鳥だけが知っている(脚本)
〇古い洋館
埃っぽい廊下、磨りガラスのように曇った窓、ところどころに張った蜘蛛の巣。
町の人々から幽霊屋敷と呼ばれるこの屋敷は、ここら一帯を治める辺境伯の住む屋敷だった。
そこで働く唯一の使用人がオレ、テオ。
そして、ここに住む辺境伯、アンジェリカ ツー ヴァイスにはもう一つの顔があった。
〇洋館の一室
テオ「いつまでかかるんだ・・・この掃除は」
アンジェリカ「そうじゃの、丸10日かければ終わるのではないか?」
テオ「・・・アンジェリカ様!」
テオ「ここは、まだ掃除が終わっておりません こんなところにいらしては・・・」
アンジェリカ「おぉ、そのことだ テオ、もう掃除はいい」
テオ「え・・・まだ、どこもきれいになっておりませんが・・・」
アンジェリカ「テオよ、お主をこの汚れた屋敷を掃除させるためだけに雇っているわけではないこと理解しているか?」
アンジェリカ「お主は、貴族専門の探偵であるこの私の助手だ」
アンジェリカ「助手としての仕事が何よりの最優先」
テオ「ということは」
アンジェリカ「そう、依頼人だ」
アンジェリカ「出掛けるぞ、テオ」
〇立派な洋館
ヴァイス家の屋敷から馬車で3時間、王都の西端に、依頼人クレーエ伯爵の屋敷はあった。
テオ「立派なお屋敷ですね」
アンジェリカ「派手好きで有名なクレーエ伯爵の本邸だからな」
「チュンチュン」
「カァーカァー」
テオ「なんか、鳥が多くありません?」
テオ「他のお屋敷だと鳥って追い払われたりしてますよね」
アンジェリカ「クレーエ伯爵家の象徴は黒と鳥」
アンジェリカ「貴族の家には象徴があるのはテオも知っているだろう?」
テオ「大事にしてるから追い払わないんですね」
アンジェリカ「あぁ、おそらくそうだろうな」
執事「お待ちしておりました。 ヴァイス辺境伯様。 どうぞこちらへ」
〇貴族の応接間
テオ(すっげ、中も豪華ってか派手だな)
テオ(で、依頼人も派手だな 宝石の量やべぇ・・・)
クレーエ「ようこそ、いらしてくださいました。 アンジェリカ殿」
アンジェリカ「お久しゅうございますわ。クレーエ伯爵」
アンジェリカ「この度は探偵のご依頼とのこと、早速内容をお聞かせくださいな」
テオ(いつものことだが、俺との態度の差が怖いな・・・)
クレーエ「そうでした」
クレーエ「たいへん困ったことになっておりまして」
アンジェリカ「たいへんなこととは?」
クレーエ「私の」
クレーエ「私の指輪が一つ、見当たらないのですよ」
テオ(・・・・・・はぁ?)
テオ(指輪って、今、全部の指にはめてるじゃねぇーか)
アンジェリカ「それは大変ですわ。 お心当たりは?」
クレーエ「庭でお茶会を主催したときが最後に身につけた日なのです」
クレーエ「庭に落ちているのではないかと、隅々まで探させました」
クレーエ「しかし、出てこず・・・」
クレーエ「明日、使う予定なのです。 それまでになんとか!」
アンジェリカ「・・・承知しましたわ」
アンジェリカ「なくした場所、日時、指輪の形状、詳しく教えて下さいませ」
アンジェリカ「大丈夫ですわ。 一日とかからずに見つけ出してみせます」
〇立派な洋館
テオ「アンジェリカ様、これは・・・」
アンジェリカ「テオ、みなまで言わなくてよい。 わかっている」
テオ「庭、広いですね・・・」
アンジェリカ「我が屋敷の倍以上であろうな」
アンジェリカ「えー、5日前バラを囲むお茶会で開始直前につけた指輪が終了後にはなくなっていた」
アンジェリカ「庭を隅々までゲストに紹介して回っていたのでいつ落としたのかわからない」
アンジェリカ「指輪の特徴は、黄金のアームにバラの彫り模様、大きな虹色の石・・・」
テオ「もういいです・・・アンジェリカ様」
アンジェリカ「なにかの罠だとは思っていたが」
アンジェリカ「こんな古典的なものだとはな!」
テオ「わかってるなら、なんで来たんですか・・・」
アンジェリカ「父の学友らしくてな」
アンジェリカ「仲は良くなかったらしい」
アンジェリカ「だから、代替わりしたら何かふっかけてくると思っての!」
テオ「だから、どうして乗っかっちゃったんですか!」
アンジェリカ「うむ、テオもいるしの なんとかなるからだな」
アンジェリカ「おおよそ、指輪も見つけられない使えない探偵とでも噂を流すつもりであろうが・・・」
アンジェリカ「簡単にはめられてもつまらん」
アンジェリカ「終わらせてしまおうぞ」
テオ「もう、なにかわかってるんですか!」
アンジェリカ「あぁ、ところでテオよ」
アンジェリカ「木登りは得意か?」
テオ「え?」
〇貴族の応接間
テオ「クレーエ伯爵様、こちらの指輪でお間違いないでしょうか?」
クレーエ「ま、まさしく、この指輪だ」
クレーエ「こんな短時間でどうやって」
アンジェリカ「クレーエ伯爵の象徴が見つけてくださっていましたよ」
クレーエ「象徴?」
クレーエ「我が家の象徴は黒と鳥だが」
アンジェリカ「えぇ、そう、黒い鳥です」
アンジェリカ「カラスですわ」
クレーエ「カラス?」
クレーエ「カラスが見つけたというのか」
アンジェリカ「えぇ、カラスの巣の中にありましたの」
アンジェリカ「黒い鳥の巣の中にあるなんて、さすがクレーエ伯爵。 象徴にも愛されてらっしゃいますわ」
クレーエ「うむ、そうか・・・」
アンジェリカ「どうかなさいましたか?」
クレーエ「いや、なんでもない! 礼を言おう、アンジェリカ殿」
アンジェリカ「いえ、とんでもない」
アンジェリカ「また、なにかございましたら、ご贔屓に」
〇立派な洋館
テオ「クレーエ伯爵はまた何か依頼してくるでしょうか」
アンジェリカ「さぁね、また何かあれば相手をしてやるさ」
アンジェリカ「親の遺恨は、子に引き継がれるものだよ」
テオ(・・・・・・)
〇貴族の応接間
──深夜
テオ「クレーエ伯爵」
クレーエ「おまえ!」
クレーエ「昨日の! ヴァイスの! なんでここに」
テオ「お伝えし忘れたことがありまして、こちらをどうぞ」
クレーエ「これは、手紙・・・」
クレーエ「本と獅子のエンブレム! これは王家の! おま、あなた様は」
テオ「テオドール フォン ランプレヒト わかるな?」
クレーエ「だ・・・第3王子・・・!」
テオ「アンジェリカ ツー ヴァイスはオレの保護下だ」
テオ「この意味が、わかるな?」
クレーエ「承知・・・しました・・・」
テオ「今後なにかあれば、オレが動くこと忘れるでないぞ」
〇洋館の一室
「随分遅いお帰りだな」
テオ「アンジェリカ様」
アンジェリカ「秘密の仕事かな?」
テオ「そんなもの、ありませんよ」
テオ「ただの夜遊びです」
アンジェリカ「そういうことにしておこうか」
アンジェリカ「たまには息抜きも必要であろうからな」
テオ「ええ、貴族の方々に囲まれての仕事は息がつまりますから」
まさかの王子様とは!
タイトルの意味がわかりました!
カラスは光るものが好きっていいますが、本当に見つかったんですね。
凄腕の探偵ですね。あっという間に指輪を見かけるなんて。それにしても、第3王子が探偵の助手をするには何か秘密があるんですね。次回楽しみです。
楽しかったです。二人の関係性や会話のテンポがよくて最後まで一気に読ませて頂きました。読み応えがある作品でした、もう少し読んでみたい気がします。