殺し屋、出勤中。

吹宮良治

エピソード2(脚本)

殺し屋、出勤中。

吹宮良治

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〇シンプルな一人暮らしの部屋
不破誠「・・・7時」
不破誠「こんな寝るのに気持ちいい時間に出勤するのかサラリーマンは。 尊敬に値する」
  マニュアル本を手に取り自己紹介の練習をする不破。
不破誠「えー、初めまして、不破誠です」
不破誠「独身です・・・」
不破誠「・・・こんなことまでいうのか?」
不破誠「昨日、咄嗟に買ってしまった本だが・・・」
不破誠「合コン自己紹介術?」
不破誠「これじゃ全然使えないじゃないか!」
不破誠「くそ、もう時間がない。 ・・・だめだ、緊張してきた」
不破誠「今日は風邪をひいたと嘘つくか」
不破誠「いや、初日からそんなやついるのか?」
不破誠「確実に印象は最悪だ。 やはり俺に会社員だなんて無理な話」
不破誠「そうだ、寝よう。 寝れば全てが終わっている」
  携帯が鳴る。電話に出る不破。
「ちゃんと起きてたか。 そろそろ現実逃避をする頃かと思ってな」
  電話はボスの新堂からだ。
不破誠「・・・・・・」
「お前と何年の付き合いだと思ってる」
不破誠「・・・・・・」
「一つだけ助言をする」
不破誠「・・・・・・」
「お前は、警察、ヤクザも恐れる伝説の殺し屋だ。 それを忘れるな」
不破誠「・・・ボス」
  電話が切れる。
不破誠「・・・どういう意味?」

〇高層ビル
不破誠「恐るべし通勤ラッシュ」
不破誠「あんな密着した電車内で狙われでもしたら終わりだ」
不破誠「毎日危険と隣り合わせで通勤しているとは、伊達に日本経済を支えてるわけじゃないな」
間瀬口徹「見ない顔だね。新人さんかい?」
不破誠(まずい! すでに本丸の前まで来てしまってるじゃないか)
間瀬口徹「そういえば今日新しく入ってくるって言ってたな」
間瀬口徹「俺はね、この会社のことは何だって知ってるんだ」
不破誠「・・・・・・」
間瀬口徹「清掃員の間瀬口(ませぐち)って言ったら、社員も一目置く情報屋だ。よろしく」
不破誠(・・・なんなんだこの男は。 ものすごい速さで人の心に土足で入ってくるじゃないか)
間瀬口徹「おたくは名前なんて言うの?」
不破誠(もしや! 組織のスパイ? 俺を監視するために雇われたのか?)
間瀬口徹「ん? 体調でも悪いの?」
不破誠(ふふ。 そんな格好しても俺の目は誤魔化せないぞ。 どうせ間瀬口って言うのも偽名だろう)
間瀬口徹「え? なになに? なんでちょっと笑ってんの?」
不破誠(そうやっていつまでもしらをきってるがいい)
不破誠(しかし、今はお前に構っている余裕はない!)
間瀬口徹「・・・ヤバい奴が入ってきたなこりゃ」

〇オフィスのフロア
不破誠(今ならまだ引き返せる。 逃げたっていいじゃないか。 現実逃避の何が悪い)
不破誠(上等だ、こんな苦しみを味わうなら十三階段上がってやる。 華々しく散ってやろうじゃ)
磯ヶ谷敏文「そんなとこに突っ立ってちゃ邪魔だよ」
磯ヶ谷敏文「もしかしてキミ、不破くんかな?」
不破誠「・・・・・・」
磯ヶ谷敏文「どうした? 違うの?」
  頷く不破。
磯ヶ谷敏文「おーい、みんな、今日から中途で入ることになった不破くんだ」
不破誠(初めまして不破誠です。 初めまして不破誠です。 俺ならできる!)
磯ヶ谷敏文「君と一緒にデスクを囲む営業部の仲間たちだ」
中堀伸介「中堀(なかほり)です」
中堀伸介「営業成績トップで、いちおうエースです」
不破誠(自分でエースというとは、よっぽど自信があるのか)
不破誠(それとも馬鹿なのか。 とりあえず要注意だな)
石田克典「この時期に中途だなんて珍しいっすね。 前は何やってたんすか?」
石田克典「あ、あまり詮索しちゃ失礼っすよね」
石田克典「俺、石田って言います。 よろしくです」
不破誠(口の軽そうな男だな。 こいつも要注意だ)
高井雄太「高井です」
高井雄太「まだ僕も入ったばかりなんで、一緒に頑張りましょう」
不破誠(新卒か。息子でもおかしくないくらい歳が離れすぎてる。 こいつは要観察だな)
星野千尋「星野千尋(ちひろ)です」
星野千尋「みんなからは下の名前で呼ばれてるんで、良かったら不破さんもお願いしますね」
不破誠(呼べたらな)
磯ヶ谷敏文「私が部長の磯ヶ谷(いそがや)だ。 よろしく頼むよ」
不破誠(ここのボスってことか)
磯ヶ谷敏文「それじゃ不破くんからも一言挨拶を」
不破誠「・・・・・・」
磯ヶ谷敏文「ん?」
不破誠(落ちつけ、落ちつけ。俺ならできる! 初めまして不破誠です。 初めまして不破誠です・・・)
磯ヶ谷敏文「不破くん?」
不破誠「独身です!」
不破誠(し、しまった! あの本につられてしまった! しかも名前すら言っていない)
磯ヶ谷敏文「・・・・・・」
不破誠(・・・終わった)
磯ヶ谷敏文「あっはっは」
磯ヶ谷敏文「見かけによらずユーモアがあっていいじゃないか」
星野千尋「そんなこと言うなんて、不破さんもしかして肉食系?」
石田克典「なんか中堀さんとキャラ被ってません? 営業成績抜かされちゃうかも」
中堀伸介「うるせーよ」
不破誠(なんだなんだこの感じ。 上手くいったのか? 俺は上手く自己紹介できたのか!)
磯ヶ谷敏文「そういえば結城(ゆうき)くんは?」
星野千尋「たぶんトイレに・・・」
不破誠(ふふ。 どうなることかと思ったが、運も俺に味方しているみたいだ)
星野千尋「あ、戻ってきました」
磯ヶ谷敏文「結城くん、今日から一緒に働いてもらう不破くんだ」
結城あかり「はじめまして」
結城あかり「結城あかりです」
不破誠「・・・・・・」
磯ヶ谷敏文「不破くんの席は結城くんの隣だな」
結城あかり「分からないことがあったら何でも聞いてください」
不破誠(・・・まさか隣の席とは)
不破誠(結城あかり)
不破誠(俺はこの女を消すことができるのか)

次のエピソード:エピソード3

コメント

  • 続きが気になります!とても好きです!

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