おとなりさん

マヤマ山本

第1話『隣の向井さん』(脚本)

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〇葬儀場
真下 英雄「・・・・・・」
  父が居なくなった
真下の母「あなた・・・」
  いや、父だけじゃない
真下の姉「パパ・・・」
  この日を境に
真下の妹「お兄ちゃん・・・?」
  俺から家族が、居なくなった

〇白いアパート
  『おとなりさん』

〇アパートの玄関前
  隣の向井さん
真下 英雄「こんだけ買い込めば、しばらく引き籠れるだろ・・・ん?」
向井 奏「(じーっ)」
真下 英雄「・・・・・・」
真下 英雄「こ、こんにちは」
向井 奏「こんにちはなのです」
真下 英雄「えっと・・・お隣のお子さん?」
向井 奏「はい」
向井 奏「名前は、向井奏なのです」
真下 英雄「あ、真下です」
真下 英雄「で、どうかしたの?」
向井 奏「鍵を家の中に忘れてしまったのです」
真下 英雄「あぁ、そういう事か」
向井 奏「寒いのです」
真下 英雄「うん、今日は寒いね」
向井 奏「とても寒いのです」
真下 英雄「・・・・・・」
向井 奏「お腹も空いたのです」
向井 奏「(じーっ)」
真下 英雄「・・・勘弁しろし」
  おとなりさんの家にいます
  
  かな

〇散らかった部屋
向井 奏「美味しいのです」
真下 英雄「それは何より」
向井 奏「これで甘い物もあったら最高なのです」
真下 英雄「・・・・・・」
真下 英雄「チョコいる?」
向井 奏「欲しいのです」
真下 英雄「ねぇ、今更なんだけど・・・」
真下 英雄「友達の家とかに行った方が良かったんじゃない?」
向井 奏「今どき、約束もなしに友達の家に行くなんて非常識なのです」
真下 英雄(どっちが)
真下 英雄「で、お母さんはいつ頃帰ってくるの?」
向井 奏「『今日は遅くなる』と言っていたのです」
真下 英雄「勘弁しろし・・・」
真下 英雄「あ、お父さんは?」
向井 奏「パパは、いないのです」
真下 英雄「あ、そうなんだ・・・ごめん」
向井 奏「別にいいのです」
向井 奏「ただ、お姉ちゃんがそろそろ帰ってくると思うのです」
真下 英雄「お姉ちゃんは、何年生?」
向井 奏「中学3年生なのです」
真下 英雄「中3か・・・」
真下 英雄「部活も引退してるだろうし、ならそろそろ・・・」

〇アパートの玄関前
真下 英雄「はい」
向井 音「あの、隣の向井です」
真下 英雄「真下です」
真下 英雄「奏ちゃん、お姉ちゃん迎えに来たよ~」
向井 音「何か、申し訳です」
向井 音「ウチの妹がご迷惑を」
真下 英雄「まぁ、困った時はお互い様って事で」
向井 音「困った時・・・?」
向井 奏「お姉ちゃん、お帰りなさいなのです」
向井 音「奏、何やってんの」
向井 音「男の家に一人で行くなんて、危ないじゃん」
真下 英雄「そうそう」
真下 英雄「俺もあらぬ疑いをかけられるのは勘弁だしね」
向井 音「あ・・・申し訳」
向井 音「とにかく奏、早くしてよ」
向井 音「鍵忘れちゃったから、入れなくて」
「え?」
向井 音「・・・え?」
  おとなりさんの家にいます
  
  かな 音

〇散らかった部屋
向井 音「何か、申し訳」
真下 英雄「お母さん、何時ごろになりそう?」
向井 音「えっと・・・」
向井 音「『早ければ9時、遅ければ10時』だって」
真下 英雄「勘弁しろし・・・」
真下 英雄「もういいや」
真下 英雄「俺は奥で仕事始めるから、適当にくつろいでて」
真下 英雄「ただし、静かにね」
向井 奏「わかったのです」
向井 音「申し訳」

〇汚い一人部屋
真下 英雄「さて、どこまでやったっけ・・・?」
  カタカタカタカタカタ・・・
「スマホ貸して欲しいのです!」
「だから嫌だって言ってんじゃん!」
真下 英雄「・・・・・・」
  カタカタカタカタカタ・・・
「奏、YouTubeが観たいのです」
「だから今ウチ使ってるし、そもそも奏のせいで先月速度制限が・・・」
真下 英雄「・・・・・・」

〇散らかった部屋
向井 奏「お姉ちゃん、ケチなのです」
向井 音「だったら、二度と貸してあげないから」
真下 英雄「これでいい?」
向井 奏「テレビでYouTubeが観られるのですか!?」
真下 英雄「お願いだから、静かにしててね」
向井 音「申し訳」

〇汚い一人部屋
真下 英雄「ここのコードが悪さしてるから・・・」
  カタカタカタカタカタ・・・
「お腹が空いたのです」
真下 英雄「・・・はいはい」

〇散らかった部屋
真下 英雄「どうぞ」
向井 奏「いただきますなのです」
向井 音「映えないな~」
真下 英雄「ごめんね、the 男の手料理で」
向井 音「あ・・・申し訳」

〇汚い一人部屋
真下 英雄「えっと・・・だから・・・つまり・・・」
  カタカタカタカタカタ・・・
真下 英雄「もう、今度は何!?」

〇散らかった部屋
  急激に発達した低気圧により、一部地域で大雨警報が──
向井 音「お母さん、傘持ってないって」
向井 奏「どうするのですか?」
「(じーっ)」
真下 英雄「勘弁しろし・・・」

〇駅前ロータリー
向井 小百合「止まないな・・・」
「ママ~」
向井 小百合「? 今の声・・・」
向井 奏「コッチなのです~」
向井 音「迎えに来たよ~」
向井 小百合「音!? 奏!?」
真下 英雄「あ~・・・お隣の真下です」
向井 小百合「は・・・はぁ」

〇白いアパート
「──っていう事があった訳だ」

〇汚い一人部屋
真下 英雄「だから・・・」
大家 健「そうか」
大家 健「英雄もついに恋をしたか」
真下 英雄「・・・は?」
大家 健「まったく、リモートじゃなけりゃ抱きしめてあげられたのにな」
大家 健「何たって、あの英雄から恋愛相談をされる日が来たんだから」
大家 健「な?」
真下 英雄「話、聞いてたか?」
真下 英雄「これは恋愛相談じゃなくて進捗報告」
真下 英雄「『作業遅れてます』っていうバッドニュース」
大家 健「案ずるな」
大家 健「英雄の恋路のためだ」
大家 健「多少納期が遅れたとして、先方には俺がいくらでも土下座してやるから」
大家 健「な?」
真下 英雄「ったく・・・」
真下 英雄「ん? 客か・・・」
真下 英雄「報告終わったから、切るぞ~」
大家 健「おい待て、今から俺が愛の心得について・・・」
真下 英雄「ふぅ~」

〇散らかった部屋
向井 小百合「先日は、娘たちがご迷惑をおかけしまして・・・」
向井 小百合「申し訳ありませんでした」
真下 英雄「いえいえ、お気になさらず」
向井 小百合「ほんの気持ちなので」
真下 英雄「じゃあ、まぁ・・・」
真下 英雄「今日は、お休みですか?」
向井 小百合「はい」
向井 小百合「真下さんは、家でお仕事を?」
真下 英雄「出社は月一で、あとはリモートワークですね」
向井 小百合「良い時代になったのか、嫌な時代になったのか・・・」
真下 英雄「それで言うと、娘さんたちの方が大変でしょう?」
真下 英雄「特に上の・・・音ちゃんは受験生ですし」
向井 小百合「実は、その音の事でご相談があるのですが・・・」
真下 英雄「? ご相談・・・?」

次のエピソード:第2話『英雄と音ちゃん』

コメント

  • すっごい楽しいです!
    在宅ワーク、そしてお隣さんという日常の要素に、個性豊かな向井姉妹の存在、取り合わせが魅力的ですねー!

  • 奏ちゃんがとても可愛かったです☺️
    あんなふうに言われたら言う事聞いてしまいますよね!😁
    お母さん帰って来なかったらどうしよう…と思っていたけど、無事に帰って来て良かったです😂

  • 男性と娘たちと母親、自分がどの立場にあるかで受け取り方が違ってきそうなシチュエーションで、興味深く拝読しました。奏と音の独特のキャラクターが醸し出す軽妙な雰囲気がなんとも言えない味わいで👍。特に姉の音の「申し訳」がツボで、次はいつ言うか楽しみになるくらい。お母さんまで「申し訳」かと思ったら「ありませんでした」がついててホッとしました。

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