異世界モノを書きたい友人を、絶対に炎上させたくないっ!

東北本線

下校途中。(脚本)

異世界モノを書きたい友人を、絶対に炎上させたくないっ!

東北本線

今すぐ読む

異世界モノを書きたい友人を、絶対に炎上させたくないっ!
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇川沿いの道
炎梨(えんり)「異世界小説が書きたいっ!」
愛(あい)「・・・唐突だね。炎梨ちゃんはいつも唐突だ」
炎梨(えんり)「だって流行ってんじゃん。アニメでよく観るし・・・」
炎梨(えんり)「あれって、原作が売れたからアニメになったんでしょ?」
愛(あい)「それは・・・、間違ってはないけど」
愛(あい)「炎梨ちゃんは、どんなのを書きたいの?」
炎梨(えんり)「うん」
炎梨(えんり)「高校生の男の子が、」
炎梨(えんり)「トラックに轢かれて死んじゃって、」
炎梨(えんり)「そのまま異世界に転生しちゃうの!」
炎梨(えんり)「そこでね、神様が間違っちゃったぁ~って・・・」
愛(あい)「ベタだね」
炎梨(えんり)「よ、様式美、と言っていただきたいっ」
愛(あい)「うーん・・・」
愛(あい)「神様って、そんな間違いを犯すのかな?」
愛(あい)「そもそも、神様っているのかな?」
愛(あい)「主人公は、死んで、蘇ったわけじゃない?」
愛(あい)「その主人公こそ、逆に神性を得てるんじゃない?」
愛(あい)「キリストの復活的な意味で」
炎梨(えんり)「・・・え?」
愛(あい)「そもそも、神様を登場させる時点で、コンプライアンス的に危険だと思う」
炎梨(えんり)「そ、そうなの?」
愛(あい)「だって、この世界にはいろいろな神様がいるけど、」
愛(あい)「誰かが信じる神様は、たった一人である場合が多いわけじゃない?」
愛(あい)「そんな神様が、間違ったり、死人を復活させていいのかな?」
愛(あい)「そもそも、姿を現した時点で、怒る人もいるかも」
炎梨(えんり)「ちょ、ちょっと何言ってるか分かんないけど、神様はナシっ」
炎梨(えんり)「異世界の魔法使いに召喚されたことにする」
愛(あい)「うん。まだ魔法の方が、苦情は来ないかもね」
愛(あい)「で、転移した主人公は、異世界でどうするの?」
炎梨(えんり)「決まってんじゃん!」
炎梨(えんり)「カワイくて性格も良い女の子を仲間に・・・、あっ」
炎梨(えんり)「なんか・・・、怒られる予感がする」
愛(あい)「炎梨。どうして可愛い必要があるの?」
愛(あい)「あなたは女の子に、何を求めているの?」
愛(あい)「男性に好かれるような、都合の良い容姿と性格?」
愛(あい)「そういうのって、女性蔑っ・・・」
炎梨(えんり)「分かった!間違った!私が全面的に悪かったからやめよ?」
炎梨(えんり)「あ!そうだ!ケガした奴隷の獣人を・・・」
愛(あい)「・・・奴隷?」
炎梨(えんり)「あ・・・」
愛(あい)「あなたはこの世界の奴隷制を、しっかりと理解しているの?」
愛(あい)「悲惨な歴史や、彼らの残酷な生涯。今なお存在する差別を、」
愛(あい)「ちゃんと理解した上で、それでも奴隷を登場させるっていうの?」
炎梨(えんり)「奴隷は登場させません」
愛(あい)「その方がいいわね」
愛(あい)「そもそも、敵になりがちな魔人とか、そういう類の登場人物の、」
愛(あい)「肌の色が違うのって、いったい何を意図したメタファ・・・」
炎梨(えんり)「あ!」
炎梨(えんり)「じゃあ、こっちの知識で、商売を大成功させるっていうのはどう?」
愛(あい)「どういうこと?」
炎梨(えんり)「異世界って、こっちの中世くらいの、遅れた文明ってのがセオリーなんだ」
炎梨(えんり)「だからさ、まだ存在しないお酒とか、シャンプーとかコンディショナーとか、」
炎梨(えんり)「異世界に無い、こっちの物を作って、売り捌いてさぁ・・・」
愛(あい)「そういうのって、勝手に異世界に持ち込んでいいの?」
炎梨(えんり)「べ、便利だったり、喜ばれたりするモンだったらいいじゃん!」
愛(あい)「うーん。どの民族だったらいいかな・・・」
炎梨(えんり)「ど、どの民族って?」
愛(あい)「アボリジナル、スペース、酒、で検索してみて?」
炎梨(えんり)「わ、分かったよ」
炎梨(えんり)「えーっと・・・」
愛(あい)「どうする?」
炎梨(えんり)「こっちのモノを売るのは、やめる・・・」
愛(あい)「その方がいいと思う」
愛(あい)「良かれと思った贈り物が、相手を不幸にする」
愛(あい)「そんなことって、結構あるものよ?」
愛(あい)「そもそも、なんで異世界の文明が遅れてるって決めつけてるの?」
愛(あい)「こちらの現代社会の文明って、そんなに素晴らしいものかしら?」
愛(あい)「百歩譲って、こちらの世界の、主人公の知識が多少なり進んでいたとして、」
愛(あい)「その主人公が現代知識を異世界にもたらすことには、重大な責任が伴うし、」
愛(あい)「無責任なそれは、異世界征服、文化侵略以外のなにものでもないと思わない?」
愛(あい)「本当の主人公がしなきゃいけないのは、」
愛(あい)「異世界の文化、それ自体を尊重することだと思うのだけれど?」
炎梨(えんり)「ご、ごめん。あんまり長ゼリフで、途中から何を言われてるのか・・・」
愛(あい)「ふふっ」
愛(あい)「炎梨のそういうとこ、好きよ?」
炎梨(えんり)「え?」
愛(あい)「他にはどんなストーリーを考えてるの?」
炎梨(えんり)「そ、そうだなぁ・・・」
炎梨(えんり)「魔法は存在しているわけだから・・・」
愛(あい)「魔法ね。非科学的で、夢があっていいわよね」
炎梨(えんり)「大気中には魔素が存在していて、」
炎梨(えんり)「主人公は転移したせいで、規格外の魔法を使えるんだ」
炎梨(えんり)「魔法が得意なエルフよりも強力なやつ」
炎梨(えんり)「ファイア、とか言うと、森ひとつが焼失しちゃうくらいの、さ」
愛(あい)「ご立派な森林破壊ね」
炎梨(えんり)「も、森はやめる。空が、わ、割れることにする」
愛(あい)「それと、ファイア、ってこちらの言葉よね?」
愛(あい)「エルフとか、ドワーフとかならまだ許せるのよ」
愛(あい)「ユーロ圏の民間伝承の存在で、幻想的で素晴らしいと思う」
愛(あい)「オリジナリティは皆無だけど」
愛(あい)「でもファイアって、ただの英語じゃない?」
愛(あい)「トールキンは指輪物語を書くために、新しい言語を生み出したのよ?」
愛(あい)「英単語ひとつで、魔法が出てしまうのって、」
愛(あい)「あまりに、もったいないと思わない?」
愛(あい)「それなら、無詠唱でイメージしただけで魔法が出る、の方が納得できる」
炎梨(えんり)「それって、愛が設定厨なだけじゃ・・・」
愛(あい)「絶交する?」
炎梨(えんり)「きゅ、急になんで!?」
愛(あい)「どうする?」
炎梨(えんり)「ご、ごめん・・・」
愛(あい)「許す」

〇一軒家
愛(あい)「じゃあ、炎梨。書けたら私に、いちばん最初に読ませてちょうだいね?」
炎梨(えんり)「う、うん。頑張ってみる」
愛(あい)「じゃあね」
炎梨(えんり)「バイバイっ」
炎梨(えんり)「・・・・・・」
炎梨(えんり)「カワイイ女の子も奴隷の獣人も出なくて、」
炎梨(えんり)「こっちのモノも売らない異世界小説・・・?」
炎梨(えんり)「そんなの面白いわけ、ないじゃないかぁああーっ!」
  その叫びは、隣町まで木霊したという。

コメント

  • 異世界モノなんかより、この二人の会話を物語にした方がよっぽど面白い!と思ったらもうなってました〜。愛ちゃんの畳み掛けるようなコンプラ連射攻撃に疲れ果てた炎梨ちゃんが、ファンタジーを丸ごと放棄して最終的に社会派ノンフィクション作家になってたら面白いなあ。

  • 漫才のような掛け合いにずっと笑ってました🤣
    あらゆる方面に配慮した創作というだけで面白いです✨

  • ファンタジー作家志望としては乗り越えたい壁の数々…でも、時には壁を張り倒す腕力で……あ、やっぱダメですかね?

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ