第三話「4月、開幕戦」(脚本)
〇ボロい倉庫の中
花ケ崎がスーツの男から
何かを受け取っている。
花ケ崎健治「これが例のモノか」
スーツの男「効果は保証する」
花ケ崎健治「いいだろう。 ただし金は効果を確かめてからだ」
スーツの男「だがそんなもの・・・何に使う気なんだ? お前はいまなんの仕事をしている?」
花ケ崎健治「GMだ」
スーツの男「GM・・・?」
〇小さい会議室
監督が険しい顔で話し、
清宮や主力選手たちが聞いている。
監督「開幕戦の先発は・・・北村で行く」
監督の言葉で、
北村真澄(きたむらますみ)が
ハッと顔を上げる。
北村真澄「はい・・・! がんばります」
開幕戦。それは年間行われる
何百試合の中でも特別の意味を持つ
どのチームも躍起になって勝ちを求め、
エースと呼ばれる一番いいピッチャーを
ぶつけて来るのだ
清宮泰助「北村。頼むぞ」
北村真澄「あ、ああ・・・任せておけ」
清宮泰助「本当に大丈夫なのか?」
北村真澄「今年は大丈夫だよ」
清宮泰助「・・・期待してるぞ」
〇警察署の食堂
不安げな顔で食事をしている清宮。
パフェを持った花ケ崎が来て、
清宮の前に座る。
花ケ崎健治「今から開幕戦に緊張しているのか?」
清宮泰助「あんたか・・・ていうか、 そんなデザート、メニューにあったか?」
花ケ崎健治「特別に作らせた。GM権限だ」
清宮泰助「なんでもありなんだな」
花ケ崎健治「北村のことが心配なんだろう?」
清宮泰助「・・・やはり調べていたか」
花ケ崎健治「北村真澄、28歳。キャプテン清宮と 同期入団にして、三年連続二桁勝利を 挙げているエースピッチャー」
花ケ崎健治「だが・・・過去開幕戦は3戦3敗」
清宮泰助「ポテンシャルはある。 だが、あいつはメンタルが弱い。 ここ一番がダメなんだ」
花ケ崎健治「データを見ると、開幕戦だけじゃない。 大事な試合はことごとく 落としているようだな」
清宮泰助「あいつの力は俺が一番わかっている。 平常心で臨めれば、あいつの球は そうそう打てるはずがないんだ」
花ケ崎健治「任せておけ。俺に考えがある」
清宮泰助「! お、お前、また何か変なことを」
花ケ崎健治「また?」
清宮泰助「い、いや・・・それは──」
清宮泰助(しらばっくれやがって。 浜田さんの事故や木村アナウンサーの件は お前の仕業なんだろ?)
花ケ崎健治「まあいい。明日ブルペンに来てみろ。 面白いもんが見れるぞ」
〇野外球場
北村がマウンドで剛速球を投げている。
近くで見守る清宮。
清宮泰助「絶好調だな」
北村真澄「だろ!? そうだろ!? 球の走りが全然違う。 打たれる気がしねぇー!」
清宮泰助(な、なんだ。 この異常なテンションは・・・ これがあの北村か?)
北村真澄「清宮! 今年は優勝するぞ! 俺も20勝は行ける。間違いない!!」
清宮泰助「そ、そうか・・・」
北村真澄「どうした? 何か不安か?」
清宮泰助「いや、いつもなら試合三日前にもなれば プレッシャーで苦しんでるだろ? 今回はどうしたんだ」
北村真澄「はっはっは! そんなときもあったか!? 忘れちまった!」
清宮泰助(おかしい・・・何がどうなっている)
〇更衣室
清宮がロッカーの前で着替えている。
清宮泰助(北村のやつ・・・まるで別人だった。 あいついったい──)
北村のロッカーが空いている。
周囲を伺いながらこっそり覗くと、
中に錠剤の入った小瓶を見つける。
清宮泰助「! こ、これ・・・もしかして──」
花ケ崎健治「他人のロッカーを覗くとは、 なかなか悪趣味だな」
清宮泰助「あんた・・・!」
花ケ崎健治「どうした? 怖い顔をして」
清宮泰助「これ・・・あんたが北村に渡したのか?」
花ケ崎健治「ああ。ただのビタミン剤だ」
清宮泰助「それは本当なのか?」
花ケ崎健治「何が言いたい?」
清宮泰助「俺は長年北村を見ている。 開幕直前で、あいつがあんな テンションなのは異常なんだよ!」
花ケ崎健治「回りくどい。 はっきり言ったらどうなんだ?」
清宮泰助「これは違法薬物なんじゃないのか?」
花ケ崎健治「・・・・・・」
清宮はキレて花ケ崎の胸倉を掴む。
清宮泰助「なんとか言え! 北村の選手生命だけじゃない。 チーム全体が破滅しかねないんだぞ!」
花ケ崎健治「・・・文句があるなら 検査結果が出てから言え」
清宮泰助「は?」
花ケ崎健治「ああ、キャプテンは聞いてないのか。 今夜、全球団一斉で薬物検査が 入ることになっているんだ」
清宮泰助「!!」
〇小さい会議室
監督の前で、清宮や北村を始めとした
全選手が集まっている。
顔面蒼白の清宮を、隅にいる花ケ崎が
涼しい顔で見つめている。
清宮泰助(あいつの言う通りだった・・・ 俺を含めた全選手が、 昨晩一斉検査を受けた)
北村真澄「・・・・・・」
清宮泰助(当然、北村も──)
監督「今日はミーティングの前に、 昨日の薬物検査に関して報告がある」
清宮泰助「・・・っ!」
監督「スタッフ含め、 全選手が検査を行ったが・・・」
監督「陽性反応が出た者はいなかった。 まあ当然だな」
清宮泰助「なっ・・・!」
監督「なんだ、キャプテン。 誰かに陽性反応が出て欲しかったのか?」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)