生贄テスト

真霜ナオ

生贄テスト(脚本)

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生贄テスト
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〇教室
  俺は都立高校に通う三年生、池田海斗。
  一見普通の高校だが、この学校には秘密がある。
  ここでは学期ごとの試験のほかに、定期的にテストが行われる。
  それは簡単な心理テストのようなものだ。
  好成績だった生徒は別の学校に転入させられる。それも結果が出次第すぐにだ。
  転入先は選ばれた者だけが入学することのできる、特別な学校だった。
「おーい、海斗!」
吉村拓也「今日さ、例のテスト終わったらゲーセン寄って帰ろうぜ!」
池田海斗「拓也、バイトじゃなかったか?」
吉村拓也「それがシフト交代で暇になっちった。だからいいだろ?」
池田海斗「別にいいけど」
吉村拓也「やりー! 今日こそ『デッド・オブ・ゾンビ』で決着つけるぞ!」
  この男とは高校入学時からの付き合いだ。
  騒々しいがクラスのムードメーカー的存在だ。成績の悪さが玉に瑕(きず)なのだが。
吉村拓也「けどよ、あのテスト面倒だよな。数学よりは全然マシなんだけどさ」
吉村拓也「受かって将来が約束されるとか、どーせ俺には関係ないし?」
池田海斗「あのテストは成績関係ないから、お前も可能性はあるだろ。成績関係ないから」
吉村拓也「大事なことじゃないから二回も言わなくていいんですけど!?」
  そう、テストに受かれば将来が約束されるらしい。
  だからこそ、あのテストに全力を尽くす生徒も少なくない。
  将来を約束されるなら、誰だって受かりたいと考えるのが普通だろう。
  表向きは、の話だが。
吉村拓也「スゲー会社に入れても、俺は嫌なんだよなあ。転校したら連絡取れなくなっちまうし」
池田海斗「前回選ばれたの花岡だっけ。お前仲良かったよな」
  転校するとなぜか連絡を取れなくなる。家族に聞いても、転校先にいるとしか言われない。
  だから一部では、ある噂が囁かれるようになった。
  選ばれた生徒の家族には、生涯使いきれないほどの大金が支払われる。
  それは口封じのためだと。
  転校は形式上で、使える頭脳を持つ者を売り飛ばすための、生贄テストだと噂されているのだ。
  転校が本当なら隠す理由は無いはずだ。
  人身売買などあり得ないと思うが、その後の情報が出てこないのだ。現状は噂の方が信憑性が高い。
吉村拓也「俺はむしろ海斗が選ばれてないのが不思議だわ。頭いいから真っ先に選ばれそうなのに」
池田海斗「だから頭の良さは関係ないんだって。勉強は得意でも、心理テストは向いてないってことだろ」
  否定はしたが拓也の言う通りだ。俺はあのテストも、良い結果を出そうと思えば出せてしまう。
  意図的にそうしているだけなのだ。俺は生贄に選ばれたくないし、もう卒業間近まできている。
  良い将来は自分の手で掴み取れる。今日のテストもいつも通りやれば、問題なく卒業できるだろう。

〇校長室
  いつも通りだったはずなのに、俺はなぜか校長室へ呼び出されていた。
校長「来たかね。早速だが今回のテストの結果、キミが選ばれることとなった」
池田海斗「何でですか!? テストの結果は悪かったはずです、選ばれるわけ・・・!」
校長「ということは、やはりわざと悪い結果を出すよう仕組んでいたのか」
池田海斗「そ、それは・・・」
金田先生「これまでもわざと悪い結果が出るようにしていたんだな?」
池田海斗「っ、転校なんて話は全部ウソなんだろ!? 金で家族を口封じして、生贄になるなんて俺は絶対嫌だ!」
校長「ふむ、そんな話まで知れ渡っているのか」
校長「結果を出した生徒を転校させているという話は嘘ではない」
池田海斗「けど、現に選ばれて連絡が取れなくなってる生徒もいるじゃないですか!」
金田先生「それはもちろん合意を得た上だ。ご家族に大金を支払っているのも事実だよ」
池田海斗「じゃあやっぱり・・・!」
金田先生「国家機密を扱う仕事に就くんだ。情報漏洩しないよう、誓約書に署名させた上で正当な対価を支払っている」
池田海斗「国家機密?」
校長「この国ではな、将来的に国の不利益となる可能性のある人間を、早い段階で選別するテストを行っているんだよ」
池田海斗「不利益ってどういう意味ですか?」
校長「例えば、キミのように悪知恵の働く人間のことだ。学業においては優秀だが、テストではわざと結果を操作していたね」
校長「そのような人間は、その頭脳で国に不利益をもたらす可能性がある」
校長「そんな人間を選別するために、適性ある生徒が選ばれ、人間性を見極めるテストを作らせているのだよ」
池田海斗「じゃあ、選ばれた生徒の将来が約束されるっていうのは・・・」
金田先生「国家機密の重要な仕事を任せるんだ。もちろん将来は保証されるさ」
  なら、俺がしてきたことは何だったんだ? 生贄に選ばれないよう、上手くやってきたと思ったのに。
  あのテストは、二種類の選別をしてたというのか・・・!?
池田海斗「こんなの許されるはずない・・・大体、俺が国に不利益をもたらすかどうかなんてわからないだろ!?」
校長「可能性の排除が我々の役目なのだよ。実際に不利益となるかどうかは関係ない」
池田海斗「そんないい加減な話があるかよ! 俺は生贄になんかならない、事実を暴露して・・・ッ」
  踵(きびす)を返して校長室を出ようとした俺の首筋に、突然痛みが走る。
  振り返ると、注射器を片手に俺を見下ろす金田先生の姿が見えた。俺は膝から崩れ落ちていく。
  あり得ない。こんなの許されるはずがないのに。
金田先生「お前には期待していたんだが・・・こんな結果で残念だよ、池田」
  俺の意識は、抗うこともできずに途切れてしまった。

コメント

  • 能力を選別するって、実際のところ似たようなことはしてると思いますが、それれを悪用するとは…怖いですね。
    わざと低い点数を取ってることまで調べて、背筋がゾクッとしました。

  • 怖いですよね、でもほんとのような嘘の話し、人の命を簡単にとらえられているのは悲しいですね。短いお話しのなかに考えさせられる要点がありました。

  • 火のないところに煙はたたない…噂も結構真実が絡んでる事もよくありますよね…。
    にしても人間性で消される…国家の不利益の可能性があるからって理由は到底納得できそうもないですね…。

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