アタシが先に出会っていたら

ゆう羅

パーティは出利子のおまかせ!(脚本)

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〇オフィスの廊下
  (第4話・前篇)
  
  出利子は何故か沢井さんの隣に座っていた。
  立場的にはこちらの会社の人間(とは言い難いが、関係者ではある)なのに、どうしてそちらに座る?
  しかも何故か体を密着させるようにしていて、沢井さんは密着を避けようとソファーの端っこに小さくなって座っている。
  その様子を見ている新田ちゃんは目が完全に笑っていない。
  そして――。
  「お茶、淹れてきますね」
  新田ちゃんはそう言って給湯室の方へ向かった。
  私はあわてて「手伝います」と、後を追った。
  上野さん、すみません! 止めなくてはならないのです!
  新田ちゃん!
  「雑巾汁と洗剤、どちらがいいかしら・・・」
  
  ストップ、ストップ!
  何か物騒なことをしようとしている新田ちゃんを止める。
  異物混入は犯罪だからアウトだよ!
  落ち着いて新田ちゃん、出利子のためにあなたが犯罪に手を染めることはないのよ!
  「先輩、やだなぁ・・・本気でする訳ないじゃないですか。ちょっと妄想して怒りをおさめていただけですよ」
  ・・・。
  どこまでが本音だろう。
  「でも先輩、あの出利子は本当に百害あって千害ありな存在ですよ!」
  わかっている。
  上野さんも役員も手をやいているし。
  とりあえずあの根拠がなにもないのに男性は全員自分に気があると
  思い込んでいるあの女は、どうにか痛い目にあわないと現実がわからないんじゃないだろうか。
  SS・・・佐藤俊夫にしたって、沢井さんにしたって、出利子のアピールにうんざりしているのに。
  とりあえずお茶を淹れてもどりましょう。
  上野さんだけに任せておくのは申し訳ないわ。
  お茶を淹れて応接室に戻ってくると――。
  「あ、江西さん・・・」
  上野さんが助けを求めるように声をあげる。
  「あら、遅かったじゃない。スーパーアドバイザーのアタシがもう次の婚活パーティーのテーマとコンセプトを決めたわよ」
  ・・・は?
  一体なんの権限があって?
  「つまりね、男女一対一は古いわ。上質な女性会員に素敵な男性たちをたくさん紹介するの。
  それで男性たちは女性会員に選んでもらうわけ。女性が男性を選ぶっていう回があってもいいじゃない」
  その後、出利子は何だかんだとグダグダ(自分を称える言葉を必ず交えつつ)そのパーティについて説明をする。
  ①女性会員1名につき男性会員は5人参加。
  ②会費は全て男性持ち
  ③女性を上手にエスコートすることでアピール
  ④場を盛り上げるために、今も男性からアプローチを受けている身ではあるが、仕方なく出利子も目玉女性会員として参加する
  ・・・。
  ・・・・・・。
  ・・・・・・・・・。
  地獄絵図が想像できる。
  沢井さんのホテルの会場で、地獄な結婚パーティが開かれる。
  出利子はきっと、誰彼構わず粉をかけ、他の女性の邪魔をする姿が容易に想像できる。
  男性会員はそれこそ女性のパーティ代込みでとなると、かなり高い代金を要求されることは間違いないだろう。
  こんな案が採用されるはずがない。
  上野さんも何度も「ですから」「無理です」を繰り返していたが、出利子の耳には入っていないのだろうか。
  だが――。
  このとんでもない条件のパーティが後日本当に開催されることになった。

〇結婚式場のレストラン
  (第4話・後篇)
  
  出利子発案の婚活パーティ。
  仕掛け人というか、責任者は出利子の親類である役員、歳家益成氏。
  この人が今回のパーティで出利子が『まともに』ならなければ、とある決断をすると明言し、
  参加者から不満が出ないように様々な手配や自腹を切る覚悟をしている。
  歳家氏は出利子に気取られないために、直接の我が社の窓口は上司の上野さん。
  当日会場につめる現場スタッフは私と新田ちゃん。
  会場であるリゾートホテルの窓口は沢井さん。
  そして、運命の日を迎えた。
  「んふふ~困っちゃうわぁ」
  出利子がで上機嫌な顔で美しく飾られた会場を見回していた。
  今回招かれている女性会員、男性会員は年齢、職業、収入、そしてこれは本来あまりスタッフが審査をしてはならないことだが、
  容姿も加味してかなり『好条件』と言われる会員を集めた。
  しかも本来の会費では賄えない、追加料金が発生するパーティであるが、今回は会費内(実際は歳家氏の自腹)で招待したのである。
  出利子の求めていた「五対一」の男女比は無理であったが、それでも「三対一」ぐらいの女性をもてなすような会には設定できた。
  出利子はいつも派手だが、今回はさらにメイクや服装を一層派手にして、
  南国にいる鳥でもこんなカラフルなものは存在しないのではないかと思われる装いだった。
  そして何度も「困る」と繰り返し、会場準備を終えて壁に控えている私に聞いてほしいようであった。
  仕方ない、このままではいつまでも終わりそうにないので問いかける。
  あの、何が困るんですか?
  
  「ほらぁ、アタシ仮にも今回はアドバイザーって立場じゃない?
  他のお客さんよりも目立ってしまうのは困るんじゃない?」
  自分から派手に着飾っておいて何を、とツッコミたくなるのを我慢し、出利子に言いたいことを言わせておくことにする。
  「それに、アタシ俊夫さんとのお付き合いも予定しているのに、今回のパーティで求婚されまくるだろうから、
  どうしようかって今から困っているのよ。アンタにはわからない悩みでしょうけど」
  わからないというか理解したくない妄想です。
  もちろん口には出さないけれど。
  あの佐藤俊夫さんの件でしたら、ご心配要りませんよ。
  「何でよ? アタシがこのパーティに参加していることを告げ口しないってこと?
  別にスタッフ的に参加しているだけだから、言われてもやましくないわ」
  いえ、そういうことじゃないんです。
  あ、そろそろ他の参加者様が到着したので失礼しますね。
  私は出利子との会話を切り上げてその場を辞した。
  ――受付──
  私は新田ちゃんと共に参加者の受付をしていた。名札やプロフィールカードを手渡し、にっこりと挨拶をする。
  そしてとある参加者にも、その営業スマイルを忘れずに挨拶をした。
  「ようこそお越し下さいました、佐藤俊夫様。本日は善きご縁がありますように」

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