雨宿り(脚本)
〇ビルの裏
雨が降っている。そういえば昔、雨宿りの伝説を聞いたことがある。
――雨宿り。雨に打たれ、雨に濡れた物には魂が宿るといわれる伝説だ。
捨てられた人形「あれ!?ちょっと待って!?私に意思がある。私、魂持っちゃった?」
捨てられた人形「だけど私は、ゴミ捨て場に捨てられた人形。そんな私が魂を持っても仕方がないよ」
雨の中、傘を差した少女が歩いてきた。
紫苑 冬雪「あれ?この人形・・・。捨てられてる?どうして?こんなに綺麗な状態だし、可愛いのに」
紫苑 冬雪「よし、私が大切にしてあげる!一緒に帰ろう!」
そう言って女の子は、私を拾い、持って帰った。
それが冬雪との最初の出会いだった。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
紫苑 冬雪「あんなところにいたら可哀想だよね。まずは綺麗に洗ってあげるね」
そう言って女の子は、私を洗って綺麗にしてくれた。
紫苑 冬雪「よし、こんなものかな。あなたやっぱり可愛いわね」
捨てられた人形(か、可愛い・・・だなんて、そんな事言われると照れちゃう)
紫苑 冬雪「名前つけてあげなくちゃね。うーん、何が良いかな」
捨てられた人形(名前。私に名前なんてない。捨てられる前の記憶もない)
紫苑 冬雪「そうだ。アシア!!」
紫苑 冬雪「アシア・マリー・ヴァディム!!」
紫苑 冬雪「フランス人形っぽくて可愛いわ」
アシア・マリー・ヴァディム(アシア・・・)
アシア・マリー・ヴァディム(良い名前。それが私の名前)
紫苑 冬雪「ねえ。アシア。これからはずっと一緒よ。私、親も兄弟もいなくて一人ぼっちなの。だから私のそばにいて」
紫苑 冬雪「あ、私の名前はね。冬雪。柴苑 冬雪っていうの」
アシア・マリー・ヴァディム(冬雪・・・。そう。あなたも一人ぼっちなのね。私で良ければそばにいるよ)
紫苑 冬雪「あら、大変!!アシア、あなたの服、穴が開いてるわ。私が縫ってあげる」
アシア・マリー・ヴァディム(ありがとう。冬雪。私、あなたに拾われて良かった)
アシア・マリー・ヴァディム(あんな暗いゴミの中に一生いるのは嫌だった。あなたは私とっての光よ)
紫苑 冬雪「痛っ!!」
アシア・マリー・ヴァディム(えっ!?)
紫苑 冬雪「あはは。針で指刺しちゃった」
冬雪の指からは、血が出ていた。
アシア・マリー・ヴァディム(あっ・・・ああっ・・・ううっ・・・あ、頭が・・・)
〇貴族の応接間
リンド・チャールズ「この人形が我が家にやってきてからというものの、災いばかりだ」
リンド・チャールズ「父は病気で死んだ。娘は事故で死んだ。使用人も次から次へと行方不明になり、忽然と姿を消した」
エリザベス・チャールズ「こんな人形、さっさと捨ててしまいましょう」
リンド・チャールズ「ああ。こんな呪われた人形、もううんざりだ」
使用人「だ、旦那様!!お、奥様!!大変です!!屋敷が家事です!!お逃げ下さい!!」
リンド・チャールズ「なんだと!?」
エリザベス・チャールズ「は、早く逃げましょう」
通行人1「ねえ。ここで大きな火事があったの知ってる?」
通行人2「ええ。貴族の方も使用人も全員亡くなったんでしょう?」
通行人1「屋敷は全焼。でもね、呪いの人形だけは無傷で残っていたらしいわよ」
通行人2「怖いわあ」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
アシア・マリー・ヴァディム(そうだ、全部思い出した。私は呪いの人形だったんだ)
アシア・マリー・ヴァディム(私の周りにいる人は、皆不幸になる)
アシア・マリー・ヴァディム(冬雪。ごめんなさい。せっかく一緒にいられると思ったのに)
アシア・マリー・ヴァディム(あなたを不幸に巻き込みたくない。だから私、行くわ)
冬雪が寝静まった夜、私は自ら動いて、冬雪の元から去った。
〇ビルの裏
アシア・マリー・ヴァディム「ここが私にお似合いの居場所ね」
紫苑 冬雪「はぁ・・・はぁ・・・アシア!!」
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪?」
紫苑 冬雪「あなた本当は動けるし、喋れるのね!!」
アシア・マリー・ヴァディム「来ないで!!」
紫苑 冬雪「どう・・・して?」
アシア・マリー・ヴァディム「私は呪われた人形だから、あなたを不幸にしてしまう」
紫苑 冬雪「そんな事ない!!呪われた人形なら、私の元から自分で去ったりしない。あなたはとても優しい人形よ」
紫苑 冬雪「私は一人ぼっち。兄弟はいないし、親は私を捨てた。あなたは私にとって新しくできた家族なの」
紫苑 冬雪「私はあなたの居場所になりたい。お願い、一緒にいて」
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪・・・」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
紫苑 冬雪「よ、よかった・・・。アシアが戻って・・・きてっ・・・くれてっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪?冬雪?ど、どうしたの?」
冬雪は、その場に倒れた。
アシア・マリー・ヴァディム「嫌だ。この呪いが憎い。どうして私は生まれてきてしまったの」
アシア・マリー・ヴァディム「こんな悲しい思いをするくらいなら私に魂なんて宿らなければよかった」
アシア・マリー・ヴァディム「うわあああああ」
〇ビルの裏
アシア・マリー・ヴァディム「ねえ。どうしてよ。どうして私なんかに魂を宿したのよ」
アシア・マリー・ヴァディム「どうしてっ・・・ううっ・・・ううっ・・・」
その時だった。雨の声が聞こえた。
――もう呪いは解けている。
――だって君は、すでにアシアという新しい名前を貰った人形なのだから。
――君は生まれ変わったんだよ
アシア・マリー・ヴァディム「じゃあどうして!!どうして冬雪は、倒れちゃったのよ」
――アシア。心優しい君が願えば、願い事は何でも叶うんだよ
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪っ・・・」
〇女の子の部屋(グッズ無し)
紫苑 冬雪「どこ行ってたの・・・。アシア。 あのね・・・なんかね、熱っぽくてさ」
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪・・・。死なないで。ごめん、私のせいで」
紫苑 冬雪「ただの風邪だよ。雨に当たりすぎちゃっただけ」
私は一晩中、冬雪のそばにいた。
冬雪のそばで懸命に病気が治る事を祈った。
〇女の子の部屋(グッズ無し)
翌日
紫苑 冬雪「うん、元気元気!!」
アシア・マリー・ヴァディム「冬雪・・・」
紫苑 冬雪「アシア。呪いなんて私が一緒に吹き飛ばしてあげる。だからさ、一緒にいよう!」
アシア・マリー・ヴァディム「うっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「うっ・・・ぐすっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「うわああああん・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「あっ・・・ああっ・・・ううっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「ううっ・・・ぐすっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「こんな私でも家族と呼んでくれますか?」
紫苑 冬雪「うん!」
アシア・マリー・ヴァディム「ううっ・・・ぐすっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「こんな私でも・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「・・・生きてていいのかな?」
紫苑 冬雪「うん!」
アシア・マリー・ヴァディム「ぐすっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「こんな私を・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「・・・愛してくれますか?」
紫苑 冬雪「もちろん!」
アシア・マリー・ヴァディム「うっ・・・ううっ・・・うっ・・・ううっ・・・」
アシア・マリー・ヴァディム「こんな私のそばにいてくれますか?」
紫苑 冬雪「うん。ずっと一緒にいよう」
「雨宿り」と「魂宿り」。孤独な「少女」と居場所がない「人形」との出会い。ユニークな世界観に思わず引き込まれました。優しい力を持つ不思議な雨が物語全体を包み込むように降り注いでいるような、なんとも言えない雰囲気のあるストーリーでした。
この度は私のキャラクターに、冬雪という名前と命を吹き込んでくださってありがとうございます。
とても切なくあたたかいおはなし、素敵でした。ふたりの距離感がすごく好きです。
2人(?)の距離感がステキな物語ですね。
心に傷がある者同士の、細やかな配慮から築かれる関係性、見ていて心が洗われるようでした。