
笑顔だからこそ怖い。言ってることも怖い。もう全部怖いじゃないですか!