巫女の秘密

Akiyu

読切(脚本)

巫女の秘密

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〇田舎のバス停
  彼はいつもの時間、いつものバス停にやってきた。私はそんな彼が気になって仕方がない。
  そんな言い方をすると、もしかして私が彼に淡い恋心を抱いているかのように思われるかもしれない。
  それは誤解です。私が彼を気にしている理由は、ただひとつだけなのです。
美月「あの・・・」
サラリーマン「えっ?」
美月「毎朝同じバスを待っている時、ずっと気になっていたんですけど・・・」
サラリーマン「えっ?もしかして逆ナン?」
美月「いえ、そうじゃなくて・・・。あの、最近、不運が続いていませんか?例えば女性関係とか」
サラリーマン「・・・確かにそうだけど。どうして分かるの?」
美月「私、憑き物が見えるんです」
サラリーマン「憑き物?」
美月「あなたには、狐が憑いているんです。狐は、異性関係でトラブルを抱える怪異なんですけど」
サラリーマン「へぇ。確かに俺、ここ最近、女関係で色々あって災難続きなんだよね」
美月「津久茂神社って知っていますか?」
サラリーマン「いや、知らないな」
美月「津久茂の山奥にある憑き物を落としてくれる神社なんです。狐がかなり大きいからお祓いをしてもらった方がいいと思います」
サラリーマン「随分遠いな」
美月「狐の嫌な気配が強すぎて、毎朝あなたの姿を見る度に不快なんですよ。だから早くお祓いしてきて下さい」
美月「早く祓ってもらわないと、もっと大変な事になりますよ」
サラリーマン「そ、そう・・・。考えておくよ」

〇田舎のバス停
  次の日になり、私はいつもの時間、いつものバス停にやってきた。
サラリーマン「おっ、いたいた。おはよう」
美月「おはようございます」
サラリーマン「いやー、また女関係で酷い目にあってさ。実は浮気がバレちゃったんだよね」
美月「だから言ったじゃないですか。早く津久茂神社でお祓いをしてもらってきて下さい。早く行かないともっと悲惨な目に遭いますよ」
サラリーマン「・・・マジで?実は昨日、浮気した女に電話で呼び出されて行った先でさ、強面の男がいてさ」
サラリーマン「俺の女に手出してどうなるか分かってんのか?って怒鳴られて殴られそうになったんだ。急いで走ってなんとか逃げ切ったんだ」
サラリーマン「ほんと最悪だった。・・・マジでお祓い行った方がいい?」
美月「そうですね。早く行った方が良いと思いますよ」
サラリーマン「マジか。津久茂は遠いけど、週末に行ってくるか」
  どうやら彼は、津久茂神社に興味を持ってくれたみたいだ。昨日、相当怖い思いをしたのだろう。

〇古びた神社
  週末になり、私は実家に帰省した。実は、私の実家こそが津久茂神社だ。私は津久茂神社の巫女である。
  彼は、来るだろうか。山間の中にある古い神社なので、少し場所が分かりにくいのだが・・・。
美月「今日、狐憑きの男の人が来ると思う」
神主「分かった」
  私は、神主である父に伝えた。午後になり、彼がやってきた。
サラリーマン「すみません。こちらで憑き物を払ってくれると聞いてやってきたんですけど」
神主「御祈祷ですね?この用紙にご記入お願いします」
  彼は、父から渡された用紙に記入していく。記入する項目は、氏名や住所。祈願内容について書く。
  祈祷料は、はっきりとは決まっていない。気持ち程度でいい。
  祈祷が始まった。神主である父が独特な発声法で祝辞を読み上げていく。
  祭壇のところで燃えている炎がボワッと音を立てて大きくなった。
  憑き物が燃えた。同時に彼の目から涙が出ていた。彼は泣いていた。
神主「以上になります。どうもありがとうございました」
サラリーマン「お世話になりました」
  御祈祷が終わり、彼は本殿に行ってお賽銭を投げてお参りした。彼が階段を降りてきた時、私は声をかけた。
美月「無事に憑き物は取れたみたいですね」
サラリーマン「あれ!?き、君、ここの巫女さんだったの?」
  彼は、私が着ている巫女衣装を見て言った。
美月「そうです」
サラリーマン「そうだったのか。祓ってもらったら、なんだか体が軽いような気がするよ。それに心の中につっかえていた物が取れた気がする」
サラリーマン「二度と浮気はしないって心の底から思ったよ。来てよかった。本当にありがとう!!」
美月「よかったですね」
  そして彼は、満足そうに帰っていった。
神主「帰ったか?」
美月「うん、帰ったよ。それでどうだったの?」
神主「ああ、お前の読み通りだったよ。かなりの金額を納めてくれた」
美月「ほんと!?」
神主「ほら、お小遣いだ」
美月「わーい、やったね!!」
  実は私には、憑き物が見える能力なんてない。
  私の仕事は、お金を持っていそうな浮気癖のある人物を探し出して、浮気されている相手を探し出して、浮気をバラして回る。
  そうやってターゲットを精神的に追い詰めていって、散々な目に合わせたところで
  ターゲットに近づいて憑き物が見えると言い、津久茂神社の事を宣伝する。
  後は、不安になったターゲットが、津久茂神社を訪れて祈祷をすれば祈祷料が入ってくる。
  田舎にある小さな神社が生き残っていく為には、こういった事をしていく事が大事なのだ。
  すべては津久茂神社の発展と、私のお小遣いの為。
  私は今日も浮気者のターゲットを探し出して、津久茂神社に参拝させるように裏で動いている。
  これが私のアルバイト。
  巫女の秘密なのである。

コメント

  • 本当に憑いてるのかと思っていたら、彼女のお小遣い稼ぎだったのにはびっくりしました。笑
    浮気症の男性には心当たりがありすぎて、つい信じてしまうんでしょうね。

  • まさかの最後のおちでした(笑)でも、人の気持ちをもて遊ぶとそうなりますよね。ストーリーがよく考えられていて楽しかったです。

  • 思ってもみない真相でした。なんて有能な巫女さんなんでしょう…!
    サラリーマンの彼も涙を流すほど心が洗われたなら、良いお仕事のような気がします笑
    神社の描写が清々しくて、私も森林浴みたいに気分がよくなりました。

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