託された人形(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
夢を見ていた‥
争う声、逃げる人々、燃え盛る炎
様々な感情が流れ込んでくる‥
憎しみ、恨み、妬み‥
そんな負の感情が‥
〇古いアパートの一室
若宮はづき「何だろう‥嫌な夢 何の夢だろう、暴動や戦争?‥あれ?そんなニュースやってたっけ?」
〇築地市場
レポーター「今日の市場も非常に活気にあふれていて、 たくさんの元気をいただきました 現地からは以上でした!」
アナウンサー男性「はい、ありがとうございました いやー、やっぱり活気があっていいですね」
アナウンサー女性「ほんとですねー! 皆さんもぜひ、お魚をたくさん召し上がって下さいね」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「なーんだ、やっぱりただの夢か 良かったー、シャワー浴びてこよっと」
「では、続いてのニュースです‥」
〇荒廃した市街地
アナウンサー女性「先日よりお伝えしています、SNSがきっかけで暴動にまで規模が拡大している海外でのニュースです」
アナウンサー男性「ついに死傷者が出る事態にまでなってしまい、現地では未だに混乱収拾の目途が経っておらず‥‥」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「さて、そろそろかな‥」
ピンポーン♪
〇アパートの玄関前
配達員「毎度どーも トランクを届けにきましたよ」
若宮はづき「はい、ありがとうございます」
配達員「じゃあ、いつも通り昨日のトランクも回収していきます」
若宮はづき「はい、ありがとうございます」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「さて、今日の中身は‥」
若宮はづき「なんだこれ?」
若宮はづき「あっ、メモはと‥反町北4-6-23 グランメゾン2403 遠野井卓哉 男性 15時‥なんか、細かく書いてあるな‥」
若宮はづき「もう青が見えるから、わざわざ隠す必要も無いってことなのかな‥まあ、行ってみますか」
〇マンションの入り口
若宮はづき「このマンションか‥」
〇マンションのオートロック
若宮はづき「えーっと、2403号室っと‥」
ピンポーン♪
「はい‥どなたでしょうか」
若宮はづき「あのー、遠野井卓哉さまのお宅で宜しいでしょうか?」
「‥あの、何の御用でしょう?」
若宮はづき「すいません、遠野井卓哉さまはご在宅でしょうか?」
「‥‥」
若宮はづき「‥あのー‥」
「遠野井卓哉は亡くなりました」
若宮はづき「‥えっ?」
「先週、亡くなりましたが‥あの、どういったご用件でしょうか?」
若宮はづき「あっ、あの、すいません、知らなかったもので‥あの、改めたお伺いします、失礼します」
〇マンションの入り口
若宮はづき「びっくりした、亡くなったって‥」
〇商店街
若宮はづき「こんな事もあるんだなぁ‥でも、届ける前に亡くなってるなんて、どうしたら‥」
若宮はづき「夜の電話で確認するしかないよな‥」
若宮はづき「何かやる事なくなっちゃたなぁ‥あっ!」
若宮はづき「飲み屋さんが開いてる‥‥えーい、ちょっと飲んじゃうか?」
〇立ち飲み屋
若宮はづき「すいませーん、生ビール!」
「あいよー!」
若宮はづき「それにしても、珍しい、こんな事‥」
居酒屋店主「はい、お待ち、生ビールね」
若宮はづき「あと、ポテトサラダと唐揚げも下さい」
居酒屋店主「はい、ポテサラと唐揚げね」
若宮はづき「亡くなってるなんて‥確認してないのかな?意外とその辺がざっくりしてたりして‥」
若宮はづき「(違う、そんなわけない、瑠璃沢さん達がこの事に気がついて無いわけがない‥)」
若宮はづき「じゃあ、わかってて来させたって‥こと?」
〇立ち飲み屋
客1「そういえば最近見ないね、たくちゃん」
客2「なぁ、だいたい今ぐらいに一緒に飲んでたんだけどな?」
客1「何か忙しくなったのかな?」
客2「えっ?もう仕事引退したって言ってたけどな」
客1「そうなのか?」
客2「ああ、もうゆっくりしたいんだと」
客1「へー、まあ、俺らもそうだけどなー」
客2「ほら、これ貰ったろ?」
客1「ああ、貰った貰った」
〇立ち飲み屋
若宮はづき「あっ!あの人形!」
〇立ち飲み屋
客2「何でこんなのくれるんだろって思ったけどな」
客1「何か、見てると癒されるんだよな」
客2「なぁ、イライラした時にこれ見ると落ち着くんだよ」
客1「たくちゃん、今は知り合った人にこれをあげるのが楽しいんだって言ってたよ」
客2「へー、まあ、たくちゃんも物好きだよな」
若宮はづき「あのー‥」
客1「は?」
客2「なんです?」
若宮はづき「その人形、どうされたんですか?」
客2「どうされたって、もらったんだけど」
若宮はづき「その‥どなたに?」
客2「いや、たくちゃんだけど‥」
若宮はづき「たくちゃんって、遠野井卓哉さんのことですか?」
客1「遠野井? いやー、ちゃんとした名前はしらないんだよな、ほら、ここで会って話したりするだけだから」
若宮はづき「そうですか‥」
客2「あれ?でも、そんな名前だって言ってたような‥」
客1「なんだよ、聞いた事あったか?」
客2「遠井か遠野か‥そんなだったかなぁ‥苗字はうろ覚えだけど、下の名前は卓哉だったはずだよ」
客1「へー‥あっ!卓哉だからたくちゃんか! だってよ、よかったなお嬢ちゃん」
若宮はづき「それで‥お二人ともその人形、貰ったんですか?」
客2「ああ」
客1「まあな」
若宮はづき「お二人以外にもあげていましたか? その、たくちゃんは?」
客2「いやー‥どうかな?仲良くなった人にはあげてるとか言ってたけど」
客1「そうだな、俺たちもこの時間にしか会った事ないからなぁ」
若宮はづき「‥そうですか」
〇立ち飲み屋
居酒屋店主「はい、お待ち!ポテサラと唐揚げね」
若宮はづき「はい‥あっ!」
居酒屋店主「えっ、どうかした?」
若宮はづき「あの‥ご主人も人形貰いましたか?」
居酒屋店主「人形?」
客1「ほら、これだよこれ、よく来てたたくちゃんにさ、貰ったかって」
居酒屋店主「あー、これね、もらったもらった 可愛いからほら、厨房に置いてあるよ」
若宮はづき「あー‥やっぱり」
居酒屋店主「何かな、和むんだよな」
客1「なーそうだろ?そうなんだよー」
若宮はづき「‥‥」
客1「うん?お嬢ちゃん、どうかしたか? 考えこんじゃって?」
若宮はづき「‥これ、ポテサラと唐揚げ、まだ手を付けてないんで、よかったらどうぞ」
客1「えっ?」
若宮はづき「ご主人、すいません、お会計して下さい」
居酒屋店主「おっ、わかったけど‥どうかしたのかい?」
若宮はづき「すいません、急用を思い出したので‥ じゃあお金はここに置いておきます 皆さん、お騒がせしました」
居酒屋店主「おっ、おう」
客2「忙しそうな子だな」
客1「唐揚げうめぇな!」
客2「もう喰ってんのかよ‥」
〇商店街
若宮はづき「どういうことなの‥」
若宮はづき「どうして人形を貰った人は、みんな青く光ってるのよ‥」
若宮はづき「これじゃ‥トランクの中身を渡してるのと同じじゃないの‥」
〇公園の入り口
若宮はづき「公園‥ちょっとここで休もう‥」
若宮はづき「それにしても、どうなってるんだろう? 人形を貰った人と青い光って‥」
若宮はづき「何か意味が‥あれ?」
〇公園の砂場
若宮はづき「ねえ、君?」
三友雄大「なあに?」
若宮はづき「その、砂場に描いているのって、もしかして‥」
三友雄大「これ?たっくんだよ」
若宮はづき「たっくん?」
三友雄大「この子はたっくんって言うんだよ」
若宮はづき「たっくん‥ねえ、それって、この人形の事じゃないの?」
三友雄大「あっ!たっくんだ」
若宮はづき「たっくんって言うの?この人形?」
三友雄大「うん、おじさんがね、今度あげるねって言ってたの」
若宮はづき「おじさん?」
三友雄大「そうだよ」
〇公園の砂場
2週間前
遠野井卓哉「どうかしたの?」
三友雄大「‥‥」
遠野井卓哉「なんだか元気がなさそうだけど」
三友雄大「‥話しちゃいけないんだよ」
遠野井卓哉「そうなの?」
三友雄大「話したりしたら、捕まっちゃうんだよ、おじさんが」
遠野井卓哉「あー、なるほど 確かにそういう事もあるね」
三友雄大「だから、話したりしたらいけないんだよ」
遠野井卓哉「そうかそうか、それは気をつけないとな じゃあ、おじさんはここで一人でしゃべるから、よかったら聞いててくれないか?」
三友雄大「‥ひとりでしゃべるなら大丈夫だよ」
遠野井卓哉「それはよかった、おじさん、今砂場にいる男の子が元気が無いみたいなんだけど、何かあったのかなって思ってね」
三友雄大「‥‥」
遠野井卓哉「例えば、お家でママに怒られたりしたんじゃないかな?」
三友雄大「‥‥」
遠野井卓哉「それから、ママが帰って来なくて、どうしたらいいかわからなくて、困ってるんじゃないかって思ってるんだ」
三友雄大「‥何で知ってるの?」
遠野井卓哉「うーん、おじさんはね、ちょっと魔法が使えるんだよ」
三友雄大「魔法?」
遠野井卓哉「そう、誰かの悩みがちゃんとわかって、そして元気にする魔法がね」
三友雄大「ふーん」
遠野井卓哉「君は元気になりたくない?」
三友雄大「うーん、わかんない」
遠野井卓哉「わからないの?」
三友雄大「だって僕が元気でも、ママは元気が無いし‥」
遠野井卓哉「‥そうなのか」
三友雄大「だから僕だけ元気になっても、たぶんママは怒るかもしれないし‥」
遠野井卓哉「‥ママは好き?」
三友雄大「‥‥好き」
遠野井卓哉「そうか‥」
三友雄大「‥うん」
遠野井卓哉「‥よし、じゃあ、君にプレゼントをあげるよ」
三友雄大「プレゼント?」
遠野井卓哉「そう、いま砂場に描くから、ちょっと見てて」
三友雄大「‥うん」
遠野井卓哉「‥‥」
遠野井卓哉「よし!出来た」
三友雄大「この絵はなあに?」
遠野井卓哉「これはね、元気の男の子『たっくん』だよ」
三友雄大「たっくん?」
遠野井卓哉「そうだよ、今度おじさんが来るときに『たっくん』を持って来てあげる そしたらね、君はそれをママにプレゼントするんだよ」
三友雄大「ママに?」
遠野井卓哉「そう、そうすれば、ママも元気になって、あんまり怒らなくなるから」
三友雄大「‥でも、知らない人から何を貰ったらいけないんだよ」
遠野井卓哉「知らない人か‥ おじさん‥僕の名前はね、遠野井卓哉って言うんだよ」
三友雄大「とおのいたくや?」
遠野井卓哉「そう、君の名前は?」
三友雄大「え?‥えーっと、三友雄大」
遠野井卓哉「雄大くんか、よし、これで二人はもう友達だね」
三友雄大「‥そうなの?」
遠野井卓哉「うん、お互いに自己紹介したら、もう友達だよ」
三友雄大「友達‥」
遠野井卓哉「そう、だからもう知らない人じゃないから、君にプレゼントをあげてもいいんだよ 友達へのプレゼントだからね」
三友雄大「‥うん」
遠野井卓哉「よし、じゃあ今度人形を持って来るね」
三友雄大「うん、ありがとう」
遠野井卓哉「でも、とりあえず、いま雄大くんを元気にしないとね」
三友雄大「元気に?僕を?」
遠野井卓哉「そうだよ、こうするとね、元気になるんだよ」
〇公園の砂場
三友雄大「それでね、頭を撫でてくれたの」
若宮はづき「頭を?」
三友雄大「うん、そしたらね、何かね、元気になったの」
若宮はづき「‥‥」
三友雄大「でね、『たっくん』をくれるのをずっと待ってるんだけど、それからおじさん全然来ないんだ」
若宮はづき「そうなんだ‥」
三友雄大「早くママを元気にしたいのにな‥」
若宮はづき「‥あのー」
三友雄大「なあに?」
若宮はづき「‥実はね、雄大くんにこれを渡すよう、遠野井さんに頼まれたの」
三友雄大「えっ!おばちゃんが!」
若宮はづき「‥おねえさんがね」
三友雄大「‥おねえさん、じゃあ、そのたっくん、貰っていいの?」
若宮はづき「うん、もちろん! 遠野井さん、忙しいから直接渡せずにごめんねって言ってたよ」
三友雄大「そうなんだー、ありがとう!」
若宮はづき「だからさ、早くママにプレゼントしてきなよ」
三友雄大「わかったー! じゃあお家に帰るねー」
若宮はづき「うん、気をつけてね」
三友雄大「あっ、ねえ?おじさんはいつになったら、ここに来るのかな?」
若宮はづき「えっ!‥そうね、お姉さんにもわからないけど、今度あったら伝えておくよ 雄大くんが会いたがってるって」
三友雄大「じゃあ‥これ、おじさんに渡しといて!」
若宮はづき「ミニカー‥でも、何で?」
三友雄大「あのね、おじさんが『たっくん』をくれるから、そのお返し ママに買ってもらった僕の宝物だけど、おじさんにあげるの」
若宮はづき「‥そっか」
三友雄大「じゃあ、お家帰るねー おじさんに早く来てねって言っといてねー!」
若宮はづき「うん‥」
三友雄大「バイバーイ!」
若宮はづき「うん、バイバイ」
若宮はづき「宝物か‥ちゃんと渡さないとな‥」
〇マンションの入り口
〇マンションのオートロック
ピンポーン♪
「はい?」
若宮はづき「あのー、先程お伺いした者ですけど」
「先程?」
若宮はづき「はい、遠野井卓哉さんがご在宅かって‥」
「あー‥で、また何か?」
若宮はづき「はい、実は遠野井卓哉さんにお渡しするものがありまして」
「渡す‥でも、そう言われましても‥」
若宮はづき「はい、ですので、宜しければご仏壇にでも置かせていただければ‥それに出来れば、お線香も上げさせて下さい」
「‥‥わかりました、今鍵を開けますので、どうぞお入りください」
若宮はづき「ありがとうございます」
〇玄関の外
ピンポーン♪
「はい、開いてますのでお入りください」
若宮はづき「はい、失礼します」
〇シックな玄関
若宮はづき「あっ、あの、初めまして 私、若宮はづきといいます」
遠野井友佳梨「はい‥どうぞ、お入りください」
〇おしゃれなリビング
若宮はづき「あの‥この度はご愁傷さまでした それと、お線香あげさせていただいて、ありがとうございます」
遠野井友佳梨「はい‥あの、主人とはどういったご関係でしょうか?」
若宮はづき「あー‥、あっ!あの、瑠璃沢さんをご存じですか?」
遠野井友佳梨「瑠璃沢‥あー、何度か聞いたことがあります、確か仕事の関係でと」
若宮はづき「その人から頼まれまして、その―‥」
遠野井友佳梨「そうだったんですか‥私も主人の仕事を詳しくは知らないのですが、いろいろとお世話になったと聞いています」
若宮はづき「そうなんですか‥あの、商店街の飲み屋さん、昼間から開いてる‥そこによく行かれてたんですか?」
遠野井友佳梨「主人が?‥ あー、何だか聞いたことがあります ふふふ、楽しそうに話してましたよ」
若宮はづき「その時に遠野井さん、知り合った方に人形をあげてたんですよ?ご存じでしたか?」
遠野井友佳梨「人形?」
若宮はづき「はい、何と言うか、小さい男の子の形をした‥」
遠野井友佳梨「あー‥ちょっと待って下さい」
遠野井友佳梨「ふふふ、もしかして、これのことですか?」
若宮はづき「あっ!はい!これです!」
遠野井友佳梨「あははは、これね、私が作ったんですよ」
若宮はづき「えっ!」
遠野井友佳梨「あのね、もうずいぶんと昔の話なんですけど‥私たち夫婦、子供を亡くしてるんです」
若宮はづき「お子さんを‥」
遠野井友佳梨「ええ、当時はずいぶんと落ち込んでね、でもその時彼がね‥主人が絵を持ってきたの」
若宮はづき「絵?」
遠野井友佳梨「そう、可愛らしい男の子の絵を でね、この絵を人形にしてくれないかって」
若宮はづき「人形って‥もしかして」
遠野井友佳梨「そうなの、その人形よ 遠くに行ってしまったあの子の代わりに、これを持っていたいからって、そう言って‥」
若宮はづき「そうだったんですか‥」
遠野井友佳梨「ええ、私がね、その人形を作っているときは、いつもそばにいて、背中をさすってくれてたの‥」
遠野井友佳梨「どうしても泣きそうになるんだけど、彼に背中をさすられていると、不思議と気持ちが落ち着いてくるのよ」
若宮はづき「‥‥」
遠野井友佳梨「でも、まさかあんなにたくさん作ることになるとはね」
若宮はづき「たくさん?」
遠野井友佳梨「そうよー、もう10個は作ったかしら? 何か知り合いが出来ると、すぐプレゼントしたいって言って、私にまた作ってくれって」
若宮はづき「そういうわけだったんですか‥」
遠野井友佳梨「誰かにあげて、その人が穏やかになるのが嬉しいんですって 不思議よね?ただの人形なのに‥」
若宮はづき「‥あの、これ」
遠野井友佳梨「これは?」
若宮はづき「これ、ある男の子からのお返しです」
遠野井友佳梨「お返し?」
若宮はづき「あの人形をくれたお返しにって‥自分の宝物なんだそうです、それは遠野井さんに渡して欲しいと‥」
遠野井友佳梨「そうなの‥」
若宮はづき「その子、人形の事を『たっくん』って言ってました」
遠野井友佳梨「たっくん‥そうなの、あの子と同じね」
若宮はづき「同じ?」
遠野井友佳梨「ええ、亡くなったあの子、『託』って名前なの、願いを託すって字の託 私はいつも『たっくん』って呼んでたわ‥」
若宮はづき「‥‥」
遠野井友佳梨「ありがとうね、この宝物は仏壇に飾って置くわ」
若宮はづき「‥はい」
遠野井友佳梨「いろいろとありがとうございました その―‥瑠璃沢さん?その方にも宜しくお伝えください」
若宮はづき「はい、わかりました」
遠野井友佳梨「‥でも、寂しいものね、これで本当に一人になってしまって‥ 正直、これからどうしていいのかわからないのよ‥」
若宮はづき「‥あのー」
遠野井友佳梨「はい?」
若宮はづき「握手していいですか?」
遠野井友佳梨「握手?」
若宮はづき「はい」
遠野井友佳梨「ええ、まあ、かまわないけれど‥」
若宮はづき「じゃ‥」
若宮はづき「あの、遠野井さん、私はお会いした事は無いんですけど、色んな方に好かれてたんだと思います」
遠野井友佳梨「‥‥」
若宮はづき「飲み屋さんのお知り合いや、ミニカーをくれた子や、それ以外にも人形をあげた、たくさんの人達に」
遠野井友佳梨「‥はい」
若宮はづき「その方たちは、きっとお子さんを亡くして悲しんでいた奥様と同じように、苦しんでいて、それで‥」
若宮はづき「きっと遠野井さんがこの人形を渡して、少しだけ‥助けてあげたんだと思います」
遠野井友佳梨「助けた‥」
若宮はづき「はい、だから、あの‥あの、遠野井さんは、お亡くなりになりましたけど、あの‥」
遠野井友佳梨「お嬢さん、お名前は?」
若宮はづき「えっ?あっ、若宮と言います 若宮はづきです」
遠野井友佳梨「若宮さん‥ありがとう なんだか、少し元気が出ました」
若宮はづき「あっ‥はい」
遠野井友佳梨「不思議ね、あなたに手を握ってもらうと、気持ちが少しづつ穏やかになって‥昔、彼に背中をさすってもらった時みたいな‥」
若宮はづき「‥‥」
遠野井友佳梨「ありがとう」
若宮はづき「いえ‥あの、じゃあ私はこれで」
遠野井友佳梨「はい‥元気でね」
若宮はづき「はい」
〇マンションの入り口
若宮はづき「遠野井さんって、たぶん‥ そうなんだろうな‥」
「若宮さん」
若宮はづき「えっ?」
若宮はづき「なっ?千寿さん?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「トランクの御用事は済んだのかしら?」
若宮はづき「それは‥はい」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ねえ、よかったら乗っていかない?」
若宮はづき「乗る?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「お送りしますよ、それに少しお話もしたいし」
若宮はづき「でも‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ、何だか怖がられちゃったかしら?」
若宮はづき「いえ‥そんなことは」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「じゃあ、どうぞ 大丈夫よ、取って食べたりしないから、うふふふ」
ブルルルー
〇マンションの入り口
「ねえ、大丈夫なの? そのまま行かせちゃって?」
調整人・綴木(つづるぎ)「‥ああ、今の彼女なら、そう簡単にどうこう出来ないはずだ」
「そうなの‥でも何か心配なのよね、はづきちゃんって」
調整人・綴木(つづるぎ)「それよりも俺たちが問題だ‥」
「気づかれそうなの?」
調整人・綴木(つづるぎ)「時間の問題だと思う‥どうするか決める時だ‥」
「そうね‥」
〇走行する車内
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そういえばこの間、宇津木を助けてくれたみたいで」
若宮はづき「宇津木?」
宇津木「先日はありがとうございました」
若宮はづき「あっ?あの時の!」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「宇津木にはね、私が行くところの運転もしてもらっているのよ」
若宮はづき「そうなんですか」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「それにしてもこの間、本当に見事なイザナギよね、ほとんど意識しないでやったんでしょ?」
若宮はづき「意識しない?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ええ、そんなこと出来るのは、遠野井以来見たことがないわよ」
若宮はづき「‥遠野井さん」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そうよ、今日のあなたの届け主‥ まあ、正確には違うんでしょうけど」
若宮はづき「遠野井さんもご存じ何ですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「知ってるわ‥こんな事に関わらなければ、もう少し長生きだったかもしれないけどね」
若宮はづき「‥遠野井さん、どんな方だったんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥まあ、親切って言うか、人が良いと言うか‥優しくて‥ホントに愚かな男よ」
若宮はづき「そうですか‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ところで、ガネーシャにあったんでしょ?」
若宮はづき「ガネーシャ?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「炭屋のお爺様よ、元気にしてた?」
若宮はづき「元気と言うか‥はい、まあ」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「色々話したんじゃない?私たちの事も含めて」
若宮はづき「はい‥あの方は瑠璃沢さん達も援助してて‥でも、千寿さん達も‥その」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「資金援助してるんじゃないか?ってことね‥どう思う?若宮さんは?」
若宮はづき「‥それって、右手と左手なんじゃないかと」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「右手と左手?」
若宮はづき「片方の手では表を援助して、もう片方の手では裏側を援助する‥それって結局は、どちらも信用して無いって‥何かそう思えて‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「どちらも信用して無いか‥ふふふ、いい感してるのね」
若宮はづき「それにその右手と左手の本人が、結局のその場を支配しているようにも思えるんです」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥そうね、まあ、そうかもしれないわね‥ 色々な事に気づき始めたのね、あなた」
若宮はづき「‥‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ねえ、でもね」
若宮はづき「はい?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ガネーシャの手ってね‥4本あるのよ」
若宮はづき「えっ?‥それってどういう意味ですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「うふふふ‥あら、若宮さん、この辺りじゃない?」
若宮はづき「えっ?あっ?」
〇住宅街
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「じゃあね、若宮さん、またお話しさせてね それに、いつでもあなたがこちらに来るのを待ってますから」
若宮はづき「‥送っていただいてありがとうございました」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ、それじゃあね」
ブロロロー
若宮はづき「ふぅ―‥ 疲れた‥すごく‥」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「そろそろかな‥」
プルルルルー📞
若宮はづき「もしもし」
瑠璃沢(るりさわ)「お疲れ様です、瑠璃沢です」
若宮はづき「はい、お疲れ様です」
瑠璃沢(るりさわ)「今回も問題無く渡せましたでしょうか?」
若宮はづき「あのー、今回の相手って、どこまでわかってたんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥と、いいますと?」
若宮はづき「つまり‥そちらでもよくわかってなかったんじゃないですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
若宮はづき「何だか、ずいぶんと無理のあるお届けだったような‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥確かに仰るとおりです 今回に限っては、若宮さんに託したようなものです」
若宮はづき「託した?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい‥ただ、それを託したのは遠野井本人でもあるのです」
若宮はづき「どういうことですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「あの方が亡くなる事は予想外でした ただ、もし彼に何かがあった場合、あなたにこの形で託すようにと言付かっておりました」
若宮はづき「それって、誰も知らないあの男の子に、私がトランクの中身を‥あの人形を渡すって、遠野井さんはわかってたって事ですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、そうだと思います」
若宮はづき「何でそんなことが‥」
瑠璃沢(るりさわ)「彼は、求める者が辿ってゆけば、必ず残された道筋が見つかるからと」
若宮はづき「残された道筋‥でも、偶然かもしれないじゃないですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「確かにそうですね‥ただ、若宮さんはちゃんと辿り着きました」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「彼があなたに託したとおり、あなたが受け取るべき人に中身を渡した、これで今回も無事に届けた事になります」
若宮はづき「‥あの」
瑠璃沢(るりさわ)「はい?」
若宮はづき「遠野井さんが亡くなる前に、私にこのやり方で託すと言われたんですよね?」
瑠璃沢(るりさわ)「はい」
若宮はづき「‥それって、私がまだ瑠璃沢さんとお会いする前の話じゃないですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
若宮はづき「私の事‥いつから知ってたんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥その答えには‥」
若宮はづき「‥ふふふ はーい、最後まで待ちますよ」
瑠璃沢(るりさわ)「色々と申し訳ありません」
若宮はづき「いいんです、それによく考えたら、このお仕事が無かったら、今の自分はどうなっていたか‥」
瑠璃沢(るりさわ)「そうですか‥」
若宮はづき「瑠璃沢さんに出会う前の自分なんて、もう思い出したくも無いですし」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥」
若宮はづき「それじゃ、明日も宜しくお願いします!」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、お疲れ様でした」
若宮はづき「あっ!」
瑠璃沢(るりさわ)「はい?まだ何か?」
若宮はづき「遠野井さんの奥様が、瑠璃沢さんに宜しくって言ってました」
瑠璃沢(るりさわ)「そうですか‥立場上、葬儀に顔を出すのを控えたもので‥遠野井さんに不義理をしてしまいました」
若宮はづき「大丈夫ですよ、遠野井さんなら‥きっと全部気がついてますよ」
瑠璃沢(るりさわ)「そうですね‥」
若宮はづき「じゃあ、お疲れ様です!」
瑠璃沢(るりさわ)「はい、お疲れ様でした」
〇黒背景
瑠璃沢(るりさわ)「申し訳ありません若宮さん、明日の受取人は‥」
〇古いアパートの一室
若宮はづき「あと3回か‥」
続く
あのまま主人公が居酒屋で
吞み続けていたら?
そう思って噴き出してしまい居ました。
失礼。