エピソード31(脚本)
〇草原
ニルは、メルザムから出てラパークの森の方向へと全速力で走っていた。
険しい表情のまま、草原を進む。
森の入り口が見えたところで足をピタリと止めるとマントを脱ぎ捨てた。
胸元に手を入れ、首にぶら下がっているペンダントを引きずり出す。
だがペンダントをマントの上に置いた瞬間、ニルは突然心臓が大きく脈打つような感覚を味わった。
ニル「・・・ッ」
胸元を抑えるのと同時に、チカチカと瞬(またた)く煌(きら)めきが視界に入る。
振り向くと、メルザムの上空で青い雷光(らいこう)が四方八方へ水平に飛散している光景があった。
ニルは驚きで目を見開く。
一瞬あとに、地を這(は)うような轟音(ごうおん)が響き渡った。
気がつくと、ニルのすぐそばには広場に立っていた巨竜の背に乗っていた男が立っていた。
ニル「なっ・・・」
音を立てることもなく、自分の隣に現れた男にニルは慄(おののき)ながらも身構える。
ゼノン「やあ」
ニル「・・・・・・」
無言のニルを、男はまじめじと見つめた。
ゼノン「君だったんだね」
ニル「なんの——」
ゼノン「僕はゼノン。君は?」
ニルの言葉にかぶせてきたその男・・・ゼノンにニルは警戒するように目を細める。
ニル「・・・ニル」
ゼノン「ニル・・・いい名前だね」
ゼノンはひっそりと微笑みを浮かべると、ニルの右腕に視線をやった。
ゼノン「ところで君は人間?」
ニル「・・・人間だよ」
ゼノン「ふーん、面白いね」
ゼノンはへらへらと笑っている。
ニルは距離を保ったまま、警戒を続ける。
こうして顔を付き合わせて言葉を交わしているはずなのに、まるでここに存在しないかのような感覚に陥る奇妙な雰囲気の男。
ニルは彼の底の知れなさを感じ始めていた。
そしてゼノンの笑顔を見ているうちに、ニルはあることに気づく。
ニル「あの竜は・・・」
ゼノン「ああ、ガルバニアスならあそこで遊んでるよ」
ゼノンはメルザムの方へと視線を向けた。
表情を歪め、焦りを見せるニルを見てゼノンは楽しそうに笑った。
ゼノン「なにか大事なものがそこにあるんだね」
いたずらっ子のような、無邪気な表情でゼノンが言い放つ。
ゼノン「うん。じゃあ・・・全部壊そうか」
ニルの頭にカッと血がのぼった。
ヴェラグニスを力強く握り、グリップを捻(ひね)った。
剣の刀身にオレンジの脈が走る。
敵意をむき出しにするニルに、ゼノンの目が愉快そうに細まった。
ゼノン「いいね・・・それじゃあ始めようか」
血が沸き立つような感覚のまま、ニルはゼノンへと斬りかかった。
刃がゼノンへと届きそうになったとき、鋭い音を立ててヴェラグニスが弾かれる。
ニル「!?」
ふたりの間に火花が散る。
ゼノンのブレードにニルは見覚えがあった。
コレクター試験でヴェラグニルと戦った自分の姿がニルの脳内によぎる。
左腕をブレード型に変形したゼノンは、あのときのニルと酷似していた。
ニルは一瞬ひるんだが、即座に追撃を仕掛ける。
しかしその斬撃も容易に防がれた。
ニルは何度も何度もゼノンに斬りかかるが、すべて子どもをあしらうようにいなされた。
ゼノンの余裕が崩れる気配はまったくない。
ニルは一旦距離をとり、ヴェラグニスを構え直した。
ニル「・・・・・・」
呼吸を整えて、もう一度グリップを捻る。
ヴェラグニスの刀身が漆黒に戻った。
次の瞬間、摩天楼(まてんろう)のごとき炎の渦が姿を現す。
ニル「おおおおおおッ!」
渾身(こんしん)の力を込めて、ニルはヴェラグニスをゼノンに振り下ろす。
すさまじい音とともに、熱を帯びた斬撃がゼノンの元へと一直線に飛んでいく。
〇草原
斬撃がゼノンに直撃し爆発した。
爆風と煙が辺りを覆う。
〇草原
ニル「はあっ、はあっ」
ニルは息を荒げながらゼノンの方を見る。
煙が晴れたその先に、ゼノンがいた。
バチバチと電流の走るシールドに守られたゼノンは、無傷でその場に立っていた。
目を開いたまま固まるニルに、ゼノンは綺麗に微笑んだ。
ゼノン「本気、出しなよ」
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