アタシが先に出会っていたら

ゆう羅

出利子、またイケメンと出会う!?(脚本)

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〇オフィスの廊下
  事前に上司と役員に簡潔に事情を話したが、何だかんだと理由をつけて(私のように出利子からノロケという体裁で)
  直接話を聞いてふたりの顔色は青くなったり赤くなったり、緑色になったり(信号機か!)していた。
  大問題だし、このことがSSに知れたら、会社を訴えてくるかもしれない
  (常識があれば自分の所業で言いだせないはずだが、そんな常識がある男にも思えない)。
  幸いにも出利子が処理をしてから二週間、この問題をSSに知られずに終わらせられるかもしれない。
  これまでの所業から二週間ほどこちらの紹介所から連絡がなくても怪しまれない可能性もある!
  さて、そのためにはまず百パーセントあり得ない出利子とSSとのデート計画をどうにかしなくては。
  今現在、SSは出利子に返信をしていないが、出利子から『退会させた』と洩れたらウチの会社の信用問題に関わる。
  ここで出利子を引きとめている間に、顧客データ管理をしている後輩・新田香澄の元へと私は向かった。
  「新田ちゃん!」
  「あ、結衣先輩どうしました?」
  「S・・・じゃなかった、佐藤俊夫さんってお客さんわかる?
  退会処理出ているはずなんだけど」
  「あ、歳家さん申請のヤツですよね。あれ、一回先輩に確認してから処理しようと思っていたので、月末リストに入れています」
  「・・・助かった・・・」
  「やだな、先輩。顧客リストは月末まで寝かせろって先輩の教えじゃないですか」
  「うんうん、私自分の指導の正しさに感謝だわ・・・」
  「どうしたんですか、先輩?」
  いぶかしむ新田ちゃんに事情を明かした。
  出利子が入ってくる半年前ぐらいまで、新田ちゃんは私と同じ部署にいた。
  というのも、二年ほど前に新田ちゃんが新入社員として入社した時、私が指導係だった。
  彼女がひとりで仕事を回せるようになったのと、私の先輩にあたる女性社員が産休に入ったので新田ちゃんとはデスクが遠くなった。
  しかしお互いに気の置けない関係で、今回の件も後で話そうと思っていたところにこの事件である。
  「先輩、それは災難でしたね・・・」
  新田ちゃんは大きなため息と共に同情の言葉をくれた。
  彼女は今年の末に結婚を控えた身であるがゆえに、この出利子の暴走が信じられないとばかりに驚いていた。
  ちなみに新田ちゃんの婚約者・沢井大介さんは、
  ウチの会社が結活パーティを開催する際によく利用するリゾートホテル「RSホテル」の営業マンだ。
  まだ新入社員だった新田ちゃんが仕事でピンチの時に助けてくれたのがきっかけでお付き合いが始まった。
  それは私が出張に出ていて会社にいない時のこと。
  婚活パーティ会場に予約していた会社が突如倒産。開催まで十日ほどしかなく、会場捜しが白紙になり、
  しかも参加者にはもう会場を告知してしまった後だった。
  そんな時、営業で弊社に訪問していた沢井さんが、そういう事情ならと急いで自社の場所を確保し、
  料金を変えず、場所変更となるお客様へのサービスとして予約当時よりも少しだけグレードを上げた料理を手配してくれた。
  沢井さんもとある事情から急遽キャンセルとなった会場があったために、ウチの他に何社かに営業をかけていたらしい。
  お互いの利害が一致した結果とはいえ、新田ちゃんは沢井さんに個人的に食事に誘ってお礼をしたらしく、
  それがきっかけでお付き合いが始まったそうだ。
  「あ、大ちゃん・・・いえ、沢井さんは今日の十四時に来月のパーティの会場打ち合わせに来るんですよ。
  上野さんから先輩も後で呼ばれると思いますが」
  上野さんは私の上司だ。
  現在十三時五十分。
  今出利子のことで大変なことになっているが、沢井さんのアポが入っていたのなら、切り上げるはずだろう。
  もし無理そうなら、私にヘルプを出してくるだろうが・・・。
  その時――。
  「あ、すみません。予定より少し早く来ちゃいましたけど、待たせてもらっていいですか?」
  新田ちゃんと話しているところで、沢井さんが受付に来たことが知らされた。
  小さな会社ゆえ、社内全員が沢井さんと新田ちゃんの婚約は知っている。
  上野さんが取り込み中なので新田ちゃんがいるところに通されたのだ。
  「こんにちは、沢井さん。ちょっと今先客がいて、上野が出られないのですが良かったら新田とでもおしゃべりしていて下さい」
  「いえ、こちらこそ時間前に来てすみません」
  和やかな雰囲気。
  
  だがそこに問題の中心人物が現れた。
  「まったく、伯父さんも上野さんもアタシの話ちゃんと聞いていたのかしら」
  ぶつぶつと文句を言いながら出利子がこちらの方にドカドカと足をふみならしながらやってきた。
  「歳家さん、上野さんとのお話は終わりました? お客さんが来ているので・・・」
  「上野さん、何かアタシの話を聞いている間ずっとそわそわして集中していないのよ。失礼しちゃうわね。
  お客さんなんて待たせておけばいいじゃない」
  「いえ、そういう訳には・・・」
  「お客さんって・・・あら、この人? イケメンじゃない」
  沢井さんを値踏みするようにねめつける。
  慌ててわたしは間に入るようにして紹介する。
  「沢井さんはRSホテルの営業の方で、ウチの新田と来年結婚予定なんです」
  (きちんと言っておかないと。大事な後輩の婚約者が出利子にちょっかい出されるのはゴメンだ)
  
  だが――。
  「アタシ、歳家出利子っていうの。この会社の御意見番っていうかぁ、
  まぁアタシがこの会社を良くするためにアドバイザーをしているってところかしら」
  ご意見番もアドバイサーも一緒じゃないかとか、そんな役目などしていないだろうとツッコミたくなるのだが。
  「上野さんと打ち合わせっていうなら、アタシも参加するわ。やっぱり社外の人間の公平でフレッシュな意見や視点が必要よね」
  ・・・。
  ・・・・・・。
  ・・・・・・・・・。
  おそらくその場にいた事情を知らない沢井さん以外の全員(ようやく受付まで来た上野さんを含め)
  が目を丸くして呆れ返り、また新たな火種の予感を覚えていた。

次のエピソード:パーティは出利子のおまかせ!

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