エピソード32(脚本)
〇草原
再生したゼノンの左腕が青い電気を纏(まと)い始めた。
ニルの頰に嫌な汗が伝う。
しかし、ニルが構えたときにはすでにゼノンの姿は消えていた。
ニル「ッ!」
ガキンッという激しい音とともに、周囲にバチバチッと火花が散る。
ニルは背後から繰り出されたゼノンの攻撃を間一髪のところで受け止めていた。
目では追えないほどの素早い攻撃だったが、ニルの身体は反射的にゼノンの攻撃に反応したのだ。
無理な体勢にもかかわらず、ニルはゼノンのブレードをがっちりと受け止めていた。
しかし背を取られたニルは、不利な状況に追い込まれた。
ゼノンの口角が上がるのと同時に彼のブレードが纏う青い放電が一気に強くなる。
ニル「ぐあっ!」
ニルの身体が吹き飛ばされる。
そして派手に転がりながらもなんとか立ち上がった。
しかし服は焼け焦げ、身体はゼノンの纏う雷の残滓(ざんし)にあてられ、思うように動かない。
ボロボロになった身体を引きずるニルの姿をゼノンは黙って見下ろしていた。
〇西洋の城
一方そのころ。
メルザムにいるエミリアは、現在の状況を全くつかめずにいた。
目の前にいた青年が突如として消え、白銀の龍だけが取り残されたこの状況をすんなりと飲み込むことができなかった。
ただひとつはっきりしていることは、自分が数秒前まで死を前にしていたということだけだった。
エミリア(・・・もし、あれがあのまま振り下ろされていたら・・・)
おそらく、メルザムという街はこの世界から消滅していただろう。
落ち着いて状況を飲み込んだエミリアは、あまりの力の差に戦慄(せんりつ)していた。
身体が震える。
たが、恐怖する間もなくガルバニアスの咆哮(ほうこう)があたりに響く。
エミリアはハッと我に返り、落とした槍を拾うと即座に構えた。
ガルバニアスはエミリアとかなり離れた位置にいるものの、エミリアは油断することなく、警戒の体勢を崩さない。
そんなエミリアの近くに人影がふたつ。
振り返るとそこにいたのはアイリとエルルだった。
エミリア「・・・アイリか」
アイリ「ええ、久しいわね。エミリア」
互いの名を知るこのふたりは過去に何度か共闘したことがあった。
エミリアはアイリの腕を認めていて、しつこく騎士団に勧誘していた。
しかしアイリはそのたびに断っているため特別仲が良いというわけではなかった。
周囲を見渡すと、辺りにはエミリアとアイリ、エルルの3人以外はもう残っていなかった。
あまり見覚えのないエルルを見ながら、エミリアは眉間にシワを寄せる。
エミリア「・・・お前は?」
エルル「はじめまして! エルルと言いますっ!」
エミリア「上級か? ならば今すぐ逃げろ。 お前の太刀打ちできる相手ではない」
エルル「上級? 私、コレクターじゃないですよ」
エミリア「は?」
「ならばなおさらこの場を離れろ」とエミリアが怒鳴るより早く、視界の端でガルバニアスが動いた。
ガルバニアスは大きな尻尾を振るい、エミリアたちの方へ大きな岩を飛ばす。
とっさに槍で粉砕しようとするエミリアの前にエルルが飛び出した。
エミリア「バッ・・・!」
焦るエミリアをよそに、エルルは自身のハンマーで難なく岩を打ち返す。
ガルバニアスは返された岩を巨大な翼で防いだ。
エミリア「な、な・・・え?」
コレクターでもない少女が、身体より何倍も巨大な岩を易々と返した。
エミリアは目の前で起こったことに言葉が出ない。
アイリ「そういうことよ」
平然としているアイリにエミリアはふう、と息を吐いた。
エミリア「・・・なるほどな」
しかし、とエミリアは表情をきりっとさせてふたりを見る。
エミリア「たが・・・わかっているのか? エルル・・・アイリもだが・・・」
エミリア「・・・死ぬことになるぞ。 おそらく私たち3人でもあいつには勝てない」
エミリアの言葉に、エルルはにっこりと微笑む。
エルル「大丈夫です。 時間を稼げばきっとニルさんが戻ってきてくれます!」
エミリア「ニルだと? やつならさっき一目散に逃げていったじゃないか!」
エルル「違います! ニルさんはそんな人じゃありません。 絶対、なにか事情があったんです」
エミリア「そんなわけ——」
エミリアにとってニルは拍子抜けするほど弱かった相手だ。
しかも逃げ出すところを見ている。
力だけで言えば、ニルよりエルルのほうが上だろう。
そんなエルルがニルを評価しているのがエミリアは不思議でならなかった。
しかしエミリアがニルについて反論しようとすると、今度はアイリが遮(さえぎ)った。
アイリ「そうね。アイツはやるときはやる男よ」
エミリア「・・・・・・」
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