読切(脚本)
〇雑居ビル
〇カラオケボックス(マイク等無し)
葉子「〝猫になりたい~ 輝く朝日が昇るまで~♪〟」
空美「ああ・・よう子先輩のウィスパーな歌声・・!」
空美(いつ聞いても癒される! 浄化される!)
空美(脳ミソの後ろの方がジュワ~!てなる!)
空美(たまに音程が外れて照れるところなんか、養分にしかならん)
葉子「あの、空美ちゃん?」
空美「はい。次は歌詞にエッチな暗喩がいっぱいある曲でお願いします」
葉子「そうじゃなくて、今日は何か大事なお話があるんじゃなかった?」
空美「あ、そうでした。あたしったらまたトリップして」
空美「進路のことなんですけど、両親も仙山女子高を受験することに賛成してくれました」
空美「合格したら、もちろんテニス部に入部します」
葉子「ほんとに! じゃあまた、中学のときみたいに毎日一緒にいられるわね」
葉子「大事な話って、このことだったのね」
空美「ちがいます! 今のはただの報告ですよ」
空美「本題はこれからです」
空美「先輩、あたしに何か内緒にしてることがありませんか?」
空美「とっても大きな秘密を・・・!」
葉子「ええと、何のことかしら?」
空美「真実を告白してくださいね」
空美「あたしたち、姉妹(スール)の契りを結んだ深い関係なんですから」
葉子(そういえば、強引にそういうものを契らされたような・・・)
葉子「でも空美ちゃん、私ほんとに心当たりが・・・」
空美「少し前に、二人でショッピングモールに遊びに行ったじゃないですか」
空美「その帰り──」
〇立ち食い蕎麦屋
空美「立ち食いソバ屋さんに寄ったでしょう」
〇立ち食い蕎麦屋の店内
空美「そのとき、先輩はキツネそばをすごく美味しそうに食べてたんですけど──」
葉子「チュルチュル!」
空美「あたし、見ちゃったんです」
ピョコ!!
空美「一瞬だけど先輩の頭から、モフモフの狐耳が飛び出したのを!!」
〇カラオケボックス(マイク等無し)
葉子「はあ!?」
葉子「そ、それはさすがに空美ちゃんの見間違いだと思うけど」
空美「正直、あたしも始めは、ケモミミ萌えでもある自分の妄想が生み出した幻覚じゃないかって疑いました」
空美「ただでさえ萌えキャラな葉子先輩に、さらにケモミミがプラスされるなんて、盆と正月が一緒に来たみたいですから♡」
空美「そんな都合のいいこと、リアルであるわけないって」
空美「とうとう、あたしの脳ミソも溶け始めたって」
空美「でも最近になって思い出したんです」
空美「うちの地元って、やたらと狐にまつわる昔話が多いことを」
葉子「そういえば、そうね」
〇神社の本殿
葉子「地元の仙山稲荷神社は、狐の像や奉納絵だらけだしね」
葉子「神の使いである白狐が村を救う話とか、お殿様にイタズラをする化け狐の話なんかは聞いたことあるわ」
〇カラオケボックス(マイク等無し)
空美「でしょう? だから葉子先輩が狐でも、ちっともおかしくないと思うんです」
葉子「それは飛躍しすぎでしょ!」
葉子「伝承なんて、ほとんどフィクションなんだから」
空美「だからあたし、今日はそれを確認したかったんです」
葉子「確認って、何を──」
空美「では、試してみましょう!」
空美「もしこれで、葉子先輩が狐でないとわかったら、あたしはカウンセリングでも措置入院でも何でもしますから」
ジ──ッ・・・
葉子「こ、これは!?」
空美「浅草の老舗専門店から取り寄せた、最高級稲荷寿司です」
空美「送料別で、二千円もしました」
空美「キツネは、油揚げが大好物なんですよね?」
葉子「そ、空美ちゃん、い、一個だけお願い・・!!」
空美「どうぞ」
葉子「パクッ!」
葉子「ガツガツ!!」
葉子「ガツガツ!!」
ピョコ!!
空美(あ!! 出た!!)
空美(やっぱり♪)
空美「そうだ!」
〇カラオケボックス(マイク等無し)
葉子「ガツガツ!!」
葉子「ガツガツ!!」
〇カラオケボックス(マイク等無し)
空美「キャーーーッッ!!」
空美(あ~尊すぎて、全身のあらゆる穴からお汁がダダ漏れる・・・!)
空美「ハアハア・・・!!」
空美「興奮して鼻血が出るのって、漫画だけじゃなかったんだ!」
葉子「ガツガツ!!」
空美(テニス部のアイドルだった葉子先輩の一番のお気に入りになるために──)
空美(他の部員たちと血で血を洗う争いを繰り返し、勝ち抜いたかいがあったわ)
空美「全部食べちゃいましたね。美味しかったですか?」
葉子「はっ!!」
葉子「あ、あの、私・・・」
空美「フフフ・・・ ケモミミもシッポもすごく素敵ですよ♡」
空美「バッチリ撮影した変身シーンは、生涯無限リピートします」
葉子「ち、ちがうの、これは! 化け狐なんかじゃなくて・・・」
葉子「私、動物みたいに食べ物にいやしいから、こういう比喩表現で描かれてるだけなの」
空美「ウソです。なんでも一口くれる先輩は、いやしくなんかありません」
空美「おいなりさんの美味しさだけは格別で、本能に逆らえなかったんですよね(笑)」
葉子「空美ちゃん、お願い」
葉子「今まで隠してたことは謝るから、みんなには内緒にして」
葉子「正体がバレたら、今の生活が送れなくなっちゃう」
葉子「何百年もかかって、やっと大好きな人間界に溶け込んで暮らせるようになったのに・・・」
空美(あ~葉子先輩の涙目おいしそう。すすりたい!)
空美「わかりました。大大好きな葉子先輩がそう言うなら、この秘密は墓場まで持っていきます」
葉子「ありがとう、空美ちゃん!」
空美「だけど、この姉妹(スール)の証として受け取ったロザリオはお返しします」
葉子「あ、失くしたと思ってた翡翠のペンダント。空美ちゃんが持ってたの?」
空美「だって、いくら可愛いくても、ケモノと姉妹だなんてありえませんもん!」
葉子「そんな!? 空美ちゃんヒドい・・・」
空美「代わりにこれを、受け取ってもらいます!!」
葉子「え? 首輪!?」
空美「はい。これからは、飼い主とペットの主従関係です♡」
空美「あたし、良い飼い主になりますから、葉子先輩も従順に何でも言うことをきいてくださいね」
空美「全力で可愛いがりますから! ハアハア・・・!!」
〇ハート
おわり♡
スチルの狐の絵が神秘的でステキでした。空美ちゃんの加虐嗜好的サイコパスぶりもなかなかですね。涙目おいしそう、って普通の感覚では出てこないセリフ。主従関係を結んだはいいけど、飼い犬ならぬ飼い狐に手を噛まれないように気をつけないとですね。
うわー、葉子先輩可愛いー! と空美ちゃんと同調しながら読んでしまいましたw
ケモミミに目覚めそうになる魅力的な作品ですね!
ハッピーエンドなのかどうかはわかりませんが、なんだか幸せそうで!お互いに!
人間の世界にも狐や狸以外にも化けて人間として生活してる人がいるかもしれませんね!